Il Volo Infinito

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ウィーン版エリザベート20周年記念コンサート

2017年12月01日 | ステージ

マヤさんに五体投地


やはりタイトルロールの大看板が素晴らしいって、何物にも代えがたい…。
東宝版のエリザベート役にも文句はありません。
でも当然のことながら、1000回以上エリザベートを演じ続けたマヤ・ハクフォートは格が違う。

他のキャストより(みんな上手いのに)一際響くその声。声質や歌唱力もあるけど、実際血肉ですよ。
主役としての立ちどころ、力量がハンパない。
少女時代、凄くやんちゃで悪戯っ子ぽい。少女そのものの元気さでびっくり。マヤさんシシィは本物のお転婆娘だった! 後半、晩年の低く抑えた声は高音に劣らず響き、15~60代始めの幅のあるエリザベートに、どの年代にもしっかり見える。凄いよほんと。
『Ich GehÖr Nur Mir(私だけに)』 鳥肌。

Maya Hakvoort - Ich Gehör Nur Mir (Sólo Me Pertenezco A Mí Misma)
 
以下全部2005年版舞台より


そして一幕の終わりに、かの有名な肖像画の通り額縁に収まり、そこから唄い出すエリザベート。本物そのもので、そこにエリザベートが!と思わずにいられない。東宝版ではなかった拍手が起こってました。彼女が歌いながら出てきて、そのあとの空の額にトートが入るのもいい。この演出は秀逸だよ。

まずはマヤさんから始めましたが、舞台の概容を。
ウィーン版DVDのようにフル舞台ではなくコンサート形式。衣装はフルと同じく替えてくれますが、セットは簡略式で舞台中央にオケ。
その前の割と狭い幅でDVDと同じく振り付け踊り歌ってくれる。総勢24名(子役3人は交替)のコンサート版縮小キャストなので、兼役もしてます。本舞台の装置と人数はコスト的に無理だろうね。
上下するヤスリの代わりにオケの後ろに高座があり、その上に現れたり歌ったり、横を降りてきたりする。

ウィーン版のオープニングが大好き。エリザベートの周囲の人々が彼女のことをそれぞれ歌う東宝版より、全員で亡霊として不気味な動きと共に歌う。この怖いダンスがすごくツボ。そしてドイツ語でのシビアすぎる内容がたまらない。
シュッ、シャッ、バッなどの子音を吐き出す音が逆にカッコいい。
少人数とはいえ、コーラスがやっぱり素晴らしい。

EIisabeth 1



ウィーン版のトートのお付きは、“死の天使”と呼ばれるらしい。トートの影として彼と同じ姿かたちをしていて、片翼だけをつけている。あの羽がもう、ぞくぞくするね。めちゃめちゃ好き。スタイリッシュだし、意味深いと思う。
東宝版のトートダンサーズのファンの人には申し訳ないが、私は彼らの踊りも造形もどうしても馴染めなかったよ…。すまぬ。
男女が混じってるのもいい。羽は金と銀があり、二つ合わせて立つと双頭の鷲になるとか。カッケー!
4人だけで、本舞台のようにたくさんいなかったけど、片翼が見れて嬉しい。

宝塚から東宝へ、そして他国へ逆輸入の『愛と死の輪舞』。
この歌は恋に落ちた死神としてトートを演出してるので、エリザベートとルドルフが生み出したそれぞれにしか見えぬ存在という感覚からは外れるんだよね。でも東宝版のどえらいロマンチックな歌詞と違い、電光字幕に写る内容の詩的にして攻撃的さにビビった(笑) マテはこの歌をウィーン版で歌いたかったらしいけど、中身はやっぱりゲルマンになってたぞ(笑) しかもエリザベートとのデュエットになっていて、彼女もトートに惹かれているのも歌詞に出ていた。
エリザベート、トート、フランツの三重唱でも、「愛して、るー!」ではなく、「お前は俺のものだ」と宣言してた。秘めた告白? なにそれ美味しいの?

DVDをガン見していたので、字幕はたまにしか見なかったんだが、歌詞のニュアンスは日本版とは大きな隔たりがある。
演出の違いも大きいが、それに加えてヨーロッパや英語圏の言語の歌に乗せるには、日本語はどうにも向いてない言語なんだと改めて思う。言葉数がすごく少なくなってしまうから、伝えられる内容に制限が出まくりだ。
日本ミュージカルにおいて、歌詞とニュアンスを上手くリンクさせて訳と創作を組み合わせ、耳にも聴きやすい歌詞を作れたのって岩谷時子女史だけだと思う。時子先生は偉大だよ。でも英語だけだからドイツ語ミュージカルはできない(^_^;)

日本語は相手が前にいれば、「私が」と入れずに「愛してる」と言える。Ich Libe Dich(I Love You)に、“あいしてーる”とのせるだけで足りる。言葉少なくても伝わる言語。
私、あたし、僕、俺。一人称が沢山あり、男女の話し言葉も違う日本語。繊細で豊かな言葉だが、世界に自分を指し示す時に、それらの“枠”がどうしても入る。でも西洋言語はほとんどが一つ。ⅠやIch。
エリザベートはエゴが強く自己主張も激しい。でも男勝りではない。内気でもある。美容に日々を費やすのも自分の唯一の武器としてだし、旅から旅に逃げていても他国で恋愛遊戯にふけった話は聞かない(知らないだけかな)。彼女には束縛だけが何にも代えがたい苦痛。
「私は…だわ」「~なのね」と女性の話し方で歌われる日本訳よりも、ただIchと言い続けるそこに、女性男性という枠も越えて自由になりたかった彼女の渇望をそのままに感じられる。
『私だけ』なんだと。


