家に戻ると携帯が点滅している。会社は携帯の職場持ち込み禁止で、ロッカー室の壁は異様に厚い。ロッカーに入れると帰るまで圏外が表示されるのだ。かける方は固定電話があるが、問題はかかった時だ。毎回『電源が入っていないか、電波の届かない所に・・・』という案内が流れる。友人たちは埼玉の奥地、人外魔境にぼーずの会社があると思ってくれた。従って携帯はいつも家に置き去りで、今や携帯留守番電話と呼ばれている。
電話の主は中高校の同級生ヨリズミから。珍しいなと電話したら『フリン神父の容体が非常に悪い。医者は今晩が山と言っているのですぐ来い。』 普段ならヨッシャで行くのだが、かなりの酔っ払い状態にある。このご時世、酔っ払い運転はまずいし、事故でも起こしたらシャレにならん。ま、なんとかバスで行けそうな時間だったので吉祥寺行きに飛び乗る。フリン神父とは中高校の恩師。当然ながら明日の主役とは別の恩師だ。彼は英語の先生というだけでなく、バスケットボール部の顧問でもあった。
1月にOB達と上智大神学部内にある老神父の施設へ挨拶に行った時は、微熱があるということですぐに帰ったのだが、どうもそれから余り具合が良くなかったらしい。ぼーずが部屋に行くと苦しそうな息づかいが聞こえた。ベッドの周りには施設の責任者である神父さんたちと、介護の女性、電話をかけてきた友人のヨリズミがベッドをのぞき込むように立っていた。
フリン神父は横になったまま、大きく肩で息をしていた。部屋が乾燥している為か、息づかいは苦しそうに聞こえるが、表情は穏やかだった。挨拶したが恐らく判っていないと思う。手は冷水につけていたかのような冷たさだった。2時間ほど介護の人達とベッドの横でだべっている間、タオルで拭いても、拭いても、大量の汗をかかれていた。
介護の人がパジャマを着替えさせてくれた頃、苦しそうだった呼吸が静かになってきた。大きく動いていた肩は動かなくなり、あごで呼吸をしている感じに変わってきた。介護の女性が『皆さん、最期の時は、こういう呼吸の仕方に変わります』と小声で教えてくれた。
それを聞いていた訳でもないだろうが、呼吸の間隔が開いてきた。かなりの間呼吸を止め、ご臨終かと思うと忘れたころにまた息を吸う。そうか、師は潜水の名人だった事を忘れていた。25mプールを息継ぎ無しで泳ぐとこをさんざん見てきたのに。何回か騙されたが最後に深く息を吸うと、7日の0時47分、彼は動かなくなった。
Well-done! Father. That’s enough, May your soul rest in peace. 最後の握手で彼とお別れをする。呟いた英語に間違いがあれば、ぼーずがそっちに行った時に教えて欲しい。さて、何と言われるだろうか。
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