私の字幕翻訳日記

ライブ台湾で配信中の“華流ドラマ”の字幕翻訳を担当している翻訳者の独り言

映画

2006-07-21 08:40:51 | 字幕翻訳
先日、ハリウッド映画の「MIⅢ」を見てきました。
以前は純粋に娯楽として映画を見ていたんですが、最近はついつい字幕に目がいってしまいます(テレビを見ていてもですが…)。

ちなみに、この映画の字幕翻訳は戸田奈津子さんでした。戸田奈津子さんの訳に関しては賛否両論あるようですが、僕自身は日常会話程度の英語しか話せないため、原文の意味までは聞き取れません。ですから日本語の字幕しか見てないんですが、「流れるような字幕」はさすが第一人者だなぁと感じました。

もともと、一般の文書翻訳でも100%の翻訳はありえないわけですし(人によって訳し方が異なるという意味で)、字幕翻訳にはさらに様々な制約(字数制限など)が加わるので、より感性的な訳になるのではと思います。感性というとそれこそ千差万別なので、どれが正解ってことはないんでしょうね。

もちろん、究極の目標は誰にでも受け入れていただける字幕なんでしょうけど…。さて、僕ももっともっと努力をしなければ。

漢字

2006-03-31 17:35:01 | 字幕翻訳
最近になって気づいたんですが、字幕で使ってはいけない漢字ってけっこうあるんですね。中には今まで平気で使っていた言葉などもあって、今後は気をつけねばと反省しているところです。

大原則として、常用漢字ではない漢字や常用漢字表にない読み方などは、平仮名で表記したほうがよかったり、どうしても漢字を使う場合はルビを振るとかなどがあります。

例えば、「私」「嘘」「全て」「嬉しい」も基本的にひらがな表記のほうがよかったり、「お爺さん」は「おじいさん」または「お祖父さん」だったり…。

「ひらがなを使う=字数が増える」ということで、ますます頭が痛い状況です。字幕を作るって大変なんだと改めて感じる今日この頃です。

字幕ってこんなに難しい(3)

2006-01-25 18:40:48 | 字幕翻訳
さて、やっとの思いで最後まで翻訳しました。ここまでくれば、あとは確認作業だけ。と思いきや、この作業が最後で最大の山場となります。
よく「自分が訳した文章ほどかわいいものはない」と言います。だから、「完璧」と思って訳し終えても、他人に見てもらうと「意味がわからない」ということもたびたびあるのです。
訳し終えて、もう一度はじめから見直しますが、ここで大事なのが視聴者の目で客観的に見ることです。すると、どうでしょう。「完璧」であったはずの字幕に、どこか違和感がある。どうしてこうなっちゃうんでしょう。答えは2つです。おわかりでしょうか?一つ目は、字幕の一文だけを見れば完璧な翻訳に見えますが、、通して見てみると、前後の字幕の内容がつながっておらず、ストーリ性がなくなってしまっていることが原因です。そして、二つ目は、俳優の表情が字幕と合っていないことが原因です。
フランス映画の字幕翻訳者である山崎剛太郎先生の著書『一秒四文字の決断』によると、字幕翻訳には2つの台本があるそうです。ひとつは文字で書かれた台本、そしてもうひとつが「画面」という台本です。
この2点に注意して、さらに校正を加えて完成です。このようにして、やっと皆様の目にお届けできるわけです。

字幕ってこんなに難しい(2)

2006-01-24 20:58:53 | 字幕翻訳
気が遠くなるポインティングの作業を終えると、いよいよ翻訳作業です。「ここまでくれば何とかなる」と、懲りもせず字幕をなめていた私は、ここでもその厚い壁に跳ね返されてしまいます。
 まず、中国語を日本語に訳すと、情報量(文字数)が多くなります。普通は1.5倍の文字数になると言われます。例えば、「我愛你(ウォ・アイ・ニィ)」という中国語をそのまま訳せば、「私はあなたを愛している」とか「私はあなたが好きだ」となります。では、このまま字幕にできるかと言えば、そうではありません。字幕は一般的に1秒間で4文字以内という制限があります。前述の「我愛你」だと1秒にも満たない時間で話されますから、3文字程度で訳さなければならないんです。そうなると、「愛してる」でもNGですよね。そこで、「好きだ」というように、制限された文字数の中でベターな表現を探すわけです。
 さらに言えば、中国語は話すスピードが速い。機関銃のように話す人もいる
わけで、そうなるとかなり膨大な情報量をかなり制限された文字数におさえなければならなくなります。
かといって、字幕ひとつを訳すのに、2日も3日もかかっててはどうしようもありません。なにせ、ドラマ1話で約500~600の字幕があるんですから。限られた時間の中で訳さなければならず、字幕翻訳は毎日が時間との戦いです。

字幕ってこんなに難しい(1)

2006-01-23 17:20:30 | 字幕翻訳
翻訳経験者であれば、ドラマの翻訳は「会話だから簡単だろう」と思われるかもしれません。かくいう私も同じように少しなめてかかっていましたが、すぐにその間違いに気づくことになりました。
まず、翻訳を始めるまでに、画面の中で字幕を出すタイミングや字幕の長さを決める準備作業があります。これをポインティングと言いますが、この作業が想像以上に大変なんです。これには専用ソフトが使われます。とはいえ、ソフトがタイミングを決めるのではなく、画面を見て、人間が耳で音を拾いながら字幕を出すタイミングや字幕の長さを決めます。これはとても重要な作業で、字幕を出すタイミングが悪かったり、字幕が長すぎたり短すぎたりすると、テンポのない間延びした感じになり、内容と言葉に違和感を感じ、ドラマそのもの面白さに影響を及ぼすことになります。
はじめのうちは、たった1分間のポインティングに、1時間以上もかかりました。例えば、「イルカ湾の恋人」は1話が約45分あるので、単純に計算すると45時間以上かかることになりますよね。1日8時間作業したとしても、1週間近くかかってしまうわけです。ちなみに、「イルカ湾の恋人」は全28話です。ということは…もう計算するのも嫌になります。しかも、これは準備作業で、翻訳はこれが終ってからやっと始められるのです。そして、翻訳では更なる苦労があるわけで…。その話はまた次回に。