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誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →10

2010年11月05日 | 厚生年金基金
3.代行の金縛り

●代行の由来
基金制度が考えられた背景には、昭和30年代後半の物価上昇や人手不足等により賃金が上昇し、併せて退職金も年々上昇、企業は財政上その支払いに振り回され、経営が不安定になっていたという事情がありました。

そこへ厚生年金と退職金の費用負担の調整が経営サイドから浮上し、税の優遇を受けた資金手当の平準化が可能な企業年金制度が創設されたのです。初めに税制適格年金が厚生年金基金制度の発足までのつなぎ措置で昭和37年にスタート、昭和41年には厚生年金基金制度が厚生年金の一部代行という世界に類をみない方式でスタートしたのです。

これは、言ってみれば一方的に経営サイドの要望によって創設された制度なのです。自らの意思で基金設立を認可申請した企業は、本体代行・確定給付・事前積立て財政・5.5%の予定利率・独立法人方式等々で契約し、事務負担・債務負担を承知の上で給付を約束したのです。

制度がスタートしてからは、大蔵省の産業資本調達の統制計画経済をバックグランドに厚生省の裁量行政が始まり、大蔵省に通じていた信託・生保の各種の既得権益確保も制御出来ずに、信託・生保の恫喝営業(例えば、持株比率によるシェア分配強要、持株を餌に解約拒絶、信託・生保の一営業員がアポも取らずに社長面談要求、事務局に対して上の方で決定しているのですからと理事長印を求めたり・・・・・・)も見ぬ振りを通したり、俗に言います箸の上げおろしにまで法的根拠の無い厚生官僚の裁量により介入したり、経験者でなかったらばわからない数々の実態(たとえば、業務委託指定法人のカンバンだけ営業、実際には事業を行う人的・物的設備のないままカンバンだけだしているのを承知もせず、申請がありますから指定法人にしているだけという厚生官僚とか、総幹事制度での掛金拠出・年金給付業務のとりまとめに対する報酬はお幾ら? に答えられる官僚も信託・生保も常務理事もいないというのが実態であり、答はせいぜい別体系と言い逃れるだけとか)があります。

結局、日本の厚生年金基金制度というのは、厚生年金と退職金との「調整手法」の代行という妥協の産物に、官僚が民間の要望を信託・生保に利便を提供するという形で成立した政府の政策マターで始まり、政治家の集票のために再々の年金引上げにより社会保険マターとなり、ここにきて内部に仕掛けられていた本来の金融マターとしての<代行>というのが明らかになってきたということでしょう。



公共的な便益のための手段が整備されればされるほど、それらを民間
の手で実現しょうとするインセンティブは少なくなることを知らなくて
はなりません・・・・・・。
自立心は他へ依存する度合いが高まるにつれ徐々に弱められていくの
は確かである。

C.P.キンドルバーガー『金融恐慌は再来するか』





そういう由来をもつ基金制度ですが、最近の財政逼迫に際して、30年前の契約の無効を政府にすがって免除してもらおうとする者、又は、契約破棄を望む者がやたらに多いということは、或る意味では、日本の法治国家としてのレベルの低さを表すとともに、法を捩じ曲げても自分の主張を通おそうとするのは、先般の大蔵省・銀行・証券会社等を巡る一連の不始末で明らかになった日本の経済・社会構造と同一の他者依存体質を未だに残存させているということではないでしょうか。

これは、別に言えば、戦後から50年に及ぶ統制経済の裁量行政の強権下で、聞く耳を持たなかった頑なな行政サイドの対処の仕方に対して国民がすっかり対抗的に官依存体質を固めてしまい、官が問題解決をするのが当然の義務とする風潮を生み出しているのかもしれません。そうであるとするなら、そのような官を育ててきたということで国民はまたまたここでも高額納税を強いられることになりましょう。堂々巡りの非効率の極みです。こう言うのを<国民的ロス>というのでしょう。


●代行型はハイコスト!
厚生年金基金は、国の厚生年金(老齢年金)の一部を代行して支給するため、厚生年金保険料の一部を厚生年金本体に納付することが免除されています。この免除される厚生年金保険料率は<免除保険料率>と呼ばれて、従来は全基金一律に定められていました。

