goo blog サービス終了のお知らせ 

横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

左室や左房の拡大のない重症僧帽弁閉鎖不全症 = Acute MR

2019-06-21 05:49:34 | 弁膜症
 突然発症した重症の僧帽弁閉鎖不全症は、しばしばAcute MR(急性僧帽弁閉鎖不全症)ともいわれ、突然発症して重症化する心不全を呈することが多く、緊急手術の対象となる病態です。
 この場合、緩徐に発症、進行する僧帽弁閉鎖不全症と違って、代償して変化する左室や左房の拡大を認めず、左房、左室は小さいままであることが一つの特徴です。それ以上に、重症の心不全を呈し、しばしば呼吸不全から気管内挿管を必要としたり、循環不全に対してIABP(大動脈内バルーンポンプ)やPCPS(経皮的心肺補助装置)などの機械的循環補助装置を必要とします。
 こうした病態を呈する疾患の代表格は、急性心筋梗塞後に発症する乳頭筋断裂や乳頭筋機能不全により突然発症する僧帽弁閉鎖不全症です。特に乳頭筋が断裂すると、多くの腱索および、それに伴う広範囲の僧帽弁の弁葉の領域が逸脱して重症の僧帽弁逆流が発生するため、心原性ショックを呈することが多い病態です。
 それ以外に、腱索断裂で、突然広範囲の僧帽弁逸脱が発症した場合も同じような病態になりえます。

 急性心不全を呈する僧帽弁閉鎖分症の患者さんが搬送されてきた場合、特に左室、左房が拡大していない場合は、このAcute MRの可能性を考慮し、緊急手術が必要か、もしくは準緊急、または入院中比較的早期の僧帽弁形成術や僧帽弁置換術を考慮する必要があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

MICS:右小開胸による大動脈弁+僧帽弁手術の適応とコツ

2019-06-20 00:18:49 | 弁膜症
 低侵襲手術=MICS(Minmally Invasive Cardiac Surgery)として、昨年から弁膜症における右小開胸手術の保険加算が認められるようになってから、各施設に今後普及していくと考えらますが、未だ大動脈弁の僧帽弁の同時手術が応用編といってもいいと思います。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科ではこの一年間で3例の大動脈弁+僧帽弁の右小開胸アプローチによる同時手術を経験しました。この手術のキーは、僧帽弁の手術をいかに確実に一発で決めるかどうかにかかっています。確実の僧帽弁形成を完遂できると判断した症例を適応にする、ということが重要です。3例中2例は弁輪拡大に対するCG Future人工弁輪による弁輪縫縮で、1例は後尖(P3)の部分的な逸脱に対するResection & Suture+MEMO3D人工弁輪による弁輪縫縮で確実に逆流停止が得られました。正中切開のアプローチ同様に水テストによる逆流試験を行うために最初に大動脈弁を閉鎖しておりますが、確実に弁縫縮だけでいい症例は、この大動脈弁閉鎖の手技と逆流テストを省略しています。それよりも手技の合間に行う選択的冠動脈注入による心筋保護を確実に行うことを重視しています。三尖弁を操作しない二弁手術の場合は、右房切開による逆行性心筋保護は行わず、選択的注入のみの方が、術野がBusyにならず、手術時間も短縮できるようです。僧帽弁捜査中に1回、心筋保護を注入する際は、僧帽弁視野確保に使用したRetractorを一度はずす必要がある為、弁輪の糸かけが終わったタイミングにしています。そのあと、人工弁輪を縫着し、左房切開を閉鎖するのに約20分かかりますので、左房閉鎖後、大動脈弁の操作にうつったときに、次の心筋保護のタイミングとなります。大動脈弁の操作時は、糸かけが終わるかその途中に一回、人工弁に糸かけをして降ろす前に一回、弁の縫着が終わり大動脈切開閉鎖前に一回、とだいたいペースが決まっています。この決まったペースで確実に手技が終わる症例に対して、この小開胸手術を適応している、という点が重要と思います。
 また、大動脈切開の閉鎖も決して出血しないように閉鎖する確実な手技が求められます。
 3例のうち一例は透析患者さんでしたが、高齢のため生体弁を選択しました。僧帽弁を形成で確実に終わり、大動脈弁は抗石灰化処理が施されたより長期の使用が可能と推測される生体弁(Inspiris 23mm)を縫着しました。将来、透析患者さんにも経カテーテル的大動脈弁位人工弁留置術(TAVI)が適応になれば、こうした生体弁使用した透析患者さんが人工弁機能不全となっても次の手が残される、ということになります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弁輪部膿瘍を形成した僧帽弁後尖側感染性心内膜炎に対する術後の左室仮性瘤

