秘密の幸運

アスカガ愛を叫んだり

価値

2008年07月24日 19時57分48秒 | 日常+更新情報
「何かを犠牲にして何かを得ても、そのふたつは同等なんかじゃない。失くしたものは絶対に帰ってこないんだ。だけど、手に入れたものをもう一度手放せば願いが叶うって言われても、もう、どちらかを選ぶことなんて出来なくなってる。確かに僕はその時、思ったんだ」


「違和感はすぐに感じたよ。昨日まで僕の顔を見たらすぐに飛んできて抱きしめてくれたあの子が、その日はただ手を振って笑った。眩暈がしたなあ。怖くて、起きた事実を確かめるのが恐ろしくて、問い詰めることも出来ないでいた僕を、後ろから彼があっけなく突き落としてくれたんだよね」


「分かる?あの彼が自信ありげにまっすぐ前を向いているなんてさ。おまけにあの子を見つめるその視線といったら!僕、本気で殴り殺そうかと思ったんだよ。ほんとにさ。腹が立って仕方なかった。だって、僕から大事なあの子を奪ったんだもの」


「だけどね。僕のそんな気持ちも知らないでさ、あの二人、見つめ合うんだ。僕に全部見透かされてるとか、ひとかけらも疑わないで、バカみたいに笑ってる。絶望しながら僕も顔を上げたよ。僕とあの子。僕と、彼。繋がっていた糸はあの二人の所為でずたずたに切り裂かれたんだ。もう二度と、僕には繋がらない。ああでも、不思議なんだ」


「怒りで頭がいっぱいになった僕の目に映ったのはね、そりゃもう幸せそうな二人だったよ。今まで見たことない顔だった。穏やかで、幸福に溢れてて、どこまでも優しくて。吐き気がするほどイラついた。泣き叫ぼうとさえしたよ。それなのにね、おかしいんだ。愚かしいくらい甘ったるいその光景から、僕は、瞳を逸らせなかった。背けることが、出来なかった」


「僕は、見惚れていたんだと、思う。想いが通じ合った、あの子と彼に」


「彼があの子を好きにならなかったら、あの子が彼を好きにならなかったら、こんな甘美な心地は味わえなかったんだろうなあ。二人の視線はもう僕を見ていない。それなのに僕だけはずっと二人を等しく見つめ続ける。空しいよね。でも、何でかな、僕は、嬉しかった」


「僕に向けられる二人の心は失くしてしまったけれど、僕の大好きな、本当に愛してるあの二人が心を通わせている様は、怒りや悲しみを打ち消すだけのパワーがあるんだよ。色んな感情が嵐のように身体中を吹き荒れる僕を、幸福へと導くくらいに」


「ねえ、君には上手く伝わらないかもしれないけど、僕は今でも彼が憎い。僕の傍を離れてしまったあの子が憎い。それは、あの二人が愛し合うことによって僕に与えられる幸福が、絶望で抉られた場所を埋めるんじゃなくて、心の中の別のところに在るからだと思うんだ」


「だから僕はずっと、二人を好きでいられるよ。二人が幸せになればなるほど、僕の痛みと喜びは同じだけ増していく。だから、あの子と彼にはうんと愛し合って貰わなくちゃ。死ぬまで互いを想い合っていてくれなきゃ」


「そうでもしてくれないと、苦しくて、僕が死んでしまいそうになる」


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