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遺伝性腎臓病「若年性ネフロン癆(ろう)」患者由来のiPS細胞の樹立に成功

2020-06-04 | 医学
 理化学研究所バイオリソース研究センターiPS細胞高次特性解析開発チームの林洋平チームリーダー、荒井優研究パートタイマー(東京理科大学薬学研究科薬科学専攻修士課程2年)らの共同研究グループは、遺伝性腎臓病の一つである「若年性ネフロン癆(ろう)」患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立に成功した。
 本研究成果は、難病とされる若年性ネフロン癆の病態モデル細胞の開発を通した、発症機序の解明や治療法の開発に貢献すると期待できる。
 ヒトiPS細胞は再生医療の実現だけではなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法開発にも有効なツールであると考えられている。若年性ネフロン癆では腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序解明のために病態モデル細胞のもとになる患者由来のiPS細胞の樹立が望まれてきた。
 共同研究グループは、発症に関わることが知られているNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の若年性ネフロン癆患者の末梢血からiPS細胞の樹立に成功した。このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子の欠失変異が保持されており、その結果、遺伝子発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
 本研究は、科学雑誌「Stem Cell Research」オンライン版(4月29日付)に掲載。
 背景
 ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)は再生医療だけでなく、さまざまな疾患の病態解析や治療法の開発にも有効なツールであると、注目を集めている。「若年性ネフロン癆(ろう)」は遺伝性の腎臓疾患で、腎髄質に嚢胞(のうほう)が形成され、進行すると腎線維化、末期には腎不全を引き起こす。日本国内には約500人の患者がおり、腎移植以外に有効な治療法がないことから、発症機序の解明と新しい治療法の開発が望まれてきた。
 近畿大学医学部小児科学教室は、2015年に日本人の若年性ネフロン癆患者では、「NPHP1遺伝子」の欠失変異が高い頻度で見られることを報告した。しかし、NPHP1遺伝子の欠失変異から発症に至る機序には不明な点が多いため、病態モデルを使った研究が必要である。
 若年性ネフロン癆の病態モデル動物をつくる試みとして、NPHP1遺伝子を欠失変異させたマウスが以前にも報告されていたが、そのマウスには腎臓の異常が見られず、病態モデルにはならなかった。もし、患者由来のiPS細胞が樹立されれば、そのiPS細胞から分化誘導した細胞を病態モデル細胞として研究対象とすることが可能になる。
 究手法と成果
 若年性ネフロン癆患者由来のiPS細胞を樹立するため、共同研究グループは、近畿大学医学部小児科学教室で診療中のNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の同患者から末梢血を採取した。
 次に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)において、採取した末梢血からiPS細胞を作製した。その作製には、2014年にCiRA で開発された方法を用いた。患者由来の抹消血から分離した白血球の一種である単核球に、エピソーマルプラスミドベクターを用いてiPS細胞を作製した結果、6株のiPS細胞株の樹立に成功した。
 樹立しiPS細胞株は、配布機関である理研バイオリソース研究センター(BRC)細胞材料開発室(理研細胞バンク)へと寄託され、理研細胞バンクは、これらのiPS細胞に対する品質検査と、拡大生産するための培養を行った。その後、三つの研究室からなる特性解析研究グループ(理研BRC iPS細胞高次特性解析開発チーム、理研生命機能科学研究センター(BDR)ヒト器官形成研究チーム、東京理科大学薬学部生命創薬科学科)へ提供した。
 特性解析研究グループが、このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子に欠失変異が保持されており、その結果、この遺伝子の発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認した。
 今後の期待
 本研究成果は、今後、若年性ネフロン癆の発症機序の解明や新しい治療法の開発に役立てられると期待できる。
 また、本研究における多施設連携の枠組みを通して、医療機関・樹立機関・配布機関・解析機関(研究室)がそれぞれ連携することができれば、多くの難病に対するiPS細胞を用いた研究がより効率的に進むと期待できる。
 ◆補足説明
 〇iPS細胞(人工多能性幹細胞)、多能性
 脊椎動物の初期胚が持つ、全ての種類の体細胞へ分化する能力を多能性という。多能性を持ち、試験管内で培養して無限に増やすことができる細胞を多能性幹細胞という。iPS細胞は、成人の皮膚細胞などの体細胞・組織から採取した細胞にOct3、Sox2、Klf4遺伝子などを導入して初期化し多能性を持たせ、人工的に作製した多能性幹細胞である。
 〇NPHP1遺伝子
 ヒト2番染色体上に位置し、ネフロシスチン1タンパク質をコードする遺伝子。NPHP1遺伝子の欠失・変異は、若年性ネフロン癆の主要な遺伝的要因であることが知られている。このタンパク質は、細胞内で繊毛形成に関与していることが判明しているが、このタンパク質の機能不全がどのように若年性ネフロン癆の発症につながるかは不明な点が多い。
 〇欠失変異
 染色体上に存在する遺伝子(群)のDNA配列の一部が欠けてしまうこと。このことにより、特定の遺伝子(群)の発現がなくなり、細胞の機能異常や疾患の原因につながる。
 〇自己複製能
 iPS細胞などの多能性幹細胞は多分化能を維持したまま、ほぼ無限に増殖できる能力を持つ。これを自己複製能と呼ぶ。健常人由来や難病患者由来のiPS細胞は、自己複製能を維持し続けることができるため、研究、創薬、再生医療へと安定的に供給することが可能であり、バイオリソースとして、非常に価値が高い。
 〇単核球
 血液細胞のうちの、白血球の一種である。リンパ球と単球を合わせた総称である。技術的には、全血サンプルから遠心分離によって、濃縮回収することができる。
 〇エピソーマルプラスミドベクター
 従来のプラスミドDNAベクターを改変して、遺伝子導入した細胞内で、ゲノムDNAに組み込まれなくても、持続的に遺伝子発現を維持できるようにしたベクターの種類。技術的には、EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)由来のDNA複製を維持するためのEBNA1タンパク質をコードする遺伝子と、そこから発現されたEBNA1タンパク質が結合でき、ベクターのDNA複製起点となるOriP配列を同一ベクター内に構築してある。

 晴れ。早朝に少し降った様だ、土がチョット濡れていた。
 畑の隅の花畑。”オルレア”が満開に咲いている。コロニー状に纏まって咲き、見応えが素晴らしい。開花の期間がとても長く、4月から咲いている。今年も同じ場所で咲いている、昨年の種(こぼれ種)からか・・本来は多年草(宿根草)だが、夏の高温多湿に弱く、夏には枯れる一年草と扱われている(秋まきの一年草)。
 ”オルレア(オルレア・ホワイトレース)”は、花姿が非常に美しく、白いレース状の花、夏向きの花である。中央の微細な花の周りを大きな花弁を持った花がリング状に囲む、独特の形をしている。”ホワイトレースフラワー”(セリ科アンミ属、別名:ドクセリモドキ)に似ている。
 オルレア
 別名:オルレア・ホワイトレース、オルレア・グランディフローラ
 学名:Orlaya grandiflora
 セリ科オルレア属
 原産地はヨーロッパ
 一年草扱(常緑多年草)
 開花時期は4月~7月
 小さな白い花が集まり、レースのような花序


「例外」を発見するAI「BLOX」の開発

2020-06-03 | 科学・技術
 理化学研究所革新知能統合研究センター分子情報科学チームの寺山慧特別研究員(研究当時、現横浜市立大学大学院生命医科学研究科准教授)、隅田真人特別研究員、津田宏治チームリーダー(物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 NIMS招聘研究員)、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の田村亮主任研究員らの共同研究チームは、「例外」の発見に特化した人工知能(AI)「BLOX」を開発した。さらにこのAIを用いて、例外的な光を強く吸収する低分子量の有機化合物を複数発見することに成功した。本研究は、科学雑誌「Chemical Science」の掲載に先立ち、オンライン版(5月28日付:日本時間5月28日)に掲載。
 これまでに材料開発を飛躍的に発展させてきた要因は、予想や想定ができない、いわば例外の発見である。しかし既存のAIでは、人間が望む材料特性を予め設定することで新材料を開発してきており、例外的な物質を探すことはできなかった。
 共同研究チームは、機械学習をうまく組み合わせることで例外の度合いを数値化し、例外的な物質を効率的に発見するAIを開発し、「BLOX」と名付けた。BLOXを検証するために、量子力学に基づいた分子シミュレーション技術と組み合わせた結果、例外的な光吸収特性を持つ有機化合物候補を多数発見した。そのうちの8個を実際の化合物で評価したところ、250ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)以下や450nm以上の波長の光を強く吸収する例外的な特性を持つことを確認できた。このような化合物は、色素や有機太陽電池などの機能性材料として有用である。
 背景
 新たな研究領域を切り開くきっかけとなる物質や材料は、しばしば「例外」的なものである。この世界に存在する物質は非常に多様であるが、それらの物理的・化学的特性に注目すると、多くの場合さまざまな傾向や偏りが存在する。例えば、有機太陽電池の有機材料では、電圧と電流にトレードオフの関係がある。つまり、高電圧を示す材料では電流が低くなり、逆に高い電流値を狙った材料では電圧が低くなる。また、有機発光ダイオードに用いられる有機分子には、発光効率が高いほど寿命が短くなる傾向がある。これらの関係に反する物質は非常に有用であり、その開発に多くの労力が費やされている。
 これらの例に限らず、複数の特性を考慮した上で例外的な特性を持つ物質を効率的に発見できれば、かつてない機能を持った材料や新たな基礎研究の端緒を開く可能性がある。しかし、これまでこのような例外的物質の発見は、ほとんど偶然に任せるしかなかった。
 一方、近年、機械学習などに基づく人工知能(AI)を用いた新物質・材料設計が盛んに行われている。AIの設計では、目標となる特性を予め設定する必要がある。しかし、この弊害として、予想される物質が多く設計されてしまい、研究開発者の想像を超える例外的物質はなかなか発見されないというジレンマがあった。例外的な物質を効率的に発見するためには、従来とは異なるAI技術の開発が必要となる。そこで、共同研究チームは、例外的な物質の探索に特化したAI開発を試みた。
 研究手法と成果
 共同研究チームは、機械学習をうまく組み合わせることで例外の度合いを数値化し、例外的な物質を積極的に発見するAIを開発し、「BLOX(BoundLess Objective-free eXploration)」と名付けた。BLOXは、特性が既に分かっている物質(既知物質)のデータベースを利用し、特性がまだ不明な物質(未知物質)のうち最も例外的と考えられる物質を提案する。まず、既知物質から機械学習を用いて特性を予測するモデルを構築し、その後、そのモデルを使って未知物質の特性を予測する。すると、既知物質が示す特性分布と、未知物質に対する予測特性分布が得られ、未知物質の予測特性分布のうち最も「外れた」ものが例外的物質であると期待される。
 予測特性分布からの外れ度合いを数値化するために「Stein novelty」という尺度を導入すると、例外的な物質の候補が選択される。さらに、この候補物質の実際の特性を実験やシミュレーションによって測定し、そのデータを既知物質のデータベースに追加する。以上のプロセスを繰り返すと、例外的な特性を示す物質データが次々と蓄積され、より例外的な物質の探索が促進される。
 次に、BLOXを用いて、創薬用の市販分子データベースであるZINCの中から、例外的な光吸収特性を持つ化合物を探索した。低分子量の有機化合物(以下、分子と呼ぶ)のほとんどは250~450ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)程度の光を強く吸収し、これ以外の光を強く吸収する分子は例外的といえる。このような例外的な分子は、色素や有機太陽電池など光吸収特性を生かした機能性材料として有用である。BLOXによる探索では、分子がどの波長の光を効率良く吸収するかを、実験またはシミュレーションによって評価する必要がある。本研究では、量子力学に基づく分子シミュレーションである「密度汎関数理論(DFT)」計算により光吸収特性を導出した。
 ZINCデータベースに含まれる10万個の分子から、BLOXとDFT計算を組み合わせて例外的な光吸収特性を持つ分子を2,000回探索し、例外的でない分子も含めて2,000個が得られた。すると、ランダムな探索により得られた分子の分布に比べて分布が大きく広がり、例外的な分子の候補を多数発見した。さらに、DFT計算に基づいた光吸収特性が例外的な候補分子の中から8個を実際に準備し、実験的に光吸収特性を測定した。その結果、光の吸収波長・強度ともに、DFT計算で予測された値とほぼ一致し、BLOXとDFT計算を組み合わせることで例外的な分子が効率的に発見できることが実証された。
 BLOXによって発見された分子は、例外的な光吸収特性を持ち、その性質ゆえに色素や有機太陽電池などの有用な機能性分子としてのポテンシャルを持つ。注目すべき点は、これらの分子の多くはもともと薬開発の副産物として得られたもので、それらの光吸収特性は基本的に注目されてこなかったことである。これは、BLOXを用いれば、本来の用途を超えた有用な物質・材料を発見できることを示している。
 今後の期待
 既存のAIやデータ駆動型科学では、多くの場合、人間が望みの材料特性をあらかじめ設定することで、新材料を開発してきた。しかし、今回開発・実証したBLOXは、それらとはアプローチが異なり予想外・想定外なものを積極的に発見する枠組みである。今後、このBLOXを自動合成システムなどと組み合わせれば、自動で例外物質が次々と発見され、研究者が全く想定していなかった性質を示す物質の発見が加速されると期待できる。
 また、BLOXは化学や材料分野のみならず、幅広い科学分野における例外的事象の探索に活用されることも期待できる。
 ◆補足説明
 〇機械学習
 膨大なデータをコンピュータに入力し、その中にある既知の特徴を繰り返しコンピュータに学習させるか、もしくはデータそのものからコンピュータに規則性を発見させることで、未知のデータに対する解答を自動で得る手法。
 〇量子力学に基づいた分子シミュレーション技術
 量子力学方程式を計算機によって近似的に解くことで、分子の物性や反応性を予測する技術。
 〇有機太陽電池
 有機半導体を光電変換層として用いた太陽電池のこと。塗布プロセスによって大量生産できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから、次世代の太陽電池として注目を集めている。
 〇有機発光ダイオード
 有機物質に電圧を加えた際に発光する性質(有機エレクトロルミネセンス)を利用した素子。スマートフォン、テレビなどに広く利用される。
 〇Stein novelty
 データの分布からの外れ度合いを定量化するために本研究で提案した指標。近年、Stein discrepancyと呼ばれる二つのデータの分布間の「ずれ」を定量化する方法が機械学習分野で注目されている。本研究では、Stein discrepancyを用いて一様分布からの「ずれ」を測ることで、外れ度合いを定量化した。Stein noveltyを用いると、特性の数やデータ分布の形状や範囲にかかわらず、外れ度合いを計算できる。
 〇密度汎関数理論(DFT)
 分子や材料の電子の状態を得るための量子力学に基づいたシミュレーション手法の一つ。DFTはDensity Functional Theoryの略。

