国境を知らない新型コロナウイルスが五大洋六大陸に広がった。韓半島(朝鮮半島)の南側はウイルス発生地の中国に次ぐ感染国になった。一方、北朝鮮は公式統計上ではコロナ感染者が1人もいない無風地帯だ。果たして北朝鮮の発表は事実なのか。ソウルの脱北者と中朝国境の対北朝鮮情報筋を通じて、1カ月以上も国境を封鎖している北朝鮮の内部事情をのぞいてみよう。
脱北者同士がスマートフォンで情報を共有する団体チャットルームに先月中旬に広まったうわさを小説家イ・ジュソン氏ら数人の脱北者が伝えた。新義州(シンウィジュ)住民の数百人が新型コロナウイルスのために集団隔離され、死者も発生したという内容だった。中には「新義州にいる親せきが隔離されて解除されたが、バスに乗せられて真っ暗な農村地域に送られ、どこにいたのかも把握していなかった」と話す人もいた。
北朝鮮当局の厳格な統制の中でもこうした情報が広まるのは、中国の携帯電話網を通じて脱北者と中朝国境地域の家族・知人との通話が行われているからだ。こうした噂の中には「感染者を銃殺して火葬した」という信憑性を確認しがたい風説も含まれるものだ。真偽を確かめるために約700人の脱北者が所属するNK知識人連帯のキム・ホングァン代表に尋ねた。
--新型コロナの死者がいるという情報が脱北者の間で広まっているが、事実なのか。
「先月10日に感染が疑われる患者が集団収容された義州郡(ウイジュグン)人民病院で治療を受けた人のうち3人が死亡したと聞いた。我々が把握した最初の死亡事例だ。その後、死者はさらに増えているはずだ。平安北道鉄山(チョルサン)の鉱山地域でも死者が出たと把握している」(別の脱北者は清津でも死者が出たと伝えた)
--北朝鮮当局は死者どころか感染者もいないと伝えているが。
「報道を信じるのか。苦難の行軍では200万人が餓死したが、北朝鮮の記録上、餓死者は1人もいない。新義州の死者の診断名は肺炎というが、その前に『新型』という2文字を付けなかっただけだ。2日に会寧(フェリョン)の親戚と電話をした会員も『親戚が肺炎で亡くなった』という話を聞いたようだ。普段よりも肺炎で死亡する人が多い」
--死者が続出するほどなら感染者ははるかに多いのでは。
「北は防疫システムも整っていないし、薬品も不足しているので、感染が拡大すればどうすることもできない。集団死亡につながることもある。被害が大きくなれば隠せなくなるだろう」
◆国全体が「自宅隔離」状態
北朝鮮が新型コロナと死闘していることは北朝鮮メディアでも確認できる。労働新聞は平安道(ピョンアムド)と江原道(カンウォンド)で約7000人が「医学的監視対象」と伝えた。自宅隔離と収容隔離を合わせた用語と考えられる。北朝鮮当局は1月29日、「国家非常防疫体系」への転換を宣言し、「国家の存亡に関連する重大な政治的問題」と規定した。そして国境を完全に封鎖し、重要な外貨収入源の外国人観光客の入国を1月22日から中断させた。中国で逮捕された脱北者の送還までも拒否した。平壌(ピョンヤン)に住む外交官も例外なく公館施設の外に出ることができない隔離状態が続いている。
2日に連絡がついた対北朝鮮情報筋はさらに具体的な北朝鮮内の状況を伝えた。この情報筋は「平壌の機関企業所(国営企業に相当)職員が出退勤できず、職場内で宿泊するほど住民の通行を極度に統制している」とし「各級学校の休みを延長した後、主要都市は生徒が外出できないようにしている」と話した。要するに国全体が「自宅隔離」状態ということだ。こうした状況を総合すると、北朝鮮でもコロナウイルスの感染がかなり広がっていると見るのが合理的だ。
◆平壌にはマスク不足はないのか
北朝鮮メディアも住民にマスク着用などの行動守則を繰り返し伝えている。テレビ画面にはマスクをして外出中の平壌住民の姿が登場する。北朝鮮ではマスク不足がないのだろうか。元看護師の脱北者イ・スジョンさん(仮名)に北朝鮮の防疫体系について尋ねた。イさんは2014年にエボラウイルス、2015年にMERS(中東呼吸器症候群)の防疫活動に参加した経験がある。
--マスクはどのように供給されるのか。
「北には各都市区域(区)に被服工場があるが、普段はここで生徒の制服などを作る。ところが先日からは服の生産を中断してマスクを作っているという話を電話で聞いた。そのような製品は布を利用してミシンで作る。北朝鮮で保健用マスクを着用できる人はきわめて一部の階層に限られる。平壌も同じだ。テレビ画面だけを見て考えるべきではない。病院では中国製が多く、たまに韓国製もある。ほとんどの住民は布のマスクを2重にして使う。その方法しかない」
--防疫活動や診断はどのようにするのか。
「医師・看護師の担当地域が決まれば、往診かばんを持って訪ねる。体温と血圧を測る程度だが、異常が発見されれば区域診療所(保健所)に送り、症状がある人は隔離される。隔離とはに他人に移さないためのものであり、治療はその次の問題だ。装備も薬品も不足しているので、このような形で患者を隔てるしかない」
◆「韓国の支援は受けない」
新型コロナの感染拡大で自宅隔離モードに入った北朝鮮が、沈黙を破って2日に超大型放射砲を発射した。前日の三一節(独立運動記念日)記念式典で文在寅(ムン・ジェイン)大統領が提案した「防疫協力」という名の支援を正面から拒否したも同然だ。そして白頭(ペクトゥ)血統の金与正(キム・ヨジョン)労働党中央委員会第1副部長が「おじけづいた犬」と露骨な対南非難をした。しかし国際社会には支援を要請している状況が次々と確認されている。
世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するマイク・ライアン博士は2日、「ジュネーブで何度か北朝鮮代表部と接触した」とし「北朝鮮に診断キットや装備などを送ったが、依然として対北朝鮮制裁の影響を受けている」と述べた。これに先立ちロシア政府も先月26日、「北朝鮮側の要請で平壌に診断キット1500個を寄贈した」と明らかにした。国際医療援助団体「国境なき医師団」はゴーグル、消毒薬品、聴診器、体温計など医療装備を北朝鮮に送ることが国連対北朝鮮制裁に抵触するかどうか安全保障理事会(安保理)に有権解釈を依頼したりもした。結局「防疫協力」という名で支援するという韓国政府だけを除いて国際機関や友好国を通じてすでに手を差し出しているのだ。
◆中朝国境情報筋「SARS当時より厳重封鎖、数カ月間は持ちこたえるはず」
防疫・医療に問題がある北朝鮮としては、国境封鎖という対処以外には新型コロナの伝播を防ぐ方法がなかったはずだ。しかし国境封鎖はほかの問題を招く。中国観光客を通じた外貨稼ぎの道を自ら遮断し、中国からの各種物資輸入などライフラインの危機を迎えるからだ。果たして北朝鮮は「セルフ封鎖」状態をいつまで維持できるのだろうか。中朝国境地域の事情に詳しい対北朝鮮情報筋と連絡がついた。
--国境封鎖は今回が初めてではないが。
「2003年のSARS(重症呼吸器症候群)や2014年のエボラ流行当時もあった。2014年には当時の名目上の国家首班、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長にも隔離措置が取られた。アフリカ歴訪を終えて帰国するところだったが、高麗航空旅客機は平壌でなく義州の飛行場に着陸した。金永南委員長はそのまま新義州市内のホテルに行って半月間の隔離生活をした後、平壌に戻ることができた」
--現在の封鎖状況を以前と比べると。
「金正日(キム・ジョンイル)総書記時代だった過去の事例より今回の封鎖ははるかに厳重だ。実際、中国の丹東と新義州をつなぐ鉄橋は通行が完全に遮断された。過去のSARS当時も人の通行は遮断したが、貨物車は通っていた。当時、丹東のある食堂では北朝鮮の貨物車運転手が平壌へ行く間に食べる弁当が一日に数十個ほど売れていた。今回はすべて中断された。ところが先週末、中国側から20トントラック1台が貨物を載せて渡った後、中国人運転手だけが歩いて戻ってくることがあった。こうした形で最小限の物資を輸送するようなことがさらに増えるのではないかと予想される。2014年には6カ月以上封鎖が維持された。今回も数カ月間持ちこたえながら局面の転換を狙うのではないだろうか」
脱北者同士がスマートフォンで情報を共有する団体チャットルームに先月中旬に広まったうわさを小説家イ・ジュソン氏ら数人の脱北者が伝えた。新義州(シンウィジュ)住民の数百人が新型コロナウイルスのために集団隔離され、死者も発生したという内容だった。中には「新義州にいる親せきが隔離されて解除されたが、バスに乗せられて真っ暗な農村地域に送られ、どこにいたのかも把握していなかった」と話す人もいた。
北朝鮮当局の厳格な統制の中でもこうした情報が広まるのは、中国の携帯電話網を通じて脱北者と中朝国境地域の家族・知人との通話が行われているからだ。こうした噂の中には「感染者を銃殺して火葬した」という信憑性を確認しがたい風説も含まれるものだ。真偽を確かめるために約700人の脱北者が所属するNK知識人連帯のキム・ホングァン代表に尋ねた。
--新型コロナの死者がいるという情報が脱北者の間で広まっているが、事実なのか。
「先月10日に感染が疑われる患者が集団収容された義州郡(ウイジュグン)人民病院で治療を受けた人のうち3人が死亡したと聞いた。我々が把握した最初の死亡事例だ。その後、死者はさらに増えているはずだ。平安北道鉄山(チョルサン)の鉱山地域でも死者が出たと把握している」(別の脱北者は清津でも死者が出たと伝えた)
--北朝鮮当局は死者どころか感染者もいないと伝えているが。
「報道を信じるのか。苦難の行軍では200万人が餓死したが、北朝鮮の記録上、餓死者は1人もいない。新義州の死者の診断名は肺炎というが、その前に『新型』という2文字を付けなかっただけだ。2日に会寧(フェリョン)の親戚と電話をした会員も『親戚が肺炎で亡くなった』という話を聞いたようだ。普段よりも肺炎で死亡する人が多い」
--死者が続出するほどなら感染者ははるかに多いのでは。
「北は防疫システムも整っていないし、薬品も不足しているので、感染が拡大すればどうすることもできない。集団死亡につながることもある。被害が大きくなれば隠せなくなるだろう」
◆国全体が「自宅隔離」状態
北朝鮮が新型コロナと死闘していることは北朝鮮メディアでも確認できる。労働新聞は平安道(ピョンアムド)と江原道(カンウォンド)で約7000人が「医学的監視対象」と伝えた。自宅隔離と収容隔離を合わせた用語と考えられる。北朝鮮当局は1月29日、「国家非常防疫体系」への転換を宣言し、「国家の存亡に関連する重大な政治的問題」と規定した。そして国境を完全に封鎖し、重要な外貨収入源の外国人観光客の入国を1月22日から中断させた。中国で逮捕された脱北者の送還までも拒否した。平壌(ピョンヤン)に住む外交官も例外なく公館施設の外に出ることができない隔離状態が続いている。
2日に連絡がついた対北朝鮮情報筋はさらに具体的な北朝鮮内の状況を伝えた。この情報筋は「平壌の機関企業所(国営企業に相当)職員が出退勤できず、職場内で宿泊するほど住民の通行を極度に統制している」とし「各級学校の休みを延長した後、主要都市は生徒が外出できないようにしている」と話した。要するに国全体が「自宅隔離」状態ということだ。こうした状況を総合すると、北朝鮮でもコロナウイルスの感染がかなり広がっていると見るのが合理的だ。
◆平壌にはマスク不足はないのか
北朝鮮メディアも住民にマスク着用などの行動守則を繰り返し伝えている。テレビ画面にはマスクをして外出中の平壌住民の姿が登場する。北朝鮮ではマスク不足がないのだろうか。元看護師の脱北者イ・スジョンさん(仮名)に北朝鮮の防疫体系について尋ねた。イさんは2014年にエボラウイルス、2015年にMERS(中東呼吸器症候群)の防疫活動に参加した経験がある。
--マスクはどのように供給されるのか。
「北には各都市区域(区)に被服工場があるが、普段はここで生徒の制服などを作る。ところが先日からは服の生産を中断してマスクを作っているという話を電話で聞いた。そのような製品は布を利用してミシンで作る。北朝鮮で保健用マスクを着用できる人はきわめて一部の階層に限られる。平壌も同じだ。テレビ画面だけを見て考えるべきではない。病院では中国製が多く、たまに韓国製もある。ほとんどの住民は布のマスクを2重にして使う。その方法しかない」
--防疫活動や診断はどのようにするのか。
「医師・看護師の担当地域が決まれば、往診かばんを持って訪ねる。体温と血圧を測る程度だが、異常が発見されれば区域診療所(保健所)に送り、症状がある人は隔離される。隔離とはに他人に移さないためのものであり、治療はその次の問題だ。装備も薬品も不足しているので、このような形で患者を隔てるしかない」
◆「韓国の支援は受けない」
新型コロナの感染拡大で自宅隔離モードに入った北朝鮮が、沈黙を破って2日に超大型放射砲を発射した。前日の三一節(独立運動記念日)記念式典で文在寅(ムン・ジェイン)大統領が提案した「防疫協力」という名の支援を正面から拒否したも同然だ。そして白頭(ペクトゥ)血統の金与正(キム・ヨジョン)労働党中央委員会第1副部長が「おじけづいた犬」と露骨な対南非難をした。しかし国際社会には支援を要請している状況が次々と確認されている。
世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するマイク・ライアン博士は2日、「ジュネーブで何度か北朝鮮代表部と接触した」とし「北朝鮮に診断キットや装備などを送ったが、依然として対北朝鮮制裁の影響を受けている」と述べた。これに先立ちロシア政府も先月26日、「北朝鮮側の要請で平壌に診断キット1500個を寄贈した」と明らかにした。国際医療援助団体「国境なき医師団」はゴーグル、消毒薬品、聴診器、体温計など医療装備を北朝鮮に送ることが国連対北朝鮮制裁に抵触するかどうか安全保障理事会(安保理)に有権解釈を依頼したりもした。結局「防疫協力」という名で支援するという韓国政府だけを除いて国際機関や友好国を通じてすでに手を差し出しているのだ。
◆中朝国境情報筋「SARS当時より厳重封鎖、数カ月間は持ちこたえるはず」
防疫・医療に問題がある北朝鮮としては、国境封鎖という対処以外には新型コロナの伝播を防ぐ方法がなかったはずだ。しかし国境封鎖はほかの問題を招く。中国観光客を通じた外貨稼ぎの道を自ら遮断し、中国からの各種物資輸入などライフラインの危機を迎えるからだ。果たして北朝鮮は「セルフ封鎖」状態をいつまで維持できるのだろうか。中朝国境地域の事情に詳しい対北朝鮮情報筋と連絡がついた。
--国境封鎖は今回が初めてではないが。
「2003年のSARS(重症呼吸器症候群)や2014年のエボラ流行当時もあった。2014年には当時の名目上の国家首班、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長にも隔離措置が取られた。アフリカ歴訪を終えて帰国するところだったが、高麗航空旅客機は平壌でなく義州の飛行場に着陸した。金永南委員長はそのまま新義州市内のホテルに行って半月間の隔離生活をした後、平壌に戻ることができた」
--現在の封鎖状況を以前と比べると。
「金正日(キム・ジョンイル)総書記時代だった過去の事例より今回の封鎖ははるかに厳重だ。実際、中国の丹東と新義州をつなぐ鉄橋は通行が完全に遮断された。過去のSARS当時も人の通行は遮断したが、貨物車は通っていた。当時、丹東のある食堂では北朝鮮の貨物車運転手が平壌へ行く間に食べる弁当が一日に数十個ほど売れていた。今回はすべて中断された。ところが先週末、中国側から20トントラック1台が貨物を載せて渡った後、中国人運転手だけが歩いて戻ってくることがあった。こうした形で最小限の物資を輸送するようなことがさらに増えるのではないかと予想される。2014年には6カ月以上封鎖が維持された。今回も数カ月間持ちこたえながら局面の転換を狙うのではないだろうか」
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