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長生きしたければミトコンドリアの声を聞け

循環器と抗加齢医学の専門医がミトコンドリアの立場からみて、健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

守り勝つ生活習慣が健康長寿の秘訣

2016-05-17 18:08:23 | 健康
●「命のろうそく」に永遠に火を灯し続けるテロメレース
先日のブログで、ヒトの寿命を決める命のろうそくがテロメアであることをお話ししました。テロメアは細胞が分裂する度に短くなり、その分、寿命が短くなります。テロメアの短縮を阻止するためにテロメレースという酵素が働きます。人の正常細胞でテロメレースを発現し、無限に分裂できるのは生殖細胞だけに許された行為です。臓器を構成する分化した体細胞はこの酵素を欠いているため、分裂回数に限りがあります。骨髄や上皮細胞など再生系組織の幹細胞には弱いテロメレース活性があり、テロメア短縮を遅延させていますが、その分裂回数にはやはり限界があります。一方、ガン細胞は不死化制御防御システムの監視の目をくぐり抜け、テロメレースの発現を促すように突然変異しています。そのため、ガン細胞は遺伝子のコピーを永遠に作ることが可能です。

●テロメアが決める人間の最長寿命、120年
人間の体細胞はテロメレース活性を持たず、誕生の時点で一万から15,000塩基対あるテロメア長は、異なる組織であっても、およそ年間100塩基対ほど短くなっていき、細胞増殖の限界である5,000塩基対に近づきます。これは、人間の最長寿命が120年ほどである事実とほぼ一致しています。人間の最長寿命は日本人の平均寿命が20歳に満たなかった縄文時代から今日まで変化していないと考えられています。しかし、人間が感染症などで早逝していた時代にはテロメアが寿命を左右するようなことはほとんどなかったに違いありません。人類にとってテロメアの存在がが重要な意味を持つようになってきたのはごく最近のことなのです。

●テロメア長とは無関係に早死にするマウス
マウスの体細胞は人間よりもテロメアが長いにも関わらず20回くらいしか分裂できず、マウスの最長寿命が3年足らずであることと相関しています。人間よりも寿命の短いチンパンジーを含む霊長類でもテロメア長は4万から5万塩基対もあり、一生のうちに細胞増殖限界までテロメアが短縮することはありません。したがって、これらの動物においてテロメアと老化との直接的な関連は疑問視されています。短命な動物は、テロメア長よりも、フリーラジカルなどで傷んだ遺伝子を修復する酵素の働きが弱いことが原因で早く細胞分裂が停止し、老化に至ると考えられています。

●生活習慣の改善がテロメアの短縮を防ぐ
テロメレース活性を人工的に高めることによって人の寿命が延長するか否かは議論のあるところです。幹細胞や、ある種の体細胞の寿命はテロメレース活性を高めることによって延長すると考えられますが、結局はガンの発生を許し、個体の寿命は逆に短縮すると予想されます。
テロメアの減り方にも環境要因が大きく影響しすると言われています。好ましくない生活習慣はテロメアの短縮を早めます。したがって、薬剤や遺伝子操作などで人工的にテロメア延長を図るよりも、生活習慣を改善してミトコンドリアからの活性酸素の放出を抑え、心筋細胞や内皮細胞の未熟死を予防し、細胞分裂の頻度を減少させることでテロメア短縮を食い止める方が安全で理にかなっています。

●寿命はエラーの数だけ短くなる
遺伝的に決められた種の最長寿命が「プログラム寿命」で、人ではテロメアの長さと密接に関係しています。
ギネスに残る世界最高齢の記録はフランス人女性ジャンヌ・カルマンさんの122歳です。人間のテロメアの長さに鑑みれば、ジャンヌ・カルマンさんは最長寿命を全うしたことになります。
多くの人はなぜこの年齢まで生きられないのでしょうか。それは、私たちのDNAがテロメアによってプログラムされた寿命よりずっと以前にダメージを受けてしまうからです。細胞生物学者の高木由臣氏は著書『寿命論』でその理論を以下のように展開しています。生物は発生開始以降、遺伝子にはもちろん、細胞や組織にもさまざまなエラーが生じ、そういうエラーの蓄積にもとづく老化の結果としての寿命が「エラー寿命」であるという考え方です。「エラー寿命」はほぼ「平均寿命」となって現れます。日本人の平均寿命は女性約86歳、男性80歳ですから、最長寿命と比較して30年以上短くなっています。この最長寿命と平均寿命の隔たりはエラーがもたらすと考えられるのです。
DNAは自身の複製や、主としてDNAの遺伝情報を翻訳する役目を担うRNAへの転写といった生命活動の必須課程で確率的に発生するエラーによって傷つきますが、ミトコンドリアが放出する活性酸素はその確率をさらに高めます。DNAの傷、すなわち突然変異に対して通常は細胞自身の高度な修復機能が働きます。ところが修復機構自体もエラーの対象となるため、膨大なゲノム(遺伝情報)と複雑なシステムを有する人の体が完全なエラーフリーの状態を維持することはできません。時間とともに正味の突然変異量が増加し、突然変異したDNAから作られる異常なタンパク質が蓄積して、細胞は正常な機能を維持できなくなってきます。

