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英国が軍艦派遣で中国牽制、日本には別の手がある。 日本が手を組み、味方につけるべき3つの国

2018-09-17 16:16:52 | 南シナ海・東シナ海

英国が軍艦派遣で中国牽制、日本には別の手がある

日本が手を組み、味方につけるべき3つの国

2018.9.17(月)  JBPRESS  川島 博之

英海軍揚陸艦アルビオン(左、2010年4月21日撮影)

 英海軍は南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島)周辺海域に揚陸艦「アルビオン」を派遣し、「航行の自由作戦」を

実施した。その後、「アルビオン」はベトナムと英国の国交45周年を記念する行事の一環として、ホーチミンに寄港した。


 かつて英国は「7つの海」を支配し、大国が繁栄する上で海洋覇権が重要なことをよく知っている。

その頃、英国はジブラルタル、マルタ、シンガポールなどを領有し基地として使用した。そんなこともあり、

南シナ海の島の地政学的な重要性をよく認識している。だから、中国との関係が悪化することを知りつつも、

航行の自由作戦を実施したのだろう。


パラセル諸島(西沙諸島)の位置

 

中国の反習近平派に対するメッセージ?

 だが、なぜこのタイミングで実施したのだろうか。中国の南シナ海での覇権的な行動を阻止したいことは確かだろう。

だが、BREXIT(EUからの離脱)でもめている最中でもあり、遠く離れた問題に深入りする必要はなかったはずだ。

それにもかかわらずこの時期に軍艦を派遣したのは、中国が強硬な対外拡張路線を突っ走ることによって、

貿易において米国と真っ向から衝突し、世界経済に甚大な悪影響を及ぼすことを恐れたから、と考えられる。

 

 米国と中国との真っ向からの対決を避けるには、中国に対外膨張政策を思い止まらせる必要がある。


 この夏、中国では、習近平が行う対外強硬論に対して、長老や良識派から不満が噴出した。共産党幹部や長老が

集う今年の「北戴河会議」は紛糾したとされる。英国はそんなタイミングで航行の自由作戦を行い、米国だけでなく

英国も中国の対外拡張路線に危惧を抱いていることを長老や良識派に知らせたかったのだろう。


 そしてもう1つ、中国は経済大国になったといっても、19世紀の大英帝国や第2次大戦後の米国ほど絶対的な力を

有しているわけではないことを知らせたかったのだろう。老婆心から「身の程をわきまえないと、大けがをしますよ」

というメッセージを発したということだ。

 

中国の南シナ海でのプレゼンス

 中国は世界の海を支配できるほど卓越した力を有しているわけではない。南シナ海問題に直接関連するベトナム、

フィリピン、マレーシアとの関係を見ても、中国の力は絶対的なものではない。

 

 2016年における輸入額と輸出額の合計を見ると、この3国の中国との貿易総額は全貿易額の18%に過ぎず、

他を圧倒しているとは言い難い。一方、米国との貿易総額は11%、日本とは10%あり、合計は21%となって

中国との貿易総額を上回っている。


 加えて、この3国は中国との貿易を喜んでいない。その理由は3国とも中国に対して大幅な貿易赤字を

計上しているからだ。


 トランプ大統領は、中国を筆頭に日本、ドイツなど、米国が大幅な貿易赤字を計上している国に対して

「不公平な貿易」を非難しているが、南シナ海に面する3国は中国に対して同様の思いを抱いている。

ただ、中国との力関係もあり、トランプ大統領のように大声で是正を求めることができないだけだ。


 そんな中国が目の前の島を自分のものだと言い張っている。嫌われるのは当然だろう。

 

3国との経済的な結びつきを深めよ

 大英帝国は力ずくで世界を制したのではない。世界情勢を深く読み解き、巧みな舵さばきによって世界を制した。

習近平が行う対外膨張路線に対して中国内で異論や不安が噴出したこの時期に航行の自由作戦を実施したことは、

老いたとはいえ英国の面目躍如と言えよう。


 では、日本はどうすべきなのか。米国の影響力に陰りが見え始めた中で、日本は南シナ海の問題にどのように

立ち向かえばよいのか。日本も自衛艦を送って航行の自由作戦を行うべきであろうか。


 それは逆効果だ。日本は英国とは立場が異なる。日本が航行の自由作戦を行えば間違いなく事態を悪化させる。

中国の良識派は英国の行動には耳を傾けるが、日本に対しては良識派といえども反発するだけだからだ。


 日本が行うべきなのは、中国を直接的に追い詰めたり刺激したりすることではない。最も効率のよい対応は、

南シナ海に面する3国との経済的な結びつきを深めることである。


 この3国は中国に抵抗したいのだが、経済的な関係が深いために、なかなか強いことが言えない。

だが、日本が投資額を増やし、かつ交易量を増やすことで、そのような状況は改善される。幸い日本はカネ余りの

状況にあり、投資の増額は容易だろう。


 2016年に、日本はこの3国と交易して貿易黒字を33億ドルしか計上していない。バランス良く交易している。

中国が472億ドルもの黒字を作り出していることと対照的である。


 ちなみに、米国はこの3国との貿易で371億ドルもの赤字を計上している。トランプ大統領のやり方を見ていると、

今後この赤字は問題になろう。米国が、この3国からの輸入額を減らしたいと言い出した時、日本が代わりに

輸入を増やすことは、南シナ海における日本のプレゼンスを高めることにつながる。

 

中国はベトナムが苦手

 3国の中でも、ベトナムとの交易量を増やすことは特に有効である。ベトナムが中国との交易で279億ドルもの

赤字を計上しているからだ。


 ベトナムは中国から工業製品を買っているが、中国はベトナムの製品をあまり買ってくれない。その背景として、

中国とベトナムの産業構造が似ていることが挙げられる。つまり中国もベトナムも、海外から技術を導入して、

安価な工業製品を造るという産業構造を有している。


 なによりも、ベトナムが対中国政策において日本を裏切ることはない。フィリピンのドテルテ大統領は

対中政策において、時に大きく揺らぎ、信頼のおけない発言を繰り返す。しかし、ベトナムはその歴史において

何度も中国と戦い、人々は骨の髄から中国を嫌っている。一方、中国も、小国ながら何度戦っても完全に

打ち負かすことができないベトナムを苦手としている。


 こうした要因から、日本とベトナムの経済関係を強化することは、中国の膨張政策に対して最も有効な対応策になる。


 日本が中国からベトナムに工場を移すことも、中国に対する大きな牽制になる。2017年、日本のベトナムに対する

投資額は358億ドルになった。韓国は2014年から2016年までベトナムへの投資において首位を占めていたが、

日本は首位を取り戻すことができた。


 日本とベトナムは2018年に国交樹立45周年を迎え、5月にベトナムのクアン国家主席が国賓として招待された。

現天皇の最後の国賓とされる。現在、両国の関係はきわめて順調である。この関係を維持・強化することは、

中国の南シナ海における膨張政策に対して強い牽制になっている。


 声高に中国の膨張政策を非難するのではなく、南シナ海問題で中国が苦手とする国との交流を深めることは、

日本の国際社会におけるプレゼンスを高める上できわめて効果的である。


川島 博之
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。ベトナムのビングループ主席経済顧問(兼職)。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など