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「南沙問題」をアフリカはどうみるか:「TICAD VI」の前に

2016-08-25 08:28:59 | 外交・海外支援

「南沙問題」をアフリカはどうみるか:「TICAD VI」の前に

 2016年8月22日 foresight

前回の第5回(2013年)は横浜での開催だった

「第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)」(8月27日~28日)のためケニアの首都ナイロビに旅立つ前に、この一大イベントについて書いておかなければと思った。3000人の日本人が やってくるというから、読者のなかにもナイロビへ行かれる方がいるかもしれないし、現地でお会いするかもしれない。

 

テーマは「援助」から「ビジネス」に

 TICADは今年一大転機を迎える。5年おきの開催が3年になり、日本とアフリカ交互で開かれることになって初めての会議が今回のTICAD VIだ。アフリカ連合(AU)の強い要請によってTICADは、「中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」と同じ形式に変更されたわけだが、これほど 密度の濃い恒常的チャンネルをアフリカとの間に設置しているのは、世界で日本と中国だけである。日中は、アフリカという場で、それぞれTICADと FOCACを掲げて相対峙することになったのだ。

 ナイロビを舞台とするTICAD VIのテーマはビジネスで、主役は企業である。日本貿易振興機構(JETRO)が、日本とアフリカ双方の企業代表を集めた「アフリカ日本ビジネス会議」、 100社近くの日本企業が参加する「ジャパンフェア」をサイドイベントとして開催する。本会議においても企業CEOたちの出番が組まれている。

 TICADに企業が参画するようになったのは2008年のTICAD IVからだ。TICAD IVとTICAD Vの舞台は横浜だったが、いずれにおいてもJETROはビジネス会議とアフリカ物産展示会(アフリカフェア)を開催した。筆者が本格的にTICADに関わ るようになったのも、TICAD IVのビジネス会議からだ。展示会はTICADの集客力の柱で、東京で開かれていた時代とは比較にならない動員と広報力を発揮した。2003年から資源価 格の全般的高騰が始まり、アフリカ経済は史上かつてない高成長を呈したが、日本企業のアフリカ参入も徐々に動き出していた。

 日本の対アフリカ投資はここ10年で10倍に増え、2013年に100億ドル台に達した。それでも、日本の対外投資総額に占める割合は1%にも届かない。英米仏のアフリカ投資ストックに比べればその20%にとどかず、中国のそれの3分の1程度だろう。

 その中国は、2015年に南アフリカのヨハネスブルグでFOCAC VIを、サミットに格上げして開催した(TICADと異なり、通常FOCACは閣僚級会合である)。ここで習近平は600億ドルという巨額の対アフリカ資 金投入と、一帯一路構想をアフリカまで延長して展開することを表明した。

 

「急ブレーキ」にどう対応するか

 ところが昨年来、資源価格の低落でアフリカ経済には急ブレーキがかかった。サブサハラ・アフリカの今年の経済成長率を、世界銀行は人口増加率とほ ぼ同じ2.5%、IMF(国際通貨基金)は1.6%と予測している。前回のTICAD Vも前々回のTICAD IVも「経済成長著しいアフリカ市場に乗り遅れるな」というのがスローガンだったし、官民連携の志もそこにあったが、今回は違う。景気後退局面に入ったア フリカで日本企業はどう行動すべきか。TICAD VIの1つの課題がこれである。中国は破格の資金提供をコミットすることでこれに応えた。日本は質の高い貢献を謳うことで応えようとしている。

 経済の効率性は不況期に向上する。10年続いた好況のなかで叢生した地場企業や、世界中から蝟集した企業はこれから、厳しくなる環境のなかで競争 と淘汰を経験するだろう。いうまでもないがそのなかで日系企業には生き残ってもらわなくてはならず、その過程でシェアを拡大し、グローバル企業としての体 力を強化してもらいたい。そこでは、感染症対策や治安対策など、かならずしも企業の守備範囲に入らない課題をクリアしなければならないだろう。そこに官民 連携の使命があり、そのプロセスがアフリカの経済社会を質的に向上させる。こういった理解をアフリカ諸国と共有する場が、すなわちTICAD VIなのである。

 

グローバル・ガバナンスはなぜ必要か

 ところで、今回私がもっとも懸念しているのは南シナ海問題だ。7月12日にハーグの仲裁裁判所が、南シナ海における中国の領有権の主張を斥けた。 この裁定に中国は猛反発しているが、このような中国の態度は、国際社会の一員として常軌を逸したものといわざるをえない。中国は「領土問題は関係国が相対 で協議すべき事柄で、国際問題化すべきではない。我々の方針を世界60カ国以上が支持している」と強弁している。中国の弁に従えば、うち30カ国がアフリ カである。アフリカの元首たちには、中国の経済支援欲しさのみならず、スーダンのバシール大統領が逮捕状を発付されたり、ケニアのケニヤッタ大統領が訴追 された国際刑事裁判所に対する反感が、もしかしたら働いているのかもしれない。

 しかし、たとえ不完全であってもグローバル・ガバナンスの機構と機能を尊重しなければ、国際社会は弱肉強食のホッブズ的世界になる。グローバル・ ガバナンスは小国のためにある。習近平政権がときどき匂わせる強国主義は、リアリズムというより19世紀的である。19世紀において最大の苦悩を背負った 地域の1つは、アフリカではなかったのか。

 アジア海域における中国の覇権主義はアジア全体にとっての脅威だ。いかなる事情が働いているにせよ、アフリカの国の多くがアジアの平和を支持しな いというのなら、どうして日本はアフリカの開発を支援しなければならないのか。アフリカの人々には、国際社会におけるアフリカ国家のあるべき姿について、 真剣に考えてみてほしい。

 このように、国連安保理改革という旧来の課題に加え、緊急性の高い外交課題がTICAD VIには課せられたと思うのだが、はたしてどうだろうか。帰国後にまた報告する。(平野 克己)