ミヤザキチハルの章(其ノ拾四)
時は架空請求真盛り。
厭な気分でケータイ番号を変更したりしていた。
そして、あんだけ世間で騒いでシカトシカトシカトシカトと皆が叫んでいたのにも拘わらず素直に払ってしまった正直者に対してオレは、心の底から遺憾の意を示した。
「ご愁傷様です。」
後にその興隆は堕ち着いたのだがしかし、犯人グループらは粛清の如き殺害事件に迄発展させ、一概にはよろこべなかったりし逆にオレは更に厭な気分になった。
出逢って間もなく、未だ(弱冠妙な)尊敬語謙遜語丁寧語をオレに対して使っていた頃、(或る日突然、タメ口に変わった)あいつは、壮大なる野望を語っていた。
独自の理論に裏打ちされたる強奪計画は、極めて稚拙だった。
「世紀の大発見をしました!」とか叫び、煙草屋に在る大量の宝籤を閉店後に押し入り強奪、横取りすれば当選番号発表後、一夜で大富豪になること享け合いなんだ、と曰った。最初は、当選発表後に襲撃しようと思っていたらしいが、何処の店にどの番号の宝籤があるか判然としないから、やめたらしい。阿呆か。強奪して、更に換金する時に捕まるだろう?冗談のつもりで喋っているのだろうと、オレは敢えて何も言わなかった。
まさかそれを本気で実行するとは到底思えなかった。其処迄イカレテルとは思えなかった。
そしてしかし、麻御坂の、真剣な面差しで車を運転する横顔は一寸ばかり格好良かったりした。
ローンを組んで購入した日産の旧車。走り屋仕様で超車高短。制限速度時速;六十キロ・メートルのところを、時速;百二十キロ・メートルで爆走。シート・ベルトもせずに。
「これ、事故ったら確実に死ぬな?」
っていつも思ってた。でも、「速度出し過ぎじゃない?」って、言ったところで、聴くような男じゃないし。言えなかったし、言わなかった。
或る日、妙な方向から声がして、振り向いたらば、機動警察。
「嗚呼、終わった、」
って思った。(しかし、昂奮は、最高潮!)
こんなの初めてだった。
時速三十キロ・メートル・オーバーで、捕まったんだけども、時速百二十キロ・メートル出ていたのを知ってて、速度が堕ちた時を狙って、捕まえたような気がする。(シート・ベルトはたまたましていた。)
「オレはゼッテエ捕まらねえよ!かはッ!」
そう嘯いた当日に捕まった。
しかし、捕まった直後、もう時速百キロ・メートルとかで飛ばしてるの見て、帰り道、時速百二十キロ・メートルとかで飛ばしてるの見て、思った。
「こいつ、やっぱり、ダメだァ・・・。」
崖から突き堕とされて、手錠嵌められて、一度臭い飯食べて、やっと、判るのだろう。
雑踏の中、
「この店でいいんだよねえ?」
「・・・・・。」
店に入る際、さっき迄は饒舌に話していたのに、何のスウィッチをオレがオンしたのか?判らないのだが、麻御坂は急に閉口、シカトされたりした。オレは独り言を曰う狂人の如き白眼視に曝されることも屡だった。「あ、この、店さ、店、店…。」(段々と、ヴォリュームを絞るように。)
「雨だから、行くのやめた。」
そう呟いて一方的に電話を切り、オレよりも家が近いのに、待ち合わせ場所に来ない麻御坂。
「はァ?ああ、そうっ…。」
本当は、ここで、多分、激昂していいのだろうけれども・・・。
何故、こんな奴と友達なんだろう?
しかし、答えは出掛かってる。おいしいことがある(と、思わせて呉れる)わけよ、男前と一緒にいるとさァ!それにやっぱ、いないと困るんだよなァ・・・。
マンション、『フレグランス朱雀野』は、小奇麗で、ラ○オンズ・マンションを模したファサードだった。何故か、ええとこに棲んでいた。御曹司と云うのは本当なのだろうか?
※ 著者註;この小説は以前に発表したものを、加筆修正再構成したものです。
→ 解、っつうか、説