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Turningpoint

-skyclip-篠塚優人の転換点だらけの日常
杏と玲愛と鈴と佳奈多とたまひよとなのはとフェイトとアスナは俺の嫁

「world's end」第6話

2009-05-24 23:57:07 | お話
 まだまだ続くの図。



 第二章



 目を覚ますと、ちゃんとお日様が昇っている時間だった。二度寝万歳。日曜日万歳。どんよりなんてサヨナラである。ちゃちゃっと寝ぼけ男から目覚めすっきり男に着ぐるみを替えてリビングに出てみると、居候と化している双子の幽霊姉妹は仲良くソファーに座り、テレビを見ていた。映っているのは、大きなお兄さん御用達とも言える、女の子がたくさん出て戦うアニメだ。大きなお兄さん方は朝からご苦労様です。というかあんたら、それみてて楽しいのかよ。

「よ、おはよ」
「あ、おはよ」
「おはようございます」

 朝の挨拶はとても大事だ。声だけで相手のおおよその状態がわかる。どうやら昨晩一昨晩と続いた一連の出来事の影響はどこにもない模様。快晴快晴。かっかっか。

「なに朝からご隠居様やってるのよ」
「いやだからモノローグを読むなと」
「声に、出てる」
「うわしまった俺ただのご隠居になっちまったのか!?」
「朝から意味わからないわよ! だいたいただのご隠居って何よ、ただのって」
「印籠も持ってないし助さん格さんもいない」
「うわあ、それはただのご隠居だ」
「あ、でも由美かおるの入浴シーンはちゃんとあるから。必須だし」
「朝、朝だから。まだ飛ばす時間じゃないから」
「入浴、する?」

 ……わーお。朝から小粋なトークを繰り広げてみたら横から大胆発言ですね、美幸さんや。

「ちょ、ちょっと美幸!?」
「それが、望みなら」

 いやどう考えても今のフリでは望んでねえよ。いや待て、幽霊とはいえ、女子高生。しかもどっちかと言わなくても上玉。そんな子と入浴を望んでないなんて俺は言えるのか。いや言えはしない。反語。

「あんたも何黙ってるのよ!」
「いや、自分に正直に生きるのも、時には大事だよねってうばぎゃっ!?」」

 ……思いっきり、すね、蹴られました。相変わらずいい蹴り持ってんじゃねえか。やっぱ世界目指そうぜ世界。

「つうか俺、からかわれたあげく蹴られ損じゃん!」
「そういう日も、ある」
「お前が言うなお前が」

 あーやっぱ曇り空だねこりゃなどと、心のメモ帳に恨み辛みを記しながらキッチンに向かう。嫌がらせのように飯を抜いてやろうかとも思ったが、幽霊だからあんま意味ねーと思い直し、三人分適当に作る。何より自分が食べたい。朝飯抜くと太るし。

「そういえば普通に料理してるけどさ」
「ん?」

 実体化以降、幽体になったのを見たことのない遥が、地に足つけてカウンター越しにこちらをのぞき込んでいた。

「あんた、普通に料理上手いわね」
「普通に普通にって、そりゃあうまいもん食いたいからなあ。それにあんまり外で食わないし。飯食ってる最中に追っかけっこされると悲しいし」
「あ、なるほど」

 野郎の暮らしって案外繊細なんですよーとか言おうと思ったら、その背後から美幸嬢。

「でも、男性の一人暮らし向きの料理じゃない」
「ほう?」
「多人数分作ることにも手慣れてる」
「……ほほう?」
「誰かと、住んでた?」

 相変わらず鋭いお嬢様だことで。どういう生活してたらこんな推理少女ができあがるんだろうね。

「あ、だからこの家広いわけ?」
「んんー、まあ当たらずとも遠からず」

 キュウリを切る手は休めずに、適当な返答を返しておく。返答に手抜きは許せても、料理に手抜きは許されないのです。ってどっかの先生が言ってた気がする。気のせいか。

「あ、ヒカリさんと住んでた?」
「いんや。あいつは“自分専用の場所でないとイヤだ”とかいって、ここに住んでたことは一切合切ない」
「……でも恋人同士の時期はあった、と」
「まあ、ねえ」

 相変わらず嘘のつけない俺である。つうか昨日の会話とかでバレバレだし。主に性的に。ついでにこっそり記しておくと、仮にあのヒカリ嬢がまかり間違って一緒に住みたいとか言い出しても、同棲はなかっただろう。

「じゃあ他にいたんだ」
「……ノーコメントで。一応言っておくと、店にくる方々は全員この家に入ったことないから」
「ふーん」

 あ、なんか冷たい視線。その後ろからも飛んできてるし。いやあ、もてる男の宿命っすね。うん。仕方ない、一応言っておいてやろう。なんとなく。

「さらに一応言っておくと、過去俺と付き合った奴らは、ここで一泊とかはあっても、服やら何やらを置いたりはしてなかったからな?」
「じゃあ、初日にぽんと出てきた服は何よ」
「まあ、新品で買ったやつ?」
「それはわかってるっての! というか新品じゃなかったら何なのよ……」
「まあ、いろいろあるんすよ、男の繊細な一人暮らしには」
「ま、まさか女装趣味があるとか」
「ないない。勝手に決めつけて一人どん引きするな。俺ついて行けないから」

 適当に手で追い返し、話を打ち切る。残念ながら俺は腹が減ってるのだ。小娘達の恋バナなんて優先順位でいくと相当低い。そんなもんは恋からでやってこいってんだ。
 なんだか最近こればっかりな気もしなくもないが、トーストとサラダとベーコンエッグ、それにコンソメスープとコーヒー計三人前をトレーに乗せて、テーブルに運ぶ。喫茶店のモーニングセットそのものだが、気にしない。まあ明日は和式朝食にしてやろう、うん。あるいは柿の種でも追加しておくがや。
 などと怪しき名古屋弁とともに物思いにふけったところで、二人が明日もいる、という選択肢が割と高い順位にある自分自身に驚く。
 どっかの誰かさんの、ほらやっぱり、という冷たい声が浮かぶ。うるさいよ、人の脳内まで勝手に現れないでくれヒカリさんや。そういう日もあるんだよ、たぶん。

 気を取り直して朝飯食って、気力ばっちり、となったところで。

「出かけるか」
「どこに」
「ここではない、何処かへ」
「何ちょっと前の曲名みたいなことを言ってるのよ」
「歌っていい?」
「どっかの人たちが請求書持ってくるわよ?」
「それは勘弁願いたいな。ともかく、何となくまああれだ、さすがにお前らの服とか買わないとダメだろ」
「……いいの?」
「いくらうちにあるっつっても、自分の着たい物着たいだろ? それに一人分しかないし。一週間ローテ出来るほどの量じゃないだろ」
「あんた、こういうところはきっちりしてるのね……」
「一体全体お前らの中で、俺はどういうキャラクターになってるんだか……」
「……変ないい人?」
「概ね間違っちゃいねえ!」



***



 というわけで、ハロー伊勢丹。マルキューでも行ってろうかと思ったけど、近場でいいよね的なアレである。たかが山手線三駅に近場遠場もないのだが、行こうと思うには(精神的に)遠いのだ。伊勢丹ならば新しい地下鉄にも直結しててとても便利、ってあの路線の使い道は今ひとつ見えない。まあ横浜にも行けるようになったら便利だよね。地元に戻れるし。
 入り口で大勢の店員にいらっしゃいませ攻勢を浴びて気分が良くなったところで。

「はい、カード」
「へ?」

 財布から取り出したクレジットカードを手渡し、優雅に手を振ってみる。

「あ、暗証番号聞かれたら1989で。もしサインだったら適当に自分の名前書けば大丈夫。限度額まで使ってくれてもかまわん」
「は、はあ」
「あとこっちは緊急用の現ナマ。五万もありゃどうにかなるだろう」
「はあ、ってあんたは?」
「いや、女物の服売り場行っても肩身狭いだけだし。二人で行っといで。俺その辺のサテンで優雅なブレイクタイムしてるから」
「……ゴールドカード」
「別にゴールドカードは珍しくも何ともないからな。ANAのは年会費三万だし、じゃ」

 くるりとターンを決め、最初の一歩を踏み出したところで、身体が前に進まないことに気づく。見てみると、二人して服の裾を掴んでいる。うん、そりゃあ進まない。進めない。

「あ……あれ?」
「……?」
「いやいや、引き留めておいて『あれ、なんで引き留めたんだろう?』的な顔をされても」
「あ、うん、まさにそれ」
「んなこと聞かれても俺がわかるかっ!」
「何でだろう?」
「テツトモにでも聞いとけ、って古いか」

 はああと深いため息をつく。できれば時間と諸般の都合上パスしたかったけど、引き留められちゃあ仕方ない。しかも二人分。しかも女子高生的なお年頃。あれ、何か気分がアッパーになってきたぞ。

「よしじゃあ行きますかっ!」



「やっぱ帰りてえ!」
「決意砕けるのはやっ!」
「だって、だってだってなんだもん!」
「ボケも古いし!」

 いやね、もうアレだ。世の女性方がみんなしてこっち見てる気がしてダメだ。うん。他の男性陣も同じことを思ってるに違いない。女物売り場はコレだからイヤだイヤだイヤだ。自意識過剰って言うな。

「売り場の中までは入らなくてもいいだろ……もう俺、死にそうで死にそうで」
「……なら、仕方ない」
「んじゃ、そこのベンチに座ってるから」

 美幸から許可をもらい、優雅とはほど遠い手の振り方をして、自販機で紅茶を買ってからベンチに座り込んでみる。ぽけーっとした後に売り場の中を見てみると、なんやかんやで二人して楽しく物色している様子がそこにあり、ほっとする。姉妹の仲がよいのはいいことだ、うん。身の置き場のないことの一つや二つは我慢してやろう。
 やることがなくて手持ちぶさたなので、本来は茶店でやる予定だったことをやることにする。鞄からVAIOを取り出し、スイッチオン。スロットにカードが刺さってるのを確認して、ブラウザを起動させる。無線が飛んでる茶店ならもっと早いのになあ、と愚痴をたれながらGmailを開く。新着メールの中に、ヒカリからのメールが一件。本文には『しんてんなし』の文字。

「漢字変換が面倒になってきたか」

 なかなかヒットしてくれないらしい。まだ二日とはいえ、考え方は多岐にわたらせた方がいいかもしれない。といっても、見事な推測なんぞ簡単に出てきやしないのだが。適当に思いついたことをメール送信しておいて、Gmailは終了。代わりに自宅サーバーに繋いで、その中のエクセルを一つ落としてくる。それを開いて、昨晩のことを適当にまとめて書いてあげて、はいこちらも終了。うん、別にやることなんてそんなになかったか。レポートも終わってるし。
 VAIOは鞄にサヨナラして、再度売り場を見てみると、美幸が遥に一着の服を薦めている光景。うん、仲良きことは良きかな良きかな。
 しばらくして、紙袋を一つずつ抱えて二人が戻ってくる。思ってたより早かったのは幸いである。手持ちぶさただと悲しいし。

「いいのあったか?」

 仲良く首肯。

「ちゃんと下着も買ったか?」
「見る? 水色とか」
「美幸さんや、その返しはちと斬新な上に後ろの人が怖いから」

 なんというか、この姉妹コンビは乗せて落とすのがうまいね、ホント。

「……うっし。じゃあどっかで茶でもしばきに行くかー」

 鞄を肩にかけて立ち上がり、最初の一歩を踏み出そうとしたらいつぞやと同じく動けない。
 左右の手を掴む手が一つずつ。あいにくと、温もりは感じられない。

「ん?」
「その……ありがと」
「……ありがとう」
「……気にすんな」

 何か気恥ずかしくなってきたぞおい。あれだ、二人分だからどことなくセンチメンタル。全く持って意味がわからない。

「あんた、ホントに変わってるわよね……」
「……変わってる」
「ええい、人を公共の場で変人呼ばわりするんじゃありません! 否定はしないが」

 幸いなことに、その後の悪ノリで純情な感情的な物はサヨナラできた。周りの視線が痛い物になってなのは無視しておくとしても、実にありがたいね。俺にはその手合いのことを持つ資格なんてないんだから。



***



 有言実行、ということで駅そばの茶店で適当に茶をしばいて、それから荷物を一度家においてから再度新宿をふらふら。ゲーセンで銃を派手にぶっ放してみたり(よくあるアレです)、いやがる女の子を無理矢理捕まえてみたり(フィギュアのUFOキャッチャーです。なんで俺やったんだ?)、物陰に隠れたカメラにパパラッチされてみたり(プリクラです。実体化してればちゃんと写るのね)と、適当に遊んでみた。その後は、適当にヨドバシを冷やかしてみたり、パルコを冷やかしてみたり、ハンズのインチキマジックグッズを冷やかしたり、とまあ俗に言うウインドウショッピング的なことをやっていた。前半はともかく、後半なんて俺の趣味みたいな物だというのに、二人は楽しそうについてきていた。少し困ったことに、歩いている最中二人は俺の手を離すことはなかった。他人様から見れば逆エイリアン状態。エイリアンに連れて行かれる俺ならぬ、幽霊に連れて行かれる俺。あながち間違っちゃいない。まだ極楽浄土には連れて行かないでくれ。
 とまあ、「うわこれ、ラブコメのデートシーンみたいじゃん!」などと阿呆なことに気づいたサザンテラス付近。クリスピークリームドーナツでも行こうかと思ったところで、あんまり出会いたくなかった人物に出くわす。

「よう陽介」
「よう陽介なんて人はいません。じゃ」
「って待てよお前!」

 だもんで、出くわしたこと自体を右から左に受け流してみたが、やっこさんに肩を掴まれてしまい、

「いやでも遭遇を認識せざるを得なくなる」
「なんだよその出来れば避けたい中ボス的な言い方は!?」
「あれ、声に出てた?」
「わかりやすくカギ括弧付きだったわ!」
「流行のメタだな」
「そんな流行知らねえよ!」

 むう、相変わらずのノリの良さについ連続でぼけてしまった。おかげさまでいることをカンペキに認識してしまった。その間、二人は俺の背後で縮こまっている。まあ、こいつ見た目あからさまにチャラ男(死語?)だかんなー。茶髪でロン毛。いったいいつの時代のチャラ男なんだ。

「で、珍しくかわいらしい方々をどっから連れてきたんだ?」
「珍しくってなんだ珍しくって」
「いやだって陽介ってアレじゃん。年上派っぽいじゃん。連れてるのが大抵年上だし」
「……あー」

 言わずもがな。歌舞伎町の烏モードである。基本的にあーいう店に来る人っていうのは、経済状況的にお姉様方が多い。必然的にアフターとか同伴とかも多くなるのだ。逆にあの店に女子高生が来てたら、丁重にお帰りいただく必要あるし。法律的に。

「まあ、そう言う日もある」

 適当に誤魔化してみる。余計なこと言いやがってとついでに言おうかと思ったが、だが背後から何か冷たい視線が二つ刺さってるので止めておく。

「ふーん」
「……そう」
「いやいやいや、お前ら昨日も一昨日も見てある程度事情わかってるだろうが!」
「ふーん」
「……そう」
「コピペ回答かよ!? ツッコミすら手抜きっ!」

 ……誤解というか意図的に曲解してるので無視。とりあえず、青少年の主張的なことをしておこう。

「ハルキ、勘違いしてるだろうけどな、俺のストライクゾーンは15から30だぞ?」
「いや陽介、別に威張れないというか、下の方若干条例に引っかかってるからな」
「大丈夫、やらなきゃ」
「まあそうだけどさあ。あ、漢字をちゃんと使えよ」
「矢?」
「ある意味当たってるな」