 今日の天気は晴れ。早朝に雨が降った様だ、路面が濡れていた。
 駐車場横の小さな花壇。”ツボサンゴ”の花が咲いている。小さな釣鐘形(壺形)の朱赤色の花が鈴なりに咲いている。花と言ったが、朱赤色花弁の様に見えるのは萼(がく)、だから長く咲いているように見える。見つけた場所は庭木の下、半日陰~日陰・水はけの良い場所が好みのようだ。
 ”ツボサンゴ”の魅力は、花よりも葉色の美しさにある・・今日はお花。葉はハート型・円形で、葉色に銅葉や銀白色・琥珀色などがあり、カラーリーフプランツとして人気がある。
 名(ツボサンゴ)の由来は、花姿(壺形)と花色(真っ赤な珊瑚色)から・
 ツボサンゴ(壺珊瑚)
 別名:ヒューケラ(ホイヘラ)
 英名:Coral bells
 学名:Heuchera sanguinea
 ユキノシタ科ツボサンゴ属
 耐寒性常緑宿根草(多年草)
 北アメリカ原産
 開花時期は5月~9月
 花は小豆大(径数mm)の釣鐘形(壺形)
 花色は朱赤色、白・桃・淡緑色もある
 葉色には、銅葉や銀白色・琥珀色などのがある。葉色の美しさからカラーリーフプランツとして人気がある。


植物の耐塩性を強化する化合物を新たに発見

2020-06-01 | 科学・技術
 理化学研究所環境資源科学研究センター植物ゲノム発現研究チームの関原明チームリーダー、佐古香織特別研究員(研究当時)らの共同研究グループは、新しい化合物「FSL0260」が植物の耐塩性を強化することを発見した。本研究成果は、人体への悪影響が少なく、農作物の耐塩性を強化する肥料や農薬の開発に貢献すると期待できる。
 塩害は、かんがい農業による塩類集積、または海沿いの地域で発生し、農作物の生産に大きな悪影響を及ぼしている。これまで、農作物の耐塩性を高めるために品種改良が行われてきましたが、育種的な方法では時間がかかるという問題があった。
 共同研究グループは、理研NPDepo化合物ライブラリーを用いて、植物の耐塩性を強化する化合物の探索(スクリーニング)を実施した結果、新規化合物FSL0260の同定に成功した。さらにFSL0260は、ミトコンドリア電子伝達系の複合体Ⅰを阻害することで、ミトコンドリア代替呼吸系を活性化し、高塩ストレスで発生する活性酸素の蓄積が抑制された結果、植物の耐塩性が強化されることを明らかにした。
 本研究は、科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版(5月26日付)に掲載。
 背景
 塩害は、かんがい農業による塩類集積、または海沿いの地域で発生し、農作物の生育や収量低下をもたらす環境ストレスである。今後、世界の人口が100億人に達すると予測されていることから、持続的な食糧生産を維持するためには、塩害に強い農作物や肥料の開発など早急な問題解決が求められている。
 これまで、農作物の耐塩性を高めるためには主に品種改良が行われてきたが、これには時間がかかる。そこで、共同研究グループは、植物に化合物を散布することで耐塩性を強化することを目指して、そのような化合物の探索を行った。
 研究手法と成果
 共同研究グループは、耐塩性を強化する化合物を同定するため、理研NPDepo化合物ライブラリー(405化合物)とモデル植物である双子葉植物のシロイヌナズナを用いて、耐塩性を強化する化合物の探索(スクリーニング)を行った。その結果、「FSL0260」という新規化合物が耐塩性を強化することが分かった。
 次に、FSL0260による耐塩性強化のメカニズムを明らかにするために、網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、ミトコンドリア電子伝達系のバイパスとして機能するミトコンドリア代替呼吸系の遺伝子発現が、FSL0260処理によって増加することが分かった。そこで、ミトコンドリア電子伝達系の活性を調べたところ、複合体Ⅰの活性がFSL0260処理によって阻害されることを見いだした。一方、動物ミトコンドリアでは阻害されなかったことから、FSL0260の機能は植物ミトコンドリア特異的である可能性が示された。
 また、ミトコンドリア代替呼吸系は、活性酸素の発生抑制に働くと考えられている。実際に、高塩ストレスにさらされたシロイヌナズナをFSL0260で処理をしたところ、活性酸素の蓄積が抑制されることが分かった。以上の結果から、FSL0260は、ミトコンドリア電子伝達系の複合体Ⅰを阻害することで、ミトコンドリア代替呼吸系を活性化し、高塩ストレスで発生する活性酸素の蓄積が抑制された結果、植物の耐塩性が強化されることが明らかになった。さらに、単子葉植物のイネでも、FSL0260処理によって活性酸素の蓄積が抑制されたことから、単子葉植物・双子葉植物のいずれにおいても、FSL0260は耐塩性を強化することを確認した。
 今後の期待
 今回の研究から、新しいミトコンドリア阻害剤FSL0260が植物の耐塩性を強化することを発見した。FSL0260による阻害効果は植物特異的であることから、本成果を応用すれば、人体への毒性が低く、農作物を塩害に強くする肥料や農薬の開発、それに伴う収量増産につながると期待できる。
 ◆補足説明
 〇NPDepo化合物ライブラリー
 天然物化学を基礎とした理研天然化合物バンク。微生物(放線菌、糸状菌など)、植物の二次代謝化合物を精製単離するとともに、天然化合物の誘導体や類縁体、人工合成化合物などを収集して、約4万化合物をライブラリー化したもの。
 〇ミトコンドリア電子伝達系、複合体Ⅰ
 「ミトコンドリア電子伝達系」ではⅠからIVの複合体を電子が移動することで、プロトン(水素イオン)勾配を形成し、そのプロトン駆動力によってATPを産生する系である。「複合体Ⅰ」は、解糖系およびクエン酸回路から得られたNADHより電子を受け取り、ユビキノンにわたす反応を行う。ストレスなどによって電子伝達系が不安定になると、活性酸素が産生される。
 〇ミトコンドリア代替呼吸系
 ミトコンドリア代替呼吸系は電子伝達系のバイパスとして機能し、活性酸素の発生抑制に働くと考えられている。
 〇活性酸素
 化学的に活性になった状態の酸素。生体内のエネルギー代謝や感染症の防御過程で発生するほか、高塩濃度、高温、乾燥、強光などの環境ストレスによっても発生する。さまざまな生命現象に重要な役割を果たすが、過剰な蓄積は細胞に対して毒性を持つ。

 天気は晴れ。明日は夜から雨の予想、畑での水やりはせず。
 歩道横の生垣は”ベニカナメモチ”。”ベニカナメモチ”は春の新芽・若葉が赤くなる、秋に街路樹が紅葉となったかの様である。でも紅色なのは新芽の頃で、次第に緑となる。刈り込みをすると新芽が出るが、この新芽・若葉も赤い。赤くなるは若葉を紫外線から守るための”アントシアニン”(赤い色素)によるもの。秋のカエデなどの紅葉もアントシアニン系の色素によるものだ。
 この”ベニカネメモチ”に小さな白い花が纏まって咲いている。例えれば、コデマリの大きな鞠(まり)と言う感じかな。緑・赤・白と色豊かで、雨あがりでは色が映える。
 ベニカナメモチ(紅要黐)
 別名:アカメモチ(赤芽黐))
 学名:Photinia glabra
 バラ科カナメモチ属
 常緑広葉樹
 樹高は3m~5m
 開花期は4月~6月
 花は小さい(7mm~8mm位)5弁花で白色
 ★アントシアニン
 アントシアン(果実や花の赤、青、紫を示す水溶性色素) のうちの一つ。高等植物では普遍的な物質で、花・果実の色を表す。フラボノイドの一種で、抗酸化物質として知られる。


タンザニアに過去最大規模の足跡化石群、古代人の生活様式知る手掛かりに

2020-05-31 | ニュース
 AFP=時事(AFPBB News)による記事(5月19日配信)。・・本記事は引用記事です。
 タンザニア北部アルーシャ州にあるナトロン湖の南で発見された1万9100~5760年前のものとされる人間の足跡が公開された(2020年5月14日公開、撮影日不明)。

 タンザニアにあるナトロン湖(Lake Natron)の南に位置するエンガレセロ(Engare Sero)と呼ばれる場所には、1万9000~5000年前の間に残された400を超える足跡の化石群がある。アフリカで発見された人類の足跡としては過去最大規模で、いわゆる後期更新世時代の人類がどのような姿をしていたか、またどのように食料を集めていたかを垣間見ることができる。
 研究を率いた米チャタム大学(Chatham University)のケビン・ハタラ(Kevin Hatala)助教(生物学)によると、エンガレセロのような遺跡は非常に短期間に形成されたもので、そこを古代人が移動した瞬間が捉えられているという。
「この多様な化石証拠群の希少性や価値を前提として、われわれの発見が驚くべきものである理由の一つは、その規模だ。同じ火山灰の地表に、400を超える足跡が保存されている」と同氏はAFPに語った。
 これらの直接的な手掛かりからは、その足跡を付けた集団の行動様式に関する非常に興味深い知見も得られたという。足跡の分析は複雑なプロセスをたどった。現地のマサイ人が発見した遺跡を研究チームが2009年に初めて訪れたとき、自然浸食による露出で確認できた足跡は56だけだった。その後の3年にわたる発掘作業により、さらに数百の人類の足跡が発見された。シマウマやバッファローなど動物の足跡も同時に発見された。
 足跡の分析
 足跡はどろどろとした火山泥流の上に残され、その泥流が急速に乾いて地表が固まったとハタラ氏はみる。足跡同士が重なっていないなどの証拠と合わせると、これは一緒に移動していた一団が同時に残した足跡で、異なる時期にさまざまな人が移動してできたものではないことが強く示唆されるという。また足跡の大きさと歩幅に基づき、一団は成人男性4人と成人女性19人、それに少年2人で構成されていたと研究チームは結論付けた。
 足跡からは古代人の身長を推定することもでき、一団の中には比較的身長の高い男性たちがいたことも分かった。1メートル83センチの長身の男性もいたと推測される。
 英科学誌ネイチャー(Nature)系列のオンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に14日に掲載された論文によると、アフリカ東部で発見されたほぼ同時期の人間の骨格は「一般的に身長が高く、手足の長い体格をしていた」ことを示唆している。
 古代人の一団の男女比は、当時の生活様式についての手掛かりも教えてくれる。
 今日の狩猟採集民族の社会では食料を探すときを除き、多数の女性が子どもやほぼ同数の成人男性を伴わずに集団で移動することはまれだ。足跡の分析によって示された一団の男女比から研究チームは、当時の女性たちもまさに同じだったとの仮説を導いた。
 ハタラ氏は「行動様式そのものは、この時期の人類の集団としては驚くべきものではない」「だが、生のスナップショットを通してその行動様式を目撃する機会は、非常に例外的だ」と述べ、今は仮説でしかないが、発掘作業が進めば最終的にさらに多くのことが明らかになるだろうとの認識を示した。
 発掘現場の片側にある浸食によって露出した足跡は、今も堆積物に覆われた区域へと続いており、さらなる足跡が発見される可能性が見込まれている。

