君は首筋に月のしずくを残したままで
俺がそこから立ち去るのを物陰のトカゲの様に待っている
長い長い哀しみの跡はまるで烙印の様に頬を硬くさせて
叶わないものほど永遠なのだとフルートの調べの様に語りかける
長い長い冬だね
こんなにも長い冬が、いつからかこの上に舞い降りていたのか
噛み合わなかった唇は切れて血を滲ませている
それはすでに思い出になるのだと言うほどに苦い
消化されない記憶など
この世にはないのだよ、君
混迷の回廊の奥にはいたたまれない様相で
根本的な概念とも呼べる支柱が崩壊していた
ああ
もうこの先は
ないのだな
と
縫製機械の回転の様に
胸の内、痛いさざ波は繰り返す
すべての終わりは、音を立てたりはしない
人がそうである様に、万物は
言葉ひとつ残せずに終わるのだ
ならば、ねえ
君に落ちた月のしずくを持ち去ってもかまわないだろうか?
それが君の胸元を滑り落ち、足もとで束の間の
まぼろしの様な湖になって消えるのをただ待つのみだなんて
そんな望みすら
もはや叶うことはないのか
せめて君の残像に焦がれてもかまわないか
眠れない夜に、まじないの様に君の名を呟いてもかまわないか?
君と俺の間を、まっぷたつに断ち切る小さな月のしずく
いとも、簡単に
この日々は終わるのだ
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