これがソフトバンクの新拠点だ 孫社長は、米シリコンバレーに1000人規模の拠点を設けた
「先週、シリコンバレーの新オフィスが事務所開きとなりました」
9月30日、ソフトバンクの孫正義社長はアンドロイド端末の発表後に登壇。その後の報道陣の囲み取材の中で、こう明かした。
昨年10月に米携帯大手スプリント・ネクステルの買収を表明して以降、どうやら孫社長の頭の中は米国戦略でいっぱいになっているようだ。アップルの新型アイフォーン発表日のイベントにも姿を見せず、7月に買収を完了した新生スプリントの取締役会に臨んだ。
スプリントの本社はカンザス州のオーバーランドパークにあり、日本からの直行便はない。そこで、昨年11月、孫社長はシリコンバレー随一の高級住宅街として知られるウッドサイド地区で、白亜の邸宅を1億1750万ドルで購入。米国での戦略拠点をシリコンバレー周辺に構えることを表明していた。
ところが、ソフトバンクは重大な意味を持つ新拠点の所在地を明かしていない。そこで現地の状況を独自に調査した。
■82カ月のリースで賃借
写真にある二つのビルがソフトバンクのシリコンバレーオフィスだ。ハイウェー101号線(ワン・オー・ワン)に面した交通至便な場所にあり、サンフランシスコ空港からは自動車で十数分、サンカルロス空港は目の前だ。孫社長の自宅も20分の距離にある。周辺には、エバーノートやプラグ&プレイなどのベンチャー企業のオフィスが建ち並び、典型的なシリコンバレーの風景が広がっている。
ソフトバンクは、4月に1棟目、7月に2棟目を借りている。このツインビルと付属する駐車場は、サンマテオ郡が2年前に4000万ドルで民間から買い取ったものだ。リース期間は82カ月で2020年5月まで。オプションとして34カ月延長できる契約だ。賃借料は年間600万ドルだ。
1000人が働く予定の新オフィスの役割は、端末やソフトウエア、周辺機器の開発やネットワークの技術試験など多岐にわたる。
「世界中のメーカーやサービス、コンテンツ会社が拠点を構え、情報や技術も集まってくる。長期でソフトバンクの強みになるだろう」(孫社長)。孫社長も月に1週間から10日ほど滞在し、新オフィスから米国戦略を直接指揮することになる。
ではいったい、何を仕掛けるのか。そこが肝心だ。
まずはスプリントへのソフトバンクのノウハウの移植だ。スプリントは米国市場において、契約者数、ネットワークでも2強から大きく離された第3位。かつてボーダフォン日本法人を買収したときのソフトバンクに近い状況だ。7月にはデータ通信が無制限となる割安プランを投入。今後も日本で培ったネットワーク構築のノウハウ提供やフォトフレームなど独自端末の投入をしていく。すでに、足元では新型アイフォーンの共同調達を開始している。アンドロイド端末の調達や開発、さらには新サービスなど、本格的なシナジー発現は半年から1年後になる見込みだ。
しかし、孫社長はスプリント買収だけで満足しているわけではなさそうだ。何しろ、スプリントの米国における市場シェアは、昨年時点で17%程度にすぎない。1位のベライゾン(34%)、2位のAT&T(32%)から大きく引き離されており、差を縮めるのは容易ではない。
■Tモバイルを買収?
そこで4位のTモバイルUSの買収を検討しているようだ。Tモバイルのシェアは、今年5月に買収したメトロPCSを加えて約13%。スプリントの17%と合わせればシェアは30%に上昇し、2強と肩を並べる。
Tモバイルのブラクストン・カーターCFOは、スプリントとの合併の可能性について「最も合理的な組み合わせ。問題はそれが起こるかどうかではなく、いつ起こるかだ」と発言。孫社長も否定せず「ノーコメント」を貫いており、買収交渉が最終段階を迎えている可能性もある。
ちょうど1年前、イー・アクセス、スプリントと大型買収を立て続けに発表し、世間の度肝を抜いたソフトバンク。「みなさんが驚くような手をいくつか考えている。今はタネを仕込んでいるところだ」(孫社長)。
孫社長がウッドサイドで購入した邸宅は、個人宅としては米国史上最高値の取引価格だった。周辺にはスティーブ・ジョブズの旧宅もある。米国において、ジョブズのようなトップセレブリティになることを夢見ているのかもしれない。
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