 今日で5月が終わり、明日から6月。今年の2月~5月は100年後・1000年後に残る災害DAYになるだろう、6月からも来年も、となるだろうか。祈る、無事終息。
 冬が終わり、春が来ると草や木々に花が咲きだす。散歩では、歩かないと見えない草・木々の葉や花。
 散歩で見つけた、”マユミ”の花。小さな淡緑色の花で、人目を引かない花だ。”ニシキギ(錦木)”の花に良く似ている、両者ともニシキギ科である。小さな花は小さな緑玉の実となり、殻がピンク色となり、やがて秋に殻が弾けて赤い種子が見える。この様子がとても可愛く、素敵な景色を見せる種子で、秋の楽しみだ。
 名(マユミ:真弓)の由来は、この木を材料として弓を作ったからで、材質は白くて緻密・良く撓る。こけしや将棋の駒も作る。因みに、果実は食べない、有毒(吐き気や下痢など)である。
 マユミ(真弓、檀)
 別名:山錦木(やまにしきぎ)、川隈葛(かわくまつづら)
 学名:Euonymus sieboldianus
 ニシキギ科ニシキギ属
 雌雄異株と言われる(不完全雌雄異株?)
 雌株のみでも果実は付く
 落葉小高木(樹高は3m~10m)
 原生地は日本、朝鮮半島、中国
 開花時期は5月~6月
 花は淡緑色の小さな(径1cm位)4弁花
 果実は10月~11月に熟す。ピンク色の殻が弾けて赤い種子が見え、この様子がとても可愛い。
 果実の色には品種により白・薄紅・濃紅がある


超高純度鉄は優れた生体適合性を示す、医療資材・細胞培養基質として有望

2020-05-30 | 科学・技術
 東北大学大学院生命科学研究科の東谷篤志教授と同大金属材料研究所の安彦兼次元客員教授らの研究グループは、超高純度のさびない鉄が生体によくなじみ、インプラント(人工歯根)や血管を補強するステント(網状チューブ)などの医用材料として有望であることが実験で分かったと発表した。実用化すれば、周囲の細胞との接着性の低さや毒性など、従来の金属などが抱える課題を克服できそうだという。この成果は医用材料学の国際専門誌「ジャーナル・オブ・ザ・メカニカル・ビヘービアー・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ」の電子版に3月27日に公開され、同大が5月13日に発表した。
 安彦元客員教授が開発した純度99.9996%の超高純度鉄「ABIKO-iron:アビコアイアン」の表面にコーティングなどの処理をしないまま、マウスなど哺乳類由来の細胞を置き、変化を調べた。
 その結果、細胞は鉄によく接着し順調に増殖。一方、比較のために使った合金ではほとんど増殖しなかった。骨などの元になる間葉系幹細胞や筋肉の元になる筋芽細胞の分化もできた。東谷教授は「間葉系幹細胞の分化は、培養実験で一般的に用いるプラスチック製のシャーレより好成績だった。他も、シャーレと同等の結果となった」と述べている。遺伝子発現の解析でも、毒性や重金属ストレス応答などの問題はみられなかった。
 生体に用いる医用材料としてこれまで、チタン合金、コバルトとモリブデンの合金などの金属やセラミックスが用いられてきた。東谷教授によると従来の金属は加工しやすく強度がある半面、毒性や金属アレルギー、周辺の細胞や組織とのなじみにくさなどの負の面がある。セラミックスは生体になじみやすいが柔軟性がなく、加工できる形状にも制約がある。こうした課題に対応するため、さまざまな材料で表面加工などの工夫が続いてきたという。
 今回の実験により、アビコアイアンが表面処理をしなくても生体になじみ、安全性が高いことが判明した。インプラント、ステント、骨を固定するプレートやボルトなど、医用材料としての用途が見込めることが分かった。
 アビコアイアンは市販の高純度鉄に比べ不純物が100分の1。さびないほか、塩酸に浸けてもほとんど溶けない、加工しやすく割れにくいなどの特徴がある。2011年にはドイツの「国際標準物質データベース」に登録されるなど世界的に認知されている。優れた品質の半面、1キロあたり100万米ドル程度とされるコストが大きな課題となり、実用化に至っていない。
 東谷教授は「原子炉や航空機ではなく医用材料ならば、使うのはごく少量で現実的な費用になるだろう。まず医療分野で普及してコストダウンが進むと、多彩な用途に拡大するのでは」と期待する。
 ◆用語説明
 〇超高純度鉄(Abiko-Iron)
 純度が99.9996%±0.0003%と市販されている高純度鉄よりも不純物の量がさらに100分の1と少ない。性質は汎用純鉄とは全く異なり、表面が銀色に輝きさびない。塩酸につけてもほとんど溶解することがない。柔らかいため、たたいて加工しやすいが、極めて割れ難く、簡単に切断できない。
 2011年、ドイツ連邦材料試験研究所が主宰する「国際標準物質データベース」COMARに認証一次標準物質の一つとして登録された。
 〇骨格筋の発生は、間葉系幹細胞が筋芽細胞へと分化し、次に、筋芽細胞が融合して多核の筋管細胞に分化し、最終的に収縮法力を有する筋線維に成熟する。マウス骨格筋由来の筋芽細胞株C2C12から分化誘導培地に置換することで、多核の融合した筋管細胞に分化させることができる。
 〇間葉系幹細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、中胚葉性組織(間葉)に分化する能力をもつ幹細胞のこと。細胞をシャーレなどで培養する際に、それぞれの分化誘導培地に置換することで分化誘導させることができる。また、細胞が接着する基質(シャーレの表面、今回は、超高純度鉄を使用)の硬さも、分化に大きく影響を及ぼすことが知られている。

 今日も天気は晴れ。気温は最高気温26℃と夏日となった。
 ”シラン”の花が咲きだした(写真も撮影日は2・3日前)。花は5月の中旬頃から咲きだしている。
 名(シラン:紫蘭)の由来は、紫色の花を咲かせる蘭だから、と言う。・・そうか、そんなことは”シラン(知らん)”かった。
 花色には紫色だけでなく、純白色、淡青紫色などがある。白花の先端が紫紅色の口紅シランや葉に白い縁取りが入る覆輪(ふくりん)シランもある。
 シラン(紫蘭)
 別名:紅蘭(こうらん)、白笈(はくきゅう)
 学名:Bletilla striata
 ラン科シラン属
 宿根草(丈は30cm~70cm)
 地表近くに球茎(球根のようなもの、バルブと言う)ができる
  偽球茎は白及(びゃくきゅう)と呼ばれ、漢方薬として止血・痛み止め・慢性胃炎に用いる
 原産地は日本・台湾・中国
 開花時期は5月~6月
 紫蘭(シラン)には色々な品種がある
 ・白花紫蘭(シロバナシラン)
  白花が咲く。別名「白蘭(ハクラン)」とも呼ばれる。
 ・口紅紫蘭(クチベニシラン)
  白い花の中心が、淡いピンク色。口紅を塗ったように見える。
 ・黄花紫蘭(キバナシラン)
  中国南西部に多く見られる、黄色や薄いオレンジ色の花。
  通常の紫蘭よりも小型で、紫蘭と黄花紫蘭の交配させた品種は、小白及と呼ばれる。
 ・覆輪紫蘭(フクリンシラン)
  葉に白い斑が入った品種。花は純白や、中心が紫色になっている花が咲く。
 ・青花紫蘭(アオバナシラン)
  花色が淡青紫色。
 ・アマナ蘭(アマナラン)
  淡いピンクの花色で、中心が黄色く染まる小型な品種。
  台湾と中国で多く見られ、漢方薬の材料としても利用されている。


サラリーマン川柳、トップに「我が家では最強スクラム妻・娘」が輝いた

2020-05-29 | 世相
 今年も第一生命保険の「サラリーマン川柳コンクール(通称・サラ川)」、入選した100句のうち一般投票で選ばれた上位10句が発表された(5月28日)。
 第33回サラリーマン川柳コンクールには全国から53,194句寄せられた。作品の応募は2019年10月に締切り、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世相の変化は反映されていない。応募句から第一生命が選んだ100句を対象に、全国86,542人が投票した。
 上位10句
 1位:我が家では 最強スクラム 妻・娘 ・・3,699票
 2位:パプリカを 食べない我が子が 踊ってる ・・2,712票
 3位:話聞け! スマホいじるな! 「メモですが」・・2,443票
 4位:おじさんは スマホ使えず キャッシュです ・・2,379票
 5位:たばこ辞め それでも妻に 煙たがれ ・・1,990票
 6位:足りないの? そもそも無いよ 2000万
 7位:登録が ストレスだらけの キャッシュレス
 8位:ジジババも 子育て参加 ワンチーム
 9位:ギガバイト 時給いくらか 孫に聞く
 10位:「早よ、帰れ!」 言ってる上司が 帰らない

 天気は晴れ。朝から晴れたので、気温上昇・・夏日となったかな(最高気温26℃)・・暑い。
 街路樹のヤマボウシ(山法師)が白い花を咲かせている。白い花と言ったが、白い花弁のように見えるのは総包片(花のつけ根の葉)で、中心に見える球状の淡黄色で小さくで沢山集合したのが本当の花(集合花)である。
 果実はこの小さな花が集まった様な集合果で、球形(径1cm~3cm)のまま秋に赤く熟す。果実は食べられ、マンゴーのような甘さがある。近縁にハナミズキ(別名:アメリカヤマボウシ)があるが、ハナミズキの果実は集合果ではなく、個々に分離した果実である。
 名(山法師:ヤマボウシ)の由来は、中心の丸い花穂を坊主頭に、白い総包片が白い頭巾を連想させ、これを比叡山延暦寺の「山法師」になぞらえた。別名に、山桑(やまぐわ)があるが、果実の表面が桑の実の様にブツブツしているからと言う。
 ヤマボウシ(山法師、山帽子)
 別名:山桑(やまぐわ)・・桑の別名も「山桑」
 ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属
 落葉中木
 開花時期は6月~7月
  総苞片の美しさや育てやすさから街路樹や庭園樹として人気が高い
  江戸時代には海外で観賞用樹木として栽培された
 秋の紅葉は綺麗で、丸い赤い実も熟す


細胞培養用の微小デバイスをタンパク質で作製

2020-05-28 | 科学・技術
 理化学研究所生命機能科学研究センター集積バイオデバイス研究チームの田中陽チームリーダー、産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門次世代メディカルデバイス研究グループの永井秀典研究グループ長らの共同研究グループは、タンパク質のアルブミンを原料として、シリコーンゴムの鋳型で型取りすることにより、細胞培養用の微小デバイスを簡単に作製することに成功した。本研究は、科学雑誌「PLOS ONE」(5月20日付:日本時間5月21日)に掲載。
 共同研究グループは、「細胞パターニング」用のデバイスを作製するにあたり、真空吸引を利用してさまざまな溶液の鋳型への流れ込み方について調べた結果、鋳型に流れ込む溶液の量は溶液の粘性には依存せず、多様な溶液を使用できることが分かった。さらに、産総研が開発した「架橋アルブミン」水溶液を用いたところ、1日以内に細胞パターニング用の微小デバイスが作製でき、そのデバイスは7日間の細胞培養に耐えられることが分かった。
 背景
 細胞生物学において細胞集団の空間的な配置は、細胞集団の形態形成や組織機能の発現に関わる重要な要因として知られている。このため、細胞培養皿の表面など、細胞が接着する基材表面において、化学的な表面処理などにより、細胞が接着する部分と接着しない部分に区分けし、細胞の接着エリアを制御する「細胞パターニング」という手法がよく用いられる。
 田中陽チームリーダーらは、生体高分子の一種で、海藻の寒天から精製されるアガロースなどの水溶液を用いた細胞パターニング手法をこれまでにも開発してきた。これらの手法は、硬貨や自動車部品を作る際に用いられる「鋳造」という方法を応用し、どこでも簡単に作れるものである。シリコーンゴムの表面に深さ1mm以下の細かな溝を設けた「鋳型」を作り、そこにアガロース水溶液を流し込んだ後、鋳型を取り外すと、アガロースが鋳型の形に成型される。これを細胞培養に使うと、アガロースで覆われた部分には細胞が接着しないため、アガロースで覆われた所とそうでない所が区分けされ、アガロースで覆われていない所だけに細胞を接着させることができる。
 研究手法と成果
 共同研究グループは、フォトリソグラフィーと呼ばれる半導体製造に使われる手法を応用し、シリコーンゴムに細長い微小な溝を彫った。溝が下になるようにして、シリコーンゴムを容器上に置き、真空中に1時間ほど置くと、シリコーンゴムに溶け込んでいる気体分子を取り除くことができる。そして、再び大気圧に戻すと、気体分子がシリコーンゴムに溶け込むが、これによりシリコーンゴムで囲まれた空間が真空になることが知られている。この真空を利用して、粘性が異なる溶液を、さまざまなサイズのシリコーンゴムの溝に吸引させた。このとき溶液が溝に流れ込む様子を観察し、単位時間あたりに流れ込む溶液の量を算出した。
 解析の結果意外にも、粘性が高いドロドロした液体であっても、水のようにサラサラした液体と同じように溝の中に吸引できる一方で、溝の高さや幅などのサイズが流量を大きく左右することが分かった。これは、粘性に関係なく、多様な溶液が使用可能であること、流量はシリコーンゴムによる気体の吸引量が支配的であり、シリコーンゴムに囲まれた領域のサイズが大きいほど吸引量が平均的に増えることを示している。さらに、シリコーンゴムの気体吸引を考慮したモデルを構築し、数値シミュレーションによって、実際の液体の流量を再現することに成功した。
 次に、どのような材料が細胞パターニングに適しているかを検討した。注目したのは、産総研で開発された「架橋アルブミン」というタンパク質をベースにした材料である。血液中に多く含まれるタンパク質であるアルブミンは、一般的に水に溶けやすく、細胞培養の際に用いられる培養液に溶けてしまうため、細胞培養用デバイスの材料には不向きです。これに対して、化学処理によって複数のアルブミン分子を架橋させた架橋アルブミン水溶液は、いったん乾燥させると水に溶けない固形の材料に加工することができる。そこで、シリコーンゴムの鋳型に架橋アルブミン水溶液を流し込み乾燥させれば、培養液中でも安定して使用できる細胞培養用デバイスが作製できると考えた。
 実験の結果、架橋アルブミン水溶液をシリコーンゴムの鋳型に流し込み、真空吸引後大気圧に戻し、溶液が乾燥した後鋳型を取り外すことで、1日以内に細胞培養用デバイスを作製できることが分かった。これまで、溶液の乾燥に3日以上かかっていたアガロース水溶液を用いた方法よりも、迅速にデバイスの準備ができる。
 実際に、作製した架橋アルブミン製細胞培養用デバイスを用いて、細胞パターニングを行ったところ、架橋アルブミンもアガロースと同様に、細胞がその上には接着しなかった。架橋アルブミンの直線パターンを細胞培養皿に作り、マウス骨格筋由来の筋芽細胞株であるC2C12細胞を培養液中で培養した。比較対象とした、架橋していない通常のアルブミンで作った細胞培養用デバイスでは、細胞が全体に広がり細胞パターニングができないのに対して、架橋アルブミンでは、直線パターンが7日間にわたって維持されることが確認できた。
 今後の期待
 これまでアガロースを使った細胞培養用デバイスは、長期間の細胞培養でも安定だったが、作製に時間がかかるという課題があった。今回使用した架橋アルブミンを用いれば、より短期間で作製できることから、実験に必要なものを必要なときに準備できるようになり、実験の効率化に貢献すると期待できる。
 また、開発した微小デバイスは、シリコーンゴムの鋳型にタンパク質溶液を吸引させて作製した初めての細胞培養デバイスである。今回は手法の実証を目的として「細胞非接着性」のアルブミンを使用したが、シリコーンゴム製マイクロ流路の吸引力を利用した本手法は、「細胞接着性」の水溶性タンパク質にも展開可能である。細胞と細胞接着性タンパク質の相互作用(細胞の形状や発生・分化といった細胞機能と細胞接着性タンパク質の関連)を調査したいというニーズは高く、特定の形状を持つ構造の細胞接着性タンパク質を用いた微小デバイスがそのような研究にも応用されると考えられる。
 ◆補足説明
 〇アルブミン
 血清アルブミンのこと。分子量約66,000の安定な可溶性タンパク質で、血液中のタンパク質の約60%を占める。血液の浸透圧調整の役割を担っている。タンパク質の標準物質として広く研究に用いられている。
 〇シリコーンゴム
 シリコーンを主成分とする樹脂。液体状態の原料(モノマー)に触媒を加えると、重合反応により硬化し、ゴム状になる。本研究ではポリジメチルシロキサン(PDMS)というシリコーンゴムを用いている。
 〇細胞パターニング
 培養皿の上など、細胞が接着する基材表面において、化学的な表面処理などにより、細胞が接着する部分と接着しない部分に分画し、細胞の接着エリアを制御する技術。近年発達している一細胞レベルでの解析や大量の細胞解析といった最先端細胞科学の発展には欠かせないものとなっている。例えば、細胞を定位置に置くことで観察のハイスループット化を可能にする。
 〇アガロース
 海藻から作られる寒天を精製したもので、生物学実験では核酸電気泳動や大腸菌培養などに利用され、生物学分野の研究室ではなじみ深い物質である。

