『健康方程式クリアファイル』

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横隔膜呼吸(酸素)[健康方程式とは] 

2008-05-09 | 医学書『健康方程式』
 まずは、「健康方程式 : 健康 = 酸素 + 究食 + 感謝」 の第一項、
健康のために最も大切な「酸素」を取り入れる「横隔膜呼吸」の方法を見ていきましょう。

 酸素は人間にとって最も大切なものです。
5分間酸素がいかなければ脳細胞は死にます。脳死状態になるのです。
 このような物質は他に存在しません。
水は1日なくても生きることができます。
食事は1ヶ月なくても生きることができます。
家族と1年離れても生きていくことができます。
誰もが知っていながら誰もが見落としがちな事実が日常、呼吸している酸素の重要性です。

 酸素を体に取り入れる行為を呼吸といいます。
普段無意識に行なっている呼吸を、意識的に行なう方法が呼吸法です。
正しい呼吸法が、人間にとって最も大切な技術です。

 しかし残念なことに、人間にとって最も大切な技術であるはずの正しい呼吸法を、学校で学ぶことはありません。これは本当に残念なことです。

 成人男性は、1回600mLの空気を吸ったり吐いたりしています。
しかし、一般に、肺活量は実は3000mLほどあるのです。肺活量は、最大に吸い込んで最後まで吐ききったときの1回呼吸量です。
要するに多くの人は、肺活量に相当する呼吸能力の、実に5分の1しか使わずに生活しているのです。

               
 
 呼吸のための筋肉は胸の筋肉、腹の筋肉、横隔膜の3つに分類されますが、ほとんどの人は胸の筋肉しか用いていません。
残念なのは、人体の中で最大の面積を持ち、呼吸のためだけに存在する横隔膜を用いていないことです。

 横隔膜は、膜という言葉がついていますが、正確には筋肉でできた膜です。
焼肉で「ハラミ」を食べたことのある方は、その柔らかさと美味しさをご存知と思います。この「ハラミ」は牛の横隔膜です。横隔膜は筋肉です。

 「腹式呼吸」という言葉がありますが、私はこの言葉を用いません。
この言葉は、それぞれの人が異なった意味で用いるため、何を指しているのかよくわからなくなっているからです。

 その代わり、私は横隔膜呼吸という言葉を用います。
その意味と実際の方法をよく理解してください。

 私は救急医として人々の呼吸を見続けてきました。
呼吸数は「バイタルサイン(vital signs)」の一つです。バイタルサインは生命兆候という意味で、呼吸数、脈拍、血圧、体温を指します。
医師はこれらの数値を重視します。患者の生命活動の状態を教えてくれるからです。バイタルサインなし(no vital signs)とは、生命の兆候がないという意味で、死亡確認に用いられます。
 その中でも、呼吸が最も大切です。
人は病気になったり、死の淵に立たされると、呼吸が浅くなるのです。

               
 
 東洋の宗教の歴史は、呼吸法の歴史という面があるかもしれません。
インドのヨガ、
中国の気功、
日本の座禅は、
すべて呼吸を自制下に置くことで心身の状態を改善しようとしています。
それらの方法に共通するのは、横隔膜という不思議な臓器に注目していることです。

 横隔膜は呼吸のためだけに存在している筋肉でありながら、あまりに活用されていません。
さらに、横隔膜は体性神経と自律神経の二重支配を受けています。これは、
自動的に動きながら、
かつ意思の力の支配も受ける
ことを意味します。つまり横隔膜は、比ゆ的にいうなら、
心と頭と体が融合する臓器です。

 また、横隔膜の下面は胃と腸と肝臓とすい臓と脾臓と腎臓に接しています。
上面は心臓と肺に接しています。
横隔膜は、意識的に最重要臓器を直接マッサージできる位置にあるのです。このような筋肉は他には一つもありません。 

 この不思議な筋肉を用いる方法を、ヨガや気功や座禅は研究していたようです。
ただしそれらの「行」の問題は、複雑であることです。習得するのにある程度の年数がかかるのです。

 「誰もがすぐに憶えることができる横隔膜を用いた呼吸法はないものか」
という私の疑問に答えてくれたのは、日本の医師でした。
 それは塩谷信男氏という内科医で、60歳のときにその呼吸法を考案し、40年間毎日実践し、100歳を越えてもゴルフをされているという驚異的な人物です。
世の中には様々な健康法がありますが、その考案者が100歳まで生きた例を私は他に知りません。 その医師が言うとおり、その呼吸法に秘密が隠されているようです。

 彼の『大健康力』という著書によると、その呼吸法は「正心調息法」と名付けられています。心を正し、息を調えるというその名前は素晴らしいと思いますが、その本質をさらにわかりやすくするため、私は「横隔膜呼吸」という言葉を用います。
 これ以上単純で、酸素を最大限に取り入れ、精神状態を静める呼吸法はありません。

               

