ある日の気づき

ウクライナ紛争関連の言説に多く見られる認知バイアスへの対応策

節へのリンク
1. 考察対象とする認知バイアスの選定基準
2. 「現政権の政策推進者/支持者」=「社会的多数派」に多い認知バイアス
3. 前記の認知バイアスへの「思考方法」による対応
4. とは言え、「認知バイアス」打破の決め手は、事実の提示である
更新履歴

1. 考察対象とする認知バイアスの選定基準^

まず、「認知バイアス」の一般的な定義、および「対策」と思われている事を見ておこう。
https://blog.btrax.com/jp/cognitive-bias/
「認知バイアスとは、思考のプロセスにおける系統的な間違いのこと。簡単に言い換えると、
思い込み。意思決定や判断を行う際の精神的な近道として機能するが、間違った判断を生み
出すこともある。
年齢、性別、文化的背景に関係なく、誰もが認知バイアスの影響を受けていると言われる。」
https://library.musubu.in/articles/39166
「認知バイアスとは、思い込みや先入観によって非合理的な判断をしてしまう心理現象のこと
認知バイアスを防ぐ方法
    判断基準を明確にする
    前提を疑い、批判的な視点を持つ」
https://lab.kutikomi.com/news/2021/01/15/cognitivexbias/
「認知バイアスから逃れるためには?
    「適切かどうか」判断の軸を持つ
    「因果関係は事実か」前提を疑う
    「複数の視点を知る・意見に耳を傾ける」客観的に物事を見る」

残念ながら、こういう一般論は、認知バイアスによる誤りへの対策として無力である。
認知バイアスは「思考の経済=日常的判断の迅速化」の必要性を起源とする心理現象と考えら
れる(典型例:可用性ヒューリスティック)ため、そもそも完全な排除は不可能であることと、
「確証バイアス」や「バイアス死角」のような、自己の「認知バイアス」への気づきを妨げる
認知バイアスが存在するからだ。
https://mindhack-media.jp/articles/56
「可用性ヒューリスティックとは、人は手に入れやすい情報や想起しやすい情報を優先して
判断材料に用いてしまうという心理効果のことです。」
https://no-mark.jp/liveescape/brainpower/bias.html
「可用性ヒューリスティックは、意志決定を怠ける傾向です。
意志決定を怠けるとは
例えば「直近のニュース」から、自分の判断を決めてしまうような思考の偏りです。
情報操作にも使われます。
# ↑この点に関して、下記 Cargo Offcial Blog での指摘は基本的かつ重要な事実。
# 米欧メディアの「報道しない自由」の行使 ~ウ露戦争の一幕から
# 「大本営メディアがプロパガンダを行うとき、最も重要な手法は「何を語るか」ではなく
# 「何を語らないか」だ」
...
新しい情報は、人間の直観を操作します。
情報を流す順番によって、思考を偏らせます。
意志決定は疲れるものです。誰もが直観で怠けたいのです。
...
バイアス死角
バイアスは悪いもの。誰もがそう思います。
それだけに、自分のバイアスに気づく方法がありません。
(気づけないからこそ)他人に怒りを向けるとき、我に返ることが大切です。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/バイアスの盲点
https://ja.wikipedia.org/wiki/確証バイアス
具体的な認知バイアスの種類を認識することは、ある程度、認知バイアスによる誤りへの対策
になりうる。しかし、何分にも「認知バイアス」には、あまりにも多くのパターンがあること、
「バンドワゴン効果」と「スノッブ」のように、思考の傾向としては逆のパターンもあるから、
全ての「認知バイアス」を常に意識するのは困難である。

そこで、「国際紛争の発生中、社会にとって、より危険な種類の認知バイアス」に注意を集中
することには、意味があると考える。また、選定の目安としては以下の観点が有用と思われる。
(1) 現政権の政策推進者/支持者に多い認知バイアス
(2) 社会的多数派に多い認知バイアス
なお、日本を含む西側諸国では「現政権の政策推進者/支持者」と「社会的多数派」は現時点
においては集合として一致している。ただし、危険性の理由は (1) では、本当は危険な事態を
見過ごしている(=「正常性バイアス」)可能性のため、(2) では認識の修正困難度が高まる
ためである。