 天気は晴れ。暫くの晴れで、畑の作物は元気に成長。
 畑までの散歩、空き地にお花、”ヒルザキツキミソウ”が咲きだした。可憐で優雅なお花だ。
 ”ヒルザキツキミソウ”の名は、昼に開花する”ツキミソウ(月見草)”からと言う。”ツキミソウ”は宵に咲く。両者の違いは、咲く時間と花色だけかな?・・私には分からない。
 ヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)
 別名:昼咲(ひるざき)桃色月見草
 英名:Pinkladies Showy evening primrose
 学名:Oenothera speciose
 アカバナ科マツヨイグサ属
 耐寒性多年草
 北米原産、観賞用として輸入された
  生命力が強く野生化した帰化植物
 丈は30cm~45cm
 開花時期は5月~7月
 花径は数cm、花色は白・薄桃色で黄色もある


世界の乾燥地域では、農地土壌の炭素量増加により穀物生産の干ばつ被害が軽減

2020-05-27 | 学問
 農研機構は、世界の穀物収量と土壌データを解析し、乾燥地域を中心とする世界の7割の農地では、農地の土壌に含まれる炭素量が多い場所で、干ばつ被害が抑えられていることを明らかにした。また、農地管理により土壌炭素を増やすことで、干ばつ年の穀物生産額を最大16%増加すると試算した。本成果から、農地土壌の炭素量を増やすことは、土壌保全に加え、大気中の二酸化炭素(CO2)減少を通じて温暖化の緩和につながり、さらに乾燥地域の食料安全保障を高めることが示された(2月6日発表)。この研究成果は科学国際誌「Scientific Reports」に掲載。
 研究の社会的背景と経緯
 開発途上国の農業生産の多くは雨水に依存しており、常に干ばつの危険に晒(さら)されている。また、開発途上国では、輸送インフラや貯蔵施設が脆弱なため、生産された食料の大部分が生産地域とその近傍で消費される。ひとたび干ばつによる生産低下が起こると食料安全保障が急激に損なわれる恐れがある。
 土壌中の炭素量が多いと干ばつによる作物収量の低下がある程度軽減されることが知られている。土壌に含まれる有機物(主に有機炭素)が水分保持と多孔質な土壌構造の発達に寄与するため、干ばつ時にも作物が土中から水をある程度、得られるためである。また、有機物が豊富な土壌は、多様な土壌生物を育み、作物への養分供給が緩やかに行われ、風雨や耕作に伴う土壌侵食を低減するといった土壌保全効果が高いことも知られている。
 また、農地土壌への炭素貯留による温暖化緩和効果が広く認識されている。世界の土壌に含まれる炭素量は大気中にCO2として存在する炭素の量に比べて2~3倍多く、世界の陸地面積の4割近くを農地(牧草地を含む)が占める。このため、農地土壌への炭素貯留を通じて温暖化緩和と食料安全保障の達成を目指す「4パーミルイニシアチブ」が2016年から国際的に推進されている。一方で、限られた政策的な介入で大きな効果を得るためには、土壌への炭素貯留がもたらすさまざまな便益(co-benefit)を考慮し、炭素貯留が複数の効果(例えばSDGsの達成)に同時に寄与する地域を明らかにすることが有効と考えた。
 そこで農研機構は、世界の主要穀物(トウモロコシ、コメ、コムギ、ダイズ)の収量と土壌データから、農地土壌に含まれる炭素量と穀物の干ばつ被害との関係を解析し、炭素貯留による干ばつ被害の軽減効果を具体的に推定した。
 研究の内容・意義
 1.干ばつ被害の受けやすさを表す指標として、「干ばつ耐性ギャップ」を定義した。農研機構が開発した、50kmメッシュ別の全球作物収量データベース(うち1992-2008)を解析し、主要穀物(トウモロコシ、コメ、コムギ、ダイズ)の干ばつ年の収量データを抽出し、平年収量に対する割合で表したものを、各メッシュの「干ばつ耐性(%)」とした。干ばつ耐性(%)が大きいほど干ばつ被害が小さいことになる。次に、気候条件が同じ地域のなかで、最も大きい干ばつ耐性(%)を「その気候条件の干ばつ年の潜在的な実現可能レベルa(%)」と仮定し、残りのメッシュについて、aと干ばつ耐性(%)の差を「干ばつ耐性ギャップ(ポイント)」として、世界地図上に示しました。干ばつ耐性ギャップは、与えられた気候条件の中で、干ばつ耐性を向上できる余地があるか調べるのに有効である。
 2.干ばつ耐性ギャップと土壌炭素量との関係を調べたところ、乾燥地域の農地では表層土壌中の炭素量が少ないほど干ばつ耐性ギャップが大きく、炭素量の増加に伴いギャップが小さくなり、炭素量が4~9キログラム/平方メートル以上ではギャップの値がほぼ一定となることが明らかになった。この結果から、土壌中の炭素量がもともと少ない乾燥地域の農地では、干ばつ耐性ギャップが大きく、農地管理により炭素量を増やすことで、干ばつによる収量低下を抑えられる(=干ばつ耐性ギャップを減らせる)と推定された。一方湿潤地域では、乾燥地域で見られたような干ばつ耐性ギャップと土壌炭素量の関係は見られなかった。
 3.干ばつ被害の軽減効果が見込める最大水準まで土壌炭素量を増やすと仮定すると、農地に追加で蓄えられる炭素量は世界全体で48.7億トンに上る。この土壌炭素量は、世界の2016年の年間CO2排出量の55%に相当し、世界の平均気温の上昇を0.011℃ (不確実性:0.008-0.014℃ )抑制できると見積もられた。
 4.上記の規模で農地土壌への炭素貯留が実現した場合、干ばつ年の世界の穀物生産額は、現状に比べ16%まで増加可能と試算された。土壌炭素管理が特に効果的な地域としては、干ばつ年の生産額の増加の観点からは中東・北アフリカが、また土壌の炭素量増加の観点からは、東南アジア・オセアニアと示唆された。
 5.本成果から、世界の乾燥・半乾燥地域における農地土壌の炭素貯留が、温暖化の緩和、食料安全保障、土壌保全、といった複数のSDGsの達成に同時に寄与できることが、具体的な数値とともに示された。
 今後の予定・期待
 本成果は、土壌炭素を増やすような農地管理が、特に土壌炭素に乏しい乾燥地域において、SDGsの複数(2飢餓をゼロに、13気候変動対策、15陸の豊かさを守る)の達成に同時に寄与できることを示しており、国際機関や各国での施策決定に役立つことが期待される。SDGsの推進にあたり、限られた資源・労力をどのSDGsに優先的に割り当てるかは常に問題になる。そのため、本成果のような複数のSDGsに寄与する方策を見出すことは重要である。
 今後は、ALTENA(アジア農耕地長期連用試験ネットワーク)7)などを活用し、気候や土壌条件ごとに炭素貯留に適した農地管理技術とその効果について検証を進める予定である。
 ◆用語の解説
 〇乾燥地域
 本研究では地域区分に年間の潜在蒸発散量に対する降水量の比を用いた。この比が0.45を下回ると乾燥地域、1.0を上回れば湿潤地域、両者の間は半乾燥地域と呼ぶ。
 〇土壌炭素
 土壌には炭酸塩などの無機炭素と枯死根や腐植といった有機炭素が含まれる。後者には有機態窒素やリン等の養分も多く含まれ、土壌有機物と呼ばれる。
 〇持続可能な開発目標(SDGs)
 SDGsは国連のミレニアム開発目標の後継である。ミレニアム開発目標では2015年までに達成すべき8つの目標を定められていが、SDGsでは2030年までに達成すべき17の目標が掲げられている。
 〇炭素貯留
 ここでは農地における炭素貯留を指します。農地で、堆肥や植物残渣などの有機物を土壌に入れると、徐々に微生物により分解され、一部は土壌有機炭素として土壌に留まる。この微生物の分解を受けにくい土壌有機炭素の増加を土壌炭素貯留と呼ぶ。京都議定書第3条4項において、各国が選択可能なCO2の吸収源活動として、炭素の貯留を高める農地管理が位置付けられているところである。土壌肥沃度が低く、温暖化に対して脆弱な乾燥地域の農地において炭素貯留に寄与する土壌管理技術には、不耕起・省耕起(蒸発散を抑え、節水になる)、土面被覆、アグロフォレストリー(樹木の間で農作物を栽培)、緑肥(カバークロップ)、堆肥やコンポスト、バイオ炭といった有機資材の投入などがある。
 〇4パーミルイニシアチブ
 4パーミル(4‰)とは1000分の4のことである。全世界の土壌中に存在する炭素の量を毎年1000分の4ずつ増やすことができたら、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を相殺できるという計算に基づき、土壌炭素を増やす活動を推進している国際的な取り組みである。2015年にパリで行われた気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の際にフランス政府主導で始まり、2019年12月現在、日本を含む413の国や国際機関、NPOなどが参加している。
 〇全球作物収量データベース
 主要穀物(トウモロコシ、コメ、コムギ、ダイズ)について世界の生産地域における50kmメッシュごとの推定収量が収録されたデータベース。メッシュ別の収量は統計収量データと衛星データを組み合わせて推定されている。初出は農業環境技術研究所(現:農研機構)『平成25年度 研究成果情報(第30集)』(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/result/result30/)の「世界の主要生産地域における過去25年間の主要作物の推定収量データベース」。当初は120kmメッシュ・1982-2006年のデータのみで、その後、50kmメッシュ・1981-2011年のデータに更新された。
 〇ALTENA(アジア農耕地長期連用試験ネットワーク)
 炭素貯留、肥沃度等の土壌特性は長い時間をかけて変化する。その変化を捉え、農業の持続性を高めるためは、同一の農地管理を数十年以上モニタリングする長期連用試験が必須である。アジア各地で行われている長期連用試験を維持し情報を集約することが、アジアの食糧生産とその持続性に重要であるため、農研機構の研究者が中心となり長期連用試験に関わる研究者達のネットワークが2015年に設立された。

