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長生きしたければミトコンドリアの声を聞け

循環器と抗加齢医学の専門医がミトコンドリアの立場からみて、健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

オートファジーを活性化したければ、ダイエットしなさい

2016-10-04 07:54:45 | 健康
昨日、東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏が2016年度のノーベル医学生理学賞を受賞されました。オートファジーのメカニズム解明に貢献したことが高く評価されたものです。近年、オートファジーがヒトのがんや老化の抑制にも関係していることが判明しており、疾患の原因解明や治療などの医学的な研究につなげた功績は計り知れません。

オートファジーとは細胞内のタンパク質分解システムです。オートファジーは飢餓状態で誘導されます。飢餓によって誘導されるオートファジーの目的は、自己の細胞質成分を分解し、その分解産物を栄養素として確保することですが、同時にオートファジーは細胞の中で自然保護推進派の基本理念である「有害なゴミの減少」と「ゴミの再使用、再生利用」をも実行しているのです。

オートファジーが誘導されると、オートファゴゾームと呼ばれる隔離膜が細胞質内に形成され、過剰であったり、損傷を受けたりした細胞内小器官を分解します。ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給する細胞内小器官ですが、加齢と共にミトコンドリアの機能は低下します。電子伝達系が老朽化し、活性酸素を大量に放出するミトコンドリアもオートファジーによって排除されます。これはマイトファジーと呼ばれています。働きが悪く、会社に迷惑をかけるような社員はリストラされるのと同じということです。

異常な高分子が徐々に蓄積していくことが個体老化に関与している可能性が指摘されています。特に、細胞分裂の停止した神経細胞にとって、オートファジーは異常物質の除去を効率よく行う大切な機能です。アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では、細胞内に異常なタンパク質や劣悪なミトコンドリアが蓄積し、神経細胞がアポトーシスで死んでいくことが発症原因の一つと考えられています。

オートファジーの抑制はガン細胞の増殖にも重要な役割を果たしています。オートファジーの抑制は、細胞内に異常なタンパク質を蓄積させ、発ガンを促す刺激となります。

さて、このオートファジーと密接に関連するのがmTORという酵素です。mTORは細胞内でオートファジーを抑え、異常なタンパク質をため込んでいます。私たちの日常生活では、糖を代謝するインスリンがmTORを活性化しています。インスリンの作用は糖を代謝するだけではないのです。インスリンはmTORを介してオートファジーを抑制しているのです。ですから、糖質をたくさん摂ると、インスリンの分泌が過剰になり、オートファジーが抑えられて老化が進むのです。

カロリー制限化ではmTORの不活性化によってグローバルなタンパク質合成は低下しています。しかし興味深いことに、mTORの不活性化はミトコンドリア電子伝達系複合体に属する遺伝子の発現をむしろ上昇させていることが報告されました。

ミトコンドリアが老化すると、活性酸素によって内膜の脂質成分であるカルジオリピンが酸化され、ミトコンドリア電子伝達系複合体の機能が低下します。これは、エネルギー産生を低下させるだけでなく、電子伝達系から電子のリークを助長してさらなる活性酸素の増加を促します。mTORの不活性化によるミトコンドリア電子伝達系複合体タンパク質の増加は、障害を受けた電子伝達系の機能を正常化し、オートファジーで排除されたミトコンドリアの再生を手助けするのに好都合です。このことも、カロリー制限が老化を遅らせるメカニズムの一つであると考えられます。

なぜ、ダイエットがアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患やガンを予防するのか、おわかりになったでしょうか。次回は運動がオートファジーを活性化するメカニズムについてお話しします。

このブログは風詠社出版の『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』の一部を抜粋、編集したものです。小著は真のサクセスフル・エイジングとは何かをテーマに、健康長寿を目指す「人」と「社会」に向けてミトコンドリアの立場からメッセージを送ります。

美人長命の時代

2016-02-15 15:57:40 | 健康
美人薄命という言い伝えがあります。その昔、線の細い美人は若くして亡くなる傾向があったのです。恋を実らせることなく短い一生を終える姿が美人薄命の典型的な物語でした。

栄養状態が悪く、有効な化学療法がない時代には、結核が美人薄命の代表的な病気でした。結核は、食べても太らない免疫力の弱い体質の人が罹りやすい病気です。その後、化学療法の出現によって結核が不治の病でなくなってからは、白血病が美人薄命を象徴する代表的な不治の病になりました。

