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【#ナショナルジオグラフィック】新型コロナ、なぜこんなに嗅覚障害が多いのか、回復の見込みは?

2020-08-09 05:11:29 | コラム
新型コロナならではの特徴も、長期的に嗅覚を失うかはまだ不明
 3月初旬のある晩、悪寒と微熱を感じていたピーター・クアッギさんが夕食を準備しようと生の鶏肉を切っていると、肉の匂いがしなかった。そのときは「なんの匂いもしないなんて、ずいぶん新鮮な肉なんだな」と思ったという。

 けれども翌朝、シャワーを浴びると石鹸の香りがせず、掃除に使った漂白剤の臭いもしなかった。漂白剤が劣化したのかと思った彼は、ボトルに顔をつっこんで、思いきり匂いを嗅いでみた。目と鼻がひりひりしたが、なんの匂いもしなかった。

 嗅覚障害は、最近、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一般的な症状として注目されるようになった。クアッギさんは、PCR検査を受けることなく新型コロナウイルス感染症と診断された。当時はまだPCR検査が普及していなかったからだ。彼は嗅覚障害の治療を求めて複数の専門医のもとを訪れたが、まだ嗅覚は完全には回復していない。

 症例報告によると、新型コロナウイルス感染症で入院した患者の34~98%に嗅覚障害があったという。ある研究では、新型コロナウイルスのPCR検査を受けた人の中で、陽性になった人は陰性になった人に比べて27倍も嗅覚障害が多く、発熱よりも嗅覚障害のほうが新型コロナウイルス感染症の予測に役立つことがわかった。

 嗅覚障害のあるコロナ患者の多くは数週間以内に回復するが、長期的に嗅覚を失う患者がいるかどうかはまだわからない。嗅覚障害などたいした症状ではないと思われるかもしれないが、その影響は非常に大きい。嗅覚は、火災や、化学物質の漏れ出しや、傷んだ食品の匂いを嗅ぎつける自己防衛能力と複雑に結びついているだけでなく、繊細な味を感知して食べ物を味わう能力とも結びついている。

「私たちは飲食をともにすることでつながりを築きますが、それを十分に楽しめないと社会的なずれが生じてしまいます」と、米フロリダ大学嗅覚味覚センターのスティーブン・マンジャー所長は言う。

 匂いは私たちの生活感情の中でも重要な役割を果たしており、私たちを愛する人々や思い出と結びつけてくれる。嗅覚を失った人は、しばしば孤立を感じ、落ち込み、親密な関係を楽しめなくなると報告されている。科学者たちは今、新型コロナウイルス感染症が嗅覚に及ぼす影響を調べることで、嗅覚障害に苦しむ多くの人々の助けになりたいと努力している。

新型コロナならではの特徴
 嗅覚の働きは、化学情報の解読だ。私たちが匂いを吸い込むとき、匂い分子が鼻の穴に入り、その奥にある嗅上皮(きゅうじょうひ)という小さな組織に到達する。そこで匂い分子は嗅覚ニューロン(神経細胞)に結合し、軸索という長い突起を介して脳に信号が送られ、コーヒー、革、腐ったレタスの匂いなどとして認識する。

 科学者たちは、嗅覚系やその障害について、まだ完全には理解していない。そしてほとんどの人が、嗅覚障害がどれほど一般的なものであるかを理解していない。

 インフルエンザや風邪のようなウイルス感染症にかかったり、外傷性の脳損傷を受けたりすると、私たちは嗅覚を失うことがある。生まれつき嗅覚がない人もいれば、がんの治療やパーキンソン病やアルツハイマー病で嗅覚を失う人もいる。年齢とともに嗅覚が衰えることもある。

 嗅覚障害は聴覚や視覚の障害のように目立つものではないが、米国立衛生研究所(NIH)のデータによると、40歳以上の米国人の約25%が嗅覚の変化を報告しており、1300万人以上に嗅覚の完全または部分的な喪失があるという。嗅覚障害は何年も続き、生涯にわたることもある。

 新型コロナウイルス感染症による嗅覚障害が、ほかのウイルスによって引き起こされる嗅覚障害と同じものなのか別のものなのかは不明だが、いくつかの特徴があるように見える。第1に、ウイルス性の一般的な嗅覚障害では初期に鼻詰まりがあるのに対し、新型コロナウイルス感染症ではいきなり嗅覚が失われる。