 今日の天気は曇り~晴れ。気温が高く、最高気温24℃・最低気温16℃とか。
 遠出の散歩で”カラー”畑を見つけた。魅力的な純白の仏炎苞が特徴的だ。
 ”カラー”は2タイプに分けられ、湿地でよく育つ「湿地性」と、乾燥した土地を好む「畑地性」があると言う。このカラーはどちらなのかは判らないが、たぶん「畑地性」かな。
 数十cmの花茎を伸ばし、茎の頂部に漏斗状の巻いた純白の仏炎苞(ぶつえんほう)をつける。花は黄色で花序軸上に密集し、仏炎苞に包まれる肉穂花序(にくすいかじょ)。
 ・・仏炎苞
  苞が大型に変化して、花弁(はなびら)の様になったもの
  仏像の背にある光背に、形・雰囲気が似ていることから
  苞には白・赤・黄・紫などの色があり、とても綺麗
 葉は楕円形・矢じり型・ハート型などがあり、白い斑点があることが多い。柄は太長く、基部は鞘状になる。名(カラー)の由来に、仏炎苞がワイシャツの襟(Collar)に似ていることから、との説がある。
 カラー
 別名:海芋(かいう)、オランダカイウ
 英名:Calla、Calla lily
 サトイモ科オランダカイウ属
 多年草(球根)
 原産地は南アフリカ、日本には江戸末期にオランダから渡来
 開花時期は5月~7月
  畑地性のカラーは春に植え、5月~7月に花が咲く
  11月ごろに葉が黄色くなって枯れ、1月~3月まで休眠する



近視の発症・進行に関与する新たな遺伝子を発見

2020-05-25 | 健康・病気
 横浜市立大学学術院医学群 眼科学の目黒明特任准教授と水木信久主任教授らの研究グループは、強度近視を対象とした遺伝子解析研究を行い、近視の発症・進行に関与する新たな疾患感受性遺伝子領域を同定した(5月18日発表)。この研究成果は、京都大学、シンガポール国立大学、国立台湾大学との共同研究によるものである。本研究の成果は、眼科の主要国際雑誌「Ophthalmology」に掲載。
 研究成果のポイント
 〇アジア人(日本人、シンガポール人、台湾人)の強度近視を対象としたゲノムワイド関連解析により、近視の発症と進行に関与する9個の疾患感受性遺伝子領域を同定した。
 〇上記の疾患感受性遺伝子領域のうち、6個(「HIVEP3」、「NFASC-CNTN2」、「CNTN4-CNTN6」、「FRMD4B」、「LINC02418」、「AKAP13」)が新規の疾患感受性遺伝子領域であった。
 〇上記9個の疾患感受性遺伝子領域は「シナプスシグナル伝達」、「神経発達」、「Ras/Rhoシグナル伝達」に関連する神経系の機能を亢進または抑制させることによって近視の発症、進行および病態に深く関与することが分かった。
 〇以上の成果は、近視の発症リスクおよび進行度を遺伝子判定から予測するための基礎情報になることが期待される。
 研究の背景
 近視は、眼軸の延長と水晶体の屈折力の変化により網膜への結像が障害される眼疾患である。近視の中でも眼軸長の異常な延長を示す「強度近視」は、網膜剥離や黄斑下出血、緑内障、白内障、網膜変性症などの基礎疾患となり、重篤な視力障害を引き起こすことが知られている。強度近視の患者は日本、中国、シンガポールを含むアジア地域に多く、他の地域における有病率と比べて著しい高値を示す。近視の有病率は世界中で急激に上昇しており、2050年までに世界人口の約半分(約50億人)が近視を、約10%(約10億人)が強度近視を有する(すなわち、10人に1人が失明のリスクを抱える)ことが予想されている。近視は遺伝要因(疾患感受性遺伝子)と環境要因とが複合的に関与して発症・進行する多因子疾患と考えられており、これまでに遺伝子解析研究が多数実施されているものの、未同定の疾患感受性遺伝子が依然として多く存在することが示唆されている。
 研究の内容
 近視の発症・進行に関与する疾患感受性遺伝子を同定するため、日本・シンガポール・台湾の3ヵ国による国際共同研究を実施した。近視の程度が強くなるほど、その発症・進行に対する遺伝要因の影響度が大きくなることが報告されているため、本研究では、強度近視を対象に遺伝子解析を行った。
 まず日本人集団(強度近視患者1,668例、健常者1,601例)を対象にゲノム全域を網羅するSNP解析(ゲノムワイド関連解析:GWAS)を実施したのち、新たな日本人・シンガポール人・台湾人集団(強度近視患者881例、健常者9,946例)を用いて追認試験・メタ解析を行った結果、強度近視とゲノムワイドレベルの相関(P < 5×10-8)を示す9個の疾患感受性遺伝子領域(「HIVEP3」、「NFASC-CNTN2」、「ZC3H11B」、「CNTN4-CNTN6」、「FRMD4B」、「LINC02418」、「GJD2」、「RASGRF1」、「AKAP13」)を同定した。同定した9個の疾患感受性遺伝子領域のうち、3個(「ZC3H11B」、「GJD2」、「RASGRF1」)は既知の有力な近視感受性遺伝子領域であり、6個(「HIVEP3」、「NFASC-CNTN2」、「CNTN4-CNTN6」、「FRMD4B」、「LINC02418」、「AKAP13」)が今回のGWAS研究で新たに同定された疾患感受性遺伝子領域となる。
 上記9個の疾患感受性遺伝子領域を対象とした機能解析の結果、これら疾患感受性遺伝子領域内に位置する複数の遺伝子の発現量の変動が近視の発症・進行に有意な影響を与えることが分かった。また、遺伝子オントロジーエンリッチメント解析により、「シナプスシグナル伝達」、「神経発達」、「Ras/Rhoシグナル伝達」に関連する神経系の機能の亢進や抑制が近視の発症、進行および病態に深く関与していることが分かった。
 本研究は、眼軸長の異常な延長を示す強度近視を対象としたGWAS研究であり、本研究で網羅的に同定された疾患感受性遺伝子は近視の発症・進行に影響を与える重要な遺伝要因であることが推察された。
 今後の展開
 本研究の成果は、近視の発症メカニズムおよび病態の全容解明の一助となることが期待される。また、本研究で得られた遺伝学的情報は、近視の発症リスクおよび進行度を遺伝子判定により予測するための基礎情報になることが期待される。近視を発症するリスクや近視発症後の進行度を予測出来れば、近視の発症・進行予防への早期取り組みが可能となり、医学的・社会的価値は大変高いと考えられる。
 ◆用語解説
 〇ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)
 ゲノムワイドとは、「ゲノム全体」、「ゲノム全域にわたる」の意であり、ゲノムワイド関連解析は、ゲノム全域を網羅する遺伝子多型(主にSNP)を対象に、ある疾患を持つ群と持たない群との間で統計学的に有意な頻度差を示す遺伝子多型を検索する手法である。
 〇SNP
 single nucleotide polymorphism(一塩基多型)の略。ヒトゲノムは30億塩基対のDNAからなるとされているが、個々人を比較するとそのうちの 0.1%の塩基配列に違いがあると見られており、これを遺伝子多型と呼ぶ。遺伝子多型のうち、1つの塩基が他の塩基に置き変わるものをSNPと呼ぶ。SNPは最も多く存在する遺伝子多型である。遺伝子多型のタイプにより遺伝子をもとに体内で作られるタンパク質の働きが微妙に変化し、疾患の罹り易さや医薬品への反応に変化が生じる場合がある。
 〇遺伝子オントロジーエンリッチメント解析
 遺伝子オントロジー(Gene Ontology)とは、各遺伝子の機能や役割を階層化して分類・整理し、遺伝子に付けられるアノテーション(注釈付け)であり、遺伝子オントロジーエンリッチメント解析は、遺伝子オントロジーが関連付けられた遺伝子集団にはどのような生物学的プロセスや分子学的機能が多く含まれているかを調べる解析手法である。

第40回猿橋賞に京都大の市川温子准教授

2020-05-24 | 学問
 「女性科学者に明るい未来をの会」は、自然科学分野で優れた業績をあげている女性研究者をたたえる「猿橋賞」の2020年の受賞者に京都大の市川温子准教授(49)に贈ると発表した(5月23日)。
 市川氏は、謎に包まれた素粒子ニュートリノを研究。茨城県から飛ばしたニュートリノが、岐阜県の観測施設「スーパーカミオカンデ」にたどり着くまでに種類を変えて変身しているのを世界で初めて観測した。ニュートリノが変身する割合を詳しく調べるT2K実験の代表として、宇宙が誕生したときに物質と同じだけあったはずの反物質がなぜ消え、銀河や私たちといった物質が生き残ったのかという謎に挑んでいる。
 市川温子氏の研究業績要旨 (「女性科学者に明るい未来をの会」のHPから引用)
 「加速器をもちいた長基線ニュートリノ実験によるニュートリノの性質の解明」
 “Unraveling the nature of neutrino by accelerator-based long baseline neutrino experiment”
 宇宙初期にエネルギーの塊から物質と反物質が等しく生成されたはずであるのに、なぜ現在の宇宙 には反物質がほとんどなく、物質のみが存在するようになったのかという根源的な謎の解明が待たれている。素粒子物理学の世界では、粒子と反粒子の性質の違い(CP対称性の破れ)が探求され、これまでにクォークにおけるCP対称性の破れが発見されている。しかしその破れは物質優勢宇宙を説明できるほど大きくはない。ニュートリノにおいてCP対称性の破れを発見できれば、物質優勢宇宙成り立ちの 謎を解く鍵になると期待されている。市川温子氏はこのニュートリノの性質解明を目指し、加速器を用いたニュートリノ振動実験であるT2K(Tokai to Kamioka)実験に設計段階から携わって、ニュートリノ・ビームラインの建設と実験データ解析の両面で大きな貢献を成した。
 T2K実験では大強度陽子加速器J-PARCを用いて生成したミュー型ニュートリノを295km離れた検出器スーパーカミオカンデに向けて出射する。市川氏はこの長基線の高強度ニュートリノビームの生成と、 ニュートリノビームの性質を高精度で測定するモニター群の建設について様々な独創的なアイデアを出している。とくに、生成装置の中でも最も厳しい環境で安定に動作させる必要がある標的と電磁ホーンを、研究グループを牽引して予定通りに完成させた。これによりT2K実験は2011年から2013年にかけてミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノに変化する「電子型ニュートリノ出現」を世界で初めて観測するという大きな成果を挙げた。電子型、ミュー型、タウ型の3種類のニュートリノが振動によって混合することが確かめられ、ニュートリノにおいてCP対称性の破れを発見できる可能性が開けた。
 市川氏は実験データ解析においても、ニュートリノビームの性質の決定とその誤差の伝搬について 独創的な手法を確立し、CP対称性の破れを探索するデータ解析を中心となって牽引してきた。ミュー 型ニュートリノから電子型ニュートリノへの変化と、反ミュー型ニュートリノから反電子型ニュートリノへの 変化に頻度の違いがあれば、CP対称性の破れが明らかになる。T2K実験は2014年から反ニュートリノビームを用いた実験を開始し、現在までに有意度2σでCP対称性の破れの兆候を捉えている。
 T2K実験では、今後さらに、J-PARC加速器の強度増強やニュートリノ・ビームラインの増強が計画されており、CP対称性の破れが大きい場合に有意度3σで検出することを目標としている。市川氏は優れた研究業績とともに卓越したリーダーシップを示し、2019年3月には約500名からなるT2K 実験の代表者に選ばれ、今後の舵取りを託されている。

 今日の天気は、曇り~晴れ。早朝は雨かな。畑作業は、絹サヤ取り・・沢山取れた。
 畑の隅に小さな花畑。”アイリス”の花が咲いている。”アイリス”はアヤメ科アヤメ属の植物で、アヤメの仲間は似た花が多く、これは根が球根のタイプの”ダッチアイリス”である。他に、全体的に小さい”ミニアイリス”、”ジャーマンアイリス”などがある。
 球根”アイリス”の中で良く栽培されているのが本種”ダッチアイリス”である。”タッチアイリス”は、名前のとおりオランダにおいて品種改良が進められた球根”アイリス”で、イベリア半島原産の”スパニッシュ・アイリス (Iris xiphium)”を基に北アフリカ原産の”ティンギダナ(Iris tingitana)”などが掛け合わせて作られた園芸種、との事。
 ”ダッチ・アイリス(Duch iris)”の別名には、”アイリス””球根アイリス””オランダアヤメ”などがある。”アイリス”と言えば、”ダッチアイリス”を指す様だ。
 アイリス(Dutch iris, Iris)
 別名:ダッチアイリス、オランダアヤメ(オランダ文目)
 学名:Iris hollandica
 アヤメ科アヤメ属
 秋植え球根
  夏に葉が枯れて休眠する
 原産地:地中海沿岸地方
 開花時期:4月~5月
 1つの花茎に数個の花が付く。
 花径は10cm程度。花被片は6個あリ、外側の3個の花被片は垂れ下がり、内側の花被片は直立する
 花色が豊富で色彩も多彩。花色は白・黄・青・青紫など、黄と白、黄と青などの複色花もある