2019-06-15 23:36:04 | 弁膜症
 僧帽弁後尖側に弁輪部膿瘍を形成した感染性心内膜炎の手術は非常に困難な手術の一つです。膿瘍腔を心膜ストリップなどで閉鎖して、それを仮想の弁輪として糸かけをして人工弁を縫着するのが一般的と思いますが、この膿瘍腔の閉鎖が不十分であったり、心膜での補強が不十分であると、その外側にむかって組織が崩壊して、術後に左室仮性瘤を形成することがあります。
 仮性瘤の外側には丈夫な心膜があり、術後に強固に癒着してしまえば、心膜を突き破って破裂することはないので、急性期を乗り切って感染が制御されれば、仮性瘤が残存しても、安定した状態をキープできることもあります。筆者の経験した症例でも大きな左室仮性瘤を形成したまま10年以上安定して経過観察している若年の症例もあります。仮性瘤の修復手術を検討したこともありましたが、特に今、何も悪さをしていないし今後破裂する可能性もないため、定期的な瘤のサイズ観察をし、外来でワーファリン管理のみ行っています。この症例は、初回手術時に左室後壁がぜい弱で、しかも膨隆しているように見えたため、念のためタコシールを2枚貼付して手術を終えた症例でしたが、術後の仮性瘤を形成してこのタコシールによって破裂が予防されたまま固定化したと考えられます。

 また、今回の筆者が座長をした感染性心内膜炎のセッションでは、同様の僧帽弁後尖側の弁輪部膿瘍に対して膿瘍腔閉鎖ののち、人工弁置換を行い、術後に左室仮性瘤を形成した症例に対して、再手術を行い、人工弁を外して左室の内側から牛心膜パッチで瘤の入り口を閉鎖して治癒せしめた症例報告がありました。非常に難易度の高い手術で、素晴らしい成績だと感心しましたが、フロアからは、外側からアプローチして、瘤を切除、閉鎖することも可能である、というご意見も頂きました。外側からアプローチした方が視野が悪くて難易度の高い手術ではないか、と思います。

 また僧帽弁後尖側の弁輪部膿瘍の近くには、左冠動脈の回旋枝があり、この周辺から糸かけをして冠動脈閉鎖からLOSに陥った症例を他の術者の症例でみたことがありますので、回旋枝の存在を忘れることなく手術手技を行うことが肝要と思われます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Low Riskの大動脈弁狭窄症に対するTAVI(NEJM)

2019-05-10 16:47:14 | 弁膜症
March 17, 2019
TAVR for Low-Risk Patients with Severe AS — A Paradigm Shift!

Howard C. Herrmann, MD reviewing Mack MJ et al. N Engl J Med 2019 Mar 16 Popma JJ et al. N Engl J Med 2019 Mar 16
Two randomized trials show that transcatheter aortic valve replacement is as safe and effective as surgery.

手術リスクの低い重症大動脈弁狭窄症に対するTAVI(経カテーテル的大動脈弁位人工弁挿入術)と外科的大動脈弁置換術の成績の比較において、手術死亡、脳梗塞、主要合併症について、TAVIの方が成績が良かった、との結果が発表されました。
いまだにTAVIにおいては、その留置する人工弁の耐用年数が明らかでなく、外科的大動脈弁置換術に使用する生体弁よりも短いと考えられています。
しかしながら、この耐用年数の問題以外は、TAVIに軍配があがる時代になってきています。ガイドラインでは、ハイリスクおよび中等度のリスクの患者さんにおいては外科治療でもTAVIでもどちらの選択も可能となっていますが、これに低リスクの大動脈弁狭窄症も入るとなると、今後は大動脈弁狭窄症の多くはTAVIで治療するのが標準治療ということになっていくでしょう。
そうした時代に対応するために横須賀市立うわまち病院においても、新病院建設にあわせてハイブリッド手術室を建設して、TAVI実施施設の認定獲得に向けて準備を進める予定です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第3回 心不全パンデミック講演会(小開胸大動脈弁置換術)