 余計に背後からの視線が冷たくなったのは無視無視。ふん、とふんぞり返る俺の背後二人を、ちらっと眺めるハルキ。少し顔色が変わる。
 あ、まずい。

「……成仏させるなよ?」

 この水島春樹という人物は、見た目に反してどっかの神社だか寺だかの直系筋で、見た目に反してその類のスペシャリストだったりする。何でもこのご時世、副業レベルでやってもそれなりの収入になるんだとか。他人様の副業にとやかく口出すつもりはないが、現時点ではそれなりにまずい。浮遊霊の類はすぐに強制送還と、偉い人が決めているのだ。ルールには従わないといけないが、今回ばかりは見逃して欲しい、などとどっかの支援団体の心持ちが何となくわかる。

「んー」

 人の想像はさておき、なにやら考え込むハルキ。その姿は敵側で粋がってる雑魚キャラCみたいである。

「いや雑魚キャラっていうな! せめて中堅どころにしてくれ!」
「どうせならボスになれよ、お前……」

 ……いちいち真面目だなあ、見た目に反して。いやそれはともかく。

「何か引っかかることでも?」
「いや、なんというか、うーん……」

 チャラい目つきのままだったら少女二人を舐めるように見回すアヤシイ勧誘員そのものだったが、今は違う。副業というか、血筋というか、その類の物がそうさせているのだろう。

「つながりが、ない」
「はあ?」

 しばらくなめ回すように違った、じっくりと双子を見ていたハルキの結論は、そのままだと俺には意味不明だった。

「説明しろ説明。初心者にもわかりやすく」
「んー、陽介が成仏なんて言うから、てっきり実体化した浮遊霊の類かと思ったんだけど、浮遊霊とか地縛霊、後は生き霊なんかもそうだが、世間一般の霊って生前の存在とリンクしてんだよ。でもこの子らにはそれがない」
「てことは?」
「世間一般の霊じゃないってことだな」
「いやまだ初心者にはレベルたけえよその説明。なんだその世間一般の霊って。知らねえよそちらさんの世間一般なんて」
「これ以上うまい言い方が浮かばねえ……」
「なんだよ使えねえなあ」

 血筋のなせる技なのか、はたまた血筋が生み出す好奇心なのか。こちらの雑言に負けずにハルキは目をつぶり、じっと何かを手探りで探しているようだった。

「んー……ああもう、どっかで似た事例を読んだ記憶はあるんだけどなあ」
「もだえるなよ気持ち悪い」
「気持ち悪いって何だよ! ……野郎がもだえたら気持ち悪いか」
「自己納得しやがって。どうせアレだろ、おまえん家の書庫とかそんなんで読んだとかだろ」
「あー、それしかあり得ないがな」

 家帰ったら調べてみる、とやはり見た目によらず几帳面なことを言い残してサヨナラするハルキ。ふうやれやれだぜ、とため息をついたところで初めて、自分の身体が震えていることに気づく。

「ん……?」

 と思ったら、正確には人様の身体を掴んでいる、二つの手が震えていた。……俺の配慮不足、というやつだ。ある種の存在否定を受けたわけなのだから、震えたくもなる。気づかなかった俺が悪い。振り返り、二人の頭に手をのせる。

「まだ、何かわかったわけじゃないし、今現におまえらはこうして俺とつながってる。前向け、前」

 遥も美幸も、存在しているのは確かなんだ。そう伝えたかったのに、言葉はあまりにも無力だった。だから、俺は二人を抱きしめて、自分の体温を少しでも、冷たいままの彼女たちに分け与えることくらいしかできなかった。どれだけ俺が突飛な力を持っていようと、彼女たちに救いをもたらすことは出来ないのだ。肝心なときに使えない。
 いちいち不幸事を俺に持ってくるなよ畜生、と、薄ら笑いを浮かべているであろうくそったれな神様を心の中でぶん殴る。でも気は晴れやしない。二人の震えも止まらない。とりあえず、次会ったら本当にぶん殴ってやろう。きっとかすりもしないけどな!
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「world's end」本当は最初に挟む話とinterlude

2009-05-10 22:06:03 | お話
 一回目の罫線からが最初に挟む小話、二回目の罫線からが1章終了後のinterlude。interludeはともかく、最初に挟む小話は二話書いた後にしっかり書き始めたときの奴なので、書いたの自体は割と前。



 それは、とても幸せで、とても不幸せなお話。



 もし、世界中の人たちが、50%の幸福と50%の不幸を甘んじて受け入れられたのなら、世界はいつも平和に満ち溢れていたはずなのに。日々の暮らしの中で、一人一人が幸せと不幸せを平等に甘受すれば、誰もが同じだけの幸せを得られたというのに。
 人は傲慢だから、50%の幸福では満足することなく、60%、70%と自らの、そして自らの周りの人たちだけが幸せであるよう祈り、行動する。その影で、自らと、自らの周りの人の数と同じ数だけ、人が不幸を60%、70%と受け入れなければならないというのに。


 ――世界の中で、幸福と不幸の絶対量は決まっている。人を除く全ての生を持つものは、幸福と不幸とを互いに分け合って生きている。人だけが、そのルールを忘れ、踏みにじる。自ら以外のものから幸福を奪い取ろうとするのだ。


 だから、そうなるようにしてしまった僕は、ほんの少しだ



(この先は文章が切り取られており、読むことが出来ない)



 interlude



 子供が泣いていた。輪になって、小さくまとまって、みんなで泣いていた。
 大人がわめいていた。空を仰ごうとして、空が遠いことに気づき、みんなでわめいていた。
 昨日まで、手を伸ばせば届きそうだった青色が、今はいつもより遠い。

 これが意味することがなんなのか。知らなければ幸せだったかもしれないが、みんが、知ってしまっていた。
 そして、生き抜くことに絶望する。

 やがて、遠ざかってしまった空から、命を育む水が、文字通り流れ込んでくる。本来ならば、生きとし生けるものの構成要素となるモノが、今ばかりは土に還す役割を果たそうとする。
 大人の中の一人が、手足につけられた鎖に、最後の愚痴をたれる。

 あいにくと、俺には理解できない言葉だったが、概ねのことはわかる。

 俺たちは、不幸せだ、と。



 久方ぶりに見たシリーズ物。どうやら最近は、努力に見合うほどのバランスを取れていなかったらしい。加えてこの間のアレ、だろう。いつもよりファンタジー度が増していた。おかげで久方ぶりの新作は多くの方が出演していらっしゃった。

「あー、だるっ」

 まぶたを開いた先には見慣れた天井。何も変わっちゃいない。窓の外にもちゃんと、空がある。
 だけど、彼らには、それが遠かったのだ。手を伸ばしたって届くことはなかったのだ。

「ったく、よそ様の場所ではたまーにおっそろしいこと考える奴らがいて怖えよ」

 今いるのが日本で良かったと思える瞬間の一つだろう。もっとも、日本で同様のことは起きなくても、大きな括りでいけば同類項と言えることはあるし、場合によってはもっと勘弁願いたいこともあるのだ。水責めの一つや二つでくじけているようじゃ、このシリーズは全巻鑑賞済みなどできやしない。もっとも全何巻かを教えてもらったこともない。

「はあ、今何時だ……まだ夜も明けてねえし。寝よっと」

 今日が日曜日であったことに、くそったれな神への感謝を忘れずに行い、そしてまぶたを閉じる。
 次の睡眠は、安穏としたモノとなってくれた。

 時折ちらついた姿に関しては、強引に夢に出てこなかったことにしておいた。



 /interlude
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正式名称「world's end」4話か5話

2009-04-20 23:27:48 | お話
 今回ので文字数約3万。おお長い。そしてまだまだ終わらないどころか始まったばかりって。ええい、エロシーンはまだか!?(あるの!?)



 というわけで我が家での面談と相成ったのが、電話からきっかり一時間後。

「相変わらず便利な能力だねえ、幽霊と相まみえることができるなんて」

 テーブルに座る高木光嬢は、コーヒーカップを優雅に傾げながら、んなことをほざいていた。自慢でも何でもないのだが、歳の割には大人びてると言われている俺(老けてるわけじゃない、と思いたい)よりもまた一段と大人っぽい見た目なのである。中身も負けず劣らずというか、輪をかけてと言うかのレベルであるので、時折、お前ちょっとその才能のどれかを他人に明け渡してやれよ、とも思ってしまう。神は二物も三物もあたえるもんなんだという典型パターンであろう。
 でもって、相対する双子姉妹のうち、遥はびしっとかしこまってというか縮こまって座っていた。美幸の方が動じてないのはまあ昨晩の一件から推測できたのだが。というか。

「……猫かぶってやがったようなもんだよな……」

 末恐ろしい。いや幽霊に末があるかどうかわからないが。

「うん? 何か言った?」

 つぶやきは双子のほうには届いてしまったようだった。遥の怪訝な表情が向けられる。

「いんや、世の中不思議なこともあるもんだなあと」
「アンタの方が不思議を地でいってるじゃない」
「いや幽霊に言われる台詞じゃねえよそれ!」

 もはやここまで来ると古典芸能の部類に入れてもいいのかもしれない。幽霊に突っ込まれる不思議人間。長い題名だ。

「しかし、キミは相変わらず面白い人間に囲まれているね」

 その様子をなんだか母親が子供のじゃれ合いを愛でるように見てたヒカリの言である。

「ほっとけ。面白いがどういう対象なのかいまいち把握したくねえが、たぶんお前も入るだろうに」
「それは入るだろうさ」
「こいつ言い切った!」

 クックックとニヒルに笑う女の子。まあこいつが面白対象から外れるわけがないのだが。認識にずれがないのは良いことだ。

「まあ、アメリカのホームコメディはこのあたりで止めるとして、」
「いやどう考えても系統違うでしょうそれ」
「よし、幽霊に突っ込まれた」
「狙うなよ!」

 ……仕切り直し。

「いきなり核心をつくような話もしていいかい? 二人とも」

 スイッチを入れ直したらしく、ヒカリの雰囲気が変わる。便利なもんだね、スイッチ一つでオンオフ入れ替えられるんだから。
 雰囲気の変化につられて、遥の方も最初のびしっとした状態に戻る。美幸は何も変わらず。言わずもがな。

「実はね、ちょっと調べてみた結果、君たちは……存在しない、あるいは存在しなかったことになっているんだ。この世の中では」

 ずばっと外角低め直球。ストライク。二人の顔も強ばる……お、美幸の方もか。ここはやはり二人にとって根本の部分であり、さらに言うなら同じ根本を持っているとも言える。うーん、ややこしい。

「ただね、さっきの古典的トークから考えるに、君たちにははっきりとした自我がある。アイデンティティがある。ということはだよ、少なくとも合成されてできあがった素体じゃない、といえるんじゃないかな」
「……と、いうと?」
「どういうことかは言えないけども、さらに言うと作られたものか生のままのものかもわからないけども、瀬川遥、瀬川美幸、この両個体は存在自体はしているのさ。どういう理屈か知らないけどね」

 ヒカリの説明はやたらと抽象的だった。まあ致し方ないだろう、誰だって幽霊の存在証明なんぞやったことないだろうし。説明の仕方から考えると、ごちゃまぜからひねり出した個体、というわけではない、というあたりか。

「なら」

 目を伏せていた遥、顔を上げた先には何かを決意した表情。

「私たちは、よくわからないけど、存在自体は間違いないってことですかね?」
「まあそういうことだろう。そこの馬鹿が」
「馬鹿言うなよ!」
「失礼本音が出た」
「本音だともっとタチ悪いわ!」
「まあおいといて、そこのアホが」
「変わってねえよ!」
「古典ギャグはいいんだよキミ。まあ何はともあれ、無から有を生み出す便利能力は持ち合わせてない。そして、そんな能力をキミ達にかける前から、幽体状態とはいえ存在してたんだから、存在してないなんてことはいえないのさ」

 あー、うん。よくわからん。というか、これ言ってる本人も理解できてないだろ。
 まあそれでも、励ましとかその類にはなったらしい。二人の目に力が生まれる。

「あ、ありがとうございます」
「こっちでも引き続き調べてみるさ。……ノーベル賞ものかもしれないしね」

 ふっ、と最後に笑った辺り、ノーベル賞のくだりはきっと照れ隠しなのだろう。このツンデレさんめ。
 結果として何もかわっちゃいないけども、めでたしめでたしで話を〆られるかなあ、と思ったところで、ちゃんとオチを神様は用意してくれるのだ。

「……ところで」

 なにやら双子で目配せしあって、美幸嬢の発言。

「この人とはどういう関係なんですか?」
「いやそんなこと聞くなよおい」

 ちょっとばかり想定外の質問に俺のツッコミもさえやしない。加えて、ヒカリがニヤっと笑ったあたりで、背筋をぞぞぞと冷たいアレが走る。やばい、完全にいじめっこモードじゃないかこれ。

「……あれは忘れもしない。一年前の冬の出来事だった。珍しく雪の積もった日のことだった」
「モノローグ入れるなよ! つうかもし出会いのシーンだったらもっと前のことだろうが!」
「そこから言っていいのかい? それなら喜々として話してあげるのだが。性的に」
「しまった墓穴か!?」

 ……そこから先、ボクは耳を塞ぎ、話を聞かないことにしました。時折ボクに向けられる二人の視線がとても冷たいものになっていましたが、ボクには関係がありません。
 手を外した後、真っ先に飛び込んできたのは、「サイテー」「……女の、敵」とかそんな感じの、とても冷たい言葉でした。ヒカリはというと、してやったりの顔。くそう、どうせ肝心な部分を省いたあげくに、俺を極悪非道の人間に仕立て上げたに違いない。

 まあ、結果としてはあんまり変わらないかもしれないこともないかもしれないけどね。否定語が混じりすぎてどっちがどっちだかわからなくなったのは果たして。



 ***



 ヒカリが帰った後も、二人の空気はそれはそれはとてもとても冷たい、とても冷たい物でした。大事なことなので何度も言いました。

「ええい! ことあるごとに“サイテー”の空気を出すんじゃねえ!」
「いや、だって、ねえ……」
「……どうしようもない」
「どうしようもないって、おい」

 自分の家なのに、とっても居心地が悪い。くそう、本来なら女子高生二人組とのラブタイムなのになあ! くそう、本来なら女子高生二人組とのラブタイムなのになあ!(これも大事なので二度言いました。当然「くそう」から大事なのです)

「いや、あれっすよ? ヒカリが言ったことが全部が全部本当じゃないっすよ? たぶん」
「全部が全部じゃなくても、一部でも本当なら……どうしようもない」
「くっそ! あんにゃろ俺のこと全否定しやがったな!」

 ……まあされても仕方ないんですけどね。今でも付き合いがあるだけ奇跡もしくは聖マリア様ってところか。でもわかってて嫌がらせのためだけに言ったんだろうし。

「まあでも、昨日の様子を見る限りじゃ、本当は違うのかもね」
「おお! まさか遥の方がフォローに入るとは思ってなかったよ俺!」
「それ、どういうことよ? ねえ、ちょっとぉ!?」
「ああ俺の馬鹿っ! 上向きを一発で戻しちまった!」

 好感度を上げ続けるのは難しいね、うん。

 とまあ、適当にじゃれあって、昼飯もちゃんと食べて、じゃれあって(性的な意味ではなくて)、夜の烏となって(またなぜかついてきた。そしていちゃもんつけられた。ニャンニャンシーンはカットしておいた)、気づけばあっという間に夜なのです。やっぱ人がいると時間が流れるのは早いね、うん。あ、ちゃんといつものように追いかけられっこもありました。慣れっこです、ええ。
 シャワーを浴びて一息ついたところでブラウザを立ち上げる。ヒカリからのメールには、進展なしとだけ記載されていた。どうやら本気で本腰入れてやっているらしい。たぶんありゃああれだ、好奇心とかプライドとかが混じり合った感じか。あいつも未だになかなか難儀な性格である。あまり人のことは言えないのだが。
 水曜日提出のレポートを珍しく早めにでっち上げておいて、今日はさっさと寝よう昨日みたいなことがありませんようにと、ある種の願掛けとともにベッドに転がってみたのだが、残念なことにお布施が足らなかったらしい。俺の愛が足りないなんて、贅沢な神様だことで。

