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2.
しかし、喜びの裏には悲しみもあった。マーヤー夫人はこの世を去り、太子は以後、夫人の妹マハープラジャーパティーによって養育された。
その頃、アシタという仙人が山で修行していたが、城のあたりに漂う吉相を見て、
「このお子が長じて家におられたら、世界を統一する偉大な王となり、もしまた、出家して道を修めれば世を救う仏になられるであろう」と予言した。
はじめ王はこの予言を聞いて喜んだが、次第に、もしや出家されてはという憂いを持つようになった。
太子は七歳のときから文武の道を学んだ。
春祭に父王に従って田園に出て、農夫の耕す様を見て居るうち、鋤の先に掘り出された子虫を小鳥がついばむのを見て、「あはれ、生き物は互いに殺しあう。」とつぶやき、一人木陰に坐って静思した。
生まれて間もなく母に別れ、今また生きもののかみ合う様を見て、太子の心には早くも人生の苦悩が刻まれた。
それはちょうど、若木につけられた傷のように、日とともに成長し、太子をますます暗い思いに沈ませた。
父王はこの有様を見て大いに憂い、かねての仙人の予言をおもいあわせ、大使の心を引き立てようと色々企てた。
ついに対し十九歳のとき、太子の母の兄デーヴァダハ城主スプラブッダの娘ヤショーダーラーを迎えて妃と定めた。
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しかし、喜びの裏には悲しみもあった。マーヤー夫人はこの世を去り、太子は以後、夫人の妹マハープラジャーパティーによって養育された。
その頃、アシタという仙人が山で修行していたが、城のあたりに漂う吉相を見て、
「このお子が長じて家におられたら、世界を統一する偉大な王となり、もしまた、出家して道を修めれば世を救う仏になられるであろう」と予言した。
はじめ王はこの予言を聞いて喜んだが、次第に、もしや出家されてはという憂いを持つようになった。
太子は七歳のときから文武の道を学んだ。
春祭に父王に従って田園に出て、農夫の耕す様を見て居るうち、鋤の先に掘り出された子虫を小鳥がついばむのを見て、「あはれ、生き物は互いに殺しあう。」とつぶやき、一人木陰に坐って静思した。
生まれて間もなく母に別れ、今また生きもののかみ合う様を見て、太子の心には早くも人生の苦悩が刻まれた。
それはちょうど、若木につけられた傷のように、日とともに成長し、太子をますます暗い思いに沈ませた。
父王はこの有様を見て大いに憂い、かねての仙人の予言をおもいあわせ、大使の心を引き立てようと色々企てた。
ついに対し十九歳のとき、太子の母の兄デーヴァダハ城主スプラブッダの娘ヤショーダーラーを迎えて妃と定めた。