2018-11-08 17:16:45 | 弁膜症



今年から始まった心不全パンデミック講演会、第3回になる次回2019年3月の内容で、小開胸の大動脈弁置換術について講演させていただきます。横須賀市立うわまち病院で行っているStonehenge Techniqueは、神奈川県内ではまだ実施している施設がほとんどなく、この術式の導入によって合併症なく、回復が速いことを実感しているため、その新しい手術方法の紹介をする予定です。横須賀市立うわまち病院では、小開胸大動脈弁置換術は、大動脈弁置換術における標準手術としています。

 しかしならが、小開胸で大動脈弁置換術行うための条件として、
① 第4肋間から大動脈弁までの距離<15cm
② 上行大動脈の性状が良好で、安全に大動脈遮断が可能
③ 左室の壁運動が保存されている(左室駆出率<50%  左室拡張末期径<55mm)
④ 過去に右開胸手術の既往がない
⑤ 左心耳切除を同時に行う必要がある(左心耳縫縮でもよい症例は可)
⑥ 左室流出路心筋切除を併施する必要がある
⑦ 肺機能が悪く片肺換気に耐えられない
⑧ 上行大動脈径>45mmの拡張症例
⑨ 冠動脈バイパス術や胸部大動脈手術の同時手術が必要
など

 特に小開胸で積極的に実施したい条件として
① ストロイド内服中、糖尿病患者など易感染性素因を持っている
② 大動脈の性状が良好
③ 高齢でADLが低下している

実際に最近の症例で、小開胸手術とせず、従来の胸骨正中切開を行った症例は以下の通り
① 右肺の術後で癒着の危険がある
② 上行大動脈の性状不良で遮断位置の工夫が必要で、かつ、場合によっては上行大動脈置換併施の必要があった
大動脈弁置換のみの場合は、胸骨部分切開でこれも約8cm以下の皮膚切開で最近はおこなっています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人工弁縫着に関して糸結びをする順番(大動脈弁・僧帽弁)

2018-11-06 18:49:22 | 弁膜症
大動脈弁における、Supra-Annular Positionに対して行う人工弁縫着
 これは特に胸骨正中切開によるアプローチにおいてはLCC⇒RCC⇒NCCのNadir(英和辞典によると、ネイダー、もしくはネイディア、と発音します Nadirとは(人生の)どん底という意味だそうです)から結紮していきます(Stonehenge法による右小開胸アプローチでは最も遠いRCCから始めて、LCC、NCCの順にNadirから結紮します)。深いところを最初に人工弁輪のカフと縫着させて、あとは順番に交連に向かって上がっていく方向に結紮します。これが一般的な方法です。これを逆に、交連部から結紮して、最後にNadirを結紮するには交連とNadirの高低差を最後に弁輪を大動脈側に引き上げて人工弁に逢着するため、弁輪が非生理的に持ち上げられて冠動脈閉塞や組織のカッティングによる人工弁周囲逆流のリスクが高くなります。
 Intra-annular positionも同様に、Nadirから結紮していくべきではないか、と最近思います。過去に何度か、人工弁縫着直後に右冠動脈の入口部が閉塞して冠動脈バイパス術をその場で追加した経験があります。これはいずれも機械弁によって発生していましたが、機械弁の弁輪は完全にフラットなので、生理的な弁輪の形態に全く追従しないことが関与しています。
 上記マットレス縫合ではなく、単結節で縫合する場合もNadirから結紮する術者が多いように思います。

