新型ウイルス中国研究機関から流出?
2020/2/25 Japan In-depth 古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
https://japan-indepth.jp/?p=50331
【まとめ】
・新型ウイルス、武漢の国立ウイルス研究機関から流出した疑い。
・中国研究の米人学者、NYの新聞に寄稿。
・ウイルスが人間への接触で同実験室から外部に流出した可能性有。
アメリカのベテラン中国研究学者が武漢市で発生した感染症の新型コロナウイルスは
同市内にある国立のウイルス研究機関から流出した疑いが濃いという趣旨の論文を
2月下旬、米国の新聞に発表した。中国政府はこの説を否定しているが、発生源に
ついての具体的な情報を明らかにしてもいない。
1970年代から中国に頻繁に滞在して、各地方の人口動態や社会状況を研究してきた
アメリカ人学者のスティーブン・モシャ―氏はニューヨークの有力新聞「ニューヨーク・
ポスト」2月22日付に「異様拡散したコロナウイルスは中国のウイルス実験所から
流出した公算が強い」と題する寄稿論文を発表した。
▲写真 スティーブン・モシャー(Steven W. Mosher)氏 出典:opulation Research Institute
同氏はこの論文で今回の新型コロナウイルスは武漢市内にある国立のウイルス研究実験
機関の「国立生物安全実験室」(中国語での正式名称は中国科学院武漢国家生物安全
実験室)から流出された確率が高い、と強調していた。
国立生物安全実験室は同じ武漢市内にある「中国科学院武漢ウイルス研究所」
(中国の公式名称は中国科学院武漢病毒研究所)の付属機関で、ウイルスでも最も
危険度の高いレベル4を扱う研究施設とされている。
新型コロナウイルスの流出や拡散についてはモシャ―氏は実験室での研究員が意図せずに
衣服などにつけて外部へ流出したか、ウイルス感染の動物を外部に出したという可能性を
あげていた。同氏はこの実験室からの流出説の根拠として以下の諸点をあげていた。
- 中国政府の科学技術省が2月中旬に「新型コロナウイルスのような高度のウイルスを扱う微生物実験室の生物安全保障の強化に関する指令」を出した。これほど高度のウイルスを扱う研究機関は中国全土でもきわめて少なく、武漢の生物安全実験室はその一つである。
- 人民解放軍の高度ウイルス使用の生物戦争の最高権威で細菌学者の陳薇少将が1月に武漢へ派遣された。陳少将は軍内部でこれまでSARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラ熱、炭素病はじめコロナウイルスの研究しており、武漢の生物安全実験室との関係が深い。
- 中国当局は武漢の海鮮物市場からコロナウイルスが発生したという説を流しているが、当初の感染者たちはいずれも同市場に足を踏み入れたことがなかった。同市場で売買されたコウモリが発生源という説もあるが、この市場では当時、コウモリは売られていなかった。
- センザンコウと呼ばれるアリクイが発生源ともいわれたが、当時の同市場ではセンザンコウも取引されていなかった。ヘビが感染媒体だという説も流れたが、ヘビは一般にコロナウイルスに感染することがない。
▲写真 センザンコウ 出典:U.S. Fish and Wildlife Service Headquarters
- 残された可能性としてはこのコロナウイルスが生物安全実験室から流出した確率が高くなる。研究者が意図せずに衣服などにウイルスをつけて外部に出たか、あるいはウイルスに感染した実験動物を実験室内で処理せず、故意、あるいは不作為に外部に出した可能性も考えられる。またある種の動物は民間で高く売買されることがある。
以上のようなモシャー氏の主張する可能性に確証はないが、もし事実だった場合、今回の
病原菌の広まりの意味が大きく異なり、中国の国家としてのあり方が根幹から問われる
こととなろう。
▲写真 閉鎖された武漢の海鮮市場 出典:Photo by システム12
この可能性はアメリカの戦略動向や米中関係の軍事動向に詳しいベテラン・ジャーナリスト
のビル・ガーツ記者により米紙ワシントン・タイムズ1月24日付でも大きく報道されてい
