ユーラシアの風~2010年・自転車による単独ユーラシア大陸横断記

2010年・自転車による単独ユーラシア大陸横断記

旅は、終わった

2010年10月17日 | 帰国後
参加することに意義があるなんて、そんな小学校の運動会みたいなこと言いたくねぇ。
やるからには完走しか目指さない。できないなら帰らない。その先に見えるものを確かめたい…。
前回の記事の通り、それなりの覚悟を持って望んだはずだった。

そして、今ある全てを捧げた。
その結果は、周知のとおり。
何かのためになる、肥やしになると言われたって、失敗は失敗だ。
勝てない監督や選手はクビになる。
成し遂げられなかった挑戦の結果が、消えることはない。

願わくば、後進の人は、このおれの有様を見て、自分にはできないなんて絶対に思わないでほしい。
むしろ、この失敗のパターンを十分に研究して、必ず成功に結び付けてほしい。

敗因はいろいろあるが、やはり出発時点での体力の低下、コンディションの不完全さは無視できない。会社勤め慢性疲労の上に、1ヶ月のわずかな準備期間がさらに疲労を蓄積させた。慣れない環境下での肉体的、心理的ストレスは元々弱っていた身体にダメージを与え続けた。そして「絶対失敗できない」という思いがまた、心を硬直させた。
事前の準備の不足から、砂漠地帯にもかかわらず、高性能のマスクを装備するのを見落とした。これも響いた。寛平さんに会いにカザフスタンルートを取っていれば、中央アジアに進めた可能性も高い。
いまさら何を言っても遅いのだが。




残念ながら、決して感動的な言葉でこのブログを結べるような状態じゃない。
悶々とした思いが渦巻く中でのフィニッシュだ。
そこまで言うならもう一度出て行けよ、と言われても、そうもいかない事情は消せない。
出て行きたくても出て行けない。そんな状況を打ち消せない。自分には何の力もない。
この「悶々」が時間とともに薄れ、消えていくのを待つ…現実にはそんな退屈な結末も、受け入れざるを得ない時がある。これは映画でも、テレビドラマでもない。普通の人間の生活の記録だから。
夢と現実の狭間の中で、まだ夢の世界から抜け切れていない青年の嘆きで終える、この無念も「旅行記としてアリな展開」なのだろうか?どうしてこんな旅を思い立ってしまったのか、旅自体を恨めしく思う夜すらある。
中国横断したからいい…なんて、思えるわけがない。満足なわけがない。たった一つの国境すら越えられなかった不甲斐なさを思うと消えてしまいたい。絶対誇れない。おれはそんなに柔軟な人間じゃない。
でも、現実問題、この夢は食うための夢じゃない。この夢に溺れているうちは、所詮「甘えてる」と言われ続ける羽目になる。そして実際、今日も預金崩しの浮浪者でしかない。地に足が着いていない。何も生み出せていない。情けない。



この悶々とした時間が早く過ぎることをただ祈る。

この旅に続きがあるのか、それは今は全く分からない。これまでを振り返ると、身体的にも、周囲の人たちのためにも、それはあってはならないことなのかもしれない。それでも、期待を寄せてくださる意見が嬉しくない訳はない。それらは、これまでの旅やブログに対する評価として、勝手に解釈させていただこうと思う。そして、まだまだやりたいこと、行きたいところ、約束がたくさんあった。それらが果たせなかったことに対して、お詫び申し上げたい。




ユーラシアの風は、強烈だった。
それは、激流とも言うべき、多民族国家・中国の息吹だった。
それは時に心地よく、時に荒々しく、日本からの旅人を迎えた。たった一人で乗り込んでいったはずなのに、いつも誰かに囲まれていた。数え切れない出会いを運んだ。

旅は、遠く離れた場所で、鮮やかに家族や、恋人、友人との絆を浮かび上がらせた。日本では見えない関係性を見せ付けた。それは決して心地よいばかりではなかった。でも、日本にいただけでは見つけることのできない糸だった。

そして、自分の国・日本を見つめる機会となった。物事には、何か他のものを通して見たときにこそ、その輪郭が明らかになるときがある。中国と日本、その異質な隣人は、それぞれに良い部分と悪い部分を認めることができた。日本という国を、より好きになったし、嫌いにもなった。

自転車でなければ出会えない景色、人間、瞬間に満ちた旅だった。全て風任せ、自然任せ。まだ感受性も豊かな20代中盤で、こんな時間が持てた事は、幸せだった。その後の幸せを、どこに見出していくのか、何が優先されるべきなのか、何に拘っていくべきなのか、確固としたものはまだないけど、そのヒントを集めることはできたと思う。

旅は成功か失敗か。その点で言えば完全に失敗だったと思う。でも、行かなければ手に入らなかった体験は確かにある。今はそれを大切にして、生活に生かしていくこと。そして、たった5ヶ月だけど、何物にも替えがたい貴重な体験を、身の回りの人と少しずつ分かち合っていくこと。
そういう風に、時間をかけて、自分を納得させていくことが、ひとつの到達点だと言えるのではないか。

旅は、終わった。



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1 コメント

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Unknown (town7)
2011-09-03 15:45:17
帰国後にブログで綴られていることの多くが、長期で旅に出る人が意識していなければならない概念を多く含んでいるように想えます。大切なものを思い返させて頂きました。ありがとうございます。
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