芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

世襲について

2015年12月11日 | エッセイ

 フランスの州議会選挙で女性党首ルペンが率いる極右政党が大躍進した。彼女は父の後を継いだ世襲党首である。何だ、まだ二世じゃないか。エヘン、我が国なんて三世だぞ。しかももっと極右だ、エッヘン。
 しかし日本ほど、世襲の国会議員が多い国は世界に例がないだろう。世襲国会議員は与野党そして、衆議院、参議院ともにすでに半数に及ぶ。特に自民党議員の世襲が多い。小泉家など四世である。まるで北朝鮮の世襲共産党にそっくりだ。まるで中国共産党の一族郎党利権群がりと有力幹部子弟の太子党政治だ。

 私は全ての世襲を批判するつもりは全くない。
 世界で創業二百年超の企業数は約八千社あり、その半数を日本の老舗が占めるという。創業から二百年はおろか、さらに三百年、四百年と続く老舗企業の数は、世界でも日本が最も多いのだ。日本には千年を超える企業も数社ある。
 そこに「日本式」あるいは「日本的」物づくり、商い、経営等の神髄があると思うのだ。おそらく、徒に生産量の拡大や、売上げ増、成長を目指さなかったのだ。一子相伝の家の掟もあっただろう。また先人から受け継いだ伝統の技術を磨き、後継者や弟子を育てるという徒弟制度と責任感も大きな要因であっただろう。オンリーワンを作り、守り続ける家業を代々繋いでいくという日本的家意識や、それを支える日本的雇用形態もある。また同業者同士でその業界を守ろうという日本的ギルドとも言うべき座・株仲間意識、組合意識や共助意識もあるだろう。さらに談合という日本的ワークシェアリングで、徒に消耗戦を繰り広げる競争を避けてきたこともある。私は以前「談合の何が悪い」というエッセイを書いたことがある。
 古くから続く家業としての味噌醤油酒造などの醸造業、菓子舗、鍛冶、鋳造業、庭師、左官、染め物師、伝統的機業、瓦師、空師など、その技術を家業として代々繋げることを素晴らしいと思っている。
 能狂言や歌舞伎役者もそうであろう。ただし家元制度の世襲には疑問もある。また日本ほど、役者やタレントの子息が長じて役者やタレントになる社会も珍しい。多くは親の七光りである。
 かつて知日家で、相撲好きで知られたイギリスの海洋学者ライアル・ワトソンは、封建的社会と思われがちだった相撲こそを、日本の中で「親の七光り」が全く通用しない、最もオープンソサエティな裸一貫の実力社会だと断定した。父が偉大な横綱や大関でも、その息子が角界で、よほどの素質に恵まれて、よほどの厳しく激しい稽古を積まなければ、父のようにはなれない社会なのだと。これほどの開かれた実力社会は、日本の他の分野では見られないと言ったのである。だからそろって横綱になった若貴兄弟は、まことに凄い兄弟だったのである。

 さて、政治の世襲とは政治の家業化であり、政治の私物化、政治の壟断にほかならない。
 かつて選挙違反や不正政治献金事件が相次いだことから、金のかからない選挙と政治改革としての政治資金規制法が制定され、また政治献金に替わる政党助成金の交付が決められたのである。さらに選挙制度が改悪された。
 しかし政治家どもは政党助成金を盗り、そのうえ政治献金も受け取り、政治資金規制法は典型的ザル法だったのである。そもそも政治家自身に関わることを政治家に決めさせたのが大きな失敗だったのだ。泥棒に泥棒を取り締まる法を作らせたようなものだからである。
 また、選挙制度がなぜ改悪かと言えば、小泉のワンフレーズ郵政選挙で自民党は地滑り的に圧勝して議席を大きく占めたが、大敗した民主党との得票総数はわずか十万票に過ぎなかったのである。すなわち選挙制度がおかしいという証明である。そしてこの改悪選挙制度は、少数意見、小政党潰しでもあったのだ。

 憲法違反と判断された一票の格差是正、議員 の定数削減(できれば半数以上の大幅削減)も当然ながら、政治の世襲化も何とかしなくてはなるまい。
 世襲候補者はそうでない候補者と比べ、七割方は世襲候補が勝つという。世襲候補は選挙において圧倒的に有利なのだ。古くから「地盤、看板、鞄」という。
 かつて私は「選挙区あみだ籤法」を作れと書いたことがある。候補者の選挙区を選挙のたびに「あみだ籤」で決めるのである。世襲候補は親や祖父から受け継ぐ「地盤」を失い、知名度という「看板」の効力も弱まる。「鞄」は後ろ盾となる地元有力者や企業からの集金と、選挙区で使う金、選挙民へばらまく金を指す。もちろん選挙違反と紙一重である。
「選挙区あみだ籤法」を一日も早く成立させるべきである。少なくとも、世襲の地盤と看板を失えば、彼等はだいぶ苦戦を強いられ、減るにちがいない。もちろん小泉選挙のときの刺客候補や落下傘候補のような、党の強力な応援があれば勝つ可能性は高いだろうが。

 坂本龍馬が勝海舟に質問したそうである。
「アメリカの、その初代大統領の子孫は、いま何をしておるのですか?」
 海舟は言った。
「そうさな、たぶん靴磨きか、窓拭きでもしておるじゃろう」
 そのとき龍馬は、指導者が世襲でない民主主義的な政治制度とはどんなものかを、一挙に理解したのだ。
 福沢諭吉が言ったそうである。
「門閥は親の仇でござる」

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