しかし、各基金の年齢構成等の違いから各基金が代行給付に必要なコストは異なり、基金間に負担の格差が生じていることから、その是正を図るために平成8年4月から<免除保険料率>が、各基金が代行に必要な保険料率(代行保険料率)に基づいて一定の範囲で複数化されることになりました。(最終的には個別免除保険料率に移行の予定)

基金を設立・加入した社会保険適用事業所の厚生年金保険料は、免除保険料率の保険料を厚生年金に納付せず基金へ納付します。このため、厚生年金保険料は平成8年度現在月額給与の17.5%ですから、基金設立のある場合は免除保険料の、例えば3.6%であれば、3.6%がマイナスされて13.9%を国庫へ厚生年金保険料として納付することになります。厚生年金保険料は、事業主との折半負担となっているので、本人負担保険料は6.95%となります。当然、事業主は、折半負担の6.95%を会社負担して厚生年金保険料を納付します。

一方、免除された厚生年金保険料(先の例では3.6%、事業主負担1.8%・本人負担1.8%)は、基金の代行分以外の給付(プラス・アルファ分と呼ばれています)のための基金掛金を一般的に全額事業主負担で上乗せして基金に納付します。
結局、本人負担は基金が設立されていても設立されていなくても同じ負担で、プラス・アルファの負担は基金設立を行った事業主が行います。




図表25 掛金負担率の事例





上記の事例のアミカケの部分で、基金が設立されていても無くても、加入員の負担率は8.675%で同率ですが、事業主の負担率は基金設立があると14.675%-8.675%で、6.0%上乗せ負担が行われています。代行型の基金であれば、加算年金部分がないので、基本掛金の部分のみとなり2.3%と1.8%の差0.5%の上乗せ負担が行なわれます。

さて、基金制度発足から30年に及んで免除保険料率の決定は、厚生年金の被保険者全員を対象としました基金が現時点で発足したと仮定したときに必要となる代行部分の平準保険料率ということになっていました。つまり、保険学の母集団としての厚生年金の平均値を、個別の財政運営を行っている基金に適用していたということです。このため、基金の仲間内では代行部分を賄うのに必要な掛金(基金は保険料と言わず、掛金という言い方をする)率が、免除保険料率より高い基金もあれば低い基金もあり、早くからその不合理が指摘されていました。

端的に言えば、大企業の製造業基金では社員の平均年齢が低いため代行に要す掛金率が低く一律免除料率では余剰が出るが、繊維業等の不況業種や慢性的に高齢化業種である運輸業等では逆の現象で一律免除料率故の代行不足料率が大きく毎年不足金が発生し、それを避けるため事業主は高負担を強いられるということが、平成8年度に免除料率の複数化が導入され不合理の一部が改まるまで、制度発足から30年間続いていたことになります。さき頃解散した紡績業基金の解散はおそらくこの免除料率の全基金一律適用によるガン細胞が仕組まれていた為ではないでしょうか。

この<全基金一律の免除保険料率適用>のため、不利益を被っている基金と利益の付替を受けている基金が全国一律の平均値を使うことによってバランスがとれているというのが官僚的思考回路です。「平均値」の抽象世界でこと足れりとする頭脳が把握する現実認識に対して、官僚的思考経済方式の「平均値」で切り捨てられる部分にこそ、本来の現実があるとするのが民間の見方でしょう。この<全基金一律の免除保険料率適用>について「一点豪華方式」の死守という行政手法を30年も維持してきて、この度ようよう「一点豪華方式」の弊害、官僚の「決め事」以外の世界にこそ現実があるということが現実(紡績業基金等の解散)になり、さすがに頭脳明晰を誇る官僚集団も自分たちの頭脳が視野狭窄に陥っていたことを認識しはじめたようです。「一点豪華方式」(リ-ガル・リスト方式)から「上限-下限方式」のグローバル・スタンダードへシフト替えをせざるをえなくなってきています。

ABC基金は給付乗率11.4/1000の代行型で設立され、平成元年に代行型資産の有効配分(横滑り)により①加算型に移行しましたが、加算型移行の一般的な方式の企業の退職金の移行は必要ありませんでした。ついで、平成4年には、会社の退職金の10%を基金に移行し②第2加算年金制度を導入しました。更に、再々申請していました③「60歳無条件給付」が平成7年には導入出来、一応年金給付のフレーム・ワーク改善は達成されました。

