遠方に降る雪のニュース、君のエアメールはもう長いこと音信不通
感染源は不明、長い欠落の日々の中で
少女のように手首を苛める癖がつく
昨日から比べて
異常と言えるほども極端に温度が下がったのに
まだ秋までの装備しか持ち合わせがなくて
ヘッドホンでロキシー・ミュージック、少し体感温度が麻痺する
この前の食事がいつのことだったかとか
この前バスを使ったのはいつだったとかなんて、もう
気にとめることもしなくなって
なんとなくテーブルの上のものを口に運んでは
吹雪のような音を立てて吐く
何度も気が遠くなるのに
そのままいっそ逝ってしまえたらいいのに
君のエアメールはもう長いこと音信不通
それだけがこんな迷路の理由じゃきっとないだろうけど
君はきっと安全ピンを外す役割をしたのさ
パイナップルの中の火薬がひどく弾けて
心身が四散して拾い集めることもままならなくて
冷たいビートの中に幸せなまぼろし、だけど何もカタなどついてはいなかったんだ…
それは先天的な欠落、覚えてきたものたちが凍てついて溜まるから
本当はいつでも凍えてばかりいたんだ
樹氷のように心がなくなればいいのに
樹氷のように心がなくなれば
君は安全ピンを外す役割をしただけなんだ
救われていたんだ、どうもありがとう
愛されていたんだ、どうもありがとう
見ることが出来ないはずの夢を見ていられた
洗えない食器の中で見慣れない影が動く…ねえ君、よかったら少し話をしよう
それでもし話が合うようならさ
とりあえずお友達から始めてみないか?
唇だけで笑ってそう問いかけてみたけれど、触角だけで冷たくあしらわれて
それはそそくさと物陰のひとつへ逃げていった
壁掛けの時計は君がいなくなってからほどなくして電池がなくなって
壊れ始めた午後のまましんと針を止めている
自分以外の誰も音を立てなくなってから
何度もドアノブが回る音を聞いた
それは過去からのようでもあり
まったく関係のない未来からのようでもあった
今ではもう誰も待っていない、遠方に降る雪のニュース
なにも間違ってなんかいない、ただとどまっているだけ
許容量を超えて、溢れるか決壊するかすれば
きっとどこかに流れ始めることが出来るさ
それが望んだ場所かどうかなんて想像もつかないけれど
風が強く窓を叩くたびに
誰かが笑っているような気がする、ふふふ、あははは
聞こえるたびに目を細めて
そこに自分の記憶があるかどうか確かめようとしていた
哀しんでなどいない、だから
なにも気にとめる必要などない
少なくともここには雪は降らない
テレビなんか本当は見たくもなんともないけど
リモコンがどこかへ隠れてしまってぜんぜん見当たらない
見つけようとすると
あちらこちらを引っ掻き回すだけで終わってしまうから
深い藍色のカーテンを買ったんだ、独りになってすぐに
そいつのせいで朝も夜もないよ
ただ沈殿して揺れているみたいな気分、ずっと長いこと
「マリモだって生きているんです」昔誰かがテレビで言ってたな
だったらこれも生きていることには違いない
トイレに行くためになら動ける、今のところはまだ
勢いよく水を流すと
またどこかのスイッチがオフになった
今が朝なのか夜なのかもわからない
カーテンは間違いなくきちんとした買物だった
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