2. 「現政権の政策推進者/支持者」=「社会的多数派」に多い認知バイアス^

既に 1. で言及した「可用性ヒューリスティック」と「正常性バイアス」の選定理由を示す。

「可用性ヒューリスティック」は、下記の傾向からの選定。
 - マスコミや西側諸国政府+ウクライナの政府の発表以外の情報を得ようとしない傾向。
 - ウクライナの言語分布、2014年クーデター、その後のドンバス地方の状況への無知。
 - 過去のアメリカ/西側諸国とイスラエルの武力行使と今回のロシアの武力行使との規模/
  程度の客観的比較なし。
 - 過去および現在のアメリカ/西側諸国/イスラエル/ウクライナの国際法への態度とロシアの
  国際法への態度との客観的比較なし。

「正常性バイアス」は、下記が*当然であるかのように*あまり注目されない傾向からの選定。
 - 前例のない乱暴な内容の経済制裁
 - 前例のない規模の「ロシア発」ないし「反ロシアでない」情報の統制および「反ロシア的
 (ロシア人への暴力の扇動を含む)」情報発信の容認
 - 「反ロシア」的社会現象(ロシア選手の大会出場禁止、ロシア語名からウクライナ語名への
   変更、ロシア文化関連の行事の中止、ロシア文学講座の閉鎖)の容認/蔓延。

こういう調子で細かく見ていくと、あまりにも長くなってしまいそうので、とりあえず、下記
ページから主だったものを列挙する。選定理由は、各認知バイアスの定義から察して頂きたい。
https://s-counseling.com/cognitive-bias/
「事実を歪めてしまう「認知バイアス」のまとめ
 - 同調バイアス
 - 内集団バイアス
 - バンドワゴン効果
 - 感情バイアス
 - 保守性バイアス
 - 根本的な帰属の誤り
 - 真実性錯覚効果
 - 単純接触効果
 - ダニング・クルーガー効果
 - フレーミング効果
 - アンカリング効果
 - 情報バイアス」
例えば、「内集団バイアス」の現れの典型例は、「西側諸国の一員として、当然、日本は...」
といった調子で始まる議論である。

3. 前記の認知バイアスへの「思考方法」による対応^

まず、「認知バイアス」という概念を有名にした学者達が提案する対策例を見てみよう。
https://change-management-japan.org/2021/05/06/cognitive-bias/
「どうやって合理的に判断をするのか
残念ながら人間はこのような認知バイアスから完全に逃れることはできません。しかしながら、
適切なフレームワークを使うことで、合理的な視点を判断に取り込むことができます。
カーネマン氏とロバロ氏によると、計画に外部情報を持ち込む、参照クラス予測(Reference
 Class Forecasting)が計画の誤謬の有効な治療法となると述べています。
参照クラス予測は、以下のステップで行います。
(1) 類似の過去プロジェクトを見つける。
(2) そのプロジェクトの統計データ(例:開発ボリュームに対する必要人員数、予算オーバーに
  なったケースの比率など)を入手し、これに基づいて予測を作成する。
(3) 対象プロジェクトの固有の情報を検討し、他のプロジェクトに比べて、多少なりとも 
  楽観的に考えてよい理由が十分にある場合には、それに応じて基準予測を修正する。
たとえ、上記のような参照クラス予測ができなかったとしても、外部情報が必要になる単純な
質問をすることにより、予測の客観性、信頼性が大幅に高まるという調査結果があります。」

ここで「参照クラス予測」における「外部情報」とは、例えば、「アメリカは、南ベトナムへの
支援を、どう説明したのか、どれだけの戦費をつぎ込み、ベトナムとアメリカ自体の社会に対し
どんな結果をもたらしたか」といった事と考えてよいだろう。

