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浸透と官能という真実の概念の緩やかな交わり

2005-12-07 00:29:31 | 散文


君は長い長い弛緩のあと、おいそれとは手に入れられない感覚を用いて俺に謎かけをひとつした。俺はイエスともノーとも答えることが出来ずに愛想笑いを浮かべて窓際の鉢植えに気をやろうとしたが君はそれを許さずに俺の頭を観念的な万力で押さえつけ…「私が口にしていることをただの言葉だとは思わないで欲しい。」人ならざる何かに呪文を聞かせるようにゆっくりと、概念を噛み砕くように俺の目を覗き込んだんだ、俺はその間ずっと君の目の奥に転移した自分のある種の喪失を見つめていた、ああ、おぼろげには今までも感じていたが、俺は確かに君の中に自分がいつか失ったものを見つけようとしているのだ、君が俺の頭蓋骨を支える両手にさらに少し力を込めたときベッドのスプリングがわずかに空気を震わせて、多分君はそれすらも自分の言葉なのだと主張したがっていると俺は感じた 。けれどそんなものに返答出来る用意のあるやつなんて少なくともこの半径にはきっと存在しちゃ居ないよ、君が何を俺に伝えようとしているのか、俺はすでにきちんと感応だけはしているつもりだけど。本気の心情を投げかけようとするとき、言葉はきっと糞の役にも立ちはしない…俺たちは馬鹿でかい湖の浅瀬に身体を浮かばせて、泳いだつもりになっているのさ。君の景色を理解しよう、俺の出来る限りの脳髄の最適化を持って。俺は君の瞳の中で構成を変えてゆく自分のことを見つめる、それはある意味で君の何たるかを見つめることでもあるのだ。君の湖の浅瀬はずいぶんと大胆だ、リアス式の海岸のようにさまざまな形に侵食されていて、その形状の危うさが何故だか俺にはひどく心地がいい。君は何かを狩ろうとするみたいにギラギラとしている、情熱なんて詩に植えつけられっこない、君はいつかそう言っていたっけな…焼き付けている間にそれは色を変えてしまうって。だけどどうだい、俺はいくつかの情熱をきっと文脈の中に組み込んできたよ…君にそれを見抜くことが可能かどうかはまた別の話だけど。君の子宮はスナップショットのような一瞬しか認めることは出来ないんだな、そしてそれはきっと俺が認めるところの君の最大の美点でもあるんだよ、俺は観念を水晶体の中に組み込んでみる、そういうデフラグが瞬間的に、ずいぶん上手になった気がするんだ、君、君が俺の目を覗き込んでいるわけは、そこに君が転移していることを認めたいからなのか?あるいは君は、俺を侵略しようとしているのかもしれない、俺の湖の際も、君のような幾何学な形状に変化させようとしているのかもしれない、ああ、そいつはなんて素敵な話なんだ!まだほんの五分程度のようだが、そいつはすでに短針の活動の領域を超えていた、俺と君の領域、君と俺の湖の対岸。観念的な会話。それは直列する霊体のような感覚だ、俺と君とはある一定の不確かな法則の元に繋がれたエクトプラズムの対流の中に居る…ねえ、いつしか謎かけは優雅な旋律のような軟体に変化して俺たちの周辺をはぐれた旗のように漂う、それはイデオロギーも、モラルも、アジテーションも、なんにも含んではいないまっさらな記憶のような概念だ、俺はそういったものが語る無垢な感覚というものをこれといった理由もなく無条件に受け入れてしまう…真剣である君の強固なる魂はなんだか楽しそうだ、俺たちはすでに世界の外に居る、肉体は不自由な入れ物なんかじゃない、俺たちの意識をぎりぎりまで圧縮する自由度の高いフォルダなんだ。エクトプラズムが物質化するときに必要なものを知ってるかい。それは雲のようなものだ、湿度、そう、湿度だよベイビー、それが俺たちを形のないものに平然と変えてゆく、ゆっくりと立ち上る煙のような何か、今では俺たちはそのことを知っている、君の両手は痺れることはない、俺のまぶたが疲労することがないように。俺たちの寝室は聖域となる、キリストだってジダンダを踏むはずさ。人なんて言葉に何の意味もない。俺たちが生きていることに人なんて何の関わりも持たないのだから、俺の瞳と君の瞳の中で生まれる流動的で絶対的なパイプライン、それは天地の理さえ飲み込もうとするときがあるのだ。真実は官能だ、それは揺らぐことはない、珍妙な器の中で、俺たちはいつだってそのことを感じているじゃないか?神よ、俺たちは絶頂の元に生存しているのだ…戒律などがなんの役に立つだろう?それは犬につける首輪や口輪のようなものだ。あまがみの出来ないものたちがその地位に甘んじるのだ、俺たちは殺風景な寝室でそれを悟ることが出来る。コーラルを持つことなく我々はあなた方を信仰するのだ。俺の対流と君の対流が交わる、君、いつか俺たちは二人のいびつな中間色を手に入れるだろう、指先が脳に溶け込み、俺は、君の謎かけとやらに関心を示さなくなるだろう、それこそが君の望んでいる双方向の―双方向の、双方向の生存にきっとなりえるのだから。アラウンド、アンド、アラウンド。今夜二人で眠るときには、部屋中の電気系統を破壊してしまおう。そして、そんなもののことは忘れてしまうのだ。フィラメントなんてきっと互いの顔を眺める役には立ちはしないよ。