1970年に世界中で大ヒットした『ある愛の詩 (Love Story)』という映画は、ジェニーという女子大学生のヒロインが、裕福で代々ハーバード大学出身という家柄のオリバーと社会的な偏見を乗り越えて結婚しますが、幸福な生活もつかの間、白血病に侵されて亡くなるという悲しい愛の物語でした。当時私はまだ高校生でしたが、感動的な情景とともに、映画音楽の巨匠フランシス・レイが作曲した美しいピアノの旋律が今でも心に残っています。

その後、日本でも白血病は映画やドラマのヒロインが演じる定番となりました。しかし、白血病でさえ治療可能となった今では、美人薄命の原因となる病気は見当たらないのです。

日本人女性の平均寿命が世界的に見ても非常に長くなったことは、日本には美人が少なくなったことを意味しているのでしょうか。そうではありません。現代の女性は医学の発達によって「美」と「長寿」の両方を手にすることが可能になったのです。

あくまでも一般的な傾向として、線が細い美人は幼少の頃には病気になりやすい体質を持っています。しかし、その体質は、若い時さえ無事に乗り切れば、老化しにくく、いつまでも若々しくいられる体質でもあるのです。逆に、若いときに頑丈で病気一つしなかった人は、生活習慣病に陥りやすく、心筋梗塞や脳卒中に罹る危険性が高いと言えます。「憎まれっ子、世にはばかる」時代は今後も続くでしょう。しかし、「美人長命」の時代もやってきたのです。

このブログは風詠社出版の『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』の一部を抜粋、編集したものです。小著では少子高齢化社会を生き抜く真のサクセスフル・エイジングとは何かをテーマに、健康長寿を目指す「人」と「社会」に向けてミトコンドリアの立場と視点からメッセージを送っています。

急がれる心肺蘇生法の普及

2014-04-23 14:08:30 | 健康
昨日NHKの報道番組で、体育の授業中に突然の心肺停止で亡くなった12歳の少女を悼み、「AEDによって救える命」という特集が放送されました。「もっとAEDを普及させ、心臓突然死を防ごう」という全国的なキャンペーンの一環です。

わが国では年間約7万人の方が心臓突然死で亡くなっていると言われています。心臓突然死の多くは心室細動と呼ばれる不整脈が原因です。これはAED(automated external defibrillator)で救える不整脈です。何かの原因(高齢者では心筋梗塞が最も多く、若年者では心臓内の電流異常が多い)で心臓のいたるところで電気回路が形成され、心筋の細胞が勝手気ままに収縮を始めて心臓がポンプとして機能しなくなった状態が心室細動です。心室細動では血液は心臓から全く駆出されず、物理的に心停止と同じ状態になります。5分以上心室細動が続くと、脳は不可逆的な障害を受けます。近年、いろいろな施設でAED が設置されているのは、この心室細動を治すためです。

AEDを含めて、もっと心肺蘇生を普及させようという動きが活発になっています。AEDがなくても心室細動の患者さんを救命することは可能です。現場に居合わせた人が立会人(バイスタンダー;bystander)として心肺蘇生を開始することです。これを一次救命処置 (basic life support; BLS)と呼んでいます。これまでBLSは、マウスツーマウス補助換気+胸骨圧迫 (いわゆる心臓マッサージ)が推奨されていました。しかし、マウスツーマウス補助換気がバイスタンダー心肺蘇生の障壁になっていたことは否めません。最近の研究から、胸骨圧迫のみでも従来のマウスツーマウス補助換気+胸骨圧迫と遜色のない救命効果が得られることがわかっています。これは、たとえ肺で酸素加されていない静脈血であっても、脳に循環させることが大切であることを意味しています。静脈血の酸素は乏しいですが、ブドウ糖が含まれています。正常動脈血の1% の酸素が血液中にあれば、ブドウ糖を利用して脳のミトコンドリアは働くことができるからです。

現在、心室細動患者さんの予後は3極化しています。かつて、救命医療が普及していなかった頃には病院外で心室細動の患者さんが救命されることはまずありませんでした。最近は、救命救急士による心肺蘇生が確立されているので、救命救急士が到着する前にバイスタンダー心肺蘇生によって有効な胸骨圧迫が施行されていれば、心室細動の患者さんもほとんど障害を残すことなく社会復帰を遂げています。総務省消防庁によれば、わが国では電話で通報してから現場に救急車が到着する平均時間は8分とのことです。これは驚くべき早さと言わなければなりません。しかし、残念ながらバイスタンダー心肺蘇生がなければ、心肺停止からたとえ8分後に救命救急士が到着しても多くの場合は重篤な脳障害を残し、回復しても植物状態となって社会復帰が困難となるケースがほとんどです。もし、バイスタンダー心肺蘇生がなく、30分以上たっても救命救急士が現場に到着しなければ、残念ながら救命の可能性はほとんどありません。すなわち、患者さんの運命を左右するのは医療従事者ではなく、その場に居合わせた家人、友人、隣人、または見ず知らずの赤の他人なのです。

