『エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人』
S・J・ベネット/芹澤 恵:訳/角川文庫(令和4年7月21日 発行)
去年の10月に読書会の課題本として『やんごとなき読者』を読んだわけですが。
先月エリザベス女王がご崩御され、今回も課題本としてふたたび女王陛下の物語を手に取ることになったのは、全然関係ないですけど感慨深いものがありますね。
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実在の人物であるエリザベス女王2世が、ウィンザー城で起きた殺人事件を解決に導くミステリー小説。
時期は2016年という設定で、女王は90歳。アメリカ大統領はオバマ氏で、安倍晋三首相もチラっと出てきます。
最高権力者でありながら探偵のように自由には動けない、周囲に仕える男性たちは女王を最大級に敬愛しながらもか弱いおばあさんとしか見ない、という状況下でいかに謎を解くかが見どころ。
●対立構造を煽る話ではなかった
女性の秘書官補を使って情報集めをすることから、最初は女が結託して男たちに抗う話かと思ったけど違いました。
ウィンザー城は女王にとって“わが家”であり、城で働く500人もの人々は家族同様。
殺されたのがロシアのピアノ奏者(ブログで政権批判する若者)だったことから、保安局のトップはロシア側のスパイとして使用人たちを容疑者に含めます。
しかし彼らの忠誠心を信じる女王にとって、これは許しがたいことでした。
最後まで読んで感じたのは、女王を軸とした相互の忠誠心、誇り、細やかな思いやりといったものでした。
それは犠牲者の家族や、いけすかない保安局のトップに対してまで徹底していて、女王の器の大きさを感じさせます。
王室に関わる各種行事、聡明で気品あふれ、誰からも愛されるエリザベス女王の描写から、作者は相当な女王オタク(王室フリークというのかな)であることもうかがえました。
つまりこれ、女王の器の大きさ素晴らしさを示すために書かれた話かもしれません。