●エラーが蓄積した細胞は排除される
細胞に蓄積したエラーはアポトーシス(プログラム細胞死)をもたらします。その結果、失われた細胞を補うために周りの細胞の分裂頻度が高くなります。これはプログラムされた以上の速さでテロメアを短縮させることになります。人間の生存にとって不可欠な重要臓器を構成する細胞の多くがある一定の分裂回数に到達し、それ以上分裂できなくなると個体は生命を維持することができません。これが老衰です。
例えば末梢リンパ球の平均テロメア長は、早ければ60歳を過ぎる頃から分裂不能な長さにまで短縮するため、一部のリンパ球が増殖不全に陥り、免疫機能の低下や異常が起こる可能性があります。
メタボリックシンドロームのように常に内臓脂肪由来の炎症性サイトカインに曝され、活性酸素による損傷と修復を繰り返す血管内皮細胞では、分裂の頻度が亢進してテロメアが短縮し、血管の修復不全により動脈硬化が進行すると考えられます。
また、すべての細胞が与えられたテロメアによって規定された分裂回数を全うできるわけではありません。放射線やフリーラジカルによってDNAに傷がつき、修復が困難と判断されれば、その時点で細胞はアポトーシスにより排除されます。失われた細胞を補うために健常な細胞が分裂しなければならず、健常な細胞のテロメアが短縮します。このように仲間の死は、周りの細胞の寿命にも影響を与えます。
慢性肝炎では、常に一定の割合で肝細胞が死を迎え、肝臓の機能を維持するために残った肝細胞が分裂します。肝細胞の分裂、増殖が肝細胞死に追い付かなければ、失われた肝細胞は線維性組織で置き換えられ、肝硬変となります。やがて肝細胞の分裂が限界に達すると一部の肝細胞はアポトーシスを免れるように遺伝子を変化させ、またテロメレースを発現して無限に分裂する能力を獲得するようになります。これが肝ガンです。したがって、ガンもまた、エラーに基づく老化の一つの発現様式です。

●生活習慣に伴うエラーが寿命を短縮する
心筋梗塞や脳卒中も、好ましくない生活習慣に伴うエラーが集積した結果引き起こされた動脈硬化によって発症します。
心筋梗塞では、動脈硬化をおこした冠状動脈が血栓によって閉塞し、心筋細胞への酸素と栄養素の供給が突然途絶えるなくなるため、心筋細胞は主としてネクローシス(壊死)によって死にます。心臓には心筋幹細胞が存在し、これが増殖・分化して失われた心筋細胞をある程度は補填します。しかし、細胞分裂の亢進はテロメアを短縮させ、プログラムされた以前に心筋幹細胞は死を迎えます。また、ネクローシスで死んだ心筋細胞がもたらした炎症によって、周りの心筋幹細胞のDNAが損傷を受けます。その結果、多くの心筋幹細胞はプログラムされた寿命以前に分裂できなくなります。そうなると、機能する成熟心筋細胞の数は次第に減少して心臓はポンプ機能を果たすことができなくなり、心不全に陥ると考えられます。
脳卒中は不可逆的な神経細胞の減少をもたらします。神経細胞もある程度再生能力のあることがわかってきていますが、神経細胞の再生が、脳梗塞などで広範囲に失われた脳の組織を補填することは期待できません。手足のマヒなどの日常生活に支障をきたす合併症が引き起こされることになります。
脳の細い血管が動脈硬化によって詰まることで起こる小さな脳梗塞をラクナ梗塞と呼びます。ラクナ梗塞はそれ自体が小範囲であっても、複数の箇所で頻回に起こると、多くの神経細胞が失われ、やがて脳血管性認知症へと進行していきます。

●個人の寿命=最長寿命-エラー数
 個人の寿命は、最長寿命からエラーの数だけ引き算した長さです。組織や細胞にエラーが集積した結果、ガン、心筋梗塞、脳卒中といったアクシデントが発生すると、細胞寿命に関係なく個人の寿命はさらに短くなります。すなわち、細胞の寿命、ひいては個体の寿命を最長寿命よりも短縮させる要因は、酸化ストレスなどがもたらすエラーです。このエラーの数を増やすのが飽食、運動不足や喫煙といった好ましくない生活習慣なのです。
野球もそうですが、結局エラーの多いチームが負けるのです。そこで、守りを固める生活習慣、すなわち活性酸素によってDNAを傷つけないことや、細胞の中に有害な物質を貯めない生活習慣が人生で勝ちを収める重要なファクターとなってきます。私たちは守り勝つ人生を送れるよう、努力したいものです。

このブログは風詠社出版の『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』の一部を抜粋、編集したものです。小著では少子高齢化社会を生き抜く真のサクセスフル・エイジングとは何かをテーマに、健康長寿を目指す「人」と「社会」に向けてミトコンドリアの立場と視点からメッセージを送っています。


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