たとえAEDが設置されていても、心肺蘇生がきちんと行われず、AEDの使い方がわからなければ宝の持ち腐れです。わが国では1年間に5万人以上の人が突然の心肺停止で亡くなっていると言われています。その中で、半分以上の人は、正しい心肺蘇生で社会復帰ができるはずです。必要なことは、誰もが躊躇せず心肺蘇生に着手できる社会的な環境を整備することです。最近では、医療従事者のみならず、一般の方々を対象としたBLSの実施方法やAEDの使用法を指導する講習会が盛んに開催されています。しかし、残念ながらまだBLSが社会に広く認識されているとは言えません。日本中のすべての人が勇気を持って心肺蘇生法を実践できれば、1年間に何万人もの命が救えるのです。義務教育期間中にBLSを必修とするカリキュラムの作成が急がれます。

放射能漏れ原発と同じくらい恐ろしい飽食による内部被曝

2014-01-27 18:57:11 | 健康
福島原発事故による放射能汚染が深刻な社会問題に発展しています。実は私たちの体の中にも原発があり、加齢やよくない生活習慣によって内部被曝による健康被害をもたらすのです。その原因はミトコンドリアです。

ミトコンドリアは私たち動物細胞の中に住み、酸素を利用してエネルギーを作り出す細胞内小器官です。生命の進化は約20億年前にミトコンドリアの祖先である真性細菌が、私たちの細胞の祖先である古細菌に共生したところから始まりました。ミトコンドリアを取り込むことによって古細菌は莫大なエネルギーを手に入れることができるようになり、細胞へと進化、さらに多細胞生物に進化して人類にまで至っています。ミトコンドリアは生命進化の立役者であり、私たちの生活になくてはならない生き物なのです。ところが、よくない生活習慣によってミトコンドリアから発生する猛毒の酸素が病気や老化と深く関わっていることがわかってきました。

ミトコンドリアは細胞内のエネルギープラントとして、食物から取り入れたブドウ糖や脂肪酸を使ってATPを合成しています。ATPは細胞内のどのようなエネルギーにも変換することができる細胞内通貨です。しかし、このエネルギープラントには大きな問題があります。それは、ミトコンドリアが酸素を用いてブドウ糖や脂肪酸をATPに変換する時、水(H2O)だけではなく、酸素由来の有害な活性酸素も一緒に放出してしまうことです。活性酸素とは普通の酸素に比べ著しく反応性が増した酸素を指します。このような活性酸素にはフリーラジカル(不対電子を持った過激分子)であるスーパーオキシド[Superoxide(・O2-)]やヒドロキシラジカル[Hydroxyl radical(・OH)]に加え、フリーラジカルではありませんが、同程度に反応性の高い過酸化水素(H2O2)や酸素が紫外線と反応して生成される一重項酸素 (1O2)が含まれます。過酸化水素はその中でも比較的安定なため、衣料用漂白剤として利用されています。過酸化水素はオキシドールという殺菌剤として、傷の消毒に用いられたこともあります。小学校の時、過酸化水素に触媒として二酸化マンガンを加えて水と酸素を発生させる理科の実験を覚えておられる方も多いと思います。スーパーオキシドと過酸化水素が二価の鉄イオン(Fe2+)の存在下で反応すると、ヒドロキシラジカルという非常に反応性が高く最も危険なフリーラジカルが生成されます。

