Il Volo Infinito

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ウィーン版エリザベート20周年記念コンサート その2

2017年12月01日 | ステージ

マヤさんに五体投地2回目してきた。

本当、マヤのエリザベート、エリザベートはマヤでした。
18年間のエリザベート、最後の『私だけに』はもはや波動砲レベルでこちらを貫いた。拍手で会場が割れそうだった。
圧巻、脱帽。

まずは前回からのキャストの続き。

ルキーニ役のブルーノは本場イタリア人(ルキーニはイタリア人)。2005年度のセルカンが大贔屓な私ですが、彼ほどエキセントリックではない。上品さがある。セルカンほどにキレる人はそんないない(笑)
唄い出すとオペラ歌唱なんでびっくりした。いいお声ですv 彼も1000回目ルキーニをこの公演中に迎えられたということで、すごいよな。
2部のソロで字幕が映らず、故障か?と思わせて、見上げて肩をすくめ、日本語で歌い出す。湧く客席。そういや、楽の今日はシシィの家庭教師の人も、登場時に「スミマセン、プリンセス!」と呼びかけて喝采が(笑) ブルーノもなかなかに達者でした。
彼もまたこれでルキーニを卒業だそうで。なんだよ。もっとやれるのに。残念。
オツカレサマデシタ(マテ風)、ありがとね!

フランツ・ヨーゼフのアンドレはDVD版と同じ。アンドレさん好きだよ! ヨーゼフ皇帝は東宝版の石川、岡田ともに良いお声で、とくに禅さんは抜群の安定感でしたが。アンドレの声も超安定している。マヤとアンドレのデュエットは鉄壁だよなあ。この二人はもう喉が特別製としか。かすれもしねえ。彼もフランツ長いんですよね。そしてやはり卒業なの…? このベテラン揃いのキャストで日本に来てくれて実に光栄でした。
彼のソフトな雰囲気と美声に惑わされがちだが、本家フランツは結構言ってることは厳しい。「私との人生は辛いことの方が多い」とハッキリ言ってプロポーズしてる。嫁と母との板挟みでオロオロな感じの日本版とは違い、私のために自分を律して務めを果たしてくれと命じてる。皇帝として生まれ育ってそう扱われてきた人だから、いかにベタ惚れとはいえ妻となった田舎娘に低姿勢は取らない。東宝版は現代日本の夫婦像みたいなところがあった。観客の大半が女子なので、命じる亭主は好まれない(笑)

エリザベートの心がどんどん離れていくのに、晩年の『夜のボート』で“私たちの心はまだ一つだ”と言うのが苦笑というか、ここは東宝版の方が情状酌量できる。でもアンドレだとかわいそう(笑) 舞台ではマザコン皇帝に描かれてるけれど、実際のフランツ・ヨーゼフ皇帝は68年間もの統治の間毎日3時間しか眠らず激務をこなしていたとか。86歳で亡くなる前日、「明日は三時に起こすように。仕事がある」というのが遺言。到底妻の機嫌を取る暇はないよね…。それほどにハプスブルクの終焉を支えてたわけで。

彼がエリザベートを愛し続けたことは真実。だけど母と閣僚たちの画策で、一夜を過ごした娼婦から貰った病気を妻にうつしてしまう。エリザベートは激怒と激しい失望。そしてそれを口実にいよいよ宮廷に寄り付かなくなる。夫の誠実さだけはずっと信頼していたので、ダメージが大きかったんだろうね。
そこでまたつけ込むトート閣下。だが、下がれ下郎!にされるトート閣下。
あなたの影では嫌なの、と歌うシシィ。愛してる、戻っておいでと歌うフランツ。積荷も行き先も違う二隻のボートは、すれ違うことがあってもそれでまた傷つけ合う。
「どうしてふたりは 幸福になるのがこんなに難しい」というフレーズは哀しすぎる。
二人の大ラスデュエット、劇場中に切々と響き渡る声と歴史が、もう感動。

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ゾフィ皇太后と侍女たちは、あの衣装とダンスが効果抜群だよなー。全体的にカクカクした機械人形のような振り付けが、ウィーン宮廷の堅苦しさ、規律主義を表してる。エリザベートの時代からさかのぼること80年前、栄光のマリア・テレジア統治時代。子沢山の女帝は家庭生活も大事にし、マリー・アントワネットは自由に甘やかされて育ったというから、ハプスブルク家も最後の方に形骸化していったんだろう。輿入れ先のフランスは、すべて衆人環視(出産、トイレも)。意味不明の儀式だらけの宮廷に馴染めなかったという。オーストリアは規律は厳しくてもゲルマンらしく合理的。フランツは粗食で食事に割く時間もなく、エリザベートは例のダイエット。同じ末期でも、ブルボン王朝の美食退廃には全然行かないのがお国柄(^_^;)