ABC基金は昭和54年頃から給付改善の課題に取組み始め、平成7年まで17年間かかっていますが、この間に「事が成る」という不思議な経験を度々させてもらっています。というのも、「事」というのは一朝一夕に成立するものではないですという当たり前のことの経験なのですが、諸般の事情、つまり人的配置、法律改正事情、継続的な改善熱意、財政事情の好転、無関係な部分からの突然の後押し等々が合い絡まって、「事が成る」という時はあれよ、あれよという間に成立するものです。懸命に意図的に成立を目指す時よりも、むしろ、なかば諦めた時にこそ「成る」という事態は起きるようです。そういう観点で、通貨マフィア行天豊雄氏が言う統制・計画経済の手法<決める>ではなく、<決まる>という考え方があるという考察は共感できるところがあります。

昭和50年代から平成5年位までの免除保険料率は千分比で<30/1000から32/1000>の全基金一律時代でした。

ABC基金は運輸業の業態故に社員の高齢化は製造業より10歳ほど進んでいました。このため、毎年度、数理人から報告される「代行に要す掛金率」が免除保険料率を大幅に上回っていました。(平均年齢のみをここでは抽出しているが、他にも脱退率、昇給率等の数値が保険料計算には用いられる)

つまり、代行型を維持するために運輸業の事業主は高負担を強いられていたのです。<全基金一律の免除保険料率適用>下の代行型は、運輸業等の社員の平均年齢の高い業態では全基金一律故にハイコストが組み込まれていたのです。逆に、大企業の製造業等にはロ-コストが制度化されており、大企業優遇、強いて言えば中小企業からの収奪がセットされていたのです。

この間のABC基金の不足免除保険料率は▲1.6‰から▲5.3‰程度で、年間保険料にすると、▲11百万円から▲45百万円(ABC基金の年間掛金の3%から10%に相当)の不足が内在していました。

ABC基金では、代行型(給付乗率11.4/1000、内、事業主の上乗せ給付乗率は1.4/1000)の給付を維持するため、設立から加算型へ移行するまでの19年間に掛金総額44億66百万円の内、免除料率不足に伴う給付維持総額11億21百万円を事業主は基金に払い込んでいました。

この給付維持額11億21百万円の年平均額は62百万円となり、この間の年間掛金平均2億48百万円の<25%>に相当します。つまり、代行型基金の法人維持のため、厚生省は<25%>の負担増を強いていたことになります。

ということは、代行型給付を維持するためのコストとして事業主は基金掛金の<4分の1>(免除不足料率3.78/1000と本来負担料率7.22/1000の全体掛金率43/1000に占める率)を負担せざるを得ない状態になっていたのです。この<4分の1>の絶対値としての大小は計り難いのですが、せめて10%以下であれば経済値として許容値足りえるのに免除料率不足に伴う給付維持額としては過大に過ぎないでありましょうか。
この点と、先の全基金一律方式のまやかし等を考えると

  代行型はハイコストが仕組まれている!


と、結論付けて間違いはないでしょう。(中にはローコストの基金もありますが。)
これに対してハイコストを避けたいのであれば、社員の平均年齢の引き下げに努力されたい」というのが、従来の官僚行政のテクニックである。とは言え、業態故の社員の高齢化を改善する等ということは一企業にとって至難の業です。そうかと言っても、ハイコストを負担する方はそれでは済まされません。一方で、連合会を通じての厚生省への「要望」という手法での個別免除料率導入への道は前途の展望が開けない状況にありました。このような状況で、ここにニッチはないですかと研究するのが、民間の活力ということでしょう。

さて、代行給付維持の観点を離れて、<全基金一律免除料率適用>に対する行政手法のまやかしを問う観点から免除不足による事業主の<超過負担額>を推定してみましょう。ABC基金では、これを問うことにより代行型から加算型へ移行することを成し遂げたのです。

行政手法のまやかしとは言いますが、現今の日本の年金は「平均的に62.5歳支給開始」が一般的であるとの行政の決め事がたまたまABC基金の現実は99%が「60歳支給開始」である故に生じる言い方ではあります。62.5歳という一点豪華主義行政と60歳の現実の相違により、そこに統計数値の平均化によりまやかしが現象することになります。

<全基金一律免除料率適用>が続いたABC基金の26年間の掛金総額84億5百万円の内、8億81百万円(10.5%)が免除料率の不足による超過負担額です。


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