「この真夜中に何のご用でございましょう?」

 ありがたいことに、空いたのは室内側のドアである。お外に向かうドアが開いたならさあ大変朝までやってけないよコースだったが、まだマシそうだ。というかそうであってくれ。頼む眠いんだ。
 まあその、どちらかというと幸運のドアからぬるりと入ってきたのは遙だった。昨日とは逆パターン。まあわざわざ夜中に一人で、という時点であんまりいいことにならなさそうなのは昨日で学習済みだ。

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
「ほう」

 面倒なので、パジャマ姿にキャハハハとかのお約束ははしょっておく。表情を見るからにコメディ展開はお望みでないのが明白だった。いや、ほら、早く終わらせて寝たいし。

「昨日、美幸と何をしてたの?」
「何ってそりゃあナニを……ゴメンナサイ嘘です」

 とか言っておいて早速コメディ展開に走ろうとする俺の馬鹿。冷たい視線であっさり撤回させられる。かといって、さすがにくの一されました、と馬鹿正直に言うわけにもいくまい。さてどうしたもんだろうと首をひねっていると、あのねの声。

「あの子がね、ちょっと変わってるのは知ってるんだ」
「変わってる、ねえ……」

 あれはちょっと変わってるとかかわいく言えるレベルか? とか思ってみたら、どうやらもっと深い部分らしかった。

「あたしの前で、大人しくしてるのも知ってる」
「……へえ」
「それがどうしてかは知らないけどね、ずっと前からそうだった。……記憶の怪しいあたしが、ずっと前なんて言う言葉を使うのは変だけどね」

 どこか遠いところに彼女の視線は向いていた。映るのは、心内に刻まれた原風景、か。それが作り物でないところを祈っておきたい。
 神様はいつだって、敬虔なる信者の祈りを無視してくれるのだけども。

「美幸はね、いつだってあたしを守ろうとしてくれる。しかも、自分の身を犠牲にしてもって思ってる」
「ほう」

 ご明察。

「でも、あたしはそんなことしてまであたしを守ってほしくない。あたしだって、美幸のことが大事だもん。傷ついてほしくない」

 ……なんだろね、この胸の奥にもやっとわき上がるモノは。美しきは姉妹愛、か。
 どうか、どうかこの温かい二人の愛情が、作り物でありませんように。

「……安心しなさいな。まあ確かに、遥の言うとおりのことを美幸は昨日しようとしてたよ。意味合い的には半分くらいか」
「半分?」
「あー、まあそれはちょっと待て。睨むな説明するからちゃんと」
「あ、そ」

 こういう時は髪の毛を乱暴にかきむしりたくなる。でもはげたくないので我慢我慢。

「ある意味な、俺が悪いんだよ。ほら俺、謎キャラじゃん?」
「え、自分でいうのそういうこと」
「あーあー冷たい目で見るな。でも客観的に見たら、どう考えても謎キャラじゃん。おまけに見ず知らずの幽霊さん二人組をかくまったり、挙げ句の果てには謎パワー使えるし」
「そんだけ客観的にとらえられるのがすでに謎キャラじゃない」
「で、だ。美幸としては不安だったんだろ。そんな人物の庇護下にいていいのかどうか」
「……あー」

 きっとあーの後には「美幸なら考えかねない」とか、その類の言葉が連なっていることだろう。俺でも思うくらいだ、遥なら余計そう思うだろう。

「まあ、その調べ方はちとやんちゃすぎたけども、安心しな。美幸は何も傷ついちゃあいない。精神的にも肉体的にも」
「なんかイヤらしい言い方ね、それ」
「……でも、おまえさんがもっとも危惧してたのは、そういうところだろうに」
「まあ、ね。こんな状態で言うのもなんだけど、あたしのために、そういうことはしてほしくないから」
「なら本人にちゃんと言っとけ。どうせ言ってないんだろ? 肉親間でもコンセンサスの一致は大事なことでっせ」
「うん、わかった。明日言う」

 ふうやれやれ、これで今日はもう寝れるかなあと思ったら、甘かった。というか、自分で延長フラグを立てていたのをすっかり忘れていた。

「で、残りの半分は?」
「……あー」

 くそう、誤魔化したかったのに。さすがに面と向かって「精神的にも肉体的にも存在証明がほしかったんでしょ」というわけにはいかないだろう? しかも場合によっちゃセクハラで訴えられるぞこれ。

「……婉曲表現アリ?」
「ナシで」
「あ、そ」

 逃げ道はふさがれた。まあいっか。

「ようはだよ、つながりが欲しかったんでしょ。現世と繋ぐ、あるいは生きてるという実感が生まれる。性行為っちゃそういうもんだろ? 昔から作家はそう言ってきたんだよ」
「……ホントに直接的表現できたわね」
「お望みのままにでございます」
「そういうものなの?」
「いや俺はさすがに感じはしないが、わからなくもない。生きてる人間ですりゃそう呟くヤツだってわんさかいるんだから。嘘か真かは知らないがな」
「……まあ、わからなくもない、けど」

 望みのままに直球勝負をしてみたが、玉の行方は知れない状態となってしまう。だからあんまり話したくなかったのに。うぶかどうかは知らんが、汚れない女子高生に言う台詞なんて何一つありやしない。そんなもんは廃れ気味のケータイ文学内だけで十分だろうに。

「でも遥まで求めてくるなよー」
「求めないわよ! っていいうか私が求めるとイヤなわけ!?」
「いったいどっちに怒ってるんだお前は……」
「い、いや、その、ほらアレよ。何か腹立つじゃない。何か」
「ええい、自分もよくわかってない純情な感情の類を他人様にぶつけるんじゃねえ!」
「いいのよそれくらい!」
「よかねえよ!」

 ……なんだコレは。頭の悪い中学生もびっくりだね。

「……一応誤解があるとアレだから言っておくが、おまいさんがたは俺のストライクゾーンなのよ? ちと外角低めのボール球気味だが、なんつったって女子高生だし」
「え、それフォローのつもり? というかボール球気味ってどういうことよ?」
「まあ、そういう日もある」
「日によって変化するの!?」
「でも、だ」
「しかも流したし」
「いや流さないといつまで経っても進まなさそうだし。んで、だ。東京都の青少年保護条例とかそんなの以前の問題としてだよ、生きてるかどうかわからない状態とは言え、自分の身体ぐらい大事にしろよ。存在証明とかそんなレベルで傷つけていい物なら別にいいんだが、そうじゃないだろ?」
「……むう」
「世の中にはさ、欲望に負けてオオカミさんになるやつだっている。だけど俺はそうなりたくない。本人が傷つくことをわかってない状態では、何もやりたくないんだよ」
「……むうう」


 少しばかり長めのセンテンスで、しかも所謂一つの正論というやつで説き伏せてみると、遥は唸ったきり黙りこくってしまう。俺のキャラじゃないが、まあ仕方あるめえ。たまには寅さんになったっていいだろ?
 だけどまあ、あれだ。寅さんになっても社長さんがやってきてはくれない。あれ、これ別の映画だっけ? まあいいや。とりあえず眠いんだけどな、俺。追加オーダーが目に見えてるんだけどなあ。こう見えても夜は弱いというのに。

 その願いは珍しく叶ってくれたらしい。たっぷり三分ほど時間が流れた辺りで、

「あんた、いい奴っぽいね。やっぱり」

 遥嬢はこう言い残して去っていった。なんだそりゃ。なんだやっぱりって。なんだっぽいって。そんな漫画が昔あった気がするぞこら。あれか、旗が立ったか。まあ旗が立つのはいいことなんですけどね。立つだけならね。誰にだって立てる権利はある。
 で。

「つーわけだよ。そこの追加オーダー」

 ちょっぴり膨らんでるカーテンに声を投げかけてやる。

「……ばれてたのね」
「バーロー。これでもおっかけっことかくれんぼは得意な方なんだ。ちょっとでも部屋に変化があればわかる」
「そういうのが、変なところなのよ」
「……昨日の話を蒸し返すな。俺眠いんだよ、どっかの誰かさんのせいで」

 無理矢理非難がましい視線を向けてやる。あ、でもなんかパース狂ってそうな表情になってるっぽいぞこれ。

「寝させないつもりなのに」
「それどんな意味だよ!? 色々と受け取れてそわそわしちゃう時点でしまった寝られねえ!」
「……姉さんに手を出してれば、逆にこ…‥寝させたのに」
「いやそれ絶対別の言葉入れようとしただろ、こって言いかけたじゃん! 後ろ絶対それ物騒な言葉入るだろ!」
「気のせい」
「いや気のせいじゃないだろっつうかまた果物ナイフ持ち出すんじゃありません!」

 怖いので没収。刃物類は全部金庫にしまおうかしら、でもこいつら幽体化したら……ん?

「おまいさんや、それどうやって持ってきたんだ? 部屋には幽体化して入っただろうに。まさかナイフもセットでお得?」
「おそらく」

 すごい便利っすね、幽体化。つけたの俺だが、まさかそんなことにまでなるとは。きっとそのほうがつじつまが合わせやすいんだろうけども、相変わらず不思議能力なことで。つうかよく考えたら服という前例があったか。
 それよりも。

「まあ、遥の言うこと、わかるよな?」

 とても大事なことを言ってやる。自己犠牲精神がやたら強いのは一人いれば十分なのだ。

「……」
「三点リーダで返すんじゃない」
「ケチ」
「いやケチじゃねえよむしろ言葉しゃべらない方がケチだろ!」
「三分十円」
「市内通話かよっ!?」

 ぜーはー肩で息をしてみる。全力ツッコミというのは案外疲れるのである。よくよく考えれば今の固定電話は三分十円なのか? などと見当違いのクエスチョンを浮かべてみたところで、本筋から大きくそれたことにようやく気づく。つうか、こいつわざとずらしやがったな。

「美幸さんや、珍しくシリアスに話を終わらせたいんだ。余計なちゃちゃいれないでくれるかな?」

 漫画ちっくにこめかみを引きつらせてみると、さすがの美幸嬢もこちらから視線を外した。まあ、言われてるそばから似たようなことをしてるわけである。分が悪いのは当たり前だのクラッカーというやつだ。

「おまえさんのやろうとしてること、あるいは実際にやってること。わからなくはない。だけどさ、それで悲しむ人がいるわけだろ? よかれと思ったことが……なんていう結果は望んでねーだろ」

 返事は、ない。届くといいね、一方通行でも。

「二人でさ、ちゃんと幸せになる方法、探せよ。昨日のカルネアデスの板じゃないけどさ。互いに幸せの押しつけ合いしたって、不幸ごとしか生まれねーんだよ」

 柄にもないシリアス続きに一服をしたくなるが、あいにくとつかんだ箱は空っぽだった。ぐちゃっとつぶしてゴミ箱に投げ捨てる。やれやれだぜ、まったく。
 口元が寂しいなあなどと思案しているうちに、ようやく返事が来る。

「でも」
「ん?」

 上がった顔に、幸せの色なんてものは一色たりとも見えやしなかった。


「記憶もあやふやな私がすがれるのは、お姉ちゃんを守るっていう意識だけだから」



 ***



 そろりそろりと家を抜け出してコンビニに向かう。幸いにもおっかけっこの方々はいらっしゃらなかった。空気を読めるスキル、これ現代人に必須。
 いらっしゃいませーと軽い言葉を受け、適当にビール二本(エビス派)を手に取りレジへ。なんとなくセッターを二箱一緒に買い、コンビニを出て早々に一本。ぷはーとガテン系の兄ちゃんよろしく吸って吐いてみるが、味の一つしやしない。

「まあ、そりゃそうだよな」

 手を空にかざしてみる。手はちゃんとお月様を遮ってくれる。

「……手元にそれしか確かなモノが残ってないんだもんな」

 おっかけっこの方々よろしく、もう少し俺も空気読めるスキルをつけておくべきだった。さすがにいくら多量の経験とやらがあっても、記憶の怪しい幽体になる、なんていうレアなことはやってない。わかるわけもないのだが、わからなきゃいけなかった。
 何にも、言えやしなかった。失望したのかどうかはわからんが、そのまま美幸は出て行き、俺は声をかけることも、手を伸ばすことも出来なかった。
 でも、俺自身の考えや、遙の考えが間違ってるとも思えない。世界はいつだって、矛盾する二つの事柄も並立して存在し続ける。

「案外、お姉ちゃんの方が強いんだろうなあ、このパターンは」

 たぶん、だが遙はわかっていたのだろう。それでも聞かずにはいられなかった。自分の存在証明すらないというのに、妹の存在を願って。それが確かなモノであると信じて。なんやかんやで姉妹であることは本物なのだろう。ツンデレな姉とクーデレな妹。単純にその構図だけなら喜ばしいのに、いや俺にはデレてないけども、まあ、うん。
 プルタブを開け、ごくりと一息にエビスを飲み干す。だが酔えもしない。ただ苦い液体なだけ。放り投げてくださいといわんばかりのタイミングで出てきたゴミ箱に投げ捨て、俺は願う。



 ――全てが幸せで、不幸せでありますように。



 まんまるお月様は、容赦なく輝いていた。



 第一章 終
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すっかり幽霊話だと言うことを忘れる

2009-04-16 22:26:41 | お話
 結構たまってた罠。微妙に本文の文字制限に引っかかっるあたりが次の区切りで腹立たしい。過去の話は「お話」カテゴリで。リンク面倒。




 あんまり飯を食べるのに健康的とはいえない時間なので、軽めの夜食として野菜サラダとハムエッグだけ三人分さっと作って食す。まるで朝食だとか云々聞こえたが総スルー。食えるだけ幸せなもんである。それから交代でシャワーだけさっと浴びる。幽霊にシャワーの意味があるのかとか疑問に思わなくもないが、まあ実体化してりゃ多少は汗をかく(排泄行為として)し、汚れたりはするだろう。うん。覗こうとしてどやされたところまではもはやお約束である。ちらっとピンクいものが見えたのは黙っておくことにした。代えの服を下着含めて二セット用意したらそれはそれでどやされた。まあ確かに男の一人暮らしで持ってるほうがおかしいんだが、それはそれ、である。一応名誉のために言い訳しておくと、下着をわざわざ買ってくんかくんか、なんて趣味はさすがに持ち合わせてない。まったくもって未使用品そのものであるのだが、まあ客観的に見たら気持ち悪い、のかもしれない。
 部屋に入ってきたら殺す、ととてもかわいらしい脅しを受けたので、渋々自室にこもる。言われなくても部屋に侵入しようなんて思っちゃいないのだが、そんくらいの警戒心はこの世の中必要なところである。まあ幽霊なんだから関係ない気もするが、パニクって幽体化できずに悪い人に捕まりあれやこれや、なんていう寝覚めの悪いことに巻き込まれないよう祈っておこう。
 さてぽちっとな、とパソコンを立ち上げる。それなりに金をつっこんでる(百万くらい? デイトレは一瞬が命取りなのである)ので起動は早い。パスワードをつっこんでログインして、おもむろにFirefoxを立ち上げ、「瀬川遥 瀬川美幸」と検索してみる。が、関係のありそうなサイトはヒットしない。まあこんなもんで見つかったら拍子抜けであるのだが。
 続けて検索に引っかからなさそうなとこも含めたお手製検索ソフトを使って見る。が、やっぱりひっかっちゃくれない。

「やっぱここは、事件簿、か?」

 仕方ないので、知り合いに彼女たちについて調べろゴラァメールを送っておく。分業万歳。それなりに報酬を積んだので、一眠りしたころには調査結果を出してくれることだろう。明日が土曜、というのも幸運である。半日フリーはやっぱりでかい。土曜にコマをいれようとしなかった四月の俺に乾杯。
 その後適当にレポートなどをでっち上げてたら、あっという間にいいお時間。寝ながら考え事でもしますかね、と振り向いたところで。

「……」
「うおっ!?」

 妹さん……美幸がそこに突っ立っていた。それなりに集中していたせいか、全く気づかなかった。というか。

「あれか、俺には入るなって言ってしかも物理的に無理なのに、お前らは素通りオーケーなのか!?」
「私は、入るなとは言ってない」
「一緒じゃん! 遥が言ったら一緒じゃん!」

 なんつー理屈だ。うっかり自家発電とかしてなくてよかったぞおい。ありがとうレポートを出した糞准教授。

「んで、何のようだ? あれか、私を抱いてください的なやつか?」
「……そうだとしたら?」

 適当に冗談を投げたら、マジレスを返されてしまう。まじか? まじっすか? 挙動不審になっちゃうよ?

