横須賀うわまち病院心臓血管外科

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高血圧と塩分

2018-09-17 05:51:22 | 心臓病の治療
 塩はうまみ成分として美味しい食事にはかかせないものです。玄関先に置く「盛り塩」は、かつて平安時代、通い婚において、男性がより頻繁に妻の家を訪れるように、という願いを込めて置かれたのが始まりと聞いたことがあります。盛り塩に牛が引き寄せられる習性を利用して、その当時の交通機関である牛車に乗った男性を引き寄せる意味があるのだそうです。日本料理のお店の前に置いてある盛り塩も、客を引き寄せるおまじないとして置かれているということなのでしょうか。それだけ昔も今も、塩は人を引き寄せるものです。塩の専門店「マース―屋{〼屋}(マース―は沖縄の言葉で塩の意味・石垣島が本店でしょうか」に行くと様々な塩が売られていてたくさんの人を惹きつけています。秋田の「ノンベエ=飲兵衛=呑兵衛(酒好きな人)」は、升の角に塩をもって、塩をつまみに日本酒を飲む、という体にものすごく悪い習慣を実践し、かつての日本一の高血圧県が形成されました。
 味で人を惹きつけるだけでなく、重要な戦略物資でもあり、「敵に塩を送る」などのことわざにも用いられています。


 それだけ人を惹きつける塩(NaCl)は、体液(血液、組織液)に含まれる電解質の主要成分です。人の体は塩と水でできている、といっても過言ではないほど重要成分です。体液の塩分(電解質)濃度を一定に保つことは、細胞一つ一つが生きていくためにの絶対条件です。細胞の活動は、体液の塩分と、細胞内の塩分濃度との差に大きく影響されており、この塩分の調整を腎臓や消化管の吸収、排泄などで調節しています。塩を多く摂取すると、体液の塩分濃度が上昇するので、それを薄めて一定の濃度にするために、水で薄めることになり、その分、体内に水分貯留が起きることになります。これが、血液量が過剰になる理由で、血圧が上昇したり、浮腫みの原因となります。ラーメンを汁まで全部飲むと顔が浮腫むのはこの現象に由来します。同時に血圧も上昇します。ラーメンは、汁が塩分が多いので、お湯で薄めて汁を全部飲んだ、なんてことを笑い話として聞きますが、薄めた分、体積が増えた分を体に摂取するので、濃度は生理的でもこれでは体液=血液が増えて、血圧上昇の原因となります。逆に水だけを飲んでも、これだと体液の塩分濃度が薄まってしまうので、すぐに水分は排泄されてしまい、血圧上昇にはなりません。塩分をいかに多く取るかが最も血圧に影響します。

 腎臓が悪くなると、この塩分調節機能が低下するので、塩分が体内に貯留して血圧が上昇します。また、腎機能低下=腎血流低下と関係することが多く、腎血流が低下すると、血圧を上昇させて、より腎動脈にかかる圧を上げようとして、腎臓からレニンというホルモンを分泌してアンギオテンシンという血管収縮物質を活性化させることにより動脈壁の平滑筋を収縮させて血圧が上昇します。レニンは副腎から、アルドステロンというホルモンの分泌を促して、アルドステロンはナトリウムの腎臓での再吸収を刺激して、より血圧を上昇させることになります。

 入院中の食事は6~8g/日に塩分制限されていますので、その食事をするだけで塩分制限を厳しく行っていることになり、入院しているだけで血圧が低下してくる患者さんを多く目にします。逆に退院して、元の食事戻ると数週間で元の高血圧に戻る、という現象もよく目にします。入院して病院食を食べているだけで、一日中寝ているのにも関わらず、どんどんやせていく患者さんがたくさんいるのと同じような現象です。塩分制限することで腎臓を保護し、腎機能を良好に保つことが寿命を延長するといわれています。

 秋田では昔は血圧300/-の人がごろごろいましたが、最近は200を超える人を見ることはかなり稀になりました。塩分制限の教育が行き届いた効果で住民の血圧管理に貢献し脳卒中の発症を低下させた(その後は4位くらいの発症率)といわれています。これにより一家の大黒柱が50代で脳出血し、その後10年以上ねたきり、という悲惨な状況はかなり減少しました。秋田の高校を卒業し、そのまま、日本一の塩分摂取=高血圧・脳卒中県である栃木県の大学に入学して、驚くほど塩分の濃い食事を食べる地域だと驚いた記憶がありますが、お店で聞いたところ、薄味にすると客からクレームがくるので濃い味にしないとお店がやっていけないのだそうです。もちろんそれは30年近く前の話なので、今はだいぶ事情が変わっていると思いますが。

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