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ラテンアメリカでの日々(1999〜)、さいたま市(2014〜北浦和:2021〜緑区)での日記を書いています。

グァテマラの家政婦市場

2007年09月02日 | 2005年からの過去のブログ(旧名:「グァテマラから」)

 

 もうかれこれ三年ほど一年のうち半分くらいは、首都から一時間ほどの閑静な近郊都市アンティグアでモノ書きをしている。さて、田代さんという同い年の気さくなオジサン(同時に自分もそうであると認めてしまった・・・)の経営する宿にいつもいるのだが、ここも常にひとり家政婦さんを雇っている。

 ちょくちょく変わったりするのだが、最新の家政婦さんは生まれたばかりの赤ちゃんを連れている。最初は背負っていたのだが、聞くと20リブラ(約10キロ)程あるらしく、そのうち洗濯タライに入れるようになった。さながらグァテマラ版「子連れ狼」か「一寸法師」である。いや、ドンブラコと流れられるから桃太郎か。まぁどうでもいい。

 ということでお母さんは、タライにチョコンといれたままどっか行ったりできる。しばらく帰ってこないと泣き出すのだが、髪をこうやって括ってもらってオッチンしてたら、それこそ宿泊客の絶好のマスコットだ。「そのうち日本語も覚えるんじゃないのか」などといいながら、誰かしらがあやしにかかる。

 頭を剃った元土建屋のオッサンも、夜な夜なクラブに踊りに出かけるネーチャンも、この子の前を通るときはデレデレに急変する。しかし考えてみれば生後5ヶ月だ。産休もクソもあったものではない。これはグァテマラ現代社会のある典型的な側面を垣間見せている。巨大な家政婦市場である。

 

 2000年頃からとどまることを知らない、ここグァテマラでの新自由主義(ネオ・リベラリズム:「勝ち組」と「負け組」の差がより拡大するような路線)のおかげで、首都はますます治安を悪化させ、郊外にはいわゆるコンドミニアムだとかレジデンシャルといった、塀とガードマンに24時間守られた集合団地が増えてきている。そんなところに家を持ってマイ・カー通勤できるような家にとって、月給一万五千円くらいの家政婦をひとりくらい雇うのは容易い。日本の都心で月何万も出してガレージを借りている家計の方がずっとキツいかもしれない。

 

 首都で「仕事」を終えて5時頃に、地元のローカルバスに乗ったときなんか、この仕事帰りの家政婦がテンコ盛り乗ってくる。下は15−6歳から上は40歳とかまで。その多くは学校を出てないし読み書きができない。そしてグァテマラの山間部において、この家政婦市場に大量に労働力を供給しているのが、先住民下層階級である。

 

 家で小さいときから覚えてきた家事をこなすノウハウで、そのまま現金が稼げるこの家政婦という存在は、先住民家庭において伝統的衣装の衰退と表裏一体の関係にある。一般的にグァテマラ先住民において、女性は先住民独特の衣装を着ているのだが、それには二つのタイプがある。伝統的なウィピルと呼ばれるものと、市販の布にフリルを着けたブラウスのようなものである。前者は数万とかするものもあり、言ってみれば数着持っていればそれで一生モノ、日本で言う昔の着物みたいなものだろうか。対し後者はその十分の一ほどで「上モノ」が手に入る。

 ウィピルというのは、各々の村によって柄が違い、それが21世紀グァテマラ産業の期待のホープ(?!)観光産業の「目玉商品」となっている。昔はこれを、各家庭で娘が成長する過程で教え、自分のそれを織るようになり、余裕があれば売ってきた。何度洗濯しても柄が絶対崩れないほど、ガッチガチに丁寧に織り込まれたそのウィピルは、逆にゴツゴツしていて動きにくく家政婦などの労働にはあまり向かない。そうして昔は家にいて母親や祖母から織物を習う時期に、彼女らは家政婦として働きに出ることとなる。ならばもはや、むしろ覚えるべきはスペイン語である。

 

 ナカタの立場を断っておく。この動向を積極的に肯定するつもりはないが、しかし同時に「マヤ文化の衰退」として嘆くつもりもない。ただ言いたいのは、山間部の先住民の暮らす地域から、あるいは都市の最貧困層居住地域から、莫大な数の女性をこの家政婦市場に二束三文の労働力として、このグァテマラの現代社会は一層の加速度でもって吐き出し続けている。そしてその渦中に自らを投じた、投じざるを得なかった先住民女性たちは、ウィピルを捨てて工場製の先住民衣装を着るようになるだろう。そしてこうした先住民女性を取り上げた史料は、研究であれなんであれ、想像を絶する少なさである。

 

 昨日、市場に買い物に行ったときに赤ちゃん用のオモチャを見つけた。ガラガラ音の鳴るマラカスのようなものと、ヘコませばパコパコなるゴムボールを買ってあげた。泣きだしたときに、みんな何かモノの音を鳴らしてあやしていたから、これがいいだろう、と。

 

 逆効果。今度はそれをブンブン振り回して泣くものだから音量が二倍に・・・・

 

 そして今日。度重なる遅刻と、あまりにもの仕事の雑さに宿主さんがキレてクビに。。。そのことをナカタに教えてくれたときに彼はフッと漏らした。「静かになりますしね」(もちろん彼は冗談でこれを言っている)。

 

 オモチャ、ド裏目である。

 

追加情報・・・いま奥さんから聞いたのですが、そのお母さんがDVをその赤ちゃんにやっていて、何度叱ってもヤメないのがますますポイントを下げていたそうです。なんともまぁ、グァテマラはいつも穏やかには終わらせてくれませんね。

 

 

 


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