艶めく唇の闇

2005-09-25 00:23:28 | 散文


相反する表裏を反転させる様に夜の歪みの中で俺は懸命に分離していた。
不整脈の様な覚束無いリズム、神経症的なノイズが眼球にレッドラインを引く、ああ、俺は不思議なほど甘んじてカオスの誘う先を見た。
中性的な微笑を持つ忌々しい瞳の天使、契約書を読み上げるまでも無く彼女は俺の首筋に甘美な腫れを刻み込む、ああ、俺は悲鳴をあげる事すらしようとはしない…それはあらかじめ決められていた絶望の認知の様だ、キリストは多分、受け入れることをとても懸命に行うことが出来たのだろう。
彼女がマーキングした幾つかの印から本質的な血液が伝うのを感じた、俺はきっと何らかの取り決めによって形を変えられたのだ、それなのに―癌の様に体内に喰らいついている悪魔は牙を抜こうとはしない。
俺は闇に棲まうモノに見初められたのか?
血液は模様の様に不自然なほど真っ直ぐに身体の中枢をなぞる様に黒曜石の艶の上に落ちてゆく、指先で辿るとそこから隠したものが次々と漏れている様な気がした。
俺は何かを組み違えたのか?それはしかし問いほどに明確な輪郭を持ちはしない…だいたいが俺はいきなり深部に達そうと欲を掻き過ぎるのだ。これはどうだ、まるで身体の方が先に、
どうにもならぬと泣いているようではないか?
言葉のすべては粗忽なものよ…天使は唇を濡らしながら購いを求める様に床と同じ色味の声を持って囁いた。だから貴方は犯すみたいに言葉を綴っているのでしょう?
違う、と俺は答える。まるでそれが真理であるかの様に。
だがその実は、くちばしの長い鳥がどんな蟲にでも喰らいつく様なそんな程度の反射でしかなかった。天使は指を舐めながら唇の端を耳に突き刺す様に笑う―多分彼女にはすべて見えているのだ。けれども彼女は俺の背中にあるものについて一切言及をしようとはしない。おそらくそれは彼女にとっては取るに足らないことなのだろう…俺が彼女の欲望をすべて満たすことが出来るわけでもないし。流れた血は凝固して皮膚に絡みつく。まるでつたない身体に無為な奉仕の見返りを求めようとするみたいにね。その幾つかの筋を見ているとまさしく、俺の人生は性悪だったのだとそう思えてくる。
天使はオクターブ上のキーで笑い始める―呆けた俺の眼差しの中にあるものを真っ直ぐ見つめながら。ああ、お前は悪意で語ることが出来るのだな、光を通す水晶の様な艶めいた肌の天使。お前の愛情は多分鋭利な刃以上の鋭さを持って突き立てられるのだろう…俺の心臓にもし価値があるのなら戯れに狙ってみるか?夜が白み始める前に…俺の回帰熱が息を吹き返す前に。
天使は唇を舐める―夜は、
夜は何かを隠す様にいっそう闇の色を深くした。



