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【#ナショナルジオグラフィック】新型コロナPCR検査の状況を読み解く「3種類の検査目的」

2020-05-17 16:49:56 | コラム
 今、多くの人が、日々、報告される日本国内での新規感染者の数や、累積感染者数を気にしていると思う(中には気にするのに疲れて、見るのをやめたという人もいて、それもまた識見というものだ)。一方で、日本でのPCR検査の少なさを問題視して、実際にはもっと多くの感染者が出ているに違いなく、今の欧州やアメリカに準ずるくらいのことが起きているのではないかと心配する人も最近までは多かったようだ。

 では、実際のところ、日本の現況はどのように把握できるだろうか。中澤さんが作ったスライドには、「日本で検査数が欧米より少ないのは感染者が少なかったから」という刺激的なタイトルがついており、その真意についても含めて、順を追って聞いていこう。

 まず、検査についての一般論から。

「検査が万能ではないことは、強調しておくべきだと思います。PCR検査は、スワブ(鼻や喉をぬぐう綿棒のようなもの)にうまくつかないと、感染している人でも陰性になります。そもそも、早期発見しても重症化や死亡を防ぐための早期治療がないわけですから、まだ症状がない感染者を見つけるのは本人の治療上は今のところ意味がないです。症状が出る前から人を感染させることがはっきりしてきたわけだから、それならば、早く見つけて検疫するという考えも出てきますが、それを徹底できた国はごくごく少数です」

 もちろん、医師が必要と考えるような症状がある人が検査を受けられないのはおかしい。一時、そのような話があちこちで聞かれたし、受診の遅れが死亡につながったとされるケースも報告されるようになった。これらは有症状なのに検査、診断がなかなか受けられなかった事例で、本当に嘆かわしい。その後、東京都医師会が独自にPCR検査センターを設けるなど対策が始まったので、改善されることを願っている。中澤さんもそれと同意見だ。

 もう少し、PCRについて見ておく。

「PCRって、遺伝子を高速で増幅する装置のことです。遺伝子を増殖させる酵素を使って、微量の遺伝子でも増幅して確認できます。COVID-19の場合は、原因ウイルスであるSARS-CoV-2に特有の遺伝子配列を2箇所選んでプローブとして使って、その両方が見つかったら陽性と判定しています。コロナウイルスはRNAウイルスなので、RNAから逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を使ってまずDNAにうつしてから、増幅するという手順が必要なので、RT-PCRとも書かれます」

 PCRは、ウイルス検出装置というよりも、広く生物学・医学分野で使われる遺伝子増幅装置だ。だから、分子生物学系の大学研究室でも様々な研究のために使われている。

 感染症の検査では、なんらかの予備的なスクリーニングテスト(ふるい分けテスト)を行った後での確定診断として使われることが多い。しかし、今回のCOVID-19では、まだ確立したスクリーニングテストがないため、いきなり、確定診断であるPCR検査を行っているのが実情だ。

魅力的な唾液
 そこで問題になるのは検査精度で、こういった「いきなり確定診断」では、検査では陰性だったのに実は感染している「偽陰性」が生じやすい。さきほど中澤さんも指摘していたスワブ(鼻や喉をぬぐう綿棒のようなもの)にうまくつかないと、感染している人でも陰性になる、という件だ。また、ニュースで何度か報じられていたが、感染者の検体が非感染者の検体にまぎれこむ、いわゆる「コンタミ」(コンタミネーション=汚染、混入)のために、本来、陰性の人が陽性と報告される例も出ている。

 なお、検査の性能を評価する指標として、感度と特異度という概念がある。これはスクリーニングテストの結果(陽性・陰性)と、確定診断によって分かった「真の感染・真の非感染」を比べて得られたものだ。しかし、PCR検査は、そのものが確定診断なので、感度と特異度をどう考えるのかというちょっと小むづかしい議論が必要になり、ここでは深入りしない。いずれにしても検査は万能ではなく、常に精度が問題になることは間違いない。PCR検査に「偽陰性」が多いことも、コンタミなどに由来する「偽陽性」もあることはまぎれもない事実だ。