皇族の子供が乳母や教育係に育てられるのは普通なことだけど、母親なのにほとんど会わせてもらえないのはやり過ぎでしょう。エリザベートは後年姑から子供たちの養育を勝ち取った途端、人任せにしてしまう。エゴイストなのは確かだけど、初めに奪い取られたから、彼女の性格として奪還することだけが目的になってしまったのもあるんじゃないか。もう少し手元において成長を見るくらいはできれば、少しは彼女も腰を落ち着けられた気もする。マリー・アントワネットがそうだったように。
その原因を作ったゾフィ皇太后。トートダンサーズが迎えに来て生涯を終える日本版と違い、ひとり老いと病に足を引きずりつつ去っていくウィーン版。戦いも、その末も激しく厳しいよむこうは…。

ルドルフ、噂の美青年ルカス君を初見。30越えたけど。なんか、ひよひよしてるわ(^0^)
美青年が長じて老けたりゴツくなったりしがちなあちらさんとしては、彼は変わらず細身。顔ちっさ!
その頼りなさげなところがルドルフぽい。でも歌や演技はわりと強くて、やはりウィーン版。東宝ルドルフは婿入り前な感じだが、本当は妻子持ちの30代なんだよね。字幕には「家庭生活は苦痛」、民衆の歌には「皇太子はユダヤ女を追っかけてる」と、心中した愛人のことも出てた。
あの両親と、あのトート、あの宮廷に向かうルドルフは、激しさを持った大人でした。時代やトートに翻弄されたというより、自らの意志で違う選択をした感じがある。

マテトートとの稀代の萌えシーンである『闇が広がる』は、やはり楽日の方が気合入ってた。マテも東宝では控えてた表情がバンバン出てた。歯むき出して目ェ吊り上げるアレ(笑) ルカスの方がやや背があるんだが、たたんじまう勢いだったよ。
マイヤーリンクでの女子プロみたいなマテの麗しの女装はなかった。残念←
しかし、綺麗なお顔どうしが近づくのは、どんな場合でもいいもんだ(笑) マテの顔がさらに大きく見えてしまうがよ。
感情が浮かんでないんだよね。キスするときのトート。あの顔はイイ! あれ、マテの話になってら(^^ゞ

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ルカスとのはみつからんのでDVDでのパンチ君(名前じゃない)との闇広をどうぞ。とにかく腕力。

しかし、閣下にポイ捨てされたあと、奈落落ちの場所に倒れてるのですぐ降りるかと思ったら、両親が出てきてエリザベートが唄い出してしばらく放置。…辛い。実にシビアだ。
その歌で、東宝版では「あなたはやっと解放されたのね」と言ってた気がするんだが、「もうおまえは閉じ込められてしまった」と歌ってたのが印象的。死を優しき解放ととらえる日本版。現世の辛さからは逃れられても、黄泉の国に閉じ込められるととらえるウィーン版。
エリザベートがトートを拒否し続けたのには、こんな死生観も影響していたのか。

子供のルドルフは三人日替わりで、日本在住のドイツ人少年をオーディションして選んだようです。みんな可愛くて歌も達者。 ただ全員黒髪なので、長じてルカス(ブロンド)になるかな(笑)
トート閣下の子ルドを見る目がコワそうでいて楽しげなんだよね。エリザベートに似た息子。楽しみが増えた感じ。でもマテ自身が子供好きなんだと思う。カーテンコールですぐいじりたがる。子供達は、嬉しそうな、迷惑そうな(笑)

エリザベートの母親ルトヴィカと、娼館のマダム、フラウ・ヴォルフが兼任で、ものすごく豊満。
ヴォルフの露出多い衣装だとボリューム感がハンパない。ハムのごとき腕に横回りが円形。
娼館のマダムはこういうイメージだよ! 東宝の伊東弘美さんはスレンダーでしたが、SM女王で別物で強烈だった。
いろんなタイプにいろんな体型の娼婦たち。そうでなくちゃ“何でもアリのヴォルフの館”にならないと思う。
お馬さんのシーンが楽しい。馬の声も出してくれて、皆さんノリノリv 『ミルク』もウィーン版のダンスが好き。10年前なら、東宝版の一糸乱れぬダイナミックなダンスの方がいいと思っただろうな。

衣装もシックで上品。オケは指揮者以外は日本からの選抜で、正直に言うが、梅田や中日とは雲泥の差であった…(帝劇は行ってないゆえ)
エレキでのロック調やジャズっぽいアレンジもあり、それがしっかりハマってた。
瑞々しいプロポーズの歌が、晩年の『夜のボート』と同じ旋律で、『私だけに』が、皇帝の謝罪とトートの後悔、エリザベートの決意になる一幕ラスト。そして終幕にエリザベートとトートがかわす愛のテーマへ。
自らの“闇”と一つになる、トートとの愛の成就は彼をエリザベートが作り出した影と見れば、統合なんでしょうね。


大千秋楽のカーテンコール。鳴り止まぬ拍手が続き、マテは日本式に深々。こいつ、色々日本人籠絡法も会得した(笑)
そしていつもは白のナイトドレスで出るマヤさんが、あの額縁のドレスで登場!! もうみな大興奮。
マテの第一声。

「ガンバッタ!!」
おうよ、みんな頑張ったね!

