一歩先の経済展望

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円買い介入はあったのか、公的年金の思惑も 遠くなった1ドル150円

2024-07-12 13:05:43 | 経済

 7月11日のNY市場でドル/円が一時157.44円と4円超の急落となり、市場では政府・日銀によるドル売り・円買い介入が実施されたのではないかとの観測が広がった。一部のメディアは「介入実施」と報道したが、多くの報道機関は12日午後の段階で神田真人財務官による「コメントしない」との発言を伝えているだけで断定していない。

 

 <深夜に神田財務官がメディア対応>

 普通なら財務省内にいない時間帯である11日深夜、神田財務官がわざわざ廊下に出てきて「コメントする立場にない」と発言したのも、6月米消費者物価指数(CPI)の発表後、弱いデータが出てドル売り・円買いが優勢になれば、そこで背中を押す介入を実施するため、用意周到に準備していたからではないかとの観測も一部に出ていた。

 他方、今回の弱いCPI発表後に9月の米連邦準備理事会(FRB)による利下げ観測が台頭し、本来なら上昇してもおかしくないナスダック総合が1.95%も下落したことから、米株とドル/円で利益確定の売りが出たとの見方もあった。実際、CPI発表後に市場の9月利下げ確率は70%台から90%超へと上昇しており、ナスダックだけでなくドル/円でも利益確定のドル売りが出た可能性がある。

 

 <公的年金の動向に関心も>

 さらに市場の一部で疑念を持たれているのは、公的年金の動向だ。財務省の投資家部門別対外証券投資によると、6月中に信託銀行の信託勘定が対外証券を2兆9224億円売り越しており、まとまった円買い注文を出している数少ない主体として、一部の市場関係者から注目されてきた。

 今回、米CPI発表直後に50銭程度のドル安・円高となったが、そこで公的年金筋が大規模な円買いを実行したとの見方が一部でささやかれている。

 

 <存在感高めた神田財務官>

 また、米財務省は1日の価格変動が大きくないケースでの一定の水準を意識した介入には難色を示してきており、もし、11日のドル安・円高が介入による変動であれば、米財務省から水面下でクレームが来る可能性があり、日本当局がそれを承知で介入を実施するにはハードルが高いとの見方も市場の一部にある。 

 いずれにしても神田財務官が介入の有無にコメントしなかったことで、市場では様々な思惑が交錯し、当面は当局が市場に対して優位に立ったことは間違いない。ある意味で神田財務官の存在感が際立って大きくなったともいえる。

 

 <円高への転換、日米政策金利差が400bpになる必要>

 ただ、マーケットの中には冷めた声もある。いったん157円台に下落したドル/円も12日の取引で159円台まで上昇するなど円の弱さをかえって印象付ける展開にもなった。9月にFRBが利下げし、年内2回の利下げが射程圏に入り、日銀が年内のどこかで1回の利上げに踏み切ったとしても、日米の政策金利差は現状の525ベーシスポイント(bp)から450bpにしか縮小しない。

 円安基調から円高基調へのトレンド転換には400bp程度までの金利差縮小が必要とみられており、ここから円高基調へと大きく変化するのは難しい。筆者は、今回の乱高下を経て逆にドル/円の150円は「遠い」との印象を深めた。

 

 <9月利下げと米ハイテク株の動向、日本株の再浮上要因に>

 一本調子で上昇してきた日経平均株価は11日に4万2000円を割り込んで取引を終了したが、この背景には、ここまでの上昇過程で日本株買い・円売りの取引が活発になっていたことがあり、円高による巻き戻しの取引が表面化したとことが影響したとみている。

 円安から円高方向へのトレンド転換の可能性が低いと指摘してきたが、その前提に立てば、9月米利下げを織り込んで米ハイテク株が再び買われ出し、それにつれて日本株の上昇も再開する可能性があると予想する。

 市場の様々な思惑をかき立てた11日のドル/円変動の本当の理由は、7月31日に財務省が公表する介入結果で判明する。ぞれを受けて市場がどのように相場の先行きを織り込んでいくのか、今年後半の展開を大きく左右しそうだ。


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