 その上で中澤さんが特に気になっているのは、サンプリングの問題だ。

「PCR検査の改良版の情報がいろいろ出ていますけど、サンプリングがちゃんとできていないと、その後、いくら迅速にできても検査結果はダメなんです。これまでは、そこの改善があまり報告されていなかったんですが、最近アメリカのFDA(食品医薬品局)が、唾液を検体としても、鼻や喉のスワブと100パーセント結果が一致したという報告を出して、承認しました。これは、ラトガース大学の研究(※1) です。もしも唾液が使えるなら検査がよくなるかもしれません。というのも、スワブをとる時に飛沫が飛び散るので、検査者の感染リスクがあるんです。でも、唾液なら、自分でサンプル容器に入れられるし、送るのもやりやすいですよね。また、今、飛沫やマイクロ飛沫が問題になっているように、唾液の中にいるウイルスが他の人にうつると考えられるので、被検者が自分だけで採取できる唾液を使うのは理にかなっていると思います」

 その後、イエール大学のチームがやはり唾液のサンプルが有用だという論文(査読前のプレプリントサーバ)(※2) を出すなど、この改善はますます有望視されるようになった。日本でも厚生労働省が、「検体として唾液を使う方法を5月中にも認める方向で検討」と報じられたので、遠からず唾液での検査が始まるかもしれない。

なんのための検査なのか
 PCR検査について以上のような議論を踏まえた上で、中澤さんは、今、日本では「3種類の検査目的」が、混同され議論が噛み合っていないのではないかと考えている。ちょっと詳しく聞いておこう。

「医師が診察した結果、肺炎などの臨床所見から鑑別が必要と判定した場合には、重症化した際の生命維持医療の必要性を考えて入院させ治療準備するというのは、日本の方針ですし、WHOが示している指針も同じです。このための検査を、検査Aとしましょう。これができずに検査拒否にあってしまうというのは批判されて当然です」

 検査Aは医療のため、まずは患者自身の治療のためのものだといえる。これまで、医師がリクエストしても、あるいは、基準だった37度5分の発熱を4日以上継続していても、検査を受けられないケースが続出していた時期があり、これはひどいことだ。それによって、治療の開始が遅れて、死亡などの重大な結果につながった人たちが実際に出ているのなら、検査の枠組みを再検討するのは当然だ。さらに今後、もっと初期から鑑別して投薬などすると早く治ったり、重症化しない治療薬や治療法が確立したときにも、範囲をもっと広げて多くの人に検査を受けてもらう必然性が生まれる。

 では、検査Bとは?
「検査Bは、感染者が一人見つかったら、積極的疫学調査で濃厚接触者をさかのぼって探し出し、感染を判定するためのものです。これは、無症状の人もふくめて濃厚接触歴がある人たちを見つけて検査して、陽性の人を隔離することで、感染を広げないようにしようということで、これも必要な検査です。日本独自のクラスター対策がこれだけだと誤解している人も多いようにも思うんですが、実は独自でもなく、世界中でやっています。WHOも推奨していることです。台湾はほぼ完璧にやりきってみせました。一方で、欧米はあまりに感染者が多くなりすぎて、もう無理になっていると思いますが」

 つまり、検査Bは感染制御のためのものだ。

 そして、検査Cは、もっと強く感染制御を目指す。

「接触歴がなくても、少しでも風邪様症状がある人を含めて検査をしていって、陽性の人はやっぱり隔離していこうというものです。ある程度、市中感染が増えてくると、接触歴がなくても感染している可能性が上がってくるので、検査対象を広げる意味が出てきます。でも、これをできた国はあまり多くありません。韓国とドイツ、後、あまり話題になっていませんが、アイスランドは完璧にやりました。元々検査能力が高い国です」