た。
この報道記事は「ウイルスに襲われた武漢には中国の生物戦争計画にかかわる二つの
実験所がある」という見出しで、武漢市内で発生した新型ウイルス感染症が実は
同市内の「武漢国家生物安全実験室」からもれたウイルスが原因である可能性があると
述べていた。モシャー氏が指摘したのと同じ研究機関だった。
同実験室は2015年に建設が開始され、2017年に完成した毒性の強いウイルスの
研究機関で、エボラ出血熱やニパウイルス感染症などのウイルスの研究にあたってきたと
いう。同実験室は武漢市内でも中国当局が今回の新型コロナウイルスを最初に発見したと
する海鮮市場から30キロほどの距離にある。
ガーツ記者は中国の生物(細菌)兵器に詳しいイスラエル軍事情報機関の専門家ダニー・
ショハム氏から取材した結果として
(1)「武漢国家生物安全実験室」は中国人民解放軍の生物戦争のための兵器開発に
関与していた
(2)同実験室は今回のコロナウイルスの研究にもかかわっていた可能性が高い
(3)同コロナウイルスが人間への接触で同実験室から外部に流出した可能性がある
――などと報じていた。
中国の教授「コロナ、武漢市場近くの実験室から流出」
2020.02.17 10:0316 中央日報
中国だけで1660人以上の死亡者を出した新型コロナウイルス感染症(コロナ19)が
中国実験室から流出した可能性を提起した論文を中国の学者が発表していた。
16日、明報や蘋果日報など香港メディアによると、中国広東省広州の華南理工大学
生物科学と工程学院の肖波涛教授は今月6日にグローバル学術サイト
「ResearchGate(リサーチゲート)に論文を発表した。論文は新型コロナが
コウモリから中間宿主を経て人に伝染した可能性よりも、湖北省武漢の実験室2カ所から
流出した可能性を提起した。肖教授は武漢ウイルス研究所よりも武漢疾病予防管理
センターが震源地である可能性が高いとみられると主張した。武漢ウイルス研究所は
新型コロナが集中的に検出された華南水産市場から12キロメートル程度離れているのに
対し、武漢疾病対策予防管理センターはわずか280メートルの距離にあるためだ。
肖教授は実験室からの流出とみている理由について、新型コロナの天然宿主である
「キクガシラコウモリ」は武漢から900キロメートル離れた雲南省・浙江省などに
棲息していて、食用としては特に使われていない点を挙げた。また、武漢市政府の
報告書や武漢市民の証言を総合すると、華南水産市場でこのようなコウモリは扱われて
いなかったという。
反面、武漢疾病予防管理センターは2017年と2019年、実験用に多くのコウモリを
捕まえた。2017年には湖北省・浙江省などで約600匹のコウモリを捕まえたが、
この中には重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスを持つキクガシラコウモリも
含まれていた。当時、同センターの研究員は、勤務中にコウモリに噛まれたり尿を
かけられたりしたと話した。同センターはコウモリの細胞組織を分離させてDNAと
RNA配列などの研究を行ったが、ここで出た汚染されたゴミがウイルスの温床に
なったというのが肖教授の主張だ。
初期に新型コロナに感染した患者が訪れた場所として知られている協和がん病院は
武漢疾病対策センターとは通り一つを挟んだところにあったと論文は伝えた。
こうした中、科学技術部の呉遠彬局長は15日、「実験室でウイルスを研究する際に
安全にさらに注意を傾ける内容の指導意見を発表した」と明らかにした。
現在、肖教授とは連絡が取れず、該当論文はサイトから削除された状態だ。
共産党の理論紙「求是」は、習近平首席が先月7日の政治局常務委員会会議でウイルス
事態を予防・統制するために努力するよう指示したと16日、公開した。今回の公開で
習主席が新型コロナを初期に把握していただけでなく、対処の指揮さえしていたと
認めるようなもので、習主席の対応失敗責任論が強まっているとニューヨーク・
タイムズ(NYT)は報じた。
一方、台湾で新型コロナの感染によって初めて死亡者が出たと中国現地メディアが
16日、伝えた。この患者はB型肝炎と糖尿にも罹患していた。中国本土を除く地域で
死亡者が出てきたのはこれで5例目となる。