移植苗のリン浸漬処理がイネの増収と冷害回避につながることを実証

2020-05-23 | 園芸
 国際農研は、マダガスカル国立農村開発応用研究センターと共同で、リン肥料と水田土壌を混合した泥状の液体に苗を浸してから移植するリン浸漬処理技術により、イネの収量と施肥効率を大幅に改善できること、さらに、この技術がイネの生育日数を短縮し生育後半の低温ストレス回避に有効であることをマダガスカルの農家圃場で明らかにした。リン浸漬処理を施すことで、従来の施肥法(表層施肥)に比べて、籾収量が9~35%増加した。マダガスカルをはじめとするサブサハラアフリカでは、リン供給力に乏しい貧栄養土壌や生育期間中の不安定な生産環境(水不足、低温・高温ストレス)により、イネの生産性が著しく制限されている。同技術を普及させることで、サブサハラ地域のイネの安定生産、さらには、食料安全保障に貢献することが期待される。本研究成果は、国際科学専門誌「Field Crops Research」電子版(日本時間2020年4月24日15時)に掲載。
 ポイント
 〇移植苗のリン浸漬処理がリン欠乏圃場でのイネ増収と生育日数の短縮につながることを解明
 〇生育日数が短縮することで、生育後半の低温ストレス回避につながることを実証
 〇リン欠乏や低温ストレスに悩まされるアフリカの安定的イネ生産に貢献
 背景と経緯
 マダガスカルは、日本人の2倍以上のコメを消費するアフリカ随一の稲作国である。しかし、イネの生産性は今日まで停滞しており、主食であるコメの安定供給と農村地域の貧困削減を妨げている。その 結果、マダガスカルは、国民の77%が1日1.9 ドル未満で暮らす世界の最貧国の1つに数えられる。
 イネの生産性を阻害する要因として、農家が貧しいために肥料を購入する資金が少ないこと、貧栄養土壌が広く分布していることが挙げられる。特に、作物の三大栄養素の1つであるリンは、土壌中の存在量が少なく、また、土壌のリン固定能が高いために、施肥をしても土壌に吸着し、イネに吸収されにくい問題があった。そこで、本研究では、かつて日本で実践されていた 揉付(もみつけ)などにもヒントを得ながら、リン固定能の高い土壌でも、少ない肥料で効率的にイネの生産性を改善できる施肥技術の開発を目指した。
 内容・意義
 本研究で着目したリン浸漬処理は、リン肥料 (重過リン酸石灰 と水田土壌を混合した泥状の液体(スラリーに苗の根を30分程度浸してから移植する。小規模農家にも実践しやすい局所施肥技術の1つである。
 マダガスカルの農家圃場で、2年間にわたり同技術の効果を評価したところ、リン浸漬処理を施すだけで、無施肥に比べて59~171%、表層施肥に比べて、同量もしくは半分の施肥量で9~35%、籾収量が増加することが示され、リン固定能の高い熱帯の貧栄養土壌でこの技術の効果が高いことが明らかになった。さらに、リン浸漬処理は、無施肥に比べて約3週間、表層施肥 に比べて約10日間、イネの生育期間を短縮できることが分かった。その結果、この技術は、標高の高い地域における生育後半の低温ストレス回避、すなわち、イネの登熟不良の改善にも有効であることが示された。リン欠乏がイネの発育を遅延させることはよく知られているが、本研究では、リンの施肥法の違いにより顕著に生育日数が変化すること、さらに、それにともなって環境ストレスが回避できることを生産現場で初めて実証することに成功した。
 マダガスカルをはじめ、サブサハラ地域のイネ生産は、リン欠乏のみならず、水不足や低温・高温ストレスなど生育期間中のさまざまな環境ストレスにさらされている。本 成果は、こうした栽培環境での安定的なイネ生産にもつながることから、 学術的にも実用的にも価値が高いものといえる。
 今後の予定・期待
 本成果は、マダガスカルの現地メディアにも広く取り上げられており、農家や行政機関の関心が高まっている。今後、国際農研は、マダガスカルの共同研究機関、農業畜産水産省、肥料会社、および JICA 技術協力プロジェクト PAPRIZ 2などと力を合わせて、数百 世帯 の小規模農家を対象とした実証試験 を予定している。
 実証試験で得られたデータを基に、同技術の 効果 や農家が実践する上での課題を抽出し、技術の汎用化と広域への普及を目指す。同技術が普及することで、マダガスカル政府が掲げる2023年までのコメの自給達成 や同様の生産課題を抱えるサブサハラ地域の安定的なイネ生産、さらには、同地域の食料安全保障および貧困削減に貢献することが期待される。
 ◆用語解説
 〇1日1.9ドル未満
 必要 最小限の生活水準が満たされていない とする世界銀行が示す絶対的貧困ライン 。
 〇リン固定能
 施肥したリンが土壌に吸着する割合を示す指標。土壌中の非晶質のアルミニウムや鉄含量が 多いほど高くなりやすく、作物のリン吸収を阻害する。
 〇揉付(もみつけ)
 リン固定能の高い火山灰土壌が多い 鹿児島県などに みられた施肥法。リン肥料もしくはリンを多く含む骨粉を苗の根に揉み付けてからイネを移植した。
 〇スラリー
 液体中に粘土などの固 体粒子が懸濁(けんだく)した泥状のもの。
 〇局所施肥技術
 作物の根が分布する位置にあらかじめ 施肥することで 、効率よく肥料成分を吸収させる施肥法。
 〇PAPRIZ 2
 コメ生産性向上・流域管理プロジェクトフェーズ 2(2015年12月~2020年11月)。
 マダガスカルの稲作技術普及と生産性向上に取り組む JICA 技術協力プロジェクト。

 天気は曇り。時間によって雲の厚さが異なるのか、空からの明るさが変化する。
 近所の空地で、”ハハコグサ”の花が咲いている。開花時期は、4月~6月だから時期外れの開花ではない・・昨年も一昨年も時期外れの花を見てきたから・・。
 名(ハハコグサ:母子草)の由来に、毛が多い状態、毛が形成される状態を「ほほけ立つ」と呼び、この”ホホケグサ”の転訛から、との説がある。古い呼び名にホウコグサがあり、茎・葉が「蓬(ほお)けて」白い細かな毛に覆われているので、「ほうこぐさ、ほおこぐさ」との別名である。
 ”ハハコグサ”は、春の七草の一つ。御形(おぎょう、又は、ごぎょう)と呼ばれ、食べるのは春の茎葉の若いものだけ。草餅の材料に使われたが、「母と子を臼と杵でつくのは縁起が良くない」として蓬(よもぎ)に代わったと言う。
 ハハコグサ(母子草)
 別名:御形(おぎょう、ごぎょう)
 学名: Gnaphalium affine
 キク科ハハコグサ属
 1年草または多年草
   (春の七草の一つ)
 ムギ類とともに伝来した史前帰化植物
 開花時期は、4月~6月


根の葉緑体を作るのに窒素同化鍵酵素が重要であることを発見

2020-05-22 | 園芸
 筑波大学生命環境系の草野都教授(理化学研究所環境資源科学研究センター客員主管研究員)、東北大学の山谷知行名誉教授、理化学研究所環境資源科学研究センターの福島敦史研究員、国際農林水産業研究センターの圓山恭之進主任研究員、岐阜大学の山本義治教授らの研究グループは、イネの窒素同化に不可欠な細胞質局在型グルタミン合成酵素(OsGS1)のアイソザイムであるOsGS1;1が、光合成を行わない根の葉緑体形成に大きく関わることを明らかにした。本研究の成果は、2020年2月6日付け「Plant Physiology」のオンライン版で公開。
 研究成果のポイント
 〇イネの窒素同化に欠かせない細胞質型グルタミン合成酵素(GS1)アイソザイムのうち、根で働く2種類の働き方の違いを明らかにした。
 〇2種類のうちOsGS1;1は炭素・窒素代謝の恒常性制御を担っており、OsGS1;2はアミノ酸生合成に影響を与えていた。また、OsGS1;1の働きを抑制すると、光合成を行わない根に葉緑体が形成されることを世界で初めて明らかにした。
 〇葉緑体形成に関係ないと考えられてきた窒素同化および炭素・窒素代謝を制御することで、根に光合成能力を付与できる可能性があることを示す研究成果である。
 窒素は肥料の三大必須栄養素の一つで、植物の生存に不可欠な葉緑素やアミノ酸等の材料となる。植物体内に取り込まれた窒素はアンモニウムに変換された後、グルタミン合成酵素(GS)によりアミノ酸の一種であるグルタミンを作る。植物は細胞質局在型GS1をコードする遺伝子を複数個持っているが、植物が多数のGS1アイソザイムを持つ理由は明らかにされていなかった。
 本研究では、食糧として重要な作物であるイネのGS1アイソザイムの中で、窒素肥料を与える時期として効果的な生育初期段階で発現するOsGS1;1およびOsGS1;2に着目した。それぞれの遺伝子を破壊した変異型イネを解析した結果、
 Osgs1;1変異体の根では中心代謝に属する糖類やアミノ酸類の蓄積バランスが崩れるのに対し、
 Osgs1;2変異体ではアミノ酸類の量のみが減少することが分かった。さらに、Osgs1;1変異体では、光合成を行わない根の部分に葉緑体が形成されることを明らかにした。
 OsGS1;1は炭素・窒素代謝の恒常性や葉緑体形成など広範な現象に関わり、Osgs1;2は代謝中のアミノ酸生合成制御に特に関わっていることになる。
 ◆用語解説
 〇窒素同化
 硝酸イオンやアンモニウムイオンなどの無機窒素化合物を材料にアミノ酸等の有機窒素化合物を合成する反応のこと。
 〇アイソザイム
 同一の生化学反応を触媒する複数の酵素群を指す。個々のアイソザイムが持つ分子構造や物理化学的性質は異なる。
 〇メタボロ―ム
 ある生物がもつ代謝物(メタボライト)全てを指す呼称。「オーム」という言葉は「総体」を示す。「メタボライト+オーム」が語源である。
 〇トランスクリプトーム
 細胞中に存在するすべてのmRNAの総体のこと。トランスクリプトームは特定の条件下(環境、組織等)によって変化する。
 〇オミックス解析
 総体(オーム)を科学する(-ミクス)ことを示すのがオミックスであり、生体を構成している分子を網羅的に調べる方法。
 〇ネットワーク解析
 現実世界に存在する巨大で複雑な関係性を持つ対象を点と線からなるネットワークとして表現し、その構造的な特徴を探る方法。本研究の場合、点が代謝物蓄積量、線が遺伝子発現量を示している。GAMによるネットワーク解析により、データベースの代謝ネットワーク内でどのサブネットワークが強調されているかを視覚化している。
 〇TCA回路(クエン酸回路)
 tricarboxylic acid回路の略称。ミトコンドリアのマトリクス(細胞質の液状の部分)でアセチルCoA由来のアセチル基を二酸化炭素にまで完全分解する過程を指す。NADHやFADH2などのエネルギーを生み出す好気的代謝における最も重要な生化学反応回路である。
 〇カルビン・ベンソン回路
 光合成電子伝達系で合成したNADPHとATPを利用し、二酸化炭素を還元して有機化合物を合成する反応。葉緑体内のストロマという無色の液体に局在する。

 曇り。気温は低く、最高気温15℃・最低気温10℃。昨日よりは少し暖かい。
 ビル横の空き地に雑草が生い茂っている。その中に黄色の花、”クサノオウ”の花だ。大きな花ではない、花横に上向きの莢が実る。
 ”クサノオウ”は、草ノ黄・瘡ノ王・草ノ王と書く。茎や葉の部分を傷つけると橙黄色(最初白く、直ぐに黄色に変化)の乳液が出る。乳液だけでなく、全草に多種のアルカロイド成分を含む毒草である。本草は古くから民間療法の薬草として使われていた。皮膚疾患(いぼ取り・水虫・インキンタムシ)や外傷薬で、煎じて消炎性鎮痛剤として服用したとも言う。現在でも下剤として利用されるが、毒性が強いのでその使用には専門家の指導が必要と言う。
 名(クサノオウ)の由来は、草ノ黄:植物体を傷つけると黄色の乳液が出る、瘡ノ王:皮膚病(湿疹、くさ)に有効な薬草、草ノ王:皮膚病の他にも鎮痛剤などで使われ薬草の王、などの説がある。
 クサノオウ(草ノ王、草ノ黄、瘡ノ王)
 別名:皮癬草(ひぜんくさ)
 ケシ科クサノオウ属
 多年草
 開花時期は5月~7月
 花は径3cm程の鮮やかな黄色の四弁花
 花後に長さ3cm程の莢が上向きに実る
 全草に多種のアルカロイド成分を含む毒草である。
  茎などを傷つけると出る黄色い乳液などは皮膚に触れると炎症を起し、皮膚の弱い人は草に触れただけでかぶれることがある。