 中澤さんの考えでは、この中で優先順位は、A、B、Cの順だという。一時、診断としての検査、つまり検査Aが拒否されることが多かったと報じられたが、やはり、それはとてもまずい事態だった。また、検査Bもおぼつかないくらい逼迫した状況だったことも、改善しなければならない。その上で、検査Cを行うべきなのだろうか。あるいは、行う余力はあるのだろうか。

「たぶん検査Bがちゃんとできるだけでも今の東京の検査数の10倍くらいになると思います。本当にまん延している状況になるまでは、偽陰性の起こりやすさもC>B>Aなので精度の問題もありますし、目的が感染拡大制御である限り、検査Cをする理由はありません。患者の精神衛生上の理由なら、検査Aの基準を緩めていくのが筋でしょうね。4月23日に出たインペリアル・カレッジ・ロンドンの『リポート16』(※3) でも、COVID-19の感染制御のために検査をどうするべきか検討しているんですが、一般公衆全員のスクリーニング検査には否定的です」

 このリポートでは、検査Cに相当する「一般公衆全員」の検査を「感染の拡大防止のためにはほとんど効果がない」とする一方で、医療従事者の中でもICU勤務などで特に感染リスクが高い人たちには、症状の有無にかかわらず毎週のPCR検査を行えば、伝播を1/3、減らせるかもしれないと試算している。そして、実際に、今、イギリスのいくつかの病院でパイロット調査を進めて検証しているという。院内感染が大きな問題として浮上している日本でも、こういったリソースの使い方は参考になるだろう。

日本の検査数が少なかった理由
 日本では検査Aと検査Bが主に実施されてきたことが分かった。

 その際、本来、優先されるべき検査Aが滞ったことも報告されてきた。また、検査Bも十分に行えたかどうかというと、特に3月後半からは十全ではなかったようだ。

 優先順位が高いAとBがともに万全ではなかったなら、日本の検査は本当にだいじょうぶなのかという心配が生じる。

 しかし、中澤さんは、「日本で検査数が欧米より少ないのは感染者が少なかったから」と述べる。その真意をやっと尋ねるところまで来た。

 最初に確認しておくと、検査を拡充すれば見つかっていない陽性者が見つかるわけだから、その数は間違いなく増える。現在、見つかっている感染者数は氷山の一角だ。そのことについては疑いの余地がない。

 これは日本のみならず、世界中のどの国でもそうだ。見つかっている感染者と実際の感染者との間には、しばしばケタのレベルでの違いがあるからこそ、以前に議論した致命割合も、「確定診断がついた患者の致命割合(CFR)」と「感染者全体の致命割合(IFR)」を区別する必要があった。

 だから、日本のこれまでの検査が少なすぎるのではないかという不安は、つまり、その程度の検査で、感染の推移がきちんと捉えられているのか(検査されていない人の中で、全体に影響するような感染爆発みたいなことが起きているのではないか)という不安であると読み替えることができるだろう。

 そのような疑問をぶつけたら、中澤さんは画面上にグラフを示して説明してくれた。感染者数のグラフを国を選んで生成できる自作のスクリプトを走らせ、欧州で感染者が多かったイタリア、スペイン、フランスに、日本を加えてプロットしたものだ。

「これは縦軸が感染者の累計の対数になった片対数グラフで、直線的に伸びている場合は指数増加なんです。最近欧米の国も、一時に比べて傾きがゆるくなってきていますが、途中までは直線的に伸びていてこれは猛烈な指数増加でした。日本も最近までは直線的なので指数増加には違いなかったのですが、比較的ゆるやかです。この時に、もし検査数を絞ったことで見つかっていない感染者が多かったとしても、傾き自体が変わることはなかったはずです。逆に、たくさん検査をして、それに応じてたくさん感染者が見つかっていても、傾きが同じままでそのままグラフが上にずれるだけです」

 ちなみに、この片対数グラフの傾きは、再生産数Rに依存する。Rが大きければ傾きが大きく、小さければ傾きもゆるやかだ。このグラフからは欧米諸国に比べて日本のRが低く抑えられてきたことも見て取れる。

