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心に浮かんだことを気ままに

鳥もち(ヤンモチ)の木

2012年02月23日 | 随筆

   また、鳥の話。やはり子どもの頃、よく鳥もちを使って鳥や蝉などを捕っていた。この鳥もちのことを郷里ではもっぱらヤンモチ、ヤンモチと呼んでいた。このヤンモチ、つまり鳥もちを使った捕獲の仕方も祖父や伯父から教わったのだ。笹竹や細目の真竹の先に鳥もちを巻きつけてメジロやシジュウカラなどの鳥やクマゼミ、アブラゼミ、みんみんぜみ、その他の昆虫などを捕った。静かに歩き、息も止める位にこっそりと鳥もちのついた竹の棒を獲物のそばに近付け、一瞬にぺたっとくつけるのだ。鳥は驚いたようにばたつき、そのためいっそう羽に鳥もちがつく羽目に。オスのクマ蝉はオレンジ色の柿の種のような堅い胸を動かし、ガーっという大きな鳴き声をあげる。鳥もちが絡んで捕獲された鳥の方はそれからがちょっとやっかいなのだ。べたつく鳥もちから獲物をとりはずさないといけないのだ。運よく少しだけ付いて捕獲できた時は簡単にはずせてカゴに入れられる。できるだけそのように狙うのだが、つい力が入ってべたっと鳥もちをつけて捕獲することが多いのだ。羽にべったり付いた鳥もちは灯油などの油を使って鳥から外した。羽と鳥もちの間に油をさして丁寧に丁寧に外す。油で鳥もちは粘りがおさまり、つるつるとなって羽から外しやすくなった。でも、時間がかかったぶん、それだけ鳥は弱くなりがちだった。

 

   捕獲した鳥もその他の昆虫などもあまり長生きしなかった。特に成鳥など、どんな捕獲の仕方で捕っても長生きは無理であった。成鳥はいくら好みの餌を用意しても食べなかった。そんなことも大人たちから聞いてはいたのだが。少しでも長く生かしておくために、聞いた通りに無理にでも鳥の嘴から餌や水をあげるしかなかった。何回かは逃がすようにもしたが、その前に死んでしまうことが多かった。ひな鳥もオレンジの口を大きく開けて餌をもらう位なら育ちやすいのだが、少し大きくなったものはなかなか自分で食べようとはしなかった。随分あとから知ったのだが、成鳥はショックなども随分と影響するらしく、捕獲されると直ぐ死ぬものが多いらしいのだ。自決してしまうように・・。

 

   鳥もちの作り方はこうだった。祖父の庭に大きな鳥もちの木が一本、家の門の近くに立っていた。鳥もちはモチノキ、クロガネモチ、ヤマグルマなどとも呼ばれる。その鳥もちの木の幹には随分大きな傷跡と小さい傷跡がいくつか残っていた。ぐさりと樹皮がクリーム色に大きく、深くえぐられているので、その木を見る度にどこか痛そうに見えたのをよく覚えている。自分もその木の黒っぽい皮をナイフで少し剥がし、鳥もちを何回か作った。剥がした皮を石の上に置き、その上から石で搗いた。しばらくすると粘り始めた。長く搗いていると灰色っぽいガムのようになった。つぶれにくい皮の一部を捨てたりしながら一応、鳥もちらしいものができあがった。一応と書いたが、当時は鳥もちを樽に入れて量り売りしている駄菓子屋も何軒かあった。その鳥もちはキャラメルのように光ってきれいなものだった。売り物のそれも何回か買って使ったが、さすがに手作りのよりもずっと立派なものだった。

 

   でも、自家製の鳥もちもよく使えた。あまり作ると、木が傷むといけないからと祖父たちから注意されたこともあった。当時でも、鳥もちの木は珍しい木であったようだ。紀伊の熊野なんかは江戸時代から名産だったらしいが、大きな鳥やその他の獲物なども捕っていたのだろうか。珍しい木と書いて思い出したが、その鳥もちの木から百メートル位離れていただろうか、肉桂(にっけい)の木があった。よその庭の木なので、友だちとこっそり失敬した。ナイフで幹の根元近くの皮を少し剥がした。皮を嗅ぐとあのいい香りが少しした。ほんとは地面に少し出ている根っこを取って、乾燥させてから、ゆっくり噛むといい香りがして旨いのだろうが、よそのうちの大きな木なのでそれは難しかった。

 

  だれかが取っていて、びっくりするほど怒鳴られたとか聞いたので用心してあまり行かなかった。ご主人も、根でも掘り返されたら枯れてしまうので、いつも気が気でなかったのだろうなと今にして思う。珍しい木があると、当時は何が起きるのか心配の種だったりして・・。

 

   そんな珍しい鳥もちと肉桂の木の思い出だ。以前、郷里に帰った時にはまだあの鳥もちの木はあったようだが、肉桂の方はもうなくなっていたように思う。鳥もちの幹に随分大きく抉られていたあの時の傷跡はもう癒えたであろうか。だれにも見向きもされずに生きているような、そのヤンモチの木はどんな風に、今の子どもたちを見下ろしているのだろうか。きっともう二度と皮をはがれることもなく、そこにじっと立ちつづけているのだろうか。ちょっと寂しげに。

 


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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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懐かしい! (ジドリ)
2016-10-17 13:33:43
私の子供のころ、やはりヤンモチで小鳥特にメジロ取りに行ったりしていました。
ヤンモチはもっぱら自分で作っていましたが、ヤンモチの木(ヤマグルマの木)が近くにないので、ずいぶん遠くまで行ってこの木の皮を剥いでヤンモチを作っていました。
どぶに漬けこんで腐らせて作ると良いと言うことは知っていましたが、私たちはそんな気の長いことはできませんので、もっぱら皮を剥いですぐに石の上で皮を叩いてヤンモチを作っていたものです。
作ったヤンモチは竹の棒に塗りつけて山に行き、囮の目白の入った駕籠の傍におき、隠れて見ていると囮の鳴き声につられてやって来たメジロがヤンモチの上に乗り、動けなくなってタラーリと下に垂れさがってきたらメジロを捕獲に行っていましたが、鳥の羽根にヤンモチが付くとなかなかとれずに苦労したものです。
でもそういう思い出ももう遠い昔の話になってしまいました。
今だったらメジロ取りは禁止されていますね。
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