酵素の仕組みを再現した硝酸還元触媒、窒素酸化物の無害化技術へ

2020-05-21 | 科学・技術
 理化学研究所環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チームの中村龍平チームリーダー、李亜梅研究員(研究当時)らの国際共同研究グループは、化学合成した酸素を含むモリブデン硫化物の触媒に、天然の硝酸還元酵素と類似した反応活性サイトがあることを見いだした。本研究は、科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版(4月1日付)に掲載、Very Important Paper (VIP)に採択された。
 窒素肥料の大量消費により、環境汚染が深刻化している。特に、硝酸イオンは、水に溶けやすく、化学的に安定であるため、地下水や河川に蓄積し、飲料水を汚染したり、湖沼の富栄養化や赤潮を引き起こす。国際共同研究グループは、2017年、硝酸イオンを無害化するための触媒として、モリブデン硫化物が有望な候補であることを見いだした。今回、国際共同研究グループは、触媒作用の起源を明らかにするため、モリブデン硫化物の性質を電子スピン共鳴分光法などで評価した。その結果、酸素を含む5価のモリブデン(Mov=O、オキソモリブデン)が、反応を促進するための活性種であることを突き止めた。そして、この活性種が、天然の硝酸還元酵素と類似した構造を持つことを明らかにした。本研究成果は、水質汚染物質として規制されている硝酸イオン(NO3-)を無害化するための、新たな触媒開発につながると期待できる。酵素が持つ優れた特性を、人工の触媒を用いて再現するための大きな一歩になると考えられる。
 背景
 人口増加に伴う過度な窒素肥料の利用により、水質汚染が深刻化している。特に、窒素肥料に含まれる硝酸イオン(NO3-)は、環境に蓄積しやすく、飲料水の汚染、湖沼の富栄養化や赤潮発生の原因になる。そのため、硝酸イオンの環境への排出は、厳しく規制されている。
 現在、硝酸イオンを無害化する方法として、微生物が持つ硝酸還元代謝を利用した排水処理技術が用いられている。しかし、硝酸が高濃度だと微生物が生育できず、廃液を処理できないという問題がある。また、化学的に硝酸を処理するためには、高価な貴金属触媒を使う必要がある。しかも、強酸性条件でないと反応が起きないなど、環境負荷の観点からも問題があった。
 そのような中、国際共同研究グループは、微生物が持つ硝酸還元酵素の仕組みを取り入れた、人工触媒の開発を進めてきた。そして、モリブデン硫化物(MoSx)を触媒として用いることで、温和なpH環境(pH 7)で、選択的に硝酸イオンを還元できることを見いだした。
 微生物が持つ硝酸還元酵素には、モリブデンが使われている。そのため、国際共同研究チームは「モリブデン硫化物触媒にも、酵素と似た活性サイトがあるのではないか?」と仮説を立てた。本研究では、その仮説を検証するため、触媒表面における化学種がどのように変化するかを、電子スピン共鳴分光法などを用いて追跡することを試みた。
 研究手法と成果
 本研究では、酸素を含む硫化モリブデン粒子を硝酸還元触媒として用いた。還元剤を加えた環境で、モリブデン硫化物表面における化学種(モリブデン原子中の電子数とスピンの状態、モリブデン酸素間の結合)がどのように変化するかを、電子スピン共鳴分光法などを用いて測定した。ここでは、亜ジチオン酸イオン(S2O42-)を還元剤として触媒を含む水溶液に添加することで、硝酸還元反応を駆動した。
 電子スピン共鳴分光法でモリブデン原子中の電子数とスピンの状態を調べたところ、還元剤の添加により、酸素を配位子に持つ5価のモリブデン種(MoV=O)が生成するこが分かった。引き続き、触媒を含む溶液に、硝酸イオンを添加した。すると、5価のモリブデン種が消失し、硝酸イオンの還元生成物である亜硝酸(NO2-)とアンモニウムイオン(NH4+)が生成することを突き止めた。この結果より、酸素を含む5価のモリブデン(MoV=O)が活性種となり、硝酸イオンが還元されていることが分かった。
 一方で比較として、酸素を含まない硫化モリブデン粒子を触媒として用いた場合には、硝酸還元反応は全く進行しなかった。また、電子スピン共鳴分光法を用いた計測においても、MoV=Oの生成は観測されなかった。つまり、活性種であるMoV=Oを効率的に触媒表面に作り出すには、モリブデンの配位子に酸素と硫黄の両方が必要であるということを突き止めた。
 モリブデンを酸素と硫黄で配位した構造は、天然の硝酸還元酵素と共通している。天然酵素はモリブデンを活性中心に持ち、硫黄と酸素が配位したプテリン構造をとっている。そして、酵素反応においても、MoV=Oが生成し、硝酸イオンの活性化が進行することが分かっている。よって、本研究により、化学合成したモリブデン硫化物には、天然の酵素と類似した反応活性サイトがあることが明らかになった。
 今後の期待
 本成果は、貴金属に依存することなく、温和な環境で硝酸イオンの無害化が可能であることを示すものである。また、廃液からアンモニアを合成する新しい技術としての展開も期待できる。
 本研究成果は、国際連合が設定した「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、そして目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献する研究成果である。
 ◆補足説明
 〇硝酸還元酵素
 硝酸イオン(NO3-)を亜硝酸(NO2-)に還元するための酵素。生体内では、エネルギーを獲得するためや、生体分子の合成に必要な窒素原子を取り込むために使われる。
 〇窒素肥料
 植物の生育に欠かせない窒素を主成分とする肥料。塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などを含む。
 〇電子スピン共鳴分光法
 物質を磁場の中に置いた状態で電磁波を当てると、共鳴現象により、ある特定の光を強く吸収することが知られている。この現象を利用して物質中の電子状態を特定する手法を電子スピン共鳴分光と呼ぶ。全ての分子の電子状態を観測できるわけではないが、観測できる分子については、極めて詳細な情報が得られる。
 〇硝酸還元代謝
 ヒトは、酸素の持つ酸化力で糖を分解し、エネルギーを獲得している。しかし、酸素ではなく、硝酸の酸化力で糖を分解し、エネルギーを獲得する微生物もいる。このような代謝の方法を硝酸還元代謝という。
 〇還元剤
 硝酸イオンは化学的に安定なため、それを還元するためにはエネルギーを加える必要がある。ここでは、還元剤がエネルギーを触媒に供給する役割を持つ。
 〇プテリン構造
 炭素と窒素からなる分子であり、二つの環がつながった形を持つ。酵素が触媒として機能することを補助する補因子としての役割を持つ。
 〇持続可能な開発目標(SDGs)
 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のためのアジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。

 今日の天気は曇り。気温は低く、最高気温12℃・最低気温8℃。梅雨が始まった様な天気だ。
 近所のお庭。大きな庭石がある。この大きな岩に白い花が見える。岩に張り付いた”セッコク(石斛)”の花、咲き出した。茎の先端の節から花茎を出し、1~3輪の花が咲く。花色は、白色とクリーム色だ。
 ラン科デンドロビウム属(セッコク属)は熱帯アジアを中心として、オーストラリアまで1000種以上が知られている。その仲間のうちでも北限まで(日本の東北地方)生育する種が”セッコク”とある。日本では、、独自の品種や楽しみ方が江戸時代に確立され、それが脈々と受け継がれている古典植物で、江戸時代の園芸文化に欠かせない植物である、と言う。
 セッコク(石斛)
 別名:岩薬(いわぐすり)、少名彦薬根(すくなひこのくすね)、長生蘭(ちょうせいらん)
 学名:Dendrobium moniliforme
 ラン科セッコク属(デンドロビウム属)
 多年草
  岩・樹木に根を張付き、自生する着生ラン
  水分は空気中からとる
  茎は太く、内部に水分を蓄えられる
 原産地:東北地方南部~琉球諸島、朝鮮半島、中国
 開花時期:5月~6月
 茎の先端の節から花茎を出し、1~3輪の花が咲く
 花の大きさは3~4cm、芳香がある
 花色は白色・クリーム色・淡い紅色


尿を使って発電、おむつ交換を知らせるバッテリレス尿失禁センサを開発

2020-05-20 | 生活
 2019年1月に東京ビッグサイトで開催された”nano tech 2019”で、nano tech 大賞 ライフナノテクノロジー賞に「尿を電解質として用いることで電池レスのセンシングが可能なおむつセンサシステム」が出展され、生活に密着した着眼点で実用的なデバイスを開発した点を賞す、とあった。
 発表者は、立命館大学理工学部電子情報工学科部教授道関隆国、特任助教田中亜実の研究グループ(論文は、2011.12.21)。
 育児・介護分野におけるセンサーネットワークの現状
 センサーネットワークの応用分野の1つに育児・介護があります。特に、病院等で行われている高齢者介護では、介護者が定期的に被介護者のおむつの状態を確認し、おむつの状態に応じておむつの取り替えを行っていました。被介護者の各おむつに尿もれセンサーを取り付け、センサーネットワークで各おむつの状態を把握できれば、介護者の不要な確認作業の負担を軽減でき、また、被 介護者の尿漏れによる不快感を軽減できます。し かしながら、既存の尿漏れセンサーは、電源コードが必要で被介護者の動作を束縛する問題や、無線型の尿漏れセンサーでは尿検出および無線に電池が必要で電池交換の必要性や小型化できない問題がありました。
 尿発電電池を用いた従来の尿漏れセンサーシステムの問題点
 前回(2009年11月)開発した電池不要のワイヤレス尿漏れセンサーシステムで、人間の尿で発電する尿発電電池を用いることにより、発電の有無で尿漏れ検出を行うとともに、得られた電力で送信機を駆動することにより、無線での尿漏れ検出を可能にしました。しかしながら、本システムでは、尿発電センサーをおむつに直接組み込もうとすると、センサーは小型ながら厚くて固く、尿発電電池のみをおむつに組み入れようとすると外部送信機とをつなぐ配線が必要になりました。
 おむつ用尿漏れセンサーの開発
 今回試作したおむつ用尿漏れセンサーは、おむつに適した尿発電電池として、フレキシブル・プラスチックシート上にアルミ電極シートと二酸化マンガンシートを張り合わせたフレキシブル尿発電電池(以下、フ レキシブル電池と呼ぶことにします)を開発しました。
 フレキシブル電池の長さは約30cm で、幅 は 9 mmです。特に、電池が尿の吸収を妨げないように、フレキシブル電池の幅を1cm 以内に設定しました。また、フレキシブル電池とおむつの外側の送
信機を直接接続することにより配線部をなくしました。
 開発した技術の特徴
 フレキシブル電池の電極側をおむつの吸収材側に向けて配置することにより、更には、おむつをはいた状態のときにフレキシブル電池が曲げられるとフレキシブル電池にかかる応力で電極と吸収材が密着するため、電池の発電電力が向上することを実証しました。また、電池の電極を送信機のアンテナのグランド面に活用することで、送信機の放射電力が向上することを実証しました。
 おむつ用尿漏れセンサーシステム
 おむつ用尿漏れセンサーと受信機からなる尿漏れセンサーシステム。人工尿80 cc(赤ちゃんの1回の平均排尿量)をおむつに投入した場合、5 m 離れた受信機におむつの ID付き尿漏れ情報を間欠的に送信し続けることに成功しました。
 活用例・応用例
  (2016年10月には特許を共同出願)
  高齢者の尿失禁治療への活用
  介護現場でのおむつ交換時期の自動検知
  小児の夜尿症治療に用いられる夜尿アラーム

 今日の天気は、小雨~曇り。昨日は一日中雨だった。畑へ良いお湿りとなった。沢山の作物やお花の芽が出て育つ。
 散歩道の沿い、”ヒメライラック”に花が咲き出した。花の近くに寄ると、とても良い香りがする。名(ヒメライラック)の如く、”ライラック”より花も房も小振りで木も小さい。和名は”ハシドイ”(ライラックと同属)より小さい(低木)ので”チャボハシドイ(矮鶏丁香花)”。
 モクセイ科だから香りも花形も”キンモクセイ(金木犀)”に似ている。花色は違うけど、「春の金木犀」と呼ぶ方がいる。
 ヒメライラック(姫ライラック)
 別名:矮鶏丁香花(ちゃぼはしどい)
 学名:Syringa microphylla
 モクセイ科ハイドイ属(シリンガ属)
 落葉低木、丈は1~1.5m位
 原産地は中国北部・東北部
 開花時期は4月~6月
 花は先が4裂したラッパ形
 この小花が密に付いている
 花色は薄紅~濃紅色を見かけるが、白・青・紫色種もある
 葉は円形に近い広楕円形で、葉柄を持ち枝に十字対生する