「俺的には非常に嬉しいけど? さすがにここんとこ女子高生とはお手合わせしてないし」
「……」

 少しだけ非難めいた視線をこちらに向けながら、無言でパジャマのボタンを外していく美幸嬢。きれいな鎖骨のライン、淡いピンクのブラジャー、そして穢れを知らないような白く透き通った肌が露になる。ゆっくりと近づき、その白い首筋に、軽く口づけする。温かさが感じられないのが残念だった。
 そのまま下って、パジャマを脱がしながら、その豊満な部分へと舌を這わせていく。肌に唾液の線がつくのはいつ見ても悩ましさを感じる。このままたわわな果実を味わうのもありかと思ったが、先にパジャマのズボンに手を掛け、そのまま下ろしていく。現れた華奢な脚、そしてブラジャーとおそろいのショーツ。用意したのは俺だが、気にしちゃいけない。そっと、下着越しに胸と同じく柔らかいお尻を撫で、それからクレバスの上へと指を這わす。

「……っ」

 小さく漏れる吐息。実体化した状態なら、性感帯も存在してくれるのはさすがに初めてわかったことである。その反応が演技でなければ、の話だが。

「……ねえ」
「うん?」

 吐息交じりの問いかけ。答えながらも、胸、そして下の唇を撫でることは忘れない。
 しばしの硬直時間。聞こえるのは、吐息だけ。精神が研ぎ澄まされていく。
 そして。

「死んで」
「っ……!?」

 繰り出される、銀色の軌跡。そのラインを見切って身体をずらし、手刀を当ててナイフを落とす。そのまま気合で、反撃“しない”ことだけを意識する。
 二撃目は、来ることはなかった。

「……あなた、本当に、何者?」
「いやいやいや! 必死にハニートラップ回避したと思ったら何その疑問文!?」
「少なくとも、今の回避は必死じゃなかった。そして、すぐさま反撃できる態勢まで整えていた。戦闘訓練でも受けてない限り、無理」
「いやに詳しいな、おい。一応言っておくが、さすがにSAT所属経験とか軍隊所属経験とかマフィア所属経験はねーぞ。昔やんちゃだった頃に刃物を持ったチンピラの手合いとはしょっちゅうどつき合ってたからな。怪我したくなきゃ嫌でも覚えるんだよ」
「確かに、そこだけならそうかもしれない。だけど、私に近づき始めたときからすでに注意を払ってるなんて事、ただの喧嘩では必要じゃない。最初から敵意を向けられてるんだから」

 よく見てらっしゃることで。そこまで注意力豊かな女子高生なんていないだろうに。漫画の中でもなければ。

「私が言うのもおかしい話だけど、あなたは、変。力のこと以上に、普通の人が持ち合わせていないことを、持ちすぎている」
「……ふん」

 危ないので念のため、とナイフ(台所にしまっていた果物用だった)を拾い、引き出しの中に入れておく。床に落ちた際に刃こぼれしてないかが気がかりだ。

「注意を払うのは当たり前だろうに。お前さん気づいてなかったかもしれないが、はなっから目に見えるくらい震えてたからな。過去のパターンで、自ら抱いてくれと言ってきて派手に震えてる女ってのは、本当に抱かれるのが怖いか、よからぬことを企んでるかのどちらかなんだよ。片方が分悪いんだからそっち警戒するだろ」
「……でも、そんなこと普通は経験しない。これは推測だけど、あなたは経験が多すぎる。年齢には不相応に」

 いや女子高生にしちゃ考察が深すぎるってのもどうなんですか。十分反則だろうに、見た目的に。

「あなた、一体何者?」
「……今日は本当にそればっかだなあ」

 失礼、と断ってから窓を開け、集煙装置のスイッチをつけ、机の上に転がしていたマイセンライトの箱から一本取り出して火をつける。

「あれか? 世話になる人間の素性くらいは知りたいってか?」
「いいえ、そういうわけでは……だけど、」

 彼女が言いよどむ姿を見せるのは少し驚いた。言い過ぎたか。

「まあ、そういうレベルを超えたところで、不審者扱いされてもおかしくないわな、俺は」

 口元から吐き出した煙が、ゆっくりと集煙装置へと吸い込まれていく。この光景に「あはれ」を感じてしまうのは、俺だけだろうか。

「例えばだよ、美幸」
「……?」
「例えば。お前と遥と二人、水難事故で海に投げ出されたとする。その時、一枚の板が流れてきた。ただし、十分な大きさがないので、一人しかつかまることが出来ない。こういう状況になったらどうする?」
「……カルネアデスの、板」
「ご名答。まあ有名な心理テストの一つだな」

 なんでこんなことを聞くのだろうか。そんな疑問文が美幸の顔にありありと浮かんでいる。

「私なら、お姉ちゃんにつかまってもらう」
「遥が、同じようなことを考えてるとしたら?」
「そ、その時は……」

 先ほどとは違う、文字通り悩む様子の美幸。まあ設問が相当意地悪であるのは間違いない。

「そう、困るだろうな。なぜなら今の質問は、言い換えるなら一人が幸福を得て、もう一人が不幸を得る構図になっている。そして、この状況だけなら、その二択以外に選べるのは二人とも溺れ死ぬ……つまり、二人とも不幸になるくらいしかない」
「それが、あなたとどう絡むの?」

 ふーっと深く息を吐く。普段から喫煙の習慣を持ってるわけじゃないので、ちょっぴりくらっとくる。その代わり、頭の中がクリアになっていく。

「俺は、だよ。そんな状況でも、幸福と不幸が等分に分かれるようにしたいんだ。二人だけじゃだめなら三人、三人でもダメなら大勢で。どうにかして、皆に等しい幸不幸を手に入れられるように。俺はそれだけを願って、ここにいる。今まで生きてきている」
「そして、幸せが足りない人間を見かけたら、自分の幸せを分け与える」
「……そういうこった」

 どうやら、昼間のお嬢様への金銭授与の話に合点がいったようである。

「でもそれは、あなたが不思議な人物である理由にはなっていない」
「まあそうなんだがな。間接的には大きな影響を与えている。あと、何があっても直接的な理由は人様にいえるもんじゃないし、俺を不思議たらしめている部分の大半は、俺の努力で手に入れたもんだ。先天的、あるいは自分の努力によらない部分つったら、あの不思議パワーぐらいなもんさ。人間、死んだ気になってやりゃあなんでも出来るもんだ。幽体状態のお前さんにはちときつい話ではあるが」

 半分ほどになった煙草を灰皿に押しつけて火を消す。部屋に少しだけ残った煙を手で振り払うと、他には何もない。いるのは人一人に幽体一体。それだけ。 
 その幽体はというと、こちらに少しだけ、哀れみを含んだ表情を向ける。

「あなたはそれで幸せなの?」
「他人様の幸せに気を遣うほど余裕はないだろうに」
「……聞いてみただけよ」
「そうか。それとそろそろ服着たらどうだ? 別に寒くはないだろうけど、その年代のお年頃でずっと肌さらしてて大丈夫っていうのもどうよ?」

 言われて初めて気づいたのか、自分の現状を美幸は顔を下げることで確認する。だが、それで慌てて恥ずかしがるなどということはしなかった。

「あらためて、私を抱いてみる?」 
「よせやい。その気もない子を無理矢理抱く趣味は持ち合わせてねえ」
「そう」

 短く返答してから、半分自分から、半分俺が脱がした服を手に取り着ようとして、身体のそこかしこに線がついていることに気づいたらしい。手の動きを止める。

「一緒にシャワー浴びる?」
「おい、適当なところで止めておけよ。さすがに何度も誘われるとほいほいのるぞ?」
「別に、私はかまわないのに」
「あんだけ震えておいてよく言う……」

 そのまま最後に「扱いはうまいのね」という捨て台詞を残して(ついでにいうと服は手に持ったまま)、美幸は部屋の外へドアを開けて出て行った。はああああ、と肺の底にたまっていたくすぶった空気をはき出して、改めて煙草を一本取り出す。ヤニにでも頼らなきゃやってられるかってえんでえと、江戸っ子でもないのに啖呵を切ってみたところで、もやもやとしたものは晴れやしない。扱いはうまいのね、じゃないだろうに。

「そんなんじゃ存在証明にもならねえだろうに」

 なんとなく、彼女の行動の一部に、そんな想いが含まれてたんじゃないかと感じてしまう。大半は俺という人物を知ろうという感じだったけども。まあその気持ちはわからなくはない。幽体、なんてもんは存在していないに等しい上に記憶もないのだから。

「……つうか、さすがに一日何度もやれる歳じゃねえ……つうか、昼間のは演技か、くそう」

 ……これくらい愚痴ついたって許されるだろう、たぶん。


***



「おはよう、って朝からめちゃくちゃ眠そうね、アンタ」
「ちょいと夜中に猫と戯れたくなってな」
「意味わかんないし」

 じと目が二組。いや、片方そんな視線送る資格ないからな。

「あーねむ。朝飯はいるのか?」
「もらえるなら」
「あっそ」

 やっぱ俺っていいやつだよなあこんなこと言われながらも用意するなんて、などと自画自賛しながら、昨晩食べたものとあまり変わらないメニューを用意する。これは別に嫌がらせとかではなく、単に人数分そろえられる冷蔵庫の中身がこれだけだった、というオチである。なので文句は言わせない。

「俺だって白米に味噌汁が食いたいやい!」
「誰にむかっていきなり吠えてるのよ……」
「いやなんとなく。一応日本人として叫んでおこうかと、あと最近はやりのメタ発言的な」
「まだ会ってそんな経ってないけど、アンタ間違いなく変人よね」
「手厳しいツッコミをありがとう。俺そのうち幽霊に対するボケ名人になれそうだ」
「……それとは関係ないと思う」
「あーそう……そいつは残念だ」

 本当に手強い姉妹だなおい。幽霊がどうとやら以前にいろんなものがなくなってく気がしてきたぞ。
 存在の否定を一心に受けながらも適当に食事を済ませて(食器は洗ってもらった。楽でいい)、自室のPCでGmailを立ち上げる。一番上に、昨日頼んだ調査結果っぽいメールが入ってるのであけてみる。

“残念ハズレ”

 ぴぽぱぽぴ。

「おいこら誰が宝くじメールを送れと言ったんだああん?」

 一連の流れは反射的と言って差し支えない。メールの送り主に電話をかけるまで2秒かかってない。いや、さすがに番号手打ちしたからもう少しかかっているか。

『ごめん一度やってみたかったんだ……』

 聞こえてくるのは殊勝な感じで謝る声。だがだまされちゃいけない。

「ごめんですんだら警察も宗教も二次元世界もいらねえよ!」
『その意見には同意できるな。このご時世あらゆる困りごとを解決してくれるものなんて存在しない。画面の奥のかわいい子に癒される程度なら致し方ないさ』
「いや別にそこに同意を求めてねえよ……はあ」

 こいつの性格である。だいたい俺の行動パターンを把握してるから、朝起きて飯食ってメールを見て慌てて電話をかける俺をほくそ笑みながら、コーヒーあたりを優雅に飲んでいるに違いない。

「とりあえずカップをおろせ」
『残念グラスだよ。アイスコーヒーを飲んでる』
「どっちでもいいわっ!」
『キミは私には本当冷たいな』
「誰だってんな対応されたら冷たくもなるだろうよ……」
『そうかい? 大抵の人は笑顔で接してくれるというのに』

 そりゃあんた、あんたに弱み握られたとでも思ってるんだろうよ。おおむね間違っちゃいない自信があるぞ、これに関しては。

「……まあいい、で、結果は?」
『実はあのメールはある程度正解の意味も含んでいるんだ』

 お互いにスイッチを切り替えて本題に入ったところで、出てきた答えは渋いものだった。

「個人データも調書も全くヒットしなかったのか……」
『一応台帳まで調べたんだけどね。でも、少なくとも電子化データの中にはなかった』

 どうやってクローズネットワークの中身を調べたんだろう、なんてことを気にしてはいけない。この電話の相手にとってはそんくらい余裕のよっちゃんイカである。前に聞いたことがあるが、まったくもってちんぷんかんぷんだった。キレイな顔してるくせに侮れない。
 まあそんなハッカー(クラッカーではない、と彼女は声高に主張する)が探せないとなると、ちと困ったもんである。

『紙ベースはさすがに調べてないけど……ある可能性は低いんじゃないかな』
「たぶん、な。まあ何となく、そんな感じはしてたけどな」
『ふうん。……陽介にしては入れ込んでいるじゃないか』
「焼き餅か?」
『そう、といったら?』
「……普通だったらありがたいもんだとでも返すんだが、ヒカリの場合はなあ……」
『ははっ。わかっている。余計なことを聞いた』
「だったら聞くなよぅ」

 いらんことをしたら手痛いしっぺ返しを食らうの図である。やぶ蛇、とも言う。

『最近いじめてないからな。……私から言えるのはだよ、結局悲しい結果にしかならないんじゃないか、ということさ』
「……ありがたいご忠告どうも」

 ツーツーと電話の切れた音に思いを馳せてみても、何にもいい考えは浮かびやしない。さてどうしたものやら。
 結論から行くと、どうやら二人とも今のところ生存した記録のない幽霊であり、おそらくは何体かの幽霊の集合体であろう。幽霊さんの製造過程、いやこの言い方は少しばかり失礼だけども、形成過程とでもいうべきか、その類のものはさすがにわからない。ただ、それだけでは片付けられない問題が色々ある。
 一つは、各個体が明確な自我意識を持っている、ということ。この時点で二人が同一の集合体の上に分離して存在しているわけではない。なので、別々の集合体同士がたまたま双子の姉妹なんていうものをやってることになる。幽霊に確率論や世間一般論が通じるかは知らないが、相当にレアケースな予感がする。
 二つ目は、あくまで現代レベルの幽体、ということである。二人の言動は現代のものであり、昔にいたとかは考えにくい。先ほどヒカリがいってた紙ベースとかの話にもつながるが、紙ベースレベルでしか保管されていないような年代の人間がこんな現代っぽい成り立ちをするかといえば、答えはノーだろう。まあ、集合体理論ならありえなくもないので、多少なりとも問題点、というレベルだが。
 最後は、彼女たちが記憶や存在といったものに対してやたらとこだわっている点である。どうやりゃあ「記憶が誰かに作られたもの」なんて発想が出てくるのか。なんとなく怪しい。いや結構怪しい。あれこれキーポイント?

