よんたまな日々

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旅物二本(「地球のはぐれ方」「地獄のドバイ」)

2008年07月08日 | 読書
最近、パナ子のお勧めで、世界遺産を巡る旅など綺麗な旅番組を見ることが多い。ツアーなどで厳選された名所だけを巡る旅とかに参加すると、そういうのを簡単に体験できるでしょうし、商業主義の典型的実例でもあるのだが、そういうのに完全に背を向けた紀行本(?)を二つ読んだので、紹介します。

一つ目は村上春樹・吉本由美・都築響一の共著で「地球のはぐれ方」。すいません、村上春樹以外のお二方を知りませんでした。あとがきで村上春樹本人がそこにいるのに、みんなその人を村上春樹だと思わないエピソードが二つ載っていてそれも面白かったのですが、文壇の有名人に勝手にいろいろ期待する人たちというのが世の中にはいろいろいるんだなぁと。僕は村上春樹のスノビズムにずっと文句を言っているのですが、それ以上にコテコテスノッブな人が世間にはいっぱいいるようで。
そのスノッブの典型がきっと日経大人のオフなどを読んで、極薦大人の温泉宿なんかに泊まったりするんだろうなと。で、これはあえてそういうところを避けて、微妙なところを旅して楽しんでしまいましょうという企画です。
具体的な訪問先を列挙すると、名古屋、熱海、ハワイ、江ノ島、サハリン、清里。
名古屋って、まあ出張でよく行くし、豊田のご近所だし、そんなに変なの?って思ったんですが、まあ、この本を読むと多少変です。コーヒーぜんざいとか、鉄板焼きスパゲッティとか、一部大阪でも見かけるものがありますが、きちんと掘り出すと独自文化圏を築いていて、しかもその独自性に全く無自覚であることが面白い。大阪の独自性なんて、ケンミンショーやなんやらですっかり売り物になっていますが、それに比して、名古屋の人は全然商業主義に毒されてないように見えます。まあ、エビフリャーとかは昔から有名ですが。
その名古屋の微妙な変さを納得させられた後に出てくるのが熱海です。関西人からすると、箱根とならぶ観光地の一つくらいの知識しかないのですが、実は社員旅行で一度熱海には行ったことがあります。でも、旅館で宴会と土産物を買う以外にやることがなく、まあ全くフリータイムのない社員旅行というか、単なる泊りがけ宴会だったので、別に何とも思わなかったのですが、つーか熱海という土地がどういうところか全く知らないで済ます旅行ってどうよって思ったのですが、この本を見ると、商業的旅物があえて目をそらすすごい観光地がいっぱいあります。最後にみんなで熱海旅行反省会をするところで、箱根に比べてコンフォタビリティが悪いみたいな悪口が出掛かってそこから熱海再生議論に行くのですが、まあ、反商業主義的見地からすると、この半周遅れ感がなかなか楽しいのではないんでしょうかというそういう話です。熱海に妙に関西人のおばちゃんが多いことを不思議がっていましたが、まあそういうおばちゃん達は、箱根も熱海も一緒だと思って、同じなら安いほうの熱海を選んだのでしょう。関西のおばちゃんにこういう熱海を勧める旅行業者の商魂こそたくましけれと思うんだけど、おばちゃん達は、きっと旅行が終わって帰ってきてからうちで東京の悪口をきっと言いまくるんでしょうなぁ。まあ、東京の人達はそういうおばちゃん達に箱根を荒らされたくないでしょうから、ある意味共存共栄なのかもしれんが。

次がハワイです。海外旅行はヨーロッパというブランドができつつあり、しかもハワイでもワイキキビーチとかじゃなく、オアフとかそちらの観光がさかんになりつつある時代にあえて、昭和時代それも戦後から海外旅行自由化の直後くらいまでの世代が憧れたワイキキビーチで濃い観光をしてみませんかとの企画。まだ、その時代の観光資源が残っているんだと驚いたのですが、コテコテ白人観光客(おそらく米国本土からの)向けに結構残っているという話でした。ただ、正しいマイタイとチキ・バーは絶滅の危機に瀕しているそうです。
ここもかつて日本人が大量に観光客として襲い、大量に収奪して文化破壊を行い、そして去っていった有様が克明に描写されていて、商業主義の罪というのをちょっと考えさせられる章です。まだホノルルマラソンは現役で、しかもその旧商業主義的なスタイルでの成功というものを村上春樹が見事に文章化しています。
最近の池澤夏樹的フラブームというのは、われらの親世代がハワイで犯した罪に対する贖罪ではないかとも思った。そしてそういうのは非常に大切なので、正しくフラを学んでください、日本のみなさん。

ああ、短く書こうと思ったのに、いっぱい書いちゃったよ!ということで、ここから早送り。
江ノ島はまだ観光名所であり続けているのですが、ここに一泊して江ノ島の裏側を巡りましょうという企画。こんなに濃い裏側があるなんて、みんな知らないでしょう。
そして、サハリン。こちらは観光開発前です。日本の商業主義は日本の国土をくまなく覆っていて、そういう安全で快適な旅行に慣れた人には衝撃的な経験です。水曜どうでしょうさん達にぜひ突撃体験して欲しい。北海道からも近いですし。(早送り中ですので、ちょっと無責任)。
そして、清里!いや、なんかバブルの名残りつーか、バブル前の名残りつーか、80年代って、なんでこんな恥ずかしく思うんだろうっていうその恥ずかしいところど真ん中です。
その頃、僕は貧乏学生なので、これに手が出なくてひたすら指をくわえてうらやましがっていたものですが、手を出すほどのものでもないですね。
つーか、学生時代の憧れのマドンナが、今はイタイおばさん芸人になっているような、そんな恥ずかしい感じです。これについて具体的に書き始めたら、うちの奥さんからまたルサンチマン攻撃を受けそうなのでやめておきますが。みんなが記憶の奥に葬り去ろうとしていたここを選んだ人のセンスはすごいと思う。

というわけで、いやあ、面白い紀行物でございました。もう満腹です。
というところで、二冊目

峰山政弘著 「地獄のドバイ」出版:株式会社彩図社
さきほどの本を紹介するときに、商業主義的旅物の話をしましたが、この一年くらい、商業主義的旅行業界が、新しいリゾート地として熱心に紹介しているのが、このドバイです。
あと、投資関係でもよく名前が出てきます。日本はバブルという恥ずかしい体験をして、多少色々なことを学んだと思いますが、こちらはバブル真っ盛りです。
神田うのが地上の楽園と紹介したその裏側を暴くという感じの本で、お金が集まるところには自然と犯罪者も集まってくるので、バブル真っ盛りというのは、犯罪と隣り合わせということなのです。
著者はドバイのすし職人を目指してドバイに渡り、そこで、予想外の就職をし、就職先の会社が倒産した際に、なぜか外国人共同経営者は有罪になるという法律に基づいて逮捕・投獄されてしまうという目に遭います。
ちなみに、Wikiで、死刑の項目を調べると、強姦被害を訴えた女性がその犯人に対し有罪であることを証明できなければ死刑になってしまうというすごい制度が中東の国にはあるそうです。当たり前ですが、日本の常識は他国では通じないので、気をつけましょうという話です。
ただ、神田うのならきっと体験できないドバイ旅行の話なので、非常に興味深いことは確かです。

ここまで紹介した二作品。アンチ商業主義という観点からの名作ですが、いずれも普通の本屋さんで売っています。ちなみに二作品とも、旅行先に建築されているブランド系美術館に対し、地元の美術をもっと奨励しましょうよと言っているのも、奇妙な偶然の一致で面白かったです。


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