二つに見えて、世界はひとつ

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心の絆/わたしはあなた

2022-07-24 19:32:00 | イスラム/スーフィズム
 心の絆

リザー・アッバース『宮廷の恋人たち』(イラン1630年)
 

幸せなひととき、
宮殿に共に座るあなたと私。

姿はふたつ、影もふたつ、
けれど魂はひとつだけ、
あなたと私。

あなたと私、庭を歩けば、
木立の色も鳥の声も永遠を奏でる。

天空の星がこっそりと見つめてくるから、
月を鏡に視線をかわす、
あなたと私。

あなたと私、陶酔に混ぜ合わされて、
切り離しようもなくひとつの、あなたと私。

あるのはただ喜びだけ、
あなたと私、
二度とふたつに離れない、邪魔をするものは何もない。

きらきらした羽で飾られた天の鳥たち、
嫉妬で彼らの胸は焼け焦げんばかり。

こんな場所で、こんな姿で、
笑い声の光をまき散らす
あなたと私。

そして何よりも驚くべき奇跡はこれ、あなたと私、
あなたと私が同じ世界の片隅に、共に座っていること。

この瞬間、共に座る
あなたと私、
あなたはイラクに、
私はホラーサーンに。

      『四行詩集』38.

  

 恋の在り処 

私の胸に恋だけを
置き去りにして、
恋人はどこにいるのだろう、
私はここにいるのに。
一体いつまで待てば
「私」は「私達」になれるのだろう。

きっといつまで待っても
「私達」にはなれないのだろう。
私が「私」を捨てない限りは、
私があなたを「あなた」と呼ぶ限りは。

私はあなたに恋をした。
恋があなたそのものだった。
私はあなたと結ばれた、
その結び目があなただった。

これがあなたの仕掛けた罠、

「私」と「あなた」の境界は消え去り、いつか「私とあなた」も消え去って、
恋だけが夜の空に瞬き続ける。

『精神的マスナヴィー』1-1776


 わたしはあなた

 恋をしている男が恋人の家のドアをノックしました。
 「だれ?」
内側から恋人が言いました。

「わたしです。」と男が答えました。

「帰ってください。この家にはあなたとわたしの二人は入らないのです。」

 拒絶された男は砂漠に行きました。そして恋人の言葉について思いめぐらしながら、何か月も続けて黙想しました。

 ・・ついに彼は戻ってきました。そして再びドアをノックしました。

  「だれ?」

「わたしはあなたですよ。」
ドアは直ちに開きました。

『スーフィーの寓話』第42話

すべてに宿る魂

2022-07-23 22:46:00 | イスラム/スーフィズム
わたしはすべてに宿る魂

わたしは日にちらちらする塵、わたしは日輪。 

塵に言う、そこに居て、と。
日輪に言う。廻って、と。

わたしは朝の微光、
わたしは夕べの香り。

わたしは森のざわめき、
海のうねり。

わたしはマスト、舵、舵手、船。わたしは船の乗り上げるサンゴ礁。

わたしは生命の樹、そしてそこにいるオウム。

沈黙、思考、おしゃべりと音。わたしは笛の音、人の心。 

わたしは石に散る火花、
金属の黄金の光。

ロウソクと周りを舞う蝶。
バラとバラに酔う夜鳴き鳥。

わたしは物をつなぐ鎖、
世界を結ぶ環。

創造の梯子段、上りと下り。
わたしはあるもの、
そしてあらぬもの。

わたしはーおゝ、
あなたの知っている、
ジェラールッディーンと申す者。

わたしはすべてに宿る魂。

「西と東の神秘主義」p111~112より/R・オットー






アナー・アル・ハック

2022-07-22 08:06:00 | イスラム/スーフィズム
 神化

蠅が蜜に落ちる。
体のどこもかしこも、
部位の別なく
蜜に絡めとられて動かなくなる。

「イスティグラーク」、
すなわち
忘我の境地というのは、
このような状態を指す。
自意識を消滅せしめ主導権の全てを放棄した者。

その者より生じるいかなるものも、全てその原因はその者には属さない。

水に溺れてもがいている者、あがいている者、「溺れてしまう、沈んでしまう」と助けを求めて叫ぶ者、そうした者は未だ「イスティグラーク」に至ってはいない。

『アナー・アル・ハック』

すなわち「われは真理(神)なり」という言は、
この境地を象徴するのにまさしく的を得ている。

人びとは考える。何という暴言、何という傲慢、と。

人びとは考える。
『アナー・アル・アブド』、すなわち「われは神のしもべなり」、という言こそ真の謙譲を表わすのにふさわしい、と。

断じて違う。

『アナー・アル・ハック』

「われは真理なり(神なり)」こそが、真の謙譲を表わす言である。

『アナー・アル・アブド』

「われは神のしもべなり」と言うとき、その者は未だふたつ以上の存在を認めているのである。しもべ、などと上辺では卑しみつつも、しもべたる自己と神とが同等に存在する、と主張しているのである。自己などというものを、未だ捨て切れずにいるのである。