室温でテラヘルツ周波数を高効率に変換できる物質を発見

2020-05-18 | 科学・技術
 東京大学物性研究所の神田夏輝助教、松永隆佑准教授らの研究グループは、同研究所の池田達彦助教および板谷次郎准教授らの研究グループ、さらに米国の研究グループと協力して、テラヘルツ周波数(毎秒1兆回の振動数)帯の電磁波の周波数を極めて高効率に変換できる物質を発見し、さらにそのメカニズムを解明した。本研究成果は国際科学雑誌「Physical Review Letters」の2020年3月19日付オンライン版に公開。
 ポイント
 〇ディラック半金属の一種であるヒ化カドミウム薄膜が、テラヘルツ周波数帯の高調波を室温で非常に高効率に発生させることを発見した。
 〇高調波発生のメカニズムが、質量ゼロのディラック電子がテラヘルツ電場で加速されたことによる非線形電流であることを、超高速時間分解測定と理論計算により明らかにした。
 〇ディラック半金属特有の巨大テラヘルツ非線形電流を発見したことで、テラヘルツ周波数帯における新たな周波数変換技術としての応用が期待される。
 研究の背景
 物質に光が入射するとさまざまな応答が現れるが、ある程度強い光が入射したときには光の周波数が整数倍に変化する現象が知られている。これは非線形応答の一種であり、2倍、3倍の周波数に変換された光はそれぞれ第二、第三高調波、より高い次数の光が発生した場合は総じて高次高調波と呼ばれる。高次高調波発生は、気体原子・分子に対して非常に強い近赤外光レーザーを絞り込むことで100倍以上も周波数の高い軟X線を発生させる手法として知られ、アト秒(100京分の1秒)スケールの超高速科学や高分解能光電子分光などの最先端研究において欠かせない技術となっている。さらに2014年頃、固体でも高次高調波が発生することが発見され大きな話題になった。固体ベースのコンパクトかつ安定な周波数変換技術としての応用的側面と、非常に強い光電場が物質の中で引き起こす非摂動論的相互作用という基礎物理学的側面から、現在盛んに研究が行われている。
 通常の高次高調波発生の研究では、可視・近赤外から、最も波長が長いものでも波長10マイクロメートル程度の光が使われているが、松永准教授らはさらに数十倍波長の長い、テラヘルツ周波数帯に注目して研究を進めている。この波長域の光(電磁波)は既存のエレクトロニクスよりも周波数が2、3桁高いため、この帯域における周波数変換素子を実現することは次世代の高速エレクトロニクスにおいて非常に重要だと考えられます。松永准教授らは2014年、超伝導薄膜からテラヘルツ周波数帯で非常に強い第三高調波が発生することを発見した。これは超伝導体のテラヘルツ周波数帯における非線形応答が非常に大きいことを表しており、実際に宇宙・天文物理学観測における検出素子としてその性質が活用されている。しかし超伝導状態を作るにはマイナス260度ほどの極低温まで冷却する必要がある。もしテラヘルツ周波数の高効率な変換が室温で実現すれば、非線形素子としての幅広い応用が期待される。2018年にドイツのグループによって、炭素原子1層からなるグラフェンを用いてテラヘルツ周波数帯の室温高調波発生が報告され、その効率が他の物質と比べて体積あたり7桁ほど大きいことが判明して話題となった。しかし実際にはグラフェンは原子1層しか体積がないため、変換効率そのものはそれほど高くなく、高調波を観測するためには巨大加速器実験施設が使われていた。
 研究内容
 本研究で神田助教、松永准教授らのグループおよび米国のグループは、高品質なヒ化カドミウムCd3As2薄膜に注目した。ヒ化カドミウムはディラック半金属と呼ばれ、電子が3次元的に質量ゼロのように振る舞うことが2014年頃に発見されて以来、その性質に注目が集まっている。質量ゼロの電子(=ディラック電子)によって引き起こされる電流は非常に非線形性が強く、テラヘルツ周波数帯の高次高調波を効率よく発生させることが2007年から理論的に予測されていたが、実験による検証はなされていなかった。この理論は、同じくディラック電子を有するグラフェンを想定して提唱されたものであるが、ヒ化カドミウムはディラック電子としての性質を3次元的に示すため、グラフェンよりはるかに効率的に巨視的な非線形電流を発生させることが期待される。
 神田助教、松永准教授らは、物性研究所内のレーザー光源を駆使してテラヘルツパルス発生技術開発を進め、狭帯域の高強度テラヘルツパルス(周波数0.8THz)を発生させた。このパルスを厚さ240ナノメートル(原子数千層分)のヒ化カドミウム薄膜に対して照射したところ、3倍、5倍の周波数成分を持つ第三、第五高調波を明瞭に観測することに成功した。本研究で開発されたこの実験設備は、これまで加速器を使わなければ観測が難しかったグラフェンのテラヘルツ高調波をテーブルトップで観測することも可能にしており、グラフェンとヒ化カドミウムの比較も詳細に行われた。グラフェンに比べるとヒ化カドミウムではほとんどの入射電場成分が表面で反射されてしまうため試料内部に入る電場は5分の1ほどしかない。それにもかかわらず発生した第三高調波の電場は5倍ほど強いことが分かった。これはグラフェンよりもはるかに大きな体積を生かして周波数変換が非常に効率よく生じているためと考えられる。
 さらに神田助教らはこのテラヘルツ高調波発生のメカニズムを解明するため、テラヘルツパルスで励起された電子の時間変化を超高速に時間分解して調べる実験に取り組む。グラフェンのテラヘルツ高調波発生の研究では、その非線形電流の起源が、テラヘルツパルスによって加熱された電子が急速に加熱と冷却を繰り返すという、ディラック電子とは全く関係のない熱力学的モデルによって解釈されていた。しかし本研究で神田助教らが行った精密な時間分解実験から、ヒ化カドミウム薄膜中の電子が冷却に要する時間はグラフェンの電子よりもはるかに長いこと、非線形応答が等方的には現れないことなどが明らかになり、熱力学的モデルでは説明できない結果が示された。さらに池田助教の詳細な理論計算により、ヒ化カドミウム薄膜のテラヘルツ高調波発生は熱力学的モデルでは全く再現できず、ディラック電子が加速されたことによる非線形電流によってよく説明できることが確かめられた。このモデル自体は理論的に2007年頃から予想されていたが、実験的にはテラヘルツ周波数帯の高調波の観測が難しかったため、実際の物質ではテラヘルツ周波数帯においてこのモデルは成り立たないという解釈が広がりつつあった。池田助教らは、電子の散乱時間を考慮した詳細な計算から、テラヘルツ周波数帯でもこのディラック電子の加速モデルがよく成り立つことを示し、高調波発生のメカニズムがディラック電子の特異な非線形電流にあることを明らかにした。
 社会的意義・今後の予定
 本研究によってヒ化カドミウム薄膜が室温でテラヘルツ高調波を効率よく発生させることが見いだされ、テラヘルツ電磁場の周波数変換技術実現に向けた新たな指針が得られた。現在はテラヘルツ電磁場をそのままヒ化カドミウム薄膜に照射しているが、ヒ化カドミウム薄膜は半金属であるため、電磁場のほとんどは表面で反射されている。反射防止コーティングなどの表面加工や、電場を局所的に増強するメタマテリアル技術と組み合わせたり、あるいは電極から直接電場を印加したりすることで周波数変換をさらに高効率化することが期待される。
 また、ヒ化カドミウムのようなディラック半金属と同様に質量ゼロの電子を持つものとして、ワイル半金属が知られている。空間反転対称性の破れたワイル半金属の場合は第二高調波が発生すると考えられ、これはディラック半金属が示す第三高調波よりもさらに高効率に周波数変換が可能になると期待される。ディラック半金属およびワイル半金属は、物質をトポロジーによって分類する現代物理学の最先端研究によって発見された物質群であり、総称してトポロジカル半金属と呼ばれる。本研究によって今後もトポロジカル半金属が示す巨大応答とその機能性についてさらに研究が深まることが期待される。
 ◆用語解説
 〇テラヘルツ周波数、テラヘルツ電磁場
 毎秒約10の12乗(=1兆)回振動する周波数のことをテラヘルツ周波数と呼び、この周波数を持つ電磁波のことをテラヘルツ電磁場(またはテラヘルツ波)と呼ぶ。
 テラヘルツ電磁場は、携帯電話などに用いられる電波よりも1000倍ほど周波数が高く、それでいて我々が目で見ることのできる可視光に比べると周波数が数百倍低いため、「光」と「電波」の中間に位置する特殊な電磁波と言える。このような周波数帯の電磁波を自在に利用することはかつて難しかったが、レーザー技術と非線形光学が急速に発展し、さまざまな波長変換が可能になって、このテラヘルツ電磁場を用いた分光技術が著しく進展した。高速情報通信、セキュリティー、非破壊非接触の生体検査や宇宙観測などさまざまな観点から非常に興味が持たれている。
 〇非線形電流、非線形応答
 光は「電場と磁場が振動している波」であり、光を物質に照射するとその電場によって物質中に分極(または電流)が発生する。通常は分極の大きさが光の電場に比例すると考えることで多くの現象が説明可能であり、これを線形応答と呼ぶ。しかしより一般的には、電場の2乗、3乗に比例した非線形分極(または非線形電流)も発生しており、このような応答を非線形応答と呼ぶ。電場の大きさが大きくなるほど、非線形応答が如実に表れる。線形応答の計測は、「光によって物質の性質を調べる」ことに相当するが、非線形応答をうまく活用すると「光によって物質の性質を変える」「物質によって光の性質を変える」ことが可能になる。光の周波数変換はまさに非線形応答によるものである。
 〇非摂動論的相互作用
 前述の光が物質に入射した時に起こる現象を、線形応答と、2乗や3乗といったべき乗則で記述される非線形応答という観点から説明した。これは量子力学的には「摂動論」と呼ばれ、光が物質に与える影響が十分小さいと見なした近似を用いている。一方、さらに強い光電場が物質に入射すると、非線形応答が極端に顕在化し、もはや摂動論では記述不可能な現象が生じる。アト秒科学に使われている軟X線領域の高次高調波発生やレーザーによる物質加工はまさにその典型である。こういった非摂動論的な状況下では、物質中に入射する光を単なるフォトンととらえるのではなく、光が持つ巨大な電場によって物質の性質が刻一刻変化する状況を正確に記述する物理的理解が必要になり、未開拓の研究分野として現在大きな注目を集めている。
 〇超伝導薄膜からテラヘルツ周波数帯で非常に強い第三高調波が発生
 ある種の物質を低温まで冷却すると、マイナスの電荷を持つ2つの電子の間にある種の引力が働いて、ペアを形成し、超伝導と呼ばれる状態を作る。超伝導状態になると電流が流れる際の電気抵抗が厳密にゼロになるほか、さまざまな特殊な応答が生じるため盛んに研究が行われ、医療機器や量子コンピューターなどで実用化もされている。松永准教授らは2014年ごろ、超伝導体の非常に高効率なテラヘルツ高調波発生を初めて観測し、さらにこの現象が素粒子物理学におけるヒッグス粒子と深い関係性があることなどを報告した(Science 345, 1145 (2014))。ただし超伝導状態を得るためには多くの場合マイナス260度以下、高温超伝導体を用いても常圧下ではマイナス140度以下まで冷却することが必要である。
 〇ディラック半金属、ワイル半金属
 ある種の物質中では電子が質量ゼロのように振る舞い、その運動は相対論的量子力学におけるディラック方程式またはワイル方程式に従うことが最近発見され、大きな注目を集めている。ワイル半金属になるためには空間反転対称性または時間反転対称性が破れていることが必要で、その結果カイラリティによって区別される2つの異なるペアとなってワイル粒子が出現する。ディラック半金属の場合は空間反転対称性と時間反転対称性の双方が保たれており、ワイル半金属のようなカイラリティの区別が無くなる。より高効率な周波数変換である第二高調波発生のためには、空間反転対称性が破れている必要があるため、ワイル半金属を用いた高調波発生研究にも期待が持たれる。
 〇熱力学的モデル
 光が物質に当たったときに起こる応答を物理的に記述するにはさまざまなモデルがある。まずは個々の電子が光の電場によって微視的にどう時間変化してどのような分極(または電流)を生むのかを量子力学から計算することから考えるのが一般的である。しかし物質中にはたくさんの電子が存在しており、それぞれが散乱し合うため、ある程度長い時間スケールを考えると個々の電子が光から与えられた情報は消えてしまい、ごちゃ混ぜのような状態になる。そういった場合は個々の電子について追跡することはせず、電子系全体を統計力学的に取り扱ってもっと現象論的に記述するアプローチが取られることもある。その場合は物質の変化を温度の変化として取り入れることになり、ここではそれを熱力学的モデルと呼んでいる。本研究で得られた成果は熱力学的モデルでは説明できず、質量ゼロのディラック電子が電場で加速される微視的モデルが重要であることが分かった。

 天気、午前は曇り、午後は小雨。気温、最高気温18℃・最低気温13℃。明日の最高気温は13℃と今日の最低気温とか、明日は寒いんだ。
 畑までの道すがら、お庭で見立たないように咲いている”ミヤコワスレ”。
 名(都忘れ)の由来は、承久の乱で佐渡に遠流された順徳上皇が、この花を見ると都への思いが忘れられる(の説)、都を忘れることにしよう(の説)・・との事。花言葉は別れ・穏やかさ・しばしの憩い。
 ・・承久の乱(じょうきゅうのらん)
 承久3年(1221年)に、後鳥羽上皇が鎌倉幕府に対して討幕の兵を挙げた兵乱。敗れた後鳥羽・土御門・順徳の三上皇は配流、仲恭天皇は廃され、上皇方の公家・武士の所領は没収された。この乱で、武士(武装農民階級)がそれまでの支配階級(天皇・公家階級)と代わって、国の実効支配権(行政権・立法権・司法権)を握ったと言える。
 ミヤコワスレ(都忘れ)
 別名:野春菊(のしゅんぎく)、東菊(あずまぎく)
 学名:Gymnaster savatieri
 キク科ミヤマヨメナ属
 多年草
 日本原産
  山野に自生するミヤマヨメナ(深山嫁菜)の日本産園芸品種として栽培される
  栽培の起源は江戸時代
 開花時期は4月~6月
 花は菊に似て可憐
 花色は青紫色で、青・白・ピンクなどもある