僧帽弁における結紮の順番は、1/3周ずつ、尖の中心P2からP1~前交連側に向かって結紮した後、P2からP3~後交連側に向かって結紮した後、最後は前交連から前尖側と後交連に向かって結紮します。こうした順番にする理由は、左室破裂は必ず、中隔の対側で最も左室自由壁が大きく動く部位に発生しやすいからです。過去に自分の目で見た、もしくは耳で聞いた左室破裂の症例は全て、P1領域、すなわち後尖の中心よりやや外側で、左室に向かった8時の方向の弁輪直下の筋肉が裂けて発生します。この最も可動性に富む部位の心筋に過度なストレスが、収縮時にかかることが左室破裂の原因であることは明らかです。よって、この破裂しやすい部位を最初に人工弁とゆがみやストレスの無い位置に最初に固定することが、この部位の心筋に過剰なストレスを与えないことにつながります。

 こうした理論のもと、結紮の順番を決めている外科医は他にいないかもしれませんが、横須賀市立うわまち病院では、この方法で教育しているので、そのうち一般化するかもしれません。

(自分が教育を受けた頃は、Nadirを最後に結紮するように指導されましたが、冠動脈閉塞、組織のカッティングによる弁周囲逆流の経験から、現在の方法に変更しています)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Avalus

2018-11-05 23:24:41 | 弁膜症
http://www.medtronic.com/us-en/healthcare-professionals/products/cardiovascular/heart-valves-surgical/avalus-bioprostheses.html

新しい人工弁がMedtronicから発売されました。Medtronicの人工弁というと、豚弁のMosaicでしたが、あたらしく牛弁を製作しました。弁尖の辺縁にかかるストレスが、ステントの柔らかさにより低減し、より長期間の使用に耐えうる構造になっているといわれています。弁口面積もMagana弁よりも大きいというのがメリットです。将来のTAV-IN―SAV(Vaile in Valveテクニック)を念頭に、ステントの基礎部分が固くなっている構造です。

実際に弁輪部分のステントが非常に堅いのでTAV-IN-SAVには適しているのでしょうが、自己の弁輪に対する追従性が悪くフィッティングが悪いという危険性があります。これにより、バルサルバ洞が狭い、ST接合部が狭い症例には入れにくく、最悪、弁輪が整理的な位置から変形して、それによって冠動脈入口部が変形したことにより、冠動脈閉塞が起こるリスクがあります。冠動脈口が大動脈弁輪より近く、かつ、バルサルバ洞が小さい狭小弁輪にはこのリスクがあります。また、これも糸結びの順番などにも影響されるため、結ぶ順番が悪くて、不運が重なると冠動脈閉塞が起こる、ということかもしれません。

この新しい人工弁の説明会が昨日都内で開催されました。全国から心臓血管外科の部長クラスが150人ほど集まりました。

企業のほうからの説明会ではどうしてもNegativeな側面が出てきませんが、勉強になりました。人工弁の業界もいろいろと変化がものすごい勢いで起きています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

横須賀市立うわまち病院の弁膜症手術(MICS)

2018-07-12 18:02:49 | 弁膜症


 この春から弁膜症手術のいわゆるMICS加算(小開胸内視鏡補助下弁膜症手術に対する点数加算)が認められるようになり、一斉に各施設がMICS手術を導入していく機運が高まっているものと思います。横須賀市立うわまち病院では、いち早くMICS手術を導入し、前々任部長の頃の2011年から数年の歴史があり、おそらく神奈川県では最も早く導入しています。現在のやり方までには変遷があります。今週も、とある大学病院の教授がMICSの僧帽弁形成術の見学に見えました。今後、そちらでもMICS手術を導入予定だそうで、導入に関して協力する予定です。
 神奈川県内でもこれからスタンダードな治療法として広まっていくものと考えられます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僧帽弁再形成術