『アナー・アル・ハック』

「われは真理なり(神なり)」と言うとき、その者は自己を消滅し尽くしている。
そのとき、そこに自己などというものは存在しない。
ただ神のみが存在する。

これこそが真の謙譲、最大の奉仕である。
     ルーミー詩撰より


 あなたは翼を持っている。それを使うことを学び、そして、飛び立ちなさい。
         ルーミー 
 

 私は空を飛びたかった

   

 ある晩、礼拝が終わり、夜間に定められたコーランの朗誦を終えたのち、私は瞑想にふけっていた。 

 恍惚におちいったとき、私は次のようなヴィジョンを得た。そびえ立つハーンカーがあった。それは開いており、私はハーンカーの中にいた。

 突然私は自分がハーンカーの外にいるのがわかった。宇宙全体がそのあるがままの姿において光からできているのが、私にはわかった。あらゆるものは一色になった。そして全存在物の微粒子は、おのおのの存在に特有の方法で、おのおのに特有の力強さで「アナー・アルハック」(我は真理−神−なり)と宣言した。私は、彼らがいかなる存在によってこのような宣言をさせられたのか、理解できなかった。

 このようなヴィジョンを得たのち、陶酔、法悦、強い願望、異常な愉悦感が私を襲った。

 私は空に飛び立ちたかった。しかし、何か樹に似たようなものが私の足もとにあり、そのために私は飛び立つことができないのだとわかった。

 私は、むやみやたらに地面をけとばしたので、ついに樹を払いのけることができた。

 弓から射られた矢のように、いや、それよりも百倍も強く、私は立ち上がり、遠くへ飛んで行った。

 第一天に着いたとき、月が二つに裂けるのがわかった。わたしは月を通り抜けた。この「不在」の状態から戻ったとき、私は再び「現存」の状態にいることを知った。

シャムス・アッディーンディン・ラーヒージ(1516年没)
 平凡社「スーフィー」p135より

 

 


光はひとつ

2022-07-21 06:06:00 | イスラム/スーフィズム
 光はひとつ
   

 ランプはそれぞれ違っても、放つ光は同じひとつ。
光、それははるか彼方から届けられる。

 あなたがランプに眼を奪われ続けるのであれば、あなたはあなた自身を奪われてしまう。

 ランプの種類は数限りなく、各人の嗜好もまた然り。あなたの視線を光に転じ、光そのものを見つめよ。そうすれば、あなたは地上における事象に特有の、二元性の限界から解き放たれるだろう。

 そのようにして新たな視線を獲得すれば、イスラム教徒、ゾロアスター教徒、ユダヤ教徒の違いは、依って立つ位置の違いに過ぎないことが理解できよう。

『精神的マスナヴィー』3-1259. 


ならわしとひらめき

2022-07-20 06:10:00 | イスラム/スーフィズム
 ならわしとひらめき
  
耳がもたらすものは、
幾重もの媒介を経由している。
だが愛する者の目は、
愛されし者とじかに繋がっている。

耳から得られるのは、
「至福」についての語らいである。
だが愛する者の目は、
至福それ自体を得ている。

耳から得るものは既に変質している。
だが目は、根源の変容そのものを得ている。

もしもあなたが火について
知識を得たと確信するなら、
けれど言葉によって語られた「火」がその知識の全てなら、
あなたは未だ火を知らず、
未だ料理されてもいないのだ。

火そのものに触れよ、自らを料理せよ、
他人から聞かされた知識を根拠に知ったと思うな、
疑うこともせずに、確信の裡に留まるな。

直観の確信は、実際に焼かれること無しに得られはしない。
火の裡に座せ、もしもあなたが真にこの確信を得ようというなら。

耳も鍛えれば目と同じ働きをするようになろう、
でなければ、耳は言葉を捉えられないだろう、

言葉は耳と耳の間にこぼれ落ちるだろう、
心に届くこともできないだろう。

『精神的マスナヴィー』2-85