マテがメインキャストを紹介しました。梅田でもしたようですね。通訳さんがついて、それぞれ挨拶も。
マテはなんつうか、冗談やら小芝居やら、笑わす笑わす。閣下のメイクのままなのにイメージ台無しだよもっとやれ!
子ルドルフは三人とも登場してご挨拶してくれた。日本語(^_^)v 大ルドルフ、大人なのに僕の方が日本語できない…としょげる(笑) マテが、僕も12歳までロシア語話せたけどもう駄目だ。使ってないからと。使用し体感することが言語習得。“語学”じゃ駄目なんだよね。見本のような男だ。そして日本語のココロはもう完璧だよあなた(笑)
マテとルカスで、独逸和ちゃんぽん闇広、そして客席に歌わせる。もうそういうノリ、よせよ。
大声で歌いました。
三人の小さい息子を従えて見守るマヤさんエリザが慈母の微笑み。歌うふたりもデカい子供のよう(笑)

指揮のシューツ氏の挨拶で、アンサンブルにもこんなに拍手を頂いたのは、この国だけですと言ってたのが心に残った。
日本人、礼儀的にもあるけど本当にアンサンブルからスタッフにまで拍手を惜しまないのは確か。これは誇っていいと思う。
それとシューツさんが、言葉は違っても音楽でわかり合えますと言ったら、通訳のおじさまがウルウルに。通訳要らずということじゃなく、逆にねぎらった意味のようで。マヤさんが泣いてないのにおじさんが感極まってどうする(笑) でも日本人、ああいうねぎらいに弱いんだよね。
みなが暖かい目で見守る中、ずいっとでてきたマテが、「キミタチニ、言ッテオキタイコトガアッタ。歌ハ国境ヲ越エルノ、ダ!」とかぶちかましましたw

マヤさんはスピーチでちょっとだけ涙ぐんだ後は終始ニコニコで、これで18年間続けたエリザベートを終える哀惜感をほとんど見せなかった。笑い顔も明るくて、マテとじゃれたり実に爽やか。そして堂々としてる。強くてかっこいい女性だ。私の周りの女性の方が泣いてたよ。 
ああブルーノさんがマヤさんに抱きついて頬チューしてたな。イタリア人、はずさねえよ。マテが睨んでた(笑)

死の天使たちが片翼の裏側に日本国旗を張って見せたり、スタッフ全員も高台に登場して各国(たぶんエリザベート上演国)の旗を振ったり。
鳴り止まぬ拍手に、もう一つサービス。エリザベートとトートの最後のテーマをメインキャストがワンフレーズずつ歌ってくれた!
マックスパパ→ルトヴィカママ(ヴォルフさん)→ルドルフ→ゾフィ→ルキーニ→フランツ→トート→エリザベート、全員、だったかな。違ってるかも。

最後皆で旗を振り、上からキンキラテープ。なぜかテープに向かい拍手するマテ(爆笑)
そして日本国旗をマテの顔に充てて隠すマヤさん(笑) そして日本国旗を頭頂に刺すふりをするマテ…
それがハタ坊とはさすがに知らずにやってるよね君
最後の最後にすんごく脱力した。マテ、君は凄い(笑)

マテは高い声が出ずらくなった分、低音がよく響くようになったと思う。オトナになった(笑) 体つきはがっしりだが顔は逆にこけて精悍になったね。それと元からイケメンだけど、化粧映えする。普段の目がホワンとやや垂れ気味なのに、演じてるときは鋭くなる上に目張りを入れると顔つきが全然変わる。ハッキリした顔立ちで、化粧するともっと変わる人って珍しい。


というわけで、ミュージカル帰りしてよかったと思いましたよ。今回は(笑) 実に素晴らしいものを見せてもらいました。
やはり、アジア人が演じるからどうのというより、地続きでの中欧の俳優たちが演じているのは、言葉だけじゃなく民族の血がなせる何かを感じます。技量だけではない、追いつかぬ何か。


そういえば、途中で地震がありました。気合入れて鎮めました(笑)


初稿 2012年10月



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