 もう1つの注目すべき違いは、ほかのウイルスによる嗅覚障害が数カ月から数年にわたって続くことが多いのに対し、新型コロナウイルス感染症では、もっと早く、数週間程度で治癒する場合が多いことだ。

 しかし、3月にコロナに感染したクアッギさんの嗅覚は、8月上旬になっても60%程度しか回復していない。最初の頃は、嗅覚がいつ回復するのか、そもそも回復するのかに関する情報がなくて怖かったという。

嗅覚への影響
 科学者たちはまだ、新型コロナウイウルスがなぜ嗅覚障害を引き起こすのか、また、ほかのウイルスとは違ったやり方で嗅覚系に影響を及ぼすのかという疑問を掘り下げはじめたばかりだ。

 鼻は、新型コロナウイルスが体内に入る主な場所の1つである。研究者たちはすでに鼻の杯細胞(さかずきさいぼう)と線毛細胞(せんもうさいぼう)という2種類の細胞がウイルスの侵入口になっている可能性が高いことを確認している。嗅覚障害と味覚障害を研究している米モネル化学感覚研究所のダニエル・リード副所長は、「ウイルスは副鼻腔(ふくびくう)組織から入って、肺に流れ込んでいくようです」と言う。

 新型コロナウイルスが嗅覚系をどのように破壊するかを理解するため、科学者たちはまず、標的となる可能性のある部位を絞り込んだ。新型コロナウイルスが細胞に侵入するには、ACE2とTMPRSS2という2種類のタンパク質が必要だ。そこで米ハーバード大学で嗅覚を研究している神経生物学者のサンディプ・ロバート・ダッタ教授らは、嗅覚系の細胞の中から、この2種類のタンパク質を膜にもつ細胞を探した。

 その結果、新型コロナウイルスは嗅覚ニューロンには感染しないことがわかった。ダッタ氏らが7月31日付けで科学誌「Science Advances」に発表した論文は、新型コロナウイルスが、嗅覚系の幹細胞(新たにニューロンになる前の細胞)や支持細胞(ニューロンを物理的にサポートし、死んだ細胞を除去し、粘液により匂い成分を移動させる細胞)に存在することを示している。

 とはいえ、ウイルスの直接の標的にならない部位が嗅覚障害を引き起こす可能性も否定できない。嗅覚ニューロンの周囲のイオン濃度が感染によって変化すれば、ニューロンは脳に信号を送れなくなるかもしれない。また、免疫反応が何らかのしくみで嗅覚系を混乱させたり、匂いを処理する脳の部位の炎症が影響を及ぼしたりする可能性もある。

 ほかにも多くの疑問が残っている。なぜ数週間で嗅覚が回復する人としない人がいるのだろう? 嗅覚が失われたままになる人もいるのだろうか? ウイルスが嗅覚系から脳に侵入することはあるのだろうか?

 新型コロナウイルスと嗅覚系との相互作用の理解が進めば有効な治療法が見えてくるかもしれないが、今のところ良い治療法はない。

嗅覚訓練
 一般に、嗅覚障害の治療法としては鼻の理学療法とも言えるものがある。ユーカリ、クローブ、レモンなどのエッセンシャルオイルの香りを毎日少しずつ嗅ぐというもので、香りを感じなくても嗅覚に集中することが大切だとされている。

 ただし、こうした訓練の効果を示唆する証拠はあるものの、誰にでも効果があるという保証はないし、新型コロナウイルス感染症による嗅覚障害への効果についての研究もない。「この訓練に害はありません」とマンジャー氏は言う。「ただ、治療としてどこまで有効かという点については、まだ結論は出ていないと思います」

 匂いのない人生を説明することは困難だが、嗅覚障害はほかの感覚障害よりも軽視されがちだ。

「同情を求めているわけではありません」とクアッギさんは言う。「ただ、嗅覚障害をからかわないでください。自分が何を失ったのか、それを失うまでは理解することはできません。嗅覚と味覚を失うのと、視覚や聴覚を失うのではどちらがましか、自分でもわかりません」

文=Sara Harrison/訳=三枝小夜子


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