絡みつく思考の蔓を解く釈然としない遅い午前のサンプル

2005-07-21 11:42:46 | 散文


お前の胸にしがみついた小さな悔恨のことについて考える覚悟はあるか?俺は悔いてばかりいるうち踏み出せない身体になってしまった。それでもときおり気が違ったように明日が見たくなって真夜中の街に駆け出したりするけれど、手に入るものは決まってうんざりするような倦怠感といつの間にそんなに過ぎたのか判らない時間だけだったよ。すべての解釈は温度差を持ちながら通り過ぎていくねぇ?集めた昔から使えそうなものと使えなさそうなものを選り分けているうち次の目覚ましが鳴ったら何をするつもりだったのかすっかり忘れてしまっていたよ。言葉が含んでるものなんか決して信じてはならない。言葉は君に決して良い結果をもたらしたりなんかしない。何とか自分が意図するところを目の前の誰かに伝えようとして先走る情熱が空回りばかりすることを恥ずかしいと感じたことは無いか?そこに理解があろうと無かろうと、判ってもらおうと努力してしまう自分を惨めだと感じたことはないか?そもそも言葉それ自体にそこまでの責任をかぶせること自体間違っているんだ。言葉がそれほど確かなものであるのなら俺たちが他人同士であること自体大して意味は無いことになってしまう。窓の外で蝉ががなり続けるのを耳にするうち、自分もあんな風に懸命に鳴くことが出来たらなどとたわけたことを考えてしまう自分がいる。確かにそれは一見美しいことの様さ、だけど俺たちの命は一週間で終わるような代物じゃない、一週間なんて時間は眠りの長過ぎる俺たちには明らかに短過ぎる。夢を見ている間に何かを知っているんだと思ったことはないか?夢を見ている間に何かがすり変わっているんだと考えたことはないか?俺たちは五感を信用し過ぎている。なまじ見えるから、なまじ嗅げるから、なまじ聞こえるから、そこに入ってくるものがすべてだと考えてしまう。だけど考えてごらん、本当に真実がそんなものだとすれば俺たちはこんなにお荷物を抱えて生きることはないじゃないか。分厚い筋肉で一週間鳴き続けてぽとりと終わればいい。それが出来ないのはなぜか。それだけの理由を俺たちは抱えているからだと考えるべきじゃないのか?一度記憶されたものが時間軸を飛び越えていると感じてしまうのはどうしてだ?昔の傷がほんの数分前のことのように猛り狂う紅い血をどくどくと流すのはどうしてだ?すべては知覚を押し広げるためのストックだ、積み上げられたもののすべてに唾をつけて理解することから始めなければならない、良識者とやら、お前さんがたは簡単なものに寄りかかりすぎだぜ!そいつはリアリズムなんて上等なものじゃない、お前さんたちのモラルはただの日和見さ!本当のリアリズムはロマンチシズムの中にしかないってことが何十億の遺伝子を抱えてもまだ判らないのかい?生命として追い求めるものはスローガンじゃない、俺たちは俺たちの新しい本能を提示するためにここに産まれてきたはずじゃないか!正しいと主張するならこの俺の確信を覆してみろ、その歪んだ瞳を、荒れた肌を、破れた歯茎を、こけた頬を。それでも真実だって主張するつもりならお前たちの生き様で俺に落雷を食らわせておくれ、そのすべてを知ることが出来たらお前たちの言うことを何でも聞いてやろうじゃないか。ともあれ、ロマンというのは簡単なことではないよ。俺にだって目がある、耳がある、鼻がある。無防備に空いた間抜けな穴からは絶えず情報が流れ込んでくる。識別するにはいつでも太陽のようなピュアネスが必要になってくる。だけどもちろん俺にはそれだけのキャパシティは無いのさ。ロマンチシズムなんてただの憧れだって感じる時だってある。辞められないことは強さではなくてただの弱さだと感じることもあるよ、だけどこれ以外に俺を納得させてくれそうなものは当面見当たらないんでね。蓄積を無駄にしたくはない、俺はもう少しここで遊んでいることにするよ。