 横隔膜呼吸とは、次のようなものです。
 まず手を組んでへその下に当てます。
 目を閉じます。そして背すじを伸ばして座ります。椅子にかけてもいいし、あぐらをかいても構いません。
 呼吸は全て鼻から行ないます。胸で吸い、横隔膜を下げて止め、腹で吐く。
これを合計20秒で行ないます。

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          ・ 横隔膜呼吸法 ・

①まず、5秒間で空気を胸一杯に吸い込みます。
             ↓
②次に、息を5秒間止めます。

 具体的には、横隔膜を下げてさらに肺を広げるのです。
ここが慣れるまでは最も難しいところであり、最も大切な時間です。
 ポイントは肛門を閉めながら下腹部を膨らます動作です。排便の際にいきむ感じです。ただ肛門を閉めながら行ないます。
 おなかが膨らんでいることを確認してください。少し緊張感があり、下腹部が気持ちいいはずです。
             ↓
③最後に、10秒かけて鼻からゆっくり吐いていきます。

 少しずつお腹をへこませながら吐いていきます。慣れるまでは少しつらいかもしれません。それは呼吸のための腹部の筋肉が退化しているためです。
毎日続けることで段々なれてきます。

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 この呼吸法の効用は多くありますが、五点に要約することができます。
横隔膜の驚異的な働きぶりを見ていきましょう。

 第一に、
横隔膜呼吸は酸素を最大限に取り入れる方法です。
第一相で胸一杯に吸い込み、
第二相でさらに肺を膨らませます。これ以上肺を膨らませることはできません。
そして10秒かけて完全に吐ききるため、これ以上吐くこともできません。

 第二に、
内臓のマッサージができることです。
横隔膜の直下には胃と腸と肝臓とすい臓と脾臓と腎臓があります。これらに接しているため直接マッサージができるのです。
内臓をマッサージするという表現は耳慣れないと思います。ただ効果は筋肉のマッサージと同じです。軽い圧迫を加えることで毛細血管内に停滞した血液を心臓に送り返すのです。

 第三に、
骨盤や外陰部などの筋肉のトレーニングができることです。痔の予防にもなるのです。年齢が上がるにつれ、痔の発生頻度が高まります。日本人の3分の1が痔を患っているという統計もあります。これは肛門が心臓より下にあることが一つの原因です。
血液が心臓に戻りにくいことがうっ血を生み、痔になるのです。
また高齢女性特有の病気に子宮脱というものがあります。子宮が下がってしまい、膣から飛び出てしまう状態です。
この横隔膜呼吸はこれら二つの外陰部の病気も予防します。

 第四に、
交感神経の緊張を抑え、副交感神経を作動させます。
横隔膜を下げる第二相時に副交感神経が働くのです。
心臓病の領域には「息こらえ手技」という治療法があります。上室性頻拍という、心臓が異常に早く打つ不整脈を止めるための治療です。患者に息を数秒こらえさせると、突然その不整脈が止まるという驚異的な治療法です。
 横隔膜呼吸は、この息こらえ手技と同じ状態を作るのです。
交感神経を抑えて副交感神経を作動させることで、心臓が過度に収縮することを抑え、血管の緊張を和らげるのです。

 第五に、
気分が落ち着きます。
不安感や興奮がどちらも沈静状態に近づくのです。
第三相の呼気時間を長く取る運動がセロトニンという物質の分泌を促します。生理学者の高田明和医師は、その著書『ストレスをなくす心呼吸』で、ゆっくりした呼吸が脳内でのセロトニン分泌を促すと述べています。
その機序は、ゆっくりした呼吸が二酸化炭素の血中濃度を上昇させ、延髄下部のセロトニン神経が刺激され、辺縁系でのセロトニン分泌が促進されるというものです。
このゆっくりした呼吸が、ストレスとうつ病から心を守るのです。

               

 横隔膜呼吸を行なうと、すぐに緊張感が和らぎ、頭がすっきりします。
継続すれば自己破壊症を避けることができ、予防可能病を避けることができるのです。
電車や職場で周りの人を観察してみてください。
呼吸が非常に浅いことがわかるでしょう。
そして呼吸が浅い人ほど目に活気がなく、元気がなさそうに見えます。
酸欠状態になると誰でも不安で、活気がなくなります。ほとんどの人は、この酸欠状態にあるのです。

 横隔膜呼吸は、お金もそのための施設も要りません。
病気や怪我で座れない人は、仰向けになって実施してください。いつでも、どこでも、誰でも、今からできる深呼吸が横隔膜呼吸です。まず、一ヶ月は毎日実践してみてください。

 一ヵ月後、さまざまな変化が現れます。
何より心の緊張が取れます。
また周りの人から表情が柔らかくなったと言われるかもしれません。その心地良さを実感したら、その後もずっとこの呼吸法を続けていただきたいと思います。

               
(『健康方程式』p. 92-101)


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