ミトコンドリアが放出する活性酸素は動脈硬化やガンなど、さまざまな病気や老化と深くかかわっています。動物はミトコンドリアという原子力プラントを持ったことによって活性酸素による病気や老化から逃れられない宿命を背負ったのです。フリーラジカルが老化の原因であるという、「老化のフリーラジカル仮説」は1956年にアメリカ、ネブラスカ大学のデンハム・ハーマン博士によって提唱されました。人間が生きていくうえで必然的に産生されるフリーラジカルがDNAやタンパク質などの高分子を変性させて細胞機能の異常をもたらし、その蓄積が老化となって現れるという説です。DNAの損傷や突然変異は、遺伝情報に基づいて作られるタンパク質に異常をもたらし、細胞機能を劣化させます。突然変異は発ガンの原因ともなります。細胞膜やミトコンドリアを含む細胞内小器官もすべて酸化されやすいリン脂質やタンパク質からできています。リン脂質に含まれる不飽和脂肪酸が酸化されると過酸化脂質になります。加齢臭の原因となるノネナールは、皮脂腺の中のパルミトオレイン酸という脂肪酸と過酸化脂質が結びつくことによって作られた物質です。過酸化脂質はタンパク質とも結合してこれを変性させます。タンパク質は生物の構造を決定し、すべての生命現象の源となっています。タンパク質が酸化されると、体の構造が破壊されるのみならず、物質の輸送、栄養の貯蔵、筋肉の収縮や感染症に対する免疫が損なわれます。また、酸化ストレスはこれらの機能を調節するシグナルとして働くタンパク質にも異常をきたし、私たちの体を正常に維持することができなくなります。フリーラジカル仮説は、これのみで老化のすべてを説明できるわけではありません。また、フリーラジカルすべてが有害ではありません。しかしこの説は、50年以上経った今日でも「酸化ストレス仮説」と名前を変えて多くの研究者に支持されています。

ここで、放射能と活性酸素の話題に移ります。東日本大震災後に発生した福島原発の放射能漏れによって放射能の人体に及ぼす影響が問題となりました。放射能の生体への障害作用には直接作用と活性酸素を介した間接作用があります。「放射線は放射能を発する能力」と定義されます。放射線に曝されたとき、人体内では何が起こっているかというと、活性酸素が発生します。放射線は、細胞内の水に高いエネルギーを与えてスーパーオキシドやヒドロキシラジカルに変化させます。これらの活性酸素を利用してガン細胞を退治するのが放射線治療です。つまり、放射能の細胞毒性は活性酸素に由来するのです。活性酸素はDNAを攻撃して染色体に異常をもたらします。それによって放射線治療を受けたガン細胞は増殖できなくなってしまうのです。一方、正常な細胞は活性酸素によって死滅するだけではなく、生き延びた細胞はガン化しやすくなります。活性酸素はDNAの突然変異を引き起こし、また染色体の異常を監視して発ガンを抑制しているタンパク質の構造を変化させ、細胞が異常な増殖を起こしやすくするのです。

活性酸素は、エネルギープラントであるミトコンドリアで絶えず産生されています。ミトコンドリアで活性酸素が産生される場所は電子伝達系と呼ばれています。そこでは、ブドウ糖や脂肪酸由来の電子が酸素と結び付いてATPを合成していますが、その際に電子伝達系から電子が漏れ出し、活性酸素を産みだします。この活性酸素の割合は、性能の優れたミトコンドリアでは酸素消費量の1% 以下ですが、性能の悪いミトコンドリアでは2~3%に達すると言われています。ミトコンドリア電子伝達系は加齢とともに機能が低下し、電子が鬱滞しやすくなって、活性酸素を作る割合は増加します。加齢にしたがって酸化ストレスが増大するのはこのためです。また、飽食で電子伝達系に供給される電子が過剰になり、運動不足で電子の流れが滞れば、電子伝達系から漏れだす電子の量は益々増え、活性酸素の産生もそれだけ増えることになります。

自然界には放射能を持つ物質が広く存在し、私たちは絶えず一定量の放射線を浴びていますが、この程度の放射能は人体に影響を与えません。問題なのは私たちの生活習慣です。私たちは飽食や運動不足といった好ましくない生活習慣によって、自然の放射能を浴びる以上に危険な活性酸素に曝されて生きています。飽食や運動不足によってミトコンドリアから放出された活性酸素を内部被曝することは、原発から漏れ出た大量の放射能を被曝するのと同じくらい健康被害があることを肝に銘じなければなりません。

このブログは風詠社出版の小著『長生きしたければミトコンドリアの声を聞け』の一部を抜粋、編集したものです。小著では少子高齢化社会を生き抜く真のサクセスフル・エイジングとは何かをテーマに、健康長寿を目指す「人」と「社会」に向けてミトコンドリアの立場と視点からメッセージを送っています。私たちはミトコンドリアの声に真摯に耳を傾け、幸福な少子高齢社会への道を歩んでいかなければなりません。それこそが、ミトコンドリアがリードした生命進化の頂点に君臨する人類の責務であると思うのです。