忘れえぬ人々(1)―失われた書物を求めて―
金 沢 篤
「多摩川の二子の渡をわたつて少しばかり行くと溝口といふ宿場がある。其中程に亀屋といふ旅人宿がある。」(232頁)これは國木田獨歩の有名な『武蔵野』の「忘れえぬ人々」の書き出し。授業のために二子玉川、つまり「二子の渡」までは毎週のように通っているわたしだが、多摩川を渡ることはまずしない。電車に乗らなくとも、多摩川鉄橋に並行してかかる二子 . . . 本文を読む
『たちばな』(高津図書館友の会誌)No.38(1973.3)pp.30-32
【p.30】
祖 父 悟 朗 を 思 う
松 本 史 朗
祖父が逝った昭和二十年は私の生れる五年前だから、私は生前の祖父をしらない。しかし祖父のおもかげは、私にとって幼い時から夢寝にも忘れ得ぬ親しい、なつかしいイメージだった。
祖父は、殆ど名を成さなかった。バートランド・ラッセルの研究家、市井三郎氏は氏のラッセル訳 . . . 本文を読む