2018-06-21 05:59:22 | 弁膜症
僧帽弁再形成術の経験

【背景】僧帽弁逆流症に対する外科的治療の第一選択は僧帽弁形成術となっており、10年間再手術回避率は90%程度と言われている。しかし僧帽弁形成術後の再形成の報告は少なく、形成術後の再手術は僧帽弁置換術が大半を占めているのが現状である。
【目的】僧帽弁形成術後の逆流再発症例に対する再僧帽弁形成術成功症例について、その再形成を可能とした術中所見、および手技について検討する。
【方法】2005年から2018年の同一術者による僧帽弁形成術217例のうち、僧帽弁形成術後の再手術症例を抽出し、再手術時期、手術所見、再形成の手技を調査した。
【結果】形成術後の僧帽弁逆流再発の為、再手術を要した症例は7例あり(他病院もしくは他の術者が執刀した症例は3例)、再手術症例は全僧帽弁形成術の3%を占めていた。
初回手術から再手術までの期間は平均8か月(1~24ヶ月)で、術後3か月以内での再手術が7例中4例と半数を占めており、長い症例でも24ヶ月とすべて早期の再発症例であった。2008年の第一例目は、僧帽弁形成術後1ヶ月の再発で、突然のP2縫合部断裂により発生し緊急で、僧帽弁置換術とした。原因は補強に使用した人工弁輪が本来の形態と相違したため縫合部に過剰な負荷がかかったと考えられた。再縫合による再発の危険性を考慮して再形成を試みることなく人工弁置換とした。その後の6症例はすべて再形成が成功している。病変部位はすべて初回の手術部位に関連した病変で、前尖1例、後尖5例であった。逆流再発の原因は、人工腱索の牽引する方向が非生理的であったため変性が進行、感染組織の遺残による穿孔、弁尖縫合部の変性・延長、人工弁輪が外れたことによる弁輪の変形、人工腱索長が変化したことによる逸脱の再発、Foldingした組織が裂開と逆流の原因はすべて異なっており、それぞれの原因、病理に合わせた再形成が必要であった。再形成の方法は、人工腱索3例、切除+縫合1例、裂開部の直接縫合1例、自己心膜によるパッチ形成1例と、その病変に合わせた手技を要した。人工弁輪の再縫着は6例中5例で行った。再形成症例の平均の大動脈遮断時間は97分で、手術時間は319分で、遮断時間は初回手術とほぼ変わらないが、手術時間は癒着剥離など必要なため長い傾向にあった。2例が無輸血であった。在院死亡はなく、全例合併症なく退院し、その後の再発は現時点で認めていない。
【考察】僧帽弁後尖の再形成は人工腱索や切除+縫合、弁輪の縫縮など多様な手技を加えることが可能であるため再形成は成功率が高いと考えられる。また、人工腱索による弁形成後は、初回手術前の解剖の状態に戻してから形成することが可能なため、再形成が成功する要因は大きいと考えられる。【結語】僧帽弁形成の再手術で再度形成を成功させるには、逆流再発の原因の正確な分析と、その病変に合わせた手技の適応が重要である。

(10月に行われる日本胸部外科学会総会で採用され発表する講演抄録)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

須賀市立うわまち病院心臓血管外科における弁膜症手術の現状と周術期不整脈管理

2018-06-18 19:07:33 | 弁膜症
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科における2017年の手術件数は383件で、うち心臓胸部大血管手術(いわゆる開心術)は133件であった。そのうち弁膜症は74件と、開心術に占める割合は半数以上で、今後高齢化が進むにつれてますます増加していくことが予想されている。
 こうした背景で、より手術侵襲を小さくし、早期の回復が期待できる低侵襲心臓手術(MICS=Minimally Invasive Cardiac Surgery)が注目されるようになってきた。2018年4月より右小開胸の内視鏡補助下弁膜症手術は保険の加算を認められるようになり、今後盛んになると考えられる。当院においても、僧帽弁形成術、大動脈弁置換術などを8cmほどの右小開胸で行うMICS手術を神奈川県内でも最も早く導入し、術後約1週間での退院を可能にしている。MICSの利点として胸骨正中切開しないため縦隔炎が起こる可能性が著しく低い、回復が早い、術後の呼吸不全になりにくい、等があげられるが、一方、不利な点として、長い特殊で高額な手術器具を必要とする、操作が煩雑かつ難しい、視野の死角が出来やすく出血部位を同定しにくい、片肺換気を要するなどがあげられるため、適応するには慎重な検討が必要である。現時点ではリスクの低く、手技的に確実に手術が可能な症例を選んで適応している。
 また、心房細動において出血などの影響で抗凝固療法が出来ない症例に対して、左心耳の切除をすることで、左心耳内に血栓形成することを予防する手術も、専用のデバイスを用いて5分ほどで安全に行うことが出来る方法も症例によっては適応としている。
 弁膜症に加えて、左小開胸による冠動脈バイパス手術も2017年から開始され、複数のバイパスを作成したり、循環器内科のカテーテル治療との組み合わせ(ハイブリッド手術)によってより低侵襲な人工心肺非使用冠動脈バイパス術、いわゆるオフポンプバイパスも導入し、症例が増加傾向である。
 周術期管理においては、心拍数80以上の頻脈が心血管イベントや心筋のダメージに影響するとの報告があり、積極的に心拍数を低下させる手段として短時間作動型のベータ遮断薬の有用性が指摘されている。
 こうした新しい治療、低侵襲な治療をより積極的に導入することで、今後弁膜症を含む心不全のパンデミックに対応していくことが望まれる。