次に、「認知バイアス」という概念の大先達であるフランシス=ベーコンの「4つのイドラ」を
引き合いに出して、「科学的方法による事実認定」の必要性につなげる事が考えられる。ただし、
「種族のイドラ」については、概念的一般化と考えられる「内集団バイアス」に言及する機会と
して利用すべきだろう。

西洋哲学での他の考え方で「認知バイアス」への対策になりそうなものとして、モンテーニュ
合理的懐疑」も思い浮かぶ。当時のカトリック対プロテスタントの争い客観視して、
寛容の
精神
を説いた人の思想だからだ(本人は、一応、カトリックに属するのだが、あまりに客観的な
思想を著書「エセー」で展開したためか、カトリック教会からは無神論者扱いされた)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ミシェル・ド・モンテーニュ
「17世紀のデカルトやパスカルにも多大な影響を与え、後には無神論の書として禁書とされた
(1676年)。」

有名どころという観点で(「イデア」を「真実」や「真相」と強引に読み替えた上でになるが)
プラトンの「洞窟の比喩」も「可用性ヒューリスティック」などの説明に使えるかも知れない。
(本ブログの「ウクライナ紛争関連の事実確認」、「歴史的観点からウクライナ情勢を考える」、
および国際法に言及した大半の記事も、「認知バイアス」の存在を想定して対策になりそうな
論点を含めているつもりだが、もう少し(「権威論法」や「劇場のイドラ」に陥らない範囲で
著名な哲学者の名前とか引き合いに出してもよかったかも知れない)。

なお、筆者個人としては、「心構え」による「認知バイアス」対策として最も有効なツールは、
仏教(特に「原始仏教」と初期大乗仏教=「中観」+「唯識」)の諸概念の知識と考えている。
もともと、「多くの人が、この世の出来事に対し無自覚に持っている思い込みの間違いに気づか
せるためのツール」として考案された体系だからだ。例えば、「プーチンは強権的だ」という
言明は、「「プーチン」という人物が固定的な性質として「強権的」であるという性質を持つ」
という意味合いになるが、これは仏教では「常見」と呼ばれる種類の「誤った見解」とされる。
# 認知バイアスとしては「根本的な帰属の誤り」と呼ばれるが「常見」の方が、より広い概念。
「常見」とは「自性(=固有かつ不変の性質)を持つ「実体」が存在する」という考え方だが、
仏教は、これは誤った思い込みで、あらゆる出来事は「諸々の因縁(=関係性)」の現れでしか
ないと説明している。例えば、「プーチンが、ある状況のなかで、ある人々からは「強権的」と
評され得る行動を取ったことがある」という見方をすべきだというのが、仏教の基本的な考え方
になる。「八正道」の中の「正見」と「正念」、「諸法無我」、「(自性)空」、「唯識」及び
関連概念について、ある程度のイメージが持てる程度に調べておけば、「認知バイアスに気づく
ための手がかり」が豊富に得られるはずだ。何しろ、仏教の究極目標は「自己中心性バイアス
などの、自力で気づきにくい種類の「認知バイアス」を打破することなのだから。

4. とは言え、「認知バイアス」打破の決め手は、事実の提示である^

つまり、3. で述べた「心構え」や「考え方」は「予断/偏見を持つ」ことへの対策にはなるが、
事態の正確な把握は、諸々の事実を知ることでしか成り立たないからだ。オルタナメディア記事
の著者達や、その内容を敷衍して紹介して下さっているブログ著者の方々に心から敬意を表して、
本記事を締めくくる。

更新履歴 ^
2022-05-10 22:57 : 字句修正、リンク追加
2022-05-19 19:02 : 字句修正、リンク追加
2022-10-03 02:45 : 節へのリンク追加
2023-01-21 22:14 : HTMLソースでの参照可能位置id付与、更新履歴形式変更
2023-05-13 17:33 : 報道しない事による情報操作への警告

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