ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

六花の軌跡【魅悠】 3

2020-04-23 21:21:00 | 六花の軌跡【魅悠】
この数日、ろくに眠れなかったのだろう。
泣きながら私にしがみつき、心の澱(おり)を吐き出した悠理は、泣き疲れてそのまま寝てしまった。
目の下にクマを作り、頬が少しこけ、どことなく陰があり、頼りなさげな風情を漂わす悠理は、女性の私から見てもドキリとする程の色気を醸(かも)し出している。

「食べる事しか興味のなかった悠理が、恋煩いに陥るほど魅録を深く想う日がくるだなんて、あの頃からは想像も出来ませんわ」

男と恋愛なんて気持ち悪い。
あたしは一生、独身でいるんだと豪語していた悠理が、いつの間にか魅録に恋をし、やがてそれが愛に変わって一人の女性として幸せを掴んだ。
想い想われ傍に寄り添い、何の変哲もないまま、順風満帆な日々を過ごしているものだとばかり思っていたのに、まさかこんな事態に陥っていただなんて。

「昔、お付き合いをされていた方とよりを戻し、ホテルに行ったところを目撃したと悠理は言ってましたけど、本当なのかしら」

別に、悠理を疑っている訳ではない。
ただ、腑におちないだけなのだ。

「誰の目から見ても、魅録は悠理を一途に想ってらっしゃるし、溺愛してますものね」

だからこそ、違和感しか覚えない。
あの魅録に限って、浮気など考えられないと。
何か他に、理由があるのではないか・・・と。

「これはもう、両方のお話を聞くしかありませんわね」

片方だけの話では真実は見えない。
魅録の言い分を聞き、悠理の話とすり合わせて判断しなければ。

「安易な事を口にして、悠理を傷つける訳にはいきませんし」

楽観的にも悲観的にもとれる言葉など、口に出来ようはずもない。
事と次第によっては、傷口に塩をぬる羽目になるだろうから。

「そうなるとやはり、魅録に直接会ってお話を聞かなくてはなりませんわね」

それも、なるべく早く。
悠理の心の傷が、広く深くならないうちに。
とは言え、いつお会いして話せばよいのやら。
今日の今日という訳にはいきませんし。
何せ、魅録は多忙を極める人だから。
などと、一人あれこれ思案しながら、居間に足を踏み入れたその時、

「よう。世話になって悪いな、野梨子」

スーツ姿であぐらをかき、微笑を浮かべながら私を出迎える魅録の姿が、目に飛び込んできた。


「み、魅録!?どうしてここに!?」

「どうしてって言われてもなぁ」

「魅録!ふざけないで下さいな」

「悪い悪い。別に、ふざけてるワケじゃねーんだけどな。まあ、単刀直入に言うと、悠理を迎えに来た」

眼光鋭く私を見据え、ズバッと言いきる魅録の様相に、思わず身震いしてしまった。
他を寄せ付けぬほどの風格、有無を言わせぬほどの圧、そんな威風堂々とした魅録の姿に圧倒された私は、体がすくみそうになるのを必死で堪えながら、言葉を返した。

「ゆ、悠理を迎えにって、どういう事ですの?」

「どうもこうも、そのままの意味だ。だって、いるんだろ?」

「いるって?」

「とぼけても無駄だ。俺には通用しねぇぞ?」

そう言いながらククッと笑う魅録は、顔は笑っていても、目は全く笑っていなかった。
どんな言い訳も許さない。
正直に言え。
じゃないと、何するか分からねぇぞ?
と、背筋が凍るかの様な空恐ろしい瞳で私を射る魅録に、これ以上とぼけるのは無理だと悟り、白旗をあげた。

「確かに悠理はここにいますわ。でも、どうしてそれがお分かりになりましたの?」

「何故だと思う?」

「・・・まさか、GPS?」

「いや、違う。悠理のヤツ、携帯を家に置いて外出しちまったからな。GPSで行方を探すのは無理だ」

「では、どうやって突き止めましたの?」

まさか、尾行しながら監視していたのではなくて!?
そんな疑惑を抱く私に気付いたのか、魅録は苦笑いを浮かべながら「単なる消去法だ」と種明かしをしてくれた。

「まず、悠理の頼る先で100%ないと確信したのは、可憐と美童だ」

「何故ですの?」

「何故って、可憐は新婚旅行中だし、美童は嫁さんと子供連れてスウェーデンに帰省中じゃねえか。もしかして、忘れちまったのか?」

・・・はい。
完全に失念しておりました。
そう言えば、お二人とも日本を離れていましたわね。
などと、胸の内で呟く私を知ってか知らずか、魅録の話は続く。

「となると、考えられるのは、野梨子か清四郎のどちらかとなる」

「でしたら、清四郎の方が可能性は高いのではなくて?」

何せ、清四郎は剣菱グループの一員として働いているし、剣菱のおじ様からの信頼も篤い。
それに、昔から悠理は何かと清四郎に頼る癖があるので、私よりは清四郎のところに向かう確率が高いのではないかいう意見に対し、魅録はそれを完全に否定した。

「剣菱に近しい清四郎の元に行けば即、義父母の耳にも入る。俺が女とホテルに行ったって話がな」

「!!」

「あの清四郎の追求に、悠理が逃れられるワケねぇだろ。見たままの事を話すに違いない。となると、有無を言わさず俺と離婚する様に迫るだろう。清四郎と剣菱の義父母はな。それが分かってるから、悠理は清四郎のところには行かない。俺との離婚なんて望んでないからな、悠理は」

「・・・」

「と同時に、剣菱や和貴泉関連のホテルにも泊まらない。何故かって?そりゃ簡単だ。宿泊記録が残るからな。例え偽名を使っても、防犯カメラにバッチリ姿が映っちまう。そんなヘマ、悠理がするはずねぇ」

「・・・本当でしたのね」

「何がだ?」

「女性と・・・その、ホテルに行かれたって・・・」

「本当だ。悠理に見られたのも知ってる」

「なっ!?」

悪びれもせず、女性とホテルに行った事を認める魅録に、私はこれ以上ないくらいの怒りを覚えた。






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