江戸商人道

🌸🌸江戸商人道🌸🌸


私欲の念を捨て、その売買の作業は、国中の自由をなさしむ役人に、

天道より与えたまえる所なりと思い定めて、

その身は天道に任せて利得を思う念を休め、

正道の旨を守って、商いせんには、

火のかわけるにつき、水の下れるにしたがって流るるごとく、

天の幅、相応して、万事、心にかなうべし。

然りといえども、福徳を得て、悦ぶべきにあらず。

有漏（うろ）善根、無漏の善根と言う事あり。

この夢幻泡影の世界、生滅の実なき身を実と定めて、

常住の念はなれず、世界にもっぱら執着の念ありて、善を行うを、有漏の善根と名づけたり。

有漏善は、福徳の因縁なり。

有漏善を行って、高位福人と成りて、楽至極するとも、

その因尽きる時節ありて、必ず悪道に入るなり。

しからば、売買の作業、則（そく）無漏善となすべき願力をもって、

幻化の理を守りて信心を励まし、

その身を世界になげうって、一筋に国土のため万民のためと思い入れて、

自国のものを他国に移し、他国のものわが国に持ち来て、

遠国遠里に入渡り、諸心の心にかなうべしと誓願をなして、

国々をめぐる事は、業障を尽くすべき修行なりと、心を着て、

山々を越えて、心身を責め、

大河小河を渡って心を清め、

漫々たる海上に船をうかぶるときは、このことを捨てて念仏し、

一生はただ、浮世の旅なることを観じて、

一切執着を捨て、欲と離れ、商いせんには諸天これを守護し、神明利生を施して、

利得も優れ、福徳充満の人となり、

大福長者をいやしみて、終に勇猛堅固の大信心発して、

行住坐臥、則禅定に成りて、
自然に菩提心成就して、

涅槃の妙薬、すなわち無碍（むげ）大自在の人となりて、乾坤に独歩すべし。


（鈴木正三）