(第二回 三浦半島Cardiovascular Seminar 講演要旨)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

低侵襲心臓手術・透析患者の弁膜症

2018-06-17 11:35:06 | 弁膜症
第2回 三浦半島Cardiovascular Seminarが6月15日 行われました。約50名の参加者があり、最新治療の講演と活発な討論が行われました。

Session1では、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科で行われている低侵襲心臓手術(僧帽弁形成、大動脈弁置換、冠動脈バイパス術)に加えて、ニューデバイスによる心房細動に対する左心耳閉鎖術が紹介されました。僧帽弁形成では8cmほどの右小開胸で逸脱した僧帽弁後尖を切除・縫合した修復した症例と、前尖の広範な逸脱に対して人工腱索4対をループテクニックで作成した症例を提示。術後も約1週間で退院している経過が報告されました。

Sesseion2では、自治医科大学心臓血管外科の川人教授から、透析患者の弁膜症手術の成績がここ25年で著しく改善し、その詳細な治療の工夫などを講演されました。透析患者様の場合は、追い込まれてから手術を受ける場合が多く、特に緊急手術が手術死亡率を押し上げる原因となっているため、透析をしていない一般の患者様と同じ適応で手術時期を逸しないことが成績を改善することに重要とのことでした。また栄養状態が悪い症例が多いことも成績が悪い原因となっているため、普段からの栄養指標を参考にした方針・手術時期を決定することも重要です。血清アルブミン値とリンパ球数が栄養指標で重要です。手術中の管理でも、短時間で手術を終了すること、術後に出血させないように細心の注意で止血操作をすること、Fast Track麻酔で早期に人工呼吸器から離脱して早期回復を図ることなどが重要とのことでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小さな傷で行う心臓手術 MICS(ミックス)とは?

2018-06-01 10:25:22 | 弁膜症
https://medicalnote.jp/contents/180530-001-DP
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

MitraClip(ミトラクリップ(マイトラクリップ))

2018-05-29 06:04:20 | 弁膜症
 僧帽弁閉鎖不全症をカテーテルで治す、もしくは軽減する。経カテーテル的大動脈弁位人工弁留置術(TAVI=Transcatheter Aortic Valve Implantation)に続いて、僧帽弁逆流に対してクリップ用のデバイスを使用して僧帽弁の逆流を制御する治療がこの春から保険償還が認められるようになりました。これは、僧帽弁の前尖と後尖の弁縁を、クリップではさんで接合させ、逆流を減少させる手技です。頸静脈的にカテーテルを挿入し、心房中隔をブロッケンブロー法で貫通させてデバイスを移送し、左房側から左室側にカテーテルを設置する画期的な方法です。従来の開心術による僧帽弁形成術ができないハイリスクの患者様に対して、非常に有望な治療法と言えます。腱索断裂による僧帽弁逸脱症などいわゆる、変性による僧帽弁逆流(DMR:Degenerative Mitral Regurgitation)だけでなく、左室拡大に伴う僧帽弁のテザリング(Tethering)や心房細動に伴う僧帽弁輪拡大などの僧帽弁の動きには異常がない機能性の僧帽弁逆流(FMR:Functional Mitral Regurgitation)にも同様に有効と考えられます。
 開心術における僧帽弁の修復方法としてEdge to edge Repairという方法がありますが、これは前尖と後尖を縫合して逆流を制御する手技で、前尖と後尖の中央部(A2とP2)を縫合して僧帽弁口を二つにする、いわゆるDouble Orifice法が典型的なやり方で、これと同じような手技をカテーテル手技を用いてクリップで挟むようなイメージの治療です。