 もっとも、こういう説明を身近な友人にしてみたところ、「でも、検査が多くないと、検査されなかったところで、その傾きに影響を与えるような大きな感染爆発が起きていないか心配だ」という反応だった。

「それは、ありえないんじゃないかなあ」と中澤さん。

「検出されている人たちの増え方が一定なのに、検出されない人たちのみがそれとは違うもっと大きなRで増えているということなので、なかなか考えにくいです。もしもあったとしても、重症化する人が増えた時点で捕捉されるだろうし、長期にわたってはありそうにないですね」

 COVID-19は潜伏期間が長く、また、検査も発症後すぐには行われずに来たので、今感染した人が発症し、検査されて明らかになるまでに2週間のタイムラグがある。だから、2週間前、「検出されていない人たちの方で感染が爆発的に増えているかもしれない」と不安に思った人は、今、検出されている人たちのグラフの傾きが変わっていないなら、あるいは傾きが緩やかになったなら、「杞憂だった」と思ってよいだろう。実際には欧米並みのRなのに、見かけ上、この緩やかな傾きを維持するというのは長期的にはありえないことだ。一方で、今この瞬間、同じ不安を持った場合の答え合わせができるのは2週間後、ということになる。

 以上のことを理解した後で、あらためて「日本の検査数が欧米より少ないのは感染者が少なかったから」という言明を読み直してみると、少し分かってきた気がする。

 中澤さんが言っているのは、検査が少なかったからといって、グラフの傾きに大きく影響するような感染集団を見逃し続けるのは長期的にはあり得ないということだ。実は裏で欧米並の感染が起きていたのではないか、というような極端なことは心配しなくてもよい。もしも、そのようなことが起きたなら、明らかに検査が必要な重症患者が次々と見つかって未検査のまま積み上がっていくわけで、なかなか実現しなかった市中のPCR(例えば、大学の研究室などにあるもの)をフル活用するなどして対応せざるをえなかっただろう。しかし、そこまでには至らなかった。

 ただし、だからといって、これまでの検査体制を肯定できるわけではない。検査Aが間に合わずにひどい目にあう人たちが続出したことや、検査Bも十分ではなく飽和しかけたこと(一時、「検査の陽性率が高い」ことを気にする人が多かったと思うのだが、それは検査Bに関しては、超濃厚な接触をした人や症状がある人しか検査できないほど逼迫した時期があったからかもしれない)を織り込んで、対策しなければならない。これまでのところはこれだけの検査体制でも全体像をおおむね見失わずに済んできたことについてほっと胸をなでおろしつつも、次の波でもこんなにヒヤヒヤさせられたり、ひどい目にあう人が続出したりするのはごめんだというのが、ぼくの正直な感想である。

 さいわい、5月4日に行われた専門家会議の記者会見では、これまで検査拡充のボトルネックになってきた部分が特定された。「保健所の業務過多」「入院先を確保するための仕組みの機能不全」「地方衛生研究所のリソース不足」「検体採取者、検体実施者などの感染防護具の圧倒的な不足」「一般医療機関がPCR検査をする際、都道府県と契約が必要な仕組み」「民間検査会社に検体を運ぶための輸送機材の不足」など。 

 これらの中で、検体採集者の感染防護や検体の輸送などは、中澤さんが指摘していたように唾液サンプルを使うことでかなり改善できる部分もありそうだ。しかし、他は行政側で対応してもらわなければどうにもならない要素が多く、改善を切に願う。

 なお、蛇足ながら、ひとつ付け加える。本稿をまとめている5月なかばの時期のように、事態が収束していく局面では、検査Aの検査対象の患者も、検査Bの接触者追跡も減るので、検査数が減るのは自然なことだ。まさに「感染者が少ないから、検査が少ない」のであり、さすがにこの時点で「新規感染者を少なく見せるために検査を絞っている」と考えるのは邪推だと思う。


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