横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

大動脈閉塞バルーンによる大動脈遮断と出血のコントロール

2020-05-29 15:35:52 | 大動脈疾患


 前回、腹部大動脈瘤破裂に対する左開胸、下行大動脈遮断による救命処置について言及しましたが、より、スマートな方法として、下行大動脈内に大動脈閉塞バルーンを挿入し、それを膨らませることで大動脈遮断して腹部大動脈瘤破裂の出血を制御する方法があります。大動脈閉塞バルーンは経カテーテル的に左上腕動脈から挿入することが一般的で、報告しているのを聞いたところ、閉塞するまで20分以上かかることが多いとのことでした。血管の蛇行がなく簡単にガイドワイヤーが進む症例は短時間で実施可能ですが、上腕動脈は屈曲している症例も少なくないため、造影CTで屈曲蛇行がないことが条件となります。20分かかるとすると、2分で開胸、5分で下行大動脈遮断という方が現実的かもしれませんが、下行大動脈遮断も大動脈閉塞バルーンも技術的に難しい場合もあるため、手技の習熟が必要であり、やはり慣れていて確実な方法を選択するというのが緊急の判断として必要です。
 バルーンによる閉塞では、大動脈圧や人工心肺による送血圧に負けて閉塞位置がずれたり、それによって遮断が不十分になる可能性があり、また、遮断部位が血管吻合などの近くの場合は縫合針でつついてバルーンを破裂させたり、手技の刺激だけでバルーンが破裂することもあります。こうした手技実施中は破裂て突然大出血するかもしれないということを想定の上、手術操作をしなければなりません。こうしたときの突然の大出血は、心臓が止まってしまうほどの血圧低下を呈することが多く、瞬時に大動脈遮断するなどの止血手技を行う必要があります。バルーンで遮断しておきながら、万が一の遮断ができるような部位を確保し、さらに遮断鉗子を瞬間にできるように手中に置いておくことが必要です。
 まさにこの、遮断鉗子を手の届くところに置いておく様というのは、突然襲われてもいいように食事しているときも拳銃をテーブルの上、しかも右手で直ぐにとって撃てるところに置いておくようなものです。
 ちなみに筆者は、幼少期に親から、夜寝る前に必ず枕元に着るものを準備して寝るようにとしつけられていました。万が一の時にとっさに衣服を着て逃げられるようにと。まさかその教訓をその後本当に実践することがあろうとは予測もしませんでしたが・・・。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コードブルーの山ピーのよう... | トップ | ブルーインパルス医療関係者... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

大動脈疾患」カテゴリの最新記事