マテについて。肥えた…? ごめんごめん(^^ゞ 衣装はまさか2005年のものじゃないよね? なんかパツンパツンなんだもん。
いや太ったというよりまた胸筋が発達したような。断っておきますが、私はパツンパツン大好きです。

黒と青のエキゾチックなあのコスチュームと濃いアイラインのトート様。突進して胸板にはじかれたい。
長髪ヒラヒラお衣装のお耽美トートは、私は物陰から見てれば充分。

噂通り歌は控えめ。シャウトや高音をあまり出さない。これは長の日本滞在公演続きでくたびれたか、東宝版とウィーン版のミックスとして大人なトート閣下を演出してるのか。本人はそう言ってるみたいですが。確かにわりと含みを感じる閣下になったと思う。だが『Der Letzte Tanz(最後のダンス)』ではやはり舞台上でハレンチ行為をかましていた…

後半、『Wenn Ich Tanzen Will(私が踊るとき)』では大人しめはかなぐり捨てていたが…。
しかしエリザベートもすごい。彼女の方からもトートに向かい、詰め寄っていくのはDVD通り。
死に向かい詰め寄る女…。そしてまた詰め寄る閣下。
本家のふたりはつかみ愛

出てって、あなたなんて要らない! とはっきり拒絶するシシィ。ルドルフの死後にすがるエリザベートを、今度はトートが、もう遅い、失せろ!とまで言う。それでも切れぬ二人。なんだそろってツンデレかね。

木から落ちたエリザベートを姫抱っこして現れるところ、ラストもキスのあとは抱きかかえて退場。
マテもぴちぴちだったDVD当時よりはちょっときつそうだった(笑) でも子ルドルフはもう片手でひょいであった。いや本ルドルフ、ルカスも振り回していた。
マイヤーリンクでの死のキスは、東宝版は正面に向かい合いゆっくりと顔に手を添えて、そりゃあもうBLですよ。
ウィーン版の、ぶん回した後にピストルを持つ手に沿えてぶちゅ、バン! ポイッが生で見れたー!

トートがエリザベートとルドルフの鏡の投影でなく、そこに存在する闇の男であるとするなら、トートはエリザベートだけしかしょせん大事じゃないと思う。一筋というより、手に入れることに固執している。
ルドルフも手段の一つでしかない。死だもの。そんな甘い雰囲気は要らないんだわ。冷たい方が萌える。

ウィーン版マテトートは、熱いのに冷たい。ゾクッとする色気がある。
私はマテの顔のデカさが大好き。地毛のイイ色のブロンドを引き詰めて、全開にしてくれて嬉しい。
造作も大きいし彫りも深い、横顔ほんと美しい。


アンコール。お辞儀もDVDで見た通りのドイツ式で笑った。東宝じゃ日本式に深々だった。マテはほんとに郷に入れば郷に従うんだね。

「ミナサンこんにちわ。マテ・カマラスです」「今日のスピーチはちょと、シンケンです」

話し出すとなごみ系。真剣じゃなくてシリアスと言えば。普段ふざけてるみたいだよ(笑)
マヤさんのエリザベートがあと三回だということを言い、マヤさんからもお言葉。
長々と一気に語り、おじさん通訳が困り顔(笑) 頑張ってくれたところによると、日本の皆さんは本当に良くしてくれる観客だと言ってたのが印象的。

歌のあとの拍手は、昔より慣れたとはいえまだまだ諸外国より控えめ。なのに終演後のカーテンコールではみんな立って必死に拍手し、何度出てきても鳴り止まない。
ルキーニの『キッチュ』で手拍子が普通に出てて驚いた。東宝版だけのノリだと思ってた。こういうところ、遠慮深く一歩引いてるけど、みんなで揃って応援するみたいなところは日本ならではの国民性だよなぁ。たぶん公演中の拍手とは差のある最後の受け入れ具合に、ガイジンさんはびっくりして感動するのかもね。

それから特別サービス。マヤさんも4ヶ国語話せるそうですが、当然ながら日本語は未知。
でも今日、彼(マテを指す)は歌えますが、私もコレ(扇の裏にカンペ)を見ながら歌いますと!

おおーっとどよめき。ルカスとブルーノさんも少し歌ってるけど、マヤさんは初めてじゃないか。

マテと二人で、『私が踊るとき』を歌ってくれましたよ! マテは日本語、マヤはドイツ語で、サビだけカンペ日本語で!
マテが「おれのー ためにー」と歌うと、さっきまでイッヒマイネうんちゃらと沢山吠えてたのと雲泥に言葉が少なくて、ニホンゴスクナイヨーと心で叫ぶ。
それなのに。マヤさんが。
「おどりたいときは すきなおんがくで」と歌うと。

違和感ないのは何故。

数フレーズだけど、発音も訛りを感じないし、なにより全然ガイジンサンの片言に聞こえない。
…これはもう、何度も言うが血肉だよ。エリザベートだよ彼女は。何語で歌おうが。



長くなったので、ルカスやブルーノ、アンドレ他のキャストについては次回。
明日千秋楽にも行ってきます。


東急オーブ素敵v 11階で総ガラス張り。見晴らし良い。



終焉後夕方、富士山が見えた!



幕間にバーで飲んだカクテル。その名もトート。



死を飲んだぜ(笑) エリザベートというノンアルコールカクテルもあり、こちらの方が人気で大勢が飲んでた。エリザベートの薄紫色。
トートはカルアミルクで、かなりアルコール度も強い。
強いがそれ以上に甘かった。強くて甘い。トート様(笑)


初稿 2012年10月


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