ミトラクップの特徴
1 人工心肺が必要のない僧帽弁形成術
2 拍動下でのリアルタイムな僧帽弁逆流の評価が可能
3 開胸・開心を伴わない静脈アプローチのみの低侵襲治療
4 僧帽弁逆流が最大限減少する部位への弁膜把持が何度でも施行可能
5 外科的介入を温存可能

適応条件
僧帽弁閉鎖不全症>III度
左室駆出率>30%

付帯条件
僧帽弁置換術における死亡率(STSスコア)>8%
高度の大動脈石灰化や上行大動脈の可動性アテローマ症例(Shaggy Aorta)
縦隔への放射線治療歴や縦隔炎の既往
機能性僧帽弁閉鎖不全症かつ左室駆出率40%以下
75歳以上の左室駆出率40%以下
冠動脈バイパス術後
2回以上の心臓胸部大血管手術歴
肝硬変
その他の外科手術の危険因子
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

透析患者と心臓弁膜症

2018-05-22 19:24:52 | 弁膜症
第2回 三浦半島Cardiovascular Semnarにおいて、自治医科大学心臓血管外科教授 川人宏次先生より、「透析患者と心臓弁膜症」という題でご講演いただきます。
 透析患者様の場合は、非常に動脈硬化が速く進行する、血管などに石灰沈着が起こるなどの特徴があり、特に弁膜症においては、大動脈弁狭窄症が高頻度に発生し、特に弁の石灰化が著しくなる傾向にあります。まだ大動脈も石灰化しやすく大動脈遮断や大動脈切開などの手術操作が困難な場合がすくなくありません。冠動脈疾患や下肢の動脈閉塞症などの血流障害が合併している頻度が高いといえます。また、周術期はNOMI(非閉塞性腸管虚血)など、原因不明の病態が起きやすく手術死亡率が一般に高いと言われています。
 より安全な治療には、早期発見早期治療が重要ですので、透析患者様の場合はより動脈硬化や大動脈弁狭窄症に着目した日常での検査が重要です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

リウマチ性弁膜症

2018-05-20 23:23:06 | 弁膜症
リウマチ熱(リウマチねつ)とは、A群溶連菌に感染して後1~3週間に生じる全身性の非化膿性疾患の一つである。特徴として結合織の炎症が関節、心臓、血管、神経等を冒すとされる。特に心臓では弁膜、心内外膜、心筋が好発部位であり、5~15歳が好発年齢である(ウィキペディアより)

子供のころにかかったリウマチ熱のせいで、心臓の弁膜に炎症をおこし、数十年後にわたり弁の変性が起こって、いわゆるリウマチ性弁膜症となることがあります。おもに大動脈弁や僧帽弁に弁尖の肥厚、短縮、硬化がおこり、大動脈弁、僧帽弁に、狭窄症や閉鎖不全症、またはその両方を引き起こし、二弁以上にわたって弁機能障害を引き起こすことも少なくありません。高度成長期以来、日本も文明先進国の仲間入りを果たし、早期から抗生物質を広く使われるようになったため、溶連菌感染の発生自体が少なくなり、リウマチ性弁膜症の患者さんは年々減少しています。昔は弁膜症手術の多くはリウマチ性であったのに対し、近年は変性疾患による僧帽弁閉鎖不全症や加齢に伴う大動脈弁狭窄症のほうが圧倒的に多くなっております。これは抗生物質の普及が大きく関与しているといわれていますが、まだ抗生物質の普及が進んでいないアジア、アフリカ諸国などではいまだ、心臓手術のメインはリウマチ性弁膜症に対する弁置換術とも言われています。日本では抗生物質が無効なウィルス感染が引き起こすいわゆる感冒に対しても広く抗生物質が使用され、結果的にリウマチ熱の発生も減少したと考えられますが、不要な抗生物質の反乱が耐性菌を増加させ社会問題にもなっている昨今、抗生物質を使用しない傾向が今後ますます進むとも言われています。たしかに無駄な抗生物質使用は減少しますが、今後数十年後にはそのためにリウマチ性弁膜症がもしかしたら再び増加する可能性があるのかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする