台湾の国慶節(10月10日建国記念日) 国慶節祝辞
台北駐日経済文化代表処代表 許世楷
●国慶節の意義について
国慶節は国の記念日、ナショナルデーです。国にはそれぞれの歴史があり、時代ごとの使命があります。私はこの日を迎えるにあたり、台湾の今日的な国の使命は何かということを提起してみたいと思います。
一九四五年に戦争が終結し、台湾は日本の統治を離れ、国民党政権下に入り、反共意識が強まりました。しかし九○年代以降、民主化が進み、台湾は反共だけでなくもっと積極的に自由、民主、人権、法治、自由経済を社会の基本的価値観として確立することができるようになりました。これらの価値観は現代世界発展の本流であり、戦後日本においてもそれが発展し、ついで台湾もその本流に入っていったわけです。今日台湾の使命とは、まさにこうした価値観を今後いかにして国内に根付かせ、さらに国際社会においてその実現を手助けしていくか、という点にあります。私は本日、これを確認することこそが国慶節を迎える最大の意義であると考えます。
●台日には3つの共通項がある
このように、自由、民主、人権などの社会的価値観を共有しているだけでなく、台湾は長期間日本の植民地だったこともあり、台日両国は文化的にも深い関係をもっています。
さらにここ十数年来中国の軍備増強は、台湾だけでなく日本に対しても大きな脅威となってきており、日本はここ二、三年、このことを明確に認識し始めています。たとえば、さきの日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、日米は台湾海峡の平和的解決を共通の戦略目標に掲げ、さらに中国の「反国家分裂法」制定に対しても、日本は中国の非平和的手段行使に反対を表明しました。
こうした中国の軍事的脅威を前に、どうやって自分たちの国の安全を確保していくのか、これは現在台日両国が直面する共通の課題となっております。
両国は深い文化関係や、社会の価値観の共有にとどまらず、軍事的脅威ということにおいても同じ立場にあり、合わせて三つの共通項を持っているといえます。私は日本がもっとこれらのことをはっきりと認識し、今後両国がさらなる密接な関係を維持発展していくことを強く期待しています。
●台日間の安保対話メカニズムが必要
両国が共通して直面する軍事的脅威から、台日の今後の緊急課題として、私は安全保障に関する両国の対話のメカニズムがぜひとも必要だと感じています。日米間には安保協議の体制が整っており、台米間にも「台湾関係法」を通してそうした協議を行なうことができます。しかし台日間には、まだそのようなものがありません。対話は軍事同盟以前の話であり、言葉や概念の解釈における一致した認識と相互理解を深める上で欠かせないものです。
一九七二年に両国の国交が断絶してから、三十三年経ちます。その間七二年当時の両国関係の基礎をなしていた状況に、大変化が生じています。冷戦はなくなり、ソ連も崩壊しました。こちら側に誘い込もうとした中国は、今やわれわれに大きな脅威を与える存在となっています。日本は経済大国のみでなく、政治大国にもなりました。台湾はかつての独裁国家から自由民主の国になりました。現在、七二年当時の両国関係のあり方を全般的に見直す時機が到来し、その気運がみなぎり始めていると考えます。
日本の有識者の中にはこのことに早くから気づいている方もありますが、これが国民全体に広がらなければ民意とはならず、民主主義社会においてはこのことが重要です。ここであらためて皆様に、台日関係七二年体制の見直しを呼びかけたいと思います。
●ノービザ措置の恒久化は台日のさらなる理解促進の一歩
日本から台湾への渡航者数が、今年十一月中にも初めて百万人を突破する見通しですが、来年はもっと増えると期待されます。と言いますのも、今年は愛知万博で台湾からの観光客が急増し、航空便の座席がほとんど台湾の観光客によって占められ、日本の観光客が利用しにくい状況になっていましたが、来年はこうした特別な催しがなければ、日本からの観光客がもっと伸びると予想されるからです。
とくに今年九月から、日本政府が台湾の観光客に対してノービザ措置を恒久化させたことにより、台湾からの観光客数は、たとえ万博が終わっても減らないと思われます。そしてノービザ措置は相乗効果をもたらし、相互交流の気運をいっそう高めると期待されます。人的交流は双方の理解をさらに促し、両国関係を具体的に促進する大変重要な基礎です。私はノービザの恒久化が台日の人的交流を促し、両国間の理解をいっそう深める大きな一歩を切り拓いたと考えています。
外交関係のない両国が互いにノービザ措置を適用することは普通ではありえないことであり、これは両国の密接な関係と絆の深さを証明するものにほかなりません。
●台湾の国連加盟問題
先月ニューヨークで国連総会が行なわれました。台湾は今年も国連加盟を求めましたが受け入れられませんでした。私たちは過去十二年間、毎年加盟を訴えており、現実は厳しいものがありますが、台湾の加盟についてここ最近国連における審議を見ていますと、討論に一定の時間が確保されるようになっており、このことは国際社会が台湾の問題を重視しつつあることの現われであると考えています。また、私たちは国連という国際舞台において、台湾が主権独立国であることを毎年主張し、「台湾はここに存在している」ことを国際社会に強くアピールし続けなければならないと考えています。
台湾は今年「二千三百万国民の国連における代表権を求める」従来の提案に加え、「台湾海峡の平和的解決に国連が関心をもつべきである」との新しい提案を行ないました。「すべての国際的な紛争を平和的手段によって解決する」ことは国連創設の基本的意義であり、原理でもあります。台湾海峡問題を解決するのに、日本や米国が困るのは戦争になることです。平和的な話し合いによって解決してほしいというのが国連と日米の立場です。これは今年三月に中国が「反国家分裂法」を制定した際、日本や米国、世界の多くの国々が反対を表明しました。またその一カ月前の日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、日米は台湾海峡の平和的解決を共通の戦略課題として盛り込みました。つまり、国際紛争の平和的解決は国連の基本的な原理であると同時に、日本をはじめとする世界共通の希望でもあるのです。
台湾の加盟は受け入れられませんでしたが、この新しい提案は二一世紀において、広い意味で国連およびすべての国が「戦争はしない。武力に反対である」という基本的な立場をアピールするものだと言えます。私たちは国連がみずからの原理に基づき「国際平和の維持」という責務を果たすことを、今後も強く主張していきます。
●在日僑胞への期待
日本の僑胞の方々には、かねてより政府に対する支持とさまざまな支援、ならびに台日関係の促進に各方面で尽力されていることに、心から感謝申し上げます。
そのうえで私は、今日の国際化、グローバル化の世界において、皆様方には一つの国籍や、ある国に住んでいるという以外に、地球村の一員であるとの自覚を持っていただきたいと思います。自由、民主、人権の尊重は台湾と日本の共通した価値観であり、世界の主流でもあります。今後も皆様方が特殊な文化的背景をもつということによって、日本社会にインパクトを与え、創造を促す役割を果たすとともに、世界の発展の本流に乗り、世界史の明日を切り拓いていってほしいと思います。
最後になりましたが、世界の平和とアジアの安定を願い、台日関係が一層強化されることを希望し、さらに皆様方のご活躍を祈念して私の挨拶とさせていただきます。(了)
《2005年10月6日》
台北駐日経済文化代表処代表 許世楷
●国慶節の意義について
国慶節は国の記念日、ナショナルデーです。国にはそれぞれの歴史があり、時代ごとの使命があります。私はこの日を迎えるにあたり、台湾の今日的な国の使命は何かということを提起してみたいと思います。
一九四五年に戦争が終結し、台湾は日本の統治を離れ、国民党政権下に入り、反共意識が強まりました。しかし九○年代以降、民主化が進み、台湾は反共だけでなくもっと積極的に自由、民主、人権、法治、自由経済を社会の基本的価値観として確立することができるようになりました。これらの価値観は現代世界発展の本流であり、戦後日本においてもそれが発展し、ついで台湾もその本流に入っていったわけです。今日台湾の使命とは、まさにこうした価値観を今後いかにして国内に根付かせ、さらに国際社会においてその実現を手助けしていくか、という点にあります。私は本日、これを確認することこそが国慶節を迎える最大の意義であると考えます。
●台日には3つの共通項がある
このように、自由、民主、人権などの社会的価値観を共有しているだけでなく、台湾は長期間日本の植民地だったこともあり、台日両国は文化的にも深い関係をもっています。
さらにここ十数年来中国の軍備増強は、台湾だけでなく日本に対しても大きな脅威となってきており、日本はここ二、三年、このことを明確に認識し始めています。たとえば、さきの日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、日米は台湾海峡の平和的解決を共通の戦略目標に掲げ、さらに中国の「反国家分裂法」制定に対しても、日本は中国の非平和的手段行使に反対を表明しました。
こうした中国の軍事的脅威を前に、どうやって自分たちの国の安全を確保していくのか、これは現在台日両国が直面する共通の課題となっております。
両国は深い文化関係や、社会の価値観の共有にとどまらず、軍事的脅威ということにおいても同じ立場にあり、合わせて三つの共通項を持っているといえます。私は日本がもっとこれらのことをはっきりと認識し、今後両国がさらなる密接な関係を維持発展していくことを強く期待しています。
●台日間の安保対話メカニズムが必要
両国が共通して直面する軍事的脅威から、台日の今後の緊急課題として、私は安全保障に関する両国の対話のメカニズムがぜひとも必要だと感じています。日米間には安保協議の体制が整っており、台米間にも「台湾関係法」を通してそうした協議を行なうことができます。しかし台日間には、まだそのようなものがありません。対話は軍事同盟以前の話であり、言葉や概念の解釈における一致した認識と相互理解を深める上で欠かせないものです。
一九七二年に両国の国交が断絶してから、三十三年経ちます。その間七二年当時の両国関係の基礎をなしていた状況に、大変化が生じています。冷戦はなくなり、ソ連も崩壊しました。こちら側に誘い込もうとした中国は、今やわれわれに大きな脅威を与える存在となっています。日本は経済大国のみでなく、政治大国にもなりました。台湾はかつての独裁国家から自由民主の国になりました。現在、七二年当時の両国関係のあり方を全般的に見直す時機が到来し、その気運がみなぎり始めていると考えます。
日本の有識者の中にはこのことに早くから気づいている方もありますが、これが国民全体に広がらなければ民意とはならず、民主主義社会においてはこのことが重要です。ここであらためて皆様に、台日関係七二年体制の見直しを呼びかけたいと思います。
●ノービザ措置の恒久化は台日のさらなる理解促進の一歩
日本から台湾への渡航者数が、今年十一月中にも初めて百万人を突破する見通しですが、来年はもっと増えると期待されます。と言いますのも、今年は愛知万博で台湾からの観光客が急増し、航空便の座席がほとんど台湾の観光客によって占められ、日本の観光客が利用しにくい状況になっていましたが、来年はこうした特別な催しがなければ、日本からの観光客がもっと伸びると予想されるからです。
とくに今年九月から、日本政府が台湾の観光客に対してノービザ措置を恒久化させたことにより、台湾からの観光客数は、たとえ万博が終わっても減らないと思われます。そしてノービザ措置は相乗効果をもたらし、相互交流の気運をいっそう高めると期待されます。人的交流は双方の理解をさらに促し、両国関係を具体的に促進する大変重要な基礎です。私はノービザの恒久化が台日の人的交流を促し、両国間の理解をいっそう深める大きな一歩を切り拓いたと考えています。
外交関係のない両国が互いにノービザ措置を適用することは普通ではありえないことであり、これは両国の密接な関係と絆の深さを証明するものにほかなりません。
●台湾の国連加盟問題
先月ニューヨークで国連総会が行なわれました。台湾は今年も国連加盟を求めましたが受け入れられませんでした。私たちは過去十二年間、毎年加盟を訴えており、現実は厳しいものがありますが、台湾の加盟についてここ最近国連における審議を見ていますと、討論に一定の時間が確保されるようになっており、このことは国際社会が台湾の問題を重視しつつあることの現われであると考えています。また、私たちは国連という国際舞台において、台湾が主権独立国であることを毎年主張し、「台湾はここに存在している」ことを国際社会に強くアピールし続けなければならないと考えています。
台湾は今年「二千三百万国民の国連における代表権を求める」従来の提案に加え、「台湾海峡の平和的解決に国連が関心をもつべきである」との新しい提案を行ないました。「すべての国際的な紛争を平和的手段によって解決する」ことは国連創設の基本的意義であり、原理でもあります。台湾海峡問題を解決するのに、日本や米国が困るのは戦争になることです。平和的な話し合いによって解決してほしいというのが国連と日米の立場です。これは今年三月に中国が「反国家分裂法」を制定した際、日本や米国、世界の多くの国々が反対を表明しました。またその一カ月前の日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、日米は台湾海峡の平和的解決を共通の戦略課題として盛り込みました。つまり、国際紛争の平和的解決は国連の基本的な原理であると同時に、日本をはじめとする世界共通の希望でもあるのです。
台湾の加盟は受け入れられませんでしたが、この新しい提案は二一世紀において、広い意味で国連およびすべての国が「戦争はしない。武力に反対である」という基本的な立場をアピールするものだと言えます。私たちは国連がみずからの原理に基づき「国際平和の維持」という責務を果たすことを、今後も強く主張していきます。
●在日僑胞への期待
日本の僑胞の方々には、かねてより政府に対する支持とさまざまな支援、ならびに台日関係の促進に各方面で尽力されていることに、心から感謝申し上げます。
そのうえで私は、今日の国際化、グローバル化の世界において、皆様方には一つの国籍や、ある国に住んでいるという以外に、地球村の一員であるとの自覚を持っていただきたいと思います。自由、民主、人権の尊重は台湾と日本の共通した価値観であり、世界の主流でもあります。今後も皆様方が特殊な文化的背景をもつということによって、日本社会にインパクトを与え、創造を促す役割を果たすとともに、世界の発展の本流に乗り、世界史の明日を切り拓いていってほしいと思います。
最後になりましたが、世界の平和とアジアの安定を願い、台日関係が一層強化されることを希望し、さらに皆様方のご活躍を祈念して私の挨拶とさせていただきます。(了)
《2005年10月6日》
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