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さらばLemon Hart

それは全くの偶然だった。20年ほど前、大泉学園で一杯やってから帰ろうと思い、開かずの踏切を北に渡った辺りの古いビルの地下に降りた。店が2軒、見事に別れていて薩摩料理屋とBarであった。その日は芋焼酎よりウイスキーの気分だな、と入った店がLemon Hartだった。

若いバーマン二人がきびきびと働く気持ちのいいスペースであった。一枚板のどっしりとしたカウンターの後は壁中が洋酒の棚であり、さらに反対側、客の背中にも酒瓶の並んだ戸棚があった。驚いたのはカクテルで、味はもちろんのこと作り方が絵になるのだ。

マティーニを頼んだら、まず全てのグラスを氷で冷やし、手早く酒を混ぜてグラスに注ぐ。最後にレモンピールを女性が香水をスプレーするかのような手付きで上から振りかけた。グラスの中に絞る店にしか行ったことが無かったので、この残り香を楽しますかのような繊細さにやられたのだ。

モルトの種類が多い事でもこの辺りでは一番だった。ただし、ぼーずが一番気に入ったのは旬の果物を使ったカクテルだった。ここに通い出してからバーマンの橋立さん、伊藤さんは共に新宿にあった“いないないばぁ~”という伝説のBar最後のバーマン藤田さんのお弟子さんであることを知った。ぼーずが生れて初めて行った本格Barがここだったので、なにか不思議な縁を感じる。

Lemon Hartという名は度数の高いラム酒の銘柄から取ったこと、オーナーは漫画家の古谷三敏さんで同名のコミックがある事も教えてもらった。当時の部下の家に遊びに行って本棚にレモンハートを見つけ、ここ近所で良く行くんだよと口を滑らせたおかげで、ご招待する羽目になってしまった(笑)。たまたまコースターの入れ替え時期で、古くなった主人公のイラスト入りを貰った彼は大喜びだった。

通い出して数年後に子供との時間を持ちたいと橋さんが辞めた。その後、駅周辺は劇的に変わり、Lemon Hartも古いビルから表通りのビルに場所が変わってもそこは相変わらずくつろげるBarだった。ところが先日飲みに行って驚いた。伊藤ちゃんが・・彼だけでなく知った顔がまるでいなくなっていた。

聞けば昨年の九月に一度店を閉め、10月に再度開店したという。恐らくレシピは残っていたのだろう、果物もちゃんと用意してあった。でも、ソルティドッグを頼んで思った。細かい作り方が違う。伊藤ちゃんは伏せたグラスの縁をしっかりと塩皿につけ、カリ、カリっとリズミカルに擦りつけ、白く飾ってくれた。

そして常に塩の付いた処に口を付けては飲むのが、ぼーず流の飲み方だったのだが・・・塩の付きが甘い。味が悪い訳じゃない。きっと初めて入ったBarなら合格点を付けたのに違いない。

でも、なんかが違うんだな、これが・・・。思えば、ここは自分にとって橋さん、伊藤ちゃんBarだったんだ。そう思うと同じ店名、同じ酒瓶に意味なんか無いという寂しさが押し寄せてきた。その日ぼーずは2杯でLemon Hartを後にした。多分今までの最少記録だろう。そしてこれからもこの記録を破ることはないと思っている。
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