『やんごとなき読者』
アラン・ベネット/ 市川 恵里 訳/白水Uブックス新書
英国の女王陛下が読書にハマっていく様子を描いた小説。愛犬を追ってウィンザー城の裏庭に出たエリザベス女王2世は、移動図書館の車と城の厨房で働く少年ノーマンと出会う。ここで儀礼上一冊の本を借りたことから、人生が変わっていくほど読書にのめりこんでいく。
●読書家あるあるが楽しい
最初はノーマンの助言を受けて読書を進めていく陛下だが、やがて自分で選べるようになる。そして「読書にも筋力がいる」とあるように、やがて手強い本も読みこなせるようになる。ほかにも、一つの本から読みたい本がどんどん繋がっていくことなど、読書好きな人なら共感してしまうことばかり。周囲に対する思いやりや感受性が育っていく、読むだけでなくやがて「書く」ようになるのも同様だと思う。
しかし、公務を疎かにするほど本に夢中な女王に周囲は渋い顔。あの手この手で妨害されたりもすることを理不尽に思うし、”読まない人”の多いことにも驚いてしまった。ただ、女王と”読まない人々”との間には見えない壁があり、それを思わしくないとする側近の思いも、まあ、わかる。
これも本好きあるあるだが、本が面白いと人に勧めたくなるし、好きな作家の話をしたくなる。女王陛下の場合、それがフランス大統領との晩餐会やイギリス首相との謁見、市民との限られたふれあいの瞬間などのため、始末が悪い。ゆえにユーモア感が醸し出される場面でもあった。
●一生涯“公人であり続ける”ということ
この本の面白いところは、女王という特殊な立場から、多くの人に共通する読書の魅力を教えてくれるところだろう。こんな言葉が象徴しているように思う。
本の魅力とは、分け隔てをしない点にあるのではないかと女王は考えた。(中略)
本は何者にも服従しない。すべての読者は平等である。(中略)
ふつうの人と異なる生活を送ってきた女王は、いま自分がそうしたものを渇望していることを知った。本のページの中に入れば、彼女はだれからも気づかれない存在になれる。p39
一生涯“公人であり続ける”とはどういうことか、読書を通して“私人”としての自我を育てていく女王を目の当たりにすることで気付かされることは大きい。
現役の王室をネタにここまでフィクションを作って良いというイギリスの懐の深さも感じる一冊。
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