 ぴぽぱぽぴ。

「なあなあなあ」
『なんだい? 私の声が恋しくなったとか?』
「そんなことが起きるようだったらよっぽどだ。それこそ天変地異クラス」

 再度ヒカリに電話をかけてみる。こういう時は他人の意見を聞くのがいいと誰かが言ってた。確か。

『ふむ、それはそれで残念だ。今度いじめてやろう。で、どうかしたか?』
「さりげなく物騒なこと言うな。んで、いやさっきの続きみたいなもんだが、あいつらがさ、記憶とか存在に対してやたらこだわってるっぽいんだ」
『というと?』
「まあ幽霊で記憶も食い違ってるとなりゃあ、ある程度存在を確かなものにしたいんだろうなあとか思ってたんだが、だからといって記憶が誰かに作られたもの、なんていう発想は出てこなくね? 通常なら忘れてるかもレベルだろ」
『……一度会ってみてもいいかい? キミを通すより確実な情報が手に入る』
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気分は姉より妹なのだろう。きっと。

2009-04-08 20:29:23 | お話
 よく書くなあ俺とか思ったけども、一日二千五百って原稿用紙六枚にもならないじゃなーい。
 例の幽霊っぽい話も書こうかと思ったけども、ノートパソコンを会社に放置してきてしまったのであきらめるの図。
 しっかし、やはり適当に書いてるせいかこの程度でつじつまが合わない部分があってびっくり。どんだけ頭眠ってるんだ。




 例の封書が届いた三日後の朝は、窓の外に白い雪が舞う朝でした。
 東京では三月に意外と雪が降るのでして、時折、季節外れのという枕詞とともに電車が止まってホームに人があふれかえる様子や、ミニスカートの女性をつけ回して今に転びやしないかと機会をうかがっている、そんなニュースが流れてくるのです。無論私は安い女ではありませんので、そんな日にはジーンズで勝負するわけです。何に勝負するのかよくわかりませんけども、万が一滑ってしまったときに無残な姿と、可憐な下着を人様に見せるわけにはいかないのです。
 もっとも、学年末の試験はとっくに終わり、レポートの提出も遙か彼方の頃合いですので、自由を謳歌できる身分であった私は、朝食後もベッドの上布団にくるまり、自堕落を満喫していた朝だったのですが、雲の中でも忙しいお天道様が嫉妬したのでしょう、突如自室のドアが開かれて、なにやら機嫌の悪そうな表情をした兄が、ずかずかと乗り込んできたのです。思わず私は、半目でうめき声を上げてしまいます。

「……何?」

 あ、これ私の台詞です。ここ最近の乙女は、不機嫌な言葉もゴキゲンに使えるものなのです。そうといったらそうなのです。頑張れば「まーじーで-?」とかもかったるく言えますが、さすがにそこまでゴキゲンではありません。といいますのも、私寝るときは裸族派でして、こればかりは乙女に相応しくないのは周知の事実なのですが、ノリのきいたシーツのぱりっとした肌触りを素肌で感じたい派なのです。ですから、布団にくるまっているとはすなわち生まれたままの姿で布団にくるまっているわけでして、その辺りに脱ぎ散らかしたパジャマやパンティが転がっているわけです。私と同じく自堕落な大学生をやっている兄が、朝食時にはいなかったという兄が、まさかこんな時間から活動している上に部屋に乗り込むなど、一ミリたりとも予測の余地がなかったわけでございます。せめてパンティはパジャマの下に隠しておけばよかった、と後で後悔してみるも、現実は何も変わってやくれません。
 もっとも、兄と妹、という関係はある種倦怠期に入った夫婦みたいな物でして、兄が妹の脱ぎたてパンティに興味を惹かれてる様子などはわずかな欠片もございません。そもそも長年生活を共にすれば、互いに素っ裸を見られることなどそれこそ星の数ほど、は言い過ぎにしても一ヶ月に一度くらいはあるわけでして、今更下着で興奮なんて小学生かお前は、とあっさり言えるのです。とはいえ、ハプニングでもない状態で裸体を露出することは、乙女に反する行為ですから、布団のくるまり方を強め、万が一が起きないように用心します。と、ここまで長々と語りましたが、私たち兄弟の裸話なんてどうでもいいですよね。

「わりい、コピー用紙が切れたからもらう」

 ちらりとこちらを見やって、兄はそう告げます。それから後、人の机近辺を勝手にあさり、コピー用紙を探し出します。
 兄といえども、さすがに机を荒らされるのは不快なので、私は相も変わらず不機嫌なまま「引き出しの一番下」とだけつぶやきます。服を着ていれば開けてあげたのですが、如何せん毛布お化けで移動する気力はありません。

「おう、サンキュ」

 目的のブツを取り出して礼を言う兄。淡泊です。もっともベタベタされてもいやですが。
 そのままコピー用紙の束を抱えて扉に向き直り、一歩二歩と進んだところで、クローゼットの上に私が放置したかっぱえびせん、違った封書に目をやります。

「なにこれ?」

 その疑問はごもっともです。封書なんて言う物は、到着次第開けるべきものであり、後生大事に保管おくものではないのです。私だって、前述の様な得も言われぬ感情がわき上がらない限りは、かっぱせんべいよろしく開けております。

「小学校のとき埋めたタイムカプセルの中身」
「あ、そ」

 この辺り、兄は実にあっさりしております。目ざとく見つけはするくせに、手に取るまではしない。兄は多大な興味を引かれた物には延々とのめり込み、少ししか引かれなかった物はすぐ認識を放棄するのです。言い換えればオタクなんです。自分の興味のあるラノベとか、あとやたらとパステルカラー率の高い漫画とか、後なぜか法律の解釈本とかを大量に保有して悦に入るタイプなんです。妹としては、せいぜいえっちなゲームをヘッドホン無しでやるのさえやめてもらえれば、オタク趣味には何の文句も言いません。というか何で六法全書やねん(びしっ)

 バタンとドアが閉まり、私の部屋は再度私だけの空間になりました。やれやれご苦労なことだぜ……と、最初よりもきつく握りしめていた布団の裾を手放し、ぽふっと枕に顔を埋め、ふごふご呼吸。幾分乙女らしからぬ情景ではございますが、気にしません。
 せっかくの春休みです。なんだか水を差されたような感じを受けましたが、春休みは逃げたりしません。清貧を貫く乙女たるもの、こんな日は寝るに限ります。外に出かけて、生クリームのたっぷりのったクレープを食べるのも趣深いのですが、清貧なんです。具体的に言うと夢でお金はもらえません。昔見たテレビ番組で、エライ人がそんなことを言ってた気がします。まったくもって、その通りです。エライ人は言うことがエライですね。

 時折揺れるカーテン。あ、不用心ではありますが、窓は開けてあるんです。さすがに乙女の柔肌は見られたくないので、カーテンをきっちり閉めてますけども、ちょっと先のビルの屋上から望遠レンズを構えたら、時折は私が見えるかもしれません。チラリズム程度は勘弁してあげましょう。それよりも、さやさやと流れ込む春の匂いを満喫するメリットの方が大きいのです。排気ガス混じりなことには閉口しますが、それでもあの緑色の世界は捨て難いのです。あ、ちょっと文学少女っぽい言い回しでしたね、これ。
 まあ、今日に限って言えば寒いんですけどね。雪、つもってますし。


 とまあとある春休みのうら若き乙女がまどろむ様子をつらつらと適当に述べたわけですけども、結果的に、といいますか、案の定といいますか、兄がソレの存在を認識したときに、さっさと開けてしまうべきだったのです。人間、思い立ったら吉日であり、思い立たなかったら凶日なのです。このような言い回しがあるかはわかりませんけども、我ながら言い得て妙なのではと自画自賛しておきます。もっとも、自分で自分を褒めてみたところで、銅メダルも得られないですし、結果が変わらないのも当然です。
 ただ、後悔は先に立たないわけでして、こうやって誰も見ることがないであろうレポート用紙に、やるせなさとか、三分の一の純情な感情ですとか、その類を書き連ねることで、かろうじて心の平穏を保つ日々でございます。あ、残りの三分の二も純情なままですけど。

 あ、一応どうでもいいオチを言っておきますと、さすがに雪降る日に開けっ放しはNGでした。数時間後に熱が出てきたわけでございます。くしゅんくしゅんとかわいらしいくしゃみを心がけたのですが、べーっくしと、江戸っ子ばりのものを連発しておりました。私、別にアホの子じゃないんですけどね。
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というわけで適当に思いついた後の祭り的な話

2009-04-08 00:29:13 | お話
 ほんと、こっちのほうが評価高そうな要素がたくさんあるんですけども、どうしたらいいです?
 やっぱ俺はアレです、姉か妹がツンデレ、というパターンが一番輝くんじゃないですかね。今回そんなの一個もなくて(たぶん)残念ですけど。




 よく、小学校の卒業式後のイベントに、タイムカプセルを校庭に埋める、というのがあるじゃないですか。いや、世間一般ではあまり流行っていないかもしれませんが、私の卒業した小学校ではあったんです。なんでも、その小学校の歴代行事らしく、わざわざ『タイムカプセル維持管理募金』などを募って運営してましたし、校庭の一角には歴代のタイムカプセルを埋める場所が、こちらもわざわざ設けられていました。端から何年卒タイムカプセル、何年卒タイムカプセルと並んでいて、まるでタイムカプセルの農場やー、とメタボ芸人のように言いたくなるところであります。

 で。
 去る日、同窓会が開催され、そのメタボリック違ったタイムカプセルの開封の儀があったそうでして。そうでして、と伝聞形になっているのは、残念なことに私が同窓会に参加できなかったからです。中学校まではその地にいたんですけども、あ、中国山地の真ん中ちょい右くらいの盆地なんですけどまあそれはいいか、そこから東京に引っ越してまして、今はもう花の大学生なので行く時間はいくらでもあるのですが、如何せん先立つものがないという状況でして、まあまとめるならお金がないのでいけなかった、と。最初からそういえばよかったですね。同情は必要ありません。
 そんなわけでして、してしてと少しばかり卑猥なワードが続いておりますが、清貧を貫く私には同窓会出席の代わりに先日封書が届けられました。誰かに住所を教えた記憶はないのですが、なぜか届きました。恐るべき田舎のネットワーク。まあ私に電話で出欠を聞いてきたくらいですから、そんなの楽勝ですよね。それはそれとして。
 この、小学校卒業時期の頃合いというのは、俗に言う『チューニビョー』の罹患時期でございまして、まあ私もご多分に漏れず、その病気の発症一歩手前の頃合いだったんですけども、この送りつけられた封書を手に取った瞬間に、とても残念なことに思い出してしまったんです。あの頃が、それは文字面通りに黒歴史時代だったことを。あ、黒歴史という言葉をgoogleで検索してみたら、初出は∀ガンダムだったんですね。残念ながらガンダムはSEED以降しか知らないのでよくわからないんですけども。アスカガとかそれはさておき。
 思い出した、ということはすなわち忘れていた、ということであります。人間、嬉しかったことは平気で忘れてしまいます。悲しかったことは苦労して忘れます。とても悲しかったことは忘れたことすら忘れます。体重計のメモリは忘れられません。……最後のことは聞かなかったことにしていただきたいんですけども、ともかく! あ、ちょっと強引に話を戻すために感嘆符で表現してみましたが、黒歴史時代だったことを忘れてたことを、思い出してしまったんです。ややこしいですね。私もややこしく感じております。まとめると、何かを忘れている、そんな予感。誰かさんがやっているえっちなゲームのテンプレートみたいですね。そんなことはどうだっていいですね。

 実は、その封書まだ開けていなかったんです。開けていなかったのにどうして同窓会から来たのがわかったのかというと、それは封筒に堂々と同窓会名義の名乗りがあがってたからなんですけども、なんかこう、ちょっと形がいびつなんです。でこぼこしてるようなしてないような、あ、ちょっと堅めの素材っぽいのは確認できました。やわやわな手触りではなかったのです。
 不思議なことに、未来の私への手紙、のようなものはタイムカプセルに入れた記憶があるんですけども、他に入れた物は思い出せないんです。なので、乙女の好奇心といいますか、その類のパワーで、かっぱえびせんの袋を開けるかのごとく開けて、中身をむさぼり食う違った見てやろうと思いはするんですけども、なぜか躊躇してしまうんです。自分の暗黒時代を曝すことに対するブレーキ、というわけではなく、こう、なんといいますか、心の奥底から自分を不安にさせてくれる何かが入っている、そんな感じなんです。あ、今は一応厨二病は完治したはずなんですけどね。
 そんなこんなで、その封書はクローゼットの上に鎮座したまま、しばらく私と同じ時を過ごしておりました。机の上に置いてないあたり、私と封書との微妙な距離感を表現できて居るんじゃないかと思いますがいかがでしょうか。


 ここまで前書き。
 長々と前講釈をたれた上での結論を申しますと、私はさっさとその封筒を開けるべきだったのです。開けて、中身を取り出してそのブツ、いえ拳銃とかではないですけど、それを確認すべきだったのです。窓を開け、裏側に夢を書いたテスト用紙の如く、曇り空へ投げつけるべきだったのです。明日に届いたかどうかは定かではありませんが、少なくとも、今現在私がおかれているような状態になることはなかったでしょう。
 周りから見て、現在の私が幸と不幸のどちらの極に位置するかを聞いてみると、十中八九『幸せ』を選ばれるかと思います。私自身が客観的に見てもそう思います。妬けるね? 大きなお世話です。当の本人の主観を存分に交えて判断してみると、やはり不幸だと叫びたくなるものなのです。黒歴史が何のことだったのか、それを再認知するだけでも十二分に不幸なのですが、それを覆い隠す物事が起き、今の私と相成ったわけです。これを不幸と言わずに何というのでしょうか。残念ながら言葉を見つけられません。

 ただ、まあ一つだけ言い訳を事前に挟ませてください。今の私の表情は、言葉からの推測とはかけ離れた物になってるかと思いますが、これは決して意図してなってるわけではないのです。ここ最近再発する可能性が高くなっている、あの病気がそうさせているのです。そういうことにしておいてください。
 あ、便利だこの言い訳。今度使おう。
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僕らが君に語るのは、たとえばそんなメルヘン

2009-03-31 02:08:16 | お話
 これは"たとえば"の話だけど。


 翼ないひとびとが大地に伏せ集まって。
 焼け野原に舞う煤が白い空を彼方へ押しやって。
 息苦しさにもだえ涙したとしても。

 手をつないだ僕らは羽となり。
 白い翼に負けない白い翼となり。
 空へ、飛び立てる。

 
 これは"たとえば"の話だけど。
 僕らが君に語るのは、たとえばそんなメルヘン。



 という感じ(適当)おれつば二次創作を書きたいんだけど、書く暇がない。おれつばいいよおれつば。足りない部分が多いのが逆にするめ。解釈の幅というより、お話の幅を広げてくれる。
 如何せんネット上にまだ二次創作少ないから、自活しなきゃ行けない。リトバス佳奈多と同じモード。あっちもまだまだネタ転がってるんだけどね。こっちの場合は恐怖の王雀孫会話というのがあるのがきっつい。さすがにあれはまねできねえ。あのレベルになりたいがなあ。

 しっかしこの時間のブログ更新というのはあれっす、気が滅入る。ちょっぴり仕事してるとこうなるからなあ。しかたないからたまひよのBGMでも流して癒されるとしよう。もしくは2章からオートモード。たまひよかわいいよたまひよ。
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実はタイトルは決まっている

2009-02-25 00:08:01 | お話
 いつぞやの双子幽霊以下略。過去バナはカテゴリからでも。




「ねえ、はあ、ちょっと、はあ」
「はあ、なんで、はあ、しょう?」
「はあ……ふう。何で必死の形相してた人たちに追いかけられてるのアンタは!?」
「いや、ちょっぴり罪作りな男でして」
「そういうレベルじゃないでしょうあれは!」
「幽体でもへばるんだなあ」
「それどうでもいいから!」

 ビルからでて五十メーターも進まないうちに敵襲に出くわすのは、まあいつものことである。

「……外国の人もいた」
「あー、いるかもなあ」
「なんなのよいったい……マンション入ったら追ってこなくなるし……普通寝こみを襲うのはお約束でしょう?」
「それはやめてもらってるんだ、うん」
「話通じるわけ?」
「一部は」
「いったい何なのよもう……」

 幽霊さんにあきれられる俺。きっとレアな存在であることだろう。

「まあ、これで部屋覚えただろうから、いざとなれば勝手にここに来ればいい。お前さん方を見れるやつはいないはずだから」
「相手の素性もわかってるわけ?」
「まあ、だいたいは」
「いったい何なのよもう……」

 同じこと二回言われる俺。きっと大事ないや違うか。

「そのうちわかるさ……いや、今言ってもいいか」
「は?」
「だから、あんだけ大勢の方々に追われるわけ」
「は、はあ、言ってもらえるならそれはそれで」
「……知りたい」
「あ、そ」

 どーにもこうにも、彼女たちにもう完璧に情が移ってる俺。まあいいや、と、おそらくこの人生で一番の秘密(いや知ってる人はいっぱいいるんだけども)を、なんとなくこの二人に言いたくなっている。面と向かって人に言うのはあれだ、多分三番目くらいか。

「実は俺、超能力者なんすよね。しかも、思い描いたことを、現実にするって言う」
「はあ。で、理由は?」
「いや、だから、俺が超能力者で、しか」
「え、本当にそれなわけ?」
「冗談だと思ったろう?」
「……私も冗談だと思った」

 ありがとう妹さんよ。君が喋ってくれただけでありがたい。話した価値がある。

「まあ色々と制限はあるんだが、さっき言ったとおり、思い描いたことを、現実世界に具現化できる。当然、そんな能力ほしいやつらはいっぱいいるわけだ」
「……アンタ思いっきりファンタジー存在じゃない」
「ありがとうファンタジー存在に言われると価値が出てくるな、うん。つーわけで、あの人たちは俺を捕まえて色々利用したい人たちなわけだ。ついでに言うと、家とか隠れ家とかまで来ないのは俺がんなことするところには無を与えようって言ったからだな、うん」
「殺すとかじゃないのが生々しいわね、ファンタジー的に」
「存在が消えたら後腐れもないしな」
「というか、全員の記憶を触ってアンタのことを忘れさせたらいいじゃない」
「それは考えた。つうかやった。だがちゃーんと防衛策張られてたわ。見事に後で記憶取り戻しやがるのな。まあ後で言うが、他にも理由はある」
「……ゴキブリ」
「まさにゴキブリだな、うん」

 いい加減話し疲れたので、コーヒーカップ三つにインスタントコーヒーを淹れる。

「砂糖とミルクは?」
「一つずつ、ってアタシたち飲めないんですけど」
「いや、ちょうど良いから超能力を見せてみようかと」

 面倒なのでクリープとスティックシュガーを袋ごと持ってきて、二人の前に並べる。

「さて、いきますか」

 一口コーヒーを飲んでから、自分の意識レベルを自らの奥深くへと持っていく。想像する場所は、深ければ深いほどいい。奥深くに根付く、自分自身そのものと向き合って、改めて、自分の望む現実を、理想を、具体的に思い浮かべる。

「――今目の前にいる幽体二体に、望むときには生きとし生けるヒトと同じ実体を、与える」

 イメージは簡単だ。二人が、食事を出来るように。モノに実体を伴って触れられるように。簡単だ。ついでにピンク色の妄想が混じったが、まあイメージ強化として勘弁してもらおう。
 具体的なイメージが出来上がり、それが実現すると、イメージは自然とはじけ飛ぶ。そして。

「試しに、飲んでみ?」

 恐る恐るカップを持ち、恐る恐る口につける二人。

「……飲める」
「コーヒーの、味だ……」
「なら、お前らは今、実体を伴った存在、というわけだ。普通にモノに触れる。味覚がわかる。嗅覚もわかる。触覚だって当然」
「あ、あははは、すごい、本当にファンタジーだ……」

 呆然とする姉。驚いた様子の妹。いや驚くことに驚きだけども。

「ただ、な。一応言っておくが、お前らは別に生きてはいない」
「へ?」
「言い方きっついが、ただ実体はあるし、これはおまけしといたが、望めばその時には他の人たちにも認知される。ただ、生きちゃいない。つまり……正式な手続きを経て、この世の中に存在しているわけではない。ある種イレギュラーな実体なんだ。だから、あらゆる生命活動とリンクするものには関われない。これ見たらわかるわ」

 ぽいっと温度計を投げ渡す。

「それ、握ってみ?」
「……温度が変わらない」
「そういうこと。体温ってのは生命活動にリンクするから、体温が生まれることはない」
「なるほどね……ということは、今飲んだコーヒーはどうなるわけ? 消化は生命活動にリンクするでしょ?」
「エネルギー化の部分がリンクされない。だから消化自体はされるし、出すもん出すことにはなる。あ、あと怪我とかもしない。つうか死、という概念が発生しない」
「痛覚は?」
「一応触覚が生きてるときは発生する。が、あくまで痛いだけだ。おまけして実体化は望んだときのみにしといたから、実体化を消せば多分消える」
「……とっても便利」
「へえ……すごいのね、アンタ」
「まあ、世の中の方々が望むくらいだからなあ」

 現実は小説よりもなんちゃら、である。

「一応、出来ないこともいっぱいある。たとえば無から有を生み出すなんてのは無理だし、時間移動も出来ない。この力に関わる根源部分への影響も与えられない。世界は常に、バランスをとるように出来てるのだよ、うむ」
「でもその程度なら十分でしょう? 何でも出来るじゃない」
「他にも色々と制限が厳しいのと、あとあれだ。一日一回しか使えない」
「はあ?」
「いや、この力使うの一日一回だけなんだよね。しかもご丁寧に、日本標準時じゃなくて、世界標準時で零時を指したらリセット。だから後十九時間ちょいは使えない」
「そ、そんな力、今もう使っちゃっていいの?」
「まあいいだろ。どうにかなるし、だいたいこんな力使わなきゃならないときなんてのは、本来ありえないんだから。普通は持ってないんだし」

 望んだわけじゃないんだけどな、と心の中で付け足しておく。おかげさまでこの方、平穏たるものを得たことがほとんどないのだから、こんなもん持たなきゃ良かったとさえ思うこともあるのだが、まあ今回ばかりは彼女たちのためにもなったしまあオーケーか、などと適当にうっちゃりをかましておく。人間、時折投げっぱなしジャーマン系統を放つことは重要なのだ。

「まあ、とりあえずだ。さすがに一人一部屋ってわけにもいかないが、俺とくんずほぐれつ一つのベッドでってわけにもい」
「い、いくわけないでしょ!」
「いやさすがに俺もそう思ってるから残念だけど」
「……残念なの?」
「コホンッ! いかないから、使ってない部屋一個あるから、そこを使えるようにするか」



「ふと思ったんだけど」
「ん?」
「アンタいいとこの坊ちゃんとか? 普通都心部近くで3LDKのマンション借りてる一人暮らし学生とかありえないでしょ」
「バイトの収入がまあそれなりと、あと週二、三回デイトレードしてりゃあこんくらの生活は余裕っす」
「……よく見たら、家電製品も高い。このカップもブランド物」
「はっはっは。俺と結婚したらある種玉の輿よ? 性なる夜でもいっとく?」
「死ね」
「ぐぼうっ、ちょ、実体化してようとしてなかろうと俺に関しては思いっきり殴られるんだから、手加減位しろ……」
「言葉の端々に変態度を感じ取りました♪」
「いやそんなにこやかに言われても……って」

 なんだか家にヒトがいるってだけであれだね、温かいね。ついつい時間の進み具合を忘れてしまうアルヨ。

「そうこうしてるうちにバイトの時間じゃないか。つーわけで行ってくるわ。まあ家ん中のものは壊さなきゃどう使ってくれてもかまわない」

 そんだけ言い残して自室へ。適当にブランド物のスーツを着込んで鏡を覗き込む。うむ、今日も男前。

「……バイトって、まさかホスト?」

 リビングに出てみると、驚きとやや軽蔑の視線が一組ずつこちらに刺さる。いやあ、妹さんのほうは驚いてくれましたかうんうん。

「このご時勢、マネーの稼げるバイトといったらやっぱこれっしょ♪」
「そんなにこやかに言われても。ま、まあ、見かけはそれなりっぽいから、どうにかなるのね……」
「どうにかって失礼な。一応店一番の稼ぎなんですけども」
「は、はあ……」
「あ、お前その顔疑ってるだろ! なら幽体化してこっそり見たら良いさ! モテモテモードの俺をなあ!」
「自分でモテるとかいってるやつに現実問題モテてる奴なんていないじゃない……」
「まあ、見たらわかるさ」


***


「……」
「……一番の稼ぎは、多分、本当」

 真後ろで俺にしかわからないどよめきが起きている。まあそりゃそうだ。家出て真っ先に向かったのがマイハニーナンバー……番号忘れたけど、まあ麗しき女性宅。そこでちょっぴりニャンニャンして、腕組んで店行って、その間もガンガン指名が入る様を目の当たりにしてるのだから。女子高生に見せるものではないのだろうが(幽体に歳があるのかはこの際おいとく)、あんだけ失礼なことを言われたら社会の現実とやらを見せなきゃならんわけです、ハイ。ついでに言うとニャンニャンシーンはさすがに見てなかったが。別に見られても構わなかったんだが……

「あいたっ」
「え、ヨウ君どうしたの?」
「あ、いやいや、今日も君に会いたかったよ♪ って」

 どうせまた地の文を読まれたのだろう。多少頬を引きつらせながらカバーしておく。

「何よ音符マークなんかつけて」
「……」

 うむ、あれだ、下手なやきもち的なものより沈黙のほうが痛いとはまさにこのことである。

「というか思ってたのと違うけど、案外お酒飲む人少ないのね……」
「そりゃこれから出勤のお姉さま方も多いからな」

 休憩時間、一人奥に引っ込んでるときに姉のほうが問いかけてくる。世間的なホストクラブの印象、といったらこいつの言ってる姿のほうが正しいのだが。

「同伴出勤の前にここ来て、俺と楽しくおしゃべりしてから行くって方も多いのよ、これが」
「わからない、世間はわからないことばっかりね……」

 頭を抱える姉のほう。

「……きっと、」

 対して妹のほうはというと、おろおろしてる姉とは違い案外冷静な様子である。

「あなたが、みんなに幸せを与えようと、しているから」
「……ほう?」

 ついでに着眼点も鋭かった!

「軽薄な振りして、博識。結構いろんな分野の話に、深い部分まで対応している」
「まあそれは浜っ子一のテキトー野郎と言われた俺様だからな」
「……テキトーなんかじゃない。そんなが相対性理論一般の概略を諳んじる事が出来るわけない」
「いや、女子高生がアインシュタインわかるほうが怖いから」

 あんまり表情には出てないものの、ちょっぴり疑いのまなざしを向けられてるのを感じる。よくよく会話を咀嚼し、理解している。俺にはそんな妹さんのほうが怖いんです。

「アンタ一体何者なのよ……」
「すげえな俺、ついに幽体状態の奴にまで何者なのだと聞かれるようになったのか」
「普段から聞かれてるわけ!?」
「いえーすあいどぅー」
「……英語の文法的には、受身だからYes,I am.のほうが正しい、と思う」
「細かいなおい。つうかこれだと休憩にならねえええ!」

 まあ、ドンだけ疲れてもどうにかなるのが、浜っ子一のテキトー野郎なわけで。その後も歌舞伎町の夜の烏(?)としてお客さんを呼び込んで接して、勤務時間後に地方から上京して来たはいいもののなかなか友達が作れなかった深遠のお嬢様(女子大生)のアフターへと繰り出し、出勤時と合わせて四発ほど発射(何なのかは言わない)しといて、帰ってきたのは日付が変わる頃合である。これでも普段より遅いくらいなのだが、他のホストの方々に比べてやたら帰宅時間が早いのは、一応大学生でもある故である。店に相当金を落としているおかげか、結構融通が利くものである。えっへん。

「……種馬?」
「ちゃうわっ!」

 胸を張ってみたら、えらく失礼なツッコミが帰ってくる。ついでにいうと、来ない方がいいと言ったのにアフターについてきた約二名である。ソッチに興味深いお年頃、なんてのはとっくに過ぎてるだろうに。

「いいかい妹さんよ。種馬は生命を植えつけるから種馬。俺は中には出さない主義だから違うのさ!」
「そういう意味じゃないでしょうにっ!」

 凶暴なほうに、スパーンと思いっきり頭をはたかれる。どうでもいいが、いつ作ったんだそのハリセン。ビンタとか蹴りよりかはありがたいが。

「し、仕方ないだろう? これも仕事のうちなんだから」
「なんであんなお嬢様お嬢様した人が、こんなのと、その、せ、性交渉を求めるんだか」
「素直にセックスだのエッチだの言えばいいだろうに。純なお年頃か?」
「う、うるさいっ!」
「ぐげぎばっ……」

 いい加減やられる擬音シリーズができそうだぞ、俺。つうかハリセンせっかくあるんだから使ってください。

「わからない、わからないわ……」
「さっき軽く説明したろうに。あの子は寂しい思いをしてるんだよ。だから俺が、その隙間を心身ともに埋めようと……」
「……セクハラ」
「手厳しいなおい」

 なんというコンビネーションなんだか。あれか、セクハラしてはいけない二十四時間みたいなもんか。まあするなという話ではあるけども。

「と、いうか」
「ん?」
「さっきアンタ、彼女にお金、渡してたわよね? しかもおそらく、彼女が店で使った額の、半分以上のお金を」
「なんのことだねワトソン君」
「アンタのキャラがいい加減つかめないんだけども、あんなに渡してたら、アンタの稼ぎを上回るんじゃない?」
「さあ? まあそういうこともあるかもねえ。たまたまさ」
「……嘘。あの人は、いつもありがとう、と言ってた。偶然じゃない」
「何で俺は得体の知れない幽体に得体を把握されなきゃならんのだ……」

 まったく持って好奇心旺盛というか、着眼点が鋭いというか。よく見聞きしてらっしゃることで。なかなか立派な教育をされたのだろうか、親御さんは。どこのどちらさんかまだわからないけど。

「なんか、ますます不審者なんだけど。アンタ」
「ついに不審者扱いか」
「だっておかしいじゃない色々と!」
「まあ、そりゃおかしい部分もなくもないなあ」
「なくもないってレベルじゃないわよっ! 何、何なのいったい!?」
「幽霊に正体を問い詰められる俺って何なんだろうなあ?」

 なんか、いろんなものを超越した存在になってないか、俺。まあ力的にはその辺の人間よりかは、だろうけども。

「……あなたは、」

 なんてちょっぴり厨二病を発症させてみようとしたところで、鋭い妹さんのお言葉。

「やっぱり、お人よしすぎる」
「……まあ、そうなる、の、かなぁー」
「全部、さりげなく人を幸せにしようとする。それで、自分に被害が及んでもなんとも思おうとしない。そういうタイプ」
「なんか死亡フラグ立ちまくってるなおい」
「……推測だけど、実際に何度も死にかけたことが、あるでしょう?」

 ご明察。

「人を詮索するのはその辺にしときな。例え正体不明だろうとも、俺はお前らに危害を加えたりはしない。手は出すかもしれないけど」
「最後のは、はぐらかし?」
「いや本音。だってお前、考えても見ろ。ジョシコーセーだぞジョシコーセー。しかもかわいいときたら手を出さない方が間違ってるだろう?」
「……半分以上、本音が混じってる」

 ようやく呆れ顔の妹さん。つうか。

「名前、聞いてないんだが?」
「アンタも名乗ってないんじゃない?」
「そういえばそうだっけか。テキトーだなあ俺も。普段からあんまり名前を呼んだりしないしなあ。面倒だし」
「どんだけ面倒がりなのよ……」
「覚えるのが面倒。まあいいや、さっきも出てたが俺様の名前は武本陽介である。心して覚えるが良い!」
「なんでいちいち尊大な態度なのよ!?」
「なんとなく」
「なんとなく、って、はあ……もういい加減慣れてきたわ。瀬川遥よ」
「……瀬川美幸」
「一応聞いとくが、双子の姉妹、だよなあ?」
「そうよ。アタシが姉で美幸が妹。記憶が確かなら、ね……」
「ふむ……遥に美幸、な。いい加減姉のほう妹のほうと呼ぶのは失礼だろうから、覚えることにしようじゃないか」
「だからなんでいちいち不躾な態度なのよ……」
「なんとなくだ」

 まあ、世の中なんでもなんとなくですんだら、警察も神様も宗教も壷売りも必要ないんだがな。
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いつぞやの続き

2009-01-06 18:50:47 | お話
 どこかの人たちを悶絶させてた(?)双子幽霊少女モノらしきものの続き。リンク面倒。


 ***


 頭に浮かんだ場所というのは、駅をはさんで反対側の住居交じりの雑居ビルの屋上である。昔日雇いバイトでここの住人の引越し手伝いをして以来、なぜだかその住人、加えて管理人とも仲良くなってしまい、空いてる場所なら自由に使わせてくれているのである。世迷い子には宿木を、なんて管理人のねーちゃん(おばさんといってはいけない。なぜなら二つ三つしか違いがないからだ)に言われたのだが、一応家なき子でないことだけは言っておく。
 何度かぐるぐると追っ手が来ても巻けるようなルートでビルの裏口から忍び込み、屋上へ上がる。管理人から受け取っている鍵をガチャっとオープンザドア。先に広がる歯渋谷の空。地の底から見上げるのとは大違いの風景だ。具体的には空気とか?

「全然具体的じゃないわよそれ」
「的確なツッコミありがとう。ついでに君たち自身の存在についてもツッコミをいれてくれるかな?」
「高いけど?」
「金取るのかよ! それと独白を読むな」
「いや思いっきり口に出てたから」

 なかなかナイスなボケとツッコミな人外さんの片割れである。生前はそれなりに売れた芸人かもしれない。

「勝手に人を芸人にするな!」
「いやそもそもすでに人じゃないっぽいからな!」

 テンポがいいので全力疾走状態となる。つい先ほどの追いかけっこも含めて息が上がっていた今日この頃なので、膝に手をやり、三が日の中日に芦ノ湖畔のランナーのごとくぜーはーしてみる。ついでに言っておくと、その間も人外さんのもう片方は人の服の裾を握って離さない。裾が延びるがまあサンキュッパで買ったやつだから気にしないことにしよう。

「んで、こんなにか弱い僕をこんなビルの屋上に連れ込んで何をしようというんですかっ!?」
「いやいや連れ込んだのアンタだから」
「マジで? でジマ?」
「いやいやいや業界用語でそんなに驚かれても。というかなんでこんなのしか生身の人間と会話できないのよ……」
「思いっきり原因自分で言ってるだろうに」

 びしっと指差して、一言。

「だってお前ら幽霊さんじゃん」

 裾を握る力が強くなる。さっきから一言も喋ってない方の瞳に、涙が浮かぶ。

「やっぱり、お姉ちゃん、私たち……」
「っ……!」

 気の強いほうも、溢れてくるものは堪えられないらしい。ちょっとだけ、罪悪感とやらが沸いてくる。やれやれ、と溜息をついて見慣れた空を見上げる。うむ、底から見上げるのよりかははるかに良い。具体的には、空気とか?

「ひ、人がやっぱり死んじゃってるんだって確信して深い悲しみに襲われてるって時に同じくだらないボケかますな!」
「……泣きながらつっこむとは……生粋の芸人だな。お前……つうかえらく自分のことを客観的に捉えるんだな、おい」

 ごしごしと目元を拭ってこちらを見やる、気の強そうな瞳(いや実際強いのはすでに実感済みだが)。

「……仕方ないでしょう。誰に話しかけても返してくれないし、それどころかいることすらわかってくれないなんて、実態のないものになったとしか思えないじゃない……悲しいことは悲しいし、泣きたくなるけど、さすがに一週間もこんなことしてればいい加減にわからざるをえないでしょ……」

 あいも変わらず言葉の少ない妹? のほうが、空いてる左手で姉の右手を握り締める。私だけはここにいるよ。きっと彼女の存在を強く訴えているのだろう。
 いつだって、世の中は全ての人間が半分の幸福を甘受できるようにはなっちゃいない。世界はいつだって、残酷なのだ。

「で、だ。思わずお前らを連れてきてしまったんだが、どうしたいんだ? とりあえず一本成仏いっとく?」
「容赦ないわね、アンタ。そんな栄養ドリンクみたいに言われても」
「お前ら、幸か不幸か知らんが一応気持ちよくあちらの世界に送り届けることできるけど、どうするよ?」
「……もしかして、あたし達が見えるのは、お坊さん的なパワーがあるせいとか?」
「いや、そういうわけではない、もしかしたらそうなのかもしれないけども、多分あんまり関係ない。ついでに言っとくと、あちらの世界へ送り届けられるのは、道歩いてるとよく成仏しそこなった方々を送ってるせいだ。無駄に経験積んでるぜ、俺。多分その辺の坊さん巫女さんよりスムーズにグッバイ出来るんじゃないか」
「あー、まさに幸か不幸かわからないけど、ってことね」
「うむ。飲み込みの早い奴は好きだね、俺」
「こんなことで褒められたり好きだとか言われたりしてもどうしようもないでしょうに」
「まったくだ。これで生身だったらなあ……」

 ちょっぴり不埒な視線をやって、双子(多分)の容貌とかを見やる。あまりにも高速なボケとツッコミをしてたせいで気づかなかったが、姉のほうは姉のほうで、まあ端的に言えば美少女といっても差し支えないレベルである。気の強そうな、いや強い、輝いた黒瞳。それに合わせた黒髪のセミロングが、端整な、それでいてまだ少女らしさを残した顔に良く似合っている。あとはもう少しブレストがあれば(多分ぎりB)文句のつけようもない。もう片方、妹は妹のほうで、ほぼ姉と同じパーツ構成ながら、ややおっとりとした目尻と腰近くまで伸ばされたストレートの黒髪が、温和(であろう)な性質をやわらかく醸し出している。なんというか、ちょっぴり姉のほうより大人っぽく見える。主に胸とか胸とか胸とか(多分D)。以上、よくあるアレ的な説明終了。

「今すぐここでレッツゴーするのに」
「どこへ行くのよ?」
「……ヘブン? 大丈夫、初めてでもやさしぐぼぁっ」

 ……いいフック、持ってるじゃねえか。やっぱりプロ目指さねえか?

「っ……! こんな、エロい煩悩に侵された奴が、こうなって初めて話せる相手なんて……」
「エロいいうな。そりゃお前、いきなり縞パンに水玉見せられたら、その辺のジャンプ読者層は多少なり健全な妄想するだろうに」
「アンタ、さすがにジャンプ読者層ってわけじゃないでしょうに……」
「えっへん! すでに卒業して今はチャンピオンREDが愛読雑誌。さすがにまだ苺には手を出してません。そんな二十歳、どうぞよろしく」
「なんとなくだけど、今読んでるのがそれなりにえっちい奴で、後者がもっとえっちいやつだってのは想像できるわ」

 ナイスな推理力である。

「読んでみる? 買ってこようか?」
「いるかっ!」

 ちょっぴりセクハラをかました所で、いい加減話が進まないのと、裾を握る妹のほうの視線がちょっぴり非難めいたもの(えっちなのはいけないと思います! とでも物語っているかのごとく)に変わってきたので、どかっと地べたに座り込み、本筋を進める心構えに変える。俺が座ったのにつられて妹のほうも、そして姉のほうもむき出しのコンクリートへと腰を下ろす。

「……で、だ。あんまりじゃれあうのもどうかと思って、」
「じゃあやらないでよ」
「まあそうなんだが、とりあえずのところ、だ。お前ら、どうしたい?」
「どうしたいって、今まで必死にアタシたちのことをわかってくれる人を探してたから……」

 うんうんとうなずく妹。

「なら、それは見つかったわけだ。とりあえず」
「とりあえず、ね」
「とりあえずでも進むと進まないとでは大違いだろうに。んで、その人にどうしたかったんだ?」

 悩む姉。俯く妹。

「……アタシたちが、どうしてこんな状態になってるのかを、調べてほしかった」
「ふむ」

 姉のほうの言葉に、引っかかる部分が一つ。

「どうしてこんな状態、ね。ちときついこと聞くが、自分たちがどこの誰だったか、記憶はあるか?」

 うなずく二人。

「なら、その記憶を辿ればすぐわかるだろうに」

 さすがに口にはしなかったが、二人ともまとめて、とあれば病気で云々とか単なる幽体離脱ではあるまい。まず間違いなく、何かに巻き込まれて……死んでいる。

「それは当然やってる。だけど……」
「ん?」
「……私たちの記憶とは違う現実が、そこにあったの」

 ……簡潔に話をまとめると、真っ先に自分たちの住んでた家に向かったそうである。だが、そこには見ず知らずの家族が普通に住んでいて、自分達の親の姿はかけらもなかった。それどころか、友達の家、あるいは通っていた高校、ともに記憶の中とはまったく異なる状態がそこにあったらしい。

「時間軸がずれてるとかじゃないのか?」
「それもないわ……こうなる前、普通に生活していた記憶のある最後の日から、まだひと月もたっていない」
「なるほど、ねえ。ついでに、まあ無駄だろうけど聞いとくが、一番最後の記憶は?」
「二人ともない。普通にベッドに、二人で入って寝た記憶しかない」

 こくこくうなずく妹。そろそろ喋ろうな。というか二人の間に挟まって寝たいね、うん。二人というか四つというか、

「……えっちなのはいけないと思います」
「何もこんなところで喋らなくても、つか相変わらずあれか、地の文は幽霊さんに読まれるのか?」
「いやいや口に出てたから」
「わりと自分に正直なんで、つかすまん、シリアスモード折っちまった」

 にやついていたであろう自分の頬を抓って元に戻す。さて、色々問題点があるのだが……

「んー、まあ一応、お前らがどう存在していたか、くらいは一日もかからずにわかると思うんだが、ちょっと引っかかるなあ。記憶と違うってのが」
「こういうケースは過去にあった?」
「いんや。なかった。大抵はなあ、すまん、気を悪くしたら申し訳ないが、成仏できないってのはやっぱり強烈な思念が残ってて、それを解消すりゃあ消、いや綺麗になれる。つーことはだ、その人間が感じた事実、それが残ってるわけで、そこに本人の記憶との差異なんてあるわけがない」
「なるほど、そういうもんなのねえ」

 最初と違って偉い暢気だなおい。いやいや妹さんもふーんて表情浮かべなくても良いから。

「つか」

 地の文を心のトークとしているときに、ふと思いつく。

「逆を言えばだ、残留思念がないってことか。何かしらの事実に基づくわけではなく、別の要因で幽体になってる……のかもしれない」

 別の要因。まあ簡単に言ってみたが、んなもんそんな簡単に思いつくわけでもない。お約束どころといえば生き霊だろうが、だとすると記憶が食い違っていることが説明できない。今この世を生きてるのだから、記憶の食い違いは発生しない。というか二人まとめて生き霊てどんだけ仲良いんだか。

「ああもう、いっそのこと記憶がなきゃ最初っから幽体でしたっていえるのになあ!」
「記憶が、なきゃ?」
「ほらよくあるアレだ。実はついこないだ生まれたばかりの、最初からすでに幽霊さんでした的な」

 どうやら俺の台詞に気にかかるところがあったらしい。姉のほうの眉間にしわがよる。

「たとえば、よ?」
「うむ」
「私達の持ち合わせの記憶が、作られたものだとしたら? どこの誰か知らないけど、そういうもの作れるとしたら?」
「んー……」

 なるほど。考えられなくはない。だが。

「そんなファンタジー勘弁してほしいね、俺としては。つうかどんだけブラックボックスな技術だそれ」

 あっさりと消し去る。完膚なきまでに消し去っておく。理由は簡単だ。……こいつらについうっかり情がうつったからだ。正確に言うと、情がうつって、消えないでほしいと思ってしまった。まあ、仕方ない。この手の幽体は、存在を形成する何かが消えうせればあっさり霧散する。そして、存在を形成する何かには、当然自分自身の存在に対する気持ち、も可能性として含まれる。いわゆるデカルト的な……アレだ。

「まあいいさ。とりあえず、如何せん状況をつかめない以上は現状維持、そして情報収集。これは捜査のお約束だな」
「それはそうだけど、アタシたちはどうしたらいいわけ?」

 むう。忘れちゃいないが、どうしたらと改めて言われても困る部分ではある。何より、ずーっと妹さんの、裾をちょこんと握った手が離れてくれやしない。

「お前らが構わないなら、うち来るか? 話し相手と飯、いや飯関係ないか、程度にはなってやるぞ?」
「……こいつエロ男爵だけど、どうする?」

 エロ男爵言うな。エロ公爵と言え。位的に。

「……行く」

 姉の疑問文に対して、妹の返答文は三点リーダ含めてもたった四文字だった。

「なら行きますかね……」

 腰を上げ、屋上ドアのノブに手をかけたところで、逃げ回りながらここに隠れたことを思い出す。

「かくれんぼしながら、我が家に」
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双子幽霊加筆バー

2007-09-16 02:20:19 | お話
 世の中色んなトラブル続き、である。詳しくは目から汗が流れてきそうなので伏せるが、泣きっ面に蜂というよりも泣きっ面に細木数子、といった感じだ。自分でもよくわ

からないが、まあともかく、仁鶴さんに諸々解決してもらいたい所存でございますといった次第のところに、追撃がやってきた。

 ちょっぴり大急ぎでセンター街の人ごみを駆け抜けていると、不意に目の前に結ばれた右手と左手が現れたのだ。

「あ、うぉんがっ!!?」

 どうにもこうにも止まりきれないのでベリーロール気味に飛び越えてみたら、背中から地面に落ちた。視界をお星様が駆け巡り滅茶苦茶痛いのだが、いくらなんでも今のう

めき声はないだろう、俺。
 そのまま渋谷の中心で今は懐かしきセカチューごっこ、要するに仰向けに寝転がっているだけなのだが、それをしながら先ほど急に現れた手2つの行方を探しに視線をさ迷

わせてみると、それはすぐ目の前にあった。そのまま見上げていくと、よく似た女の子が二人、手をつないだままこちらを驚いた様子で見下ろしている。まあ、自分たちの腕

をベリーロールで飛びぬけていく人間などそんなにいるわけないだろう。というかいたら怖い。自分のことだけど。
 んなこんなでぼやっとした時間が幾数秒。

「もしかして、見えてる?」

 二人組の片割れが、そう声をかけてきた。
 見えてる――さてこれは一体何を意味するのやら。思案しながら視線を下げたところで、見えてしまった。

「……水玉模様はともかく、リアルで縞々穿く奴ってそうそういないよな?」

 その言葉に、片やあわててひらひらと舞うスカートの裾を押さえ、もう片方の声をかけて来た方は、

「み、見るんじゃないっ!」

 とまあ、見事な脳天直撃蹴りを決め腐ってくれたんだ。もうそれはそれはあまりの痛さに悶絶して一頻り暴れてみた後に、「一緒に世界目指さないか? 女子プロの」と声

をかけたくなるようなやつのほうを見てみると、もう片方ともども何故だかとっても驚いていた。いや、いきなり蹴りいれられて、驚きたいのはこっちの方だというのに。

「な、なんで……?」
「なんでもかんでも、パンツ見せてんのはそっちなのに蹴られた方がなんでと言いたいわっ!」
「っていうか話ができてる!?」
「会話にはなってないけどな!」

 いやあもう、蹴られた以上に頭が痛い。概ね精神的に。この後胃痛とか発生せやしないかなどと不安を覚えてみたら、なんとなくこちらに飛んでくる視線が痛い気がしてき

た。

(ん……なんだ?)

 辺りをこっそり見回す。あの人ちょっと変な人よね的視線が、コレでもかといわんばかりにこちらに降り注いでいた。まるで悪いのは俺だけだと言わんばかりの……
 と、ここまで思考が飛んでいったところで、ようやくこの状況が“変”なことに気付く。あと会話になってない例の会話も。

 どうやら見えてる、というのはパンツじゃなくて彼女たち自身のことらしい。だって周りの視線は彼女たちに一切向いてないし。
 んで、なんでと驚いたのはどうやら蹴ったこと自体らしい。
 さらに話が出来ているというのは、文字通り「俺と彼女たちの間で言葉のやり取りが出来ている」ということ。

 この辺を鑑みるに……
 あれか、こいつら人外か。俗に言うユーレイさんってやつですか。真昼間からご丁寧にどうも。
 結論らしきものにたどり着いた俺は、立ち上がってジーンズの埃を払う。それからいぶかしげな視線を向けてた周りの方々に「いやあちょっぴり魔が差しまして」と愛想笑

いを振り回してから、駅のほうへ一歩二歩。今日は帰ろう。晩御飯はきっとカレーだ。

「って、ちょっと待ちなさい!」

 後ろから何か聞こえる気がするのは、きっと空耳だろう。俺を呼び止める人物にセンター街で出くわす確率なんざ無いに等しい。というかゼロだゼロ。だもんで、誰かさん

に肩を引っ張られているような気がしても、こいつは空耳なんだ。感触なのに空耳。いっつくーる。世界は不思議で満ちている。

「待てって行ってるでしょうに!」

 ……どうやら空耳の発生源は、自身の事を空耳だと思われたくないらしい。目の前に割り込んできて、両手を広げて通せんぼしてくる。かわいそうに、もう一人の子はそれ

に付き合わされて通せんぼ、というかこちらの裾をきゅっとつまんで話さない。
 さてどうしたものやら。別にこの手合いの事に遭遇したことがないわけではないというか、むしろ年がら年中だったりするのだが、如何せんここは渋谷のど真ん中である。

残念ながら人外の方と意思疎通を図るには人が多すぎる。その上……

(俺、鬼ごっこの途中なんだがなあ……)

 ベリーロール直前、何故自分が走ってたのかまで思い出し、ここに留まり続けるのは得策じゃないことに気付く。さてどうするべ。
 二人の方を見る。強気と弱気、性質そのものは本体に依存するのであろうが、こちらに向けられた視線は確かに俺に何かを求めていた。

「あー、とりあえず付いてきな」

 小声で二人だけに聞こえるように話してから、一歩二歩と歩を進める。きゅっと裾を二箇所掴まれた感触が続いているので、二人とも付いてきているのだろう。やれやれ面

倒っぽいなあと小さくため息をついてから、二人のペースに併せながらも若干早足で、頭に浮かんだ場所まで行くことにした。 




 誰か続き書く人ー?(自分で書くのは面倒らしい)
Comments (2)
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小話「お月様に届け」

2005-11-04 01:03:03 | お話
 ススキの隙間から見える夜空には、まん丸のお月様が浮かんでいた。他の星々を圧倒する光が一筋、僕にも届いてくる。だけど太陽とは違って、その光は攻撃的ではないからいつまでも見続けることが出来る。太陽がお父さんで、月はお母さん。優しく、僕を包んでくれる。温もりはないけれど。
 去年の今頃も、こうして月を見上げていたような気がする。暑い夏もようやくどこかにサヨナラして、日が暮れた後に吹く風が肌をほんのり刺激しだす頃合。風が冷たいからって、お母さんが風上に立って僕のことを守ってくれたっけ。

 ……そう、去年はお母さんがいた。だけど今はいない。暑い夏と共に、お母さんもサヨナラ。お月様だけが、僕を見ている。何だか、無性に悲しくなった。悲しくなって声を上げたくなって、だけど何故かか細い声しか出なくて。底の見えない、暗くてまん丸な穴に弱々しい声が響くだけだった。
 そうだ、きっとお月様を掴まえられたら、穴だって埋まるかもしれない……僕はススキの穂を頼りに、必死にお月様へと手を伸ばした。
 だけど、届かない。ちょっと伸びたかな、と思った矢先にへちゃっと穂が垂れてしまう。何度やっても、変わらない。届かない。埋められない。お母さんはいない。

 どこまで行けば、お月様に届くのだろう……気になって、僕はゆっくりと前に歩き出した。ススキが邪魔だけど、どうにか掻き分けて進んでいく。時折聞こえる嬉しそうな声なんかは、聞こえないフリをして。
 しばらく進むと、ススキはなくなった。かわりに、浅いけど広い川が僕の行く手を遮っていて、これ以上は進めない。視界を遮っていたものがない分、お月様は近くなったような気がする。だけど、届かない。どれだけ背伸びして、どれだけ腕を伸ばしても、触ることはかなわない。
 諦めて、再度前を見る。さっきは気付かなかったけど、そこにもお月様があった。空のお月様と違いゆらゆらと儚く揺れたりはするけど、こちらもまん丸なお月様。きっと、空のお月様の子供なのだろう。
 こっちなら、と僕はゆっくり進む。流れる水は浴びるにはもう冷たくなっていたけど、気にせずゆっくりと進んでいく。浅瀬のおかげで、おぼれることはない。ゆっくり、ゆっくりと進んでお月様に会いに行く。だけど、届かない。僕が進むたびにお月様はちょっとずつ離れていってしまう。
 結局お月様に届くことはなく、広くて浅い川を僕は渡りきってしまった。後ろを振り返っても、そこにはいない。揺れていた、ということは、僕が作り出してしまった幻だったのかもしれない。再度空を見上げて、お月様を見る。揺れることなく光り輝くお月様は、僕を包んでくれはしない。穴を埋めてくれはしない。
 じっと見上げたまま、僕は小さな声でないた。なき声くらいなら、きっと届いてくれる。

 どれくらい経っただろうか。

「ねえ、君はどうしたの?」

 不意に後ろから声がした。お月様へなき声を届けるのに夢中だった僕は、いつの間にかいた存在に気付かなかった。慌てて振り向き、警戒する。
 振り向いた先には、女の子がいた。しゃがみこんで、僕と同じ高さの目線で、僕を見ていた。

「お月様、見てたの?」

 僕は小さく頷く。

「お母さんは?」

 僕は少しだけ首を左右に振る。
 何を思ったのか、彼女は僕へと両腕を伸ばした。避けてもよかったけど、彼女の瞳の中に浮かぶお月様が木になって、なされるがままになってみた。僕の身体を掴むことに成功した彼女は、そのまま抱き上げてお月様の方に向けてくれた。

「さっきより、届くんじゃないかな」

 少女の言ったとおり、ほんの少しだけ、僕はお月様に近づくことが出来た。届いた分だけ、穴が埋まった気もする。感謝の意味も込めて、小さい声でないた。
 満足したのだろうか、彼女は少しだけ僕の身体を下ろすと、今度は胸の前に持ってきて僕を抱きしめた。温もりが、ゆっくりと伝わってくる。身体が少し濡れていたのに、彼女は気にすることはなかった。

「私が、お母さんのかわりになってあげるね」

 ……久しぶりの温もりも、僕の穴を埋めてくれた。彼女の顔を見つめて、にゃー、としっかりした声で鳴いた。

 彼女の胸に抱かれながら、僕はもう一度だけ空を見上げた。お月様は、確かに僕に一筋の光を届けてくれた。








 考える時間1分、執筆時間30分。
 脳内体操にはちょうどいい、かなぁ……
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息を抜く

2005-07-15 04:04:40 | お話
 -ちょっとした、話-

 ふと、今の自分の境遇を見やって、なんて馬鹿なんだろうと思うことがある。
 そう、馬鹿。俺は馬鹿。自虐万歳。
 右のズボンのポケットからジッポ-とマイセンを取り出して、一本火をつける。
 落ち着け俺。まるで阿呆に見えるじゃないか。

 ふーっと吐いた煙は、空へゆっくり溶けていく。時の流れもこれくらいゆっくりだったら、どれだけ平和な気持ちになれたことだろうか。

「……禁煙、したんじゃないの?」
「今だけ限定解禁。でないとやってらんない」

 はあ、と後ろから演技がかったため息が漏れる。

「そっちこそ、喧嘩、してるんじゃないのか?俺と」
「それは解禁してないわよ」
「あーそう、それは残念」

 はあ、とこちらもわざとくさいため息をついてから、いつまでたっても旨いとは思えない煙を吸い込む。吐き出す。ゆっくり上る。エンドレスリピート。

「一本」
「はあ?」
「タバコよ。一本頂戴」

 上を見上げていると、いつの間にか隣に立っていた。そして左手を差し出して、一本27円を要求する。

「吸えたのか?」
「まさか。ストレスが解消されるかどうか試したいから」
「あーそうですか……」

 泣く泣く一本取り出して、左手に乗せる。

「これどっちが口つけるほう?」
「……全く俺が吸うの見てなかったのな」
「だって私の前で吸うことあまりなかったじゃない」
「……そうだっけか」

 そんなに禁煙期間が長かったのか、と気付く。もう少し禁煙してりゃ完全に健康体になれたかもしれないと反省。

「覗き込んで葉っぱが見えないほう」
「こっち?」
「そそ。そっちを銜えて。で、火がついたら吸う。あんまり吸うと咽るけど、吸わないと火が付かないから」
「んー」

 妙な口の形でタバコを銜えたのを確認する。
 自分の奴を投げ捨ててから、火をつける。

 すーっ。そんな音が聞こえてきそうな表情。で、案の定。

「ごほっ、がはっ」

 あまり上品とは言えない咽せ方をしてくれた。
 言わんこっちゃない。だけどタバコを落とさなかったのは褒めて遣わすと心の中で告げる。

「……逆にストレスになるんじゃないの、これ」
「そりゃ吸い方の問題だ」
「……むぅ」

 やはり例のすぼめた口で吸おうと努力しているようだった。

「肺に入れない方がいいぞー癌になる」
「説得力ある忠告ありがとう。これ、何処捨てたらいい?」

 やっぱまずかったんだな、と気付き、口からタバコを奪う。
 すーっと吸い込む煙は、別にいつもと変わらない味。

「うわ」
「うわ、じゃない。もったいないだろ27円が」
「けち臭いわね」
「そりゃお互い様」

 会話終了。沈黙開始。ようこそこの空間へ。
 何なんだろね、これは。疑問符を頭の中に浮かべられるだけ浮かべながら、しかし片っ端から疑問符を消していこうとする自分もいることを感じる。
 やがて奪い取った、というよりは奪還したタバコもフィルター近くまでとなる。最後一息に吸い込んで、吐き出して、やっぱり空にゆっくりと浮かんでいった紫煙を眺めつつ、その輪の真ん中に吸殻を投げ込んだ。

「あーうまかった。特にフィルター」
「……馬鹿」

 嘆息を吐かれる。

「馬鹿で結構。で、喧嘩中なのにここに来たってことは、もう出たのか?」
「……そうよ」
「どんくらい?」
「3ヶ月」
「……3ヶ月、ねえ」

 3ヶ月。なんともコメントしがたい。
 経ってしまえばあっという間の時間であり、過ぎる前から見ればそれなりの期間。
 今から3ヶ月前を振り返る。覚えてない。あいにくと物差しを作ることは出来なかった。
 だけど。

「たった、3ヶ月……なのよ」

 その声に。
 やっぱり短いんだなあと実感する。

「……ああ、本当、たった、だな……」

 言ってなおさら実感。
 3ヶ月しか、ない。
 不意に涙腺が緩みかけた。どうにかこらえる。
 泣いたら負けだな、と脳内に住む誰かが囁いていた。

 横を見ると、ああやっぱりなと思う光景。

「……っ……」

 彼女は、声を押し殺して、涙を流していた。
 さすがに、負けだなんて言えなかった。

 彼女は感受性が高すぎる。世間一般ではそれは非常にいいことだが、就いている職によっては致命的なものとなる。

「俺が、初か?」

 コク、と弱々しく頷かれて、心底参ったなあと唸る。
 まあ仕方あるまい。就いて1年程度なのだから、臨床経験も少ないだろうし。
 だけど、この先どうするのだろう。俺だけ、なんてことはないだろう。
 適正試験を見直したほうがいいんじゃないか、と医学会に追求したくなった。もっとも、看護士の試験は医学会関与じゃないかもしれないが。

 彼女は、優しすぎる。致命的なくらいに。
 先が見えている俺の担当なんかにならなきゃよかったのに。たとえ、俺と会うことがなくても、彼女にとってはそれが幸せだったんじゃなかろうか。俺といる時間がなかったほうが、幸せだったんじゃないだろうか。
 今となっては、わからない。ifによる分岐なんて、人は一つしか選べないのだから。

 選んでしまったんだ、今を、俺も、彼女も。
 先がわかっている結末を。

 なら。

「なあ」

 意識してぶっきらぼうに声を掛ける。

「……何よ」

 ぶっきらぼう加減が伝わったのか、彼女の声もぶっきらぼう。涙の色は、少しだけ。

「看護師って職業、続けたいか?」

 息を呑む音が聞こえた。

「この先、同じことが絶対に、何度もある。それでも、続けたいか?」

 だけど、俺は続ける。この先の選択肢を、見失わないために。
 何が彼女にとって一番いいのかを。

 時間は、今だけゆっくりと流れていた。肌でそれを感じる。

「……うん」

 静かに、首が縦に。

「続けるよ。続けたいよ。これは、私の夢だったから」

 彼女は、予想通りの答えをくれた。
 じゃあもう、俺の言うことは決まっている。やることも決まってる。

「何が、あっても?」

 わかっている。これは酷な言葉だって。自分自身にも酷なんだから、彼女が落ち込まないわけがない。
 何があっても。たかだか数文字の台詞は、何よりも深く、重たいものしか意味しないことを、俺たちは知っている。
 だけど。わかってくれなきゃ、彼女は潰れる。俺と共に。それは、最悪なんだ。



「……うん」

 しばらく後に、彼女は頷いた。

「そっか。なら、大丈夫だな」

 涙が流れた痕を人差し指でなぞってから、唇に唇を重ねる。

「……へんな味がする」
「そりゃニコチンやらタールやら。大体、お互い様だし」
「……馬鹿」

 さらに悪態を吐こうとする彼女の肩を抱き寄せる。
 小刻みに震えている身体が、やっぱりさっきの言葉が持つ重みに怯えているんだということを如実にあらわしていた。
 強がり、も時にはホンモノになってほしい。優しさを隠すためなんかじゃない、強さを。

「俺を、叩き台だと思え。そういうことがあるっていう、いわば試練の一つだよ。で、乗り越えたらめでたくレベルアップおめでとう」

 震えは止まらない。畜生、こっちだって震えたいくらいなのに。
 だけど、震えたら意味がない。

「俺は、さ。試練内容だから手出しできないし、その先も手出しできない。試練内容は一回きりの使い捨てだから」

 腕が、震えだす。俺の身体が起こしているわけではない。
 馬鹿、これくらいで怯えてたら、3ヶ月後にはどうなるんだよ……
 俺に出来ることなんて、これくらいしかないんだから。

 ためにためて、あまり言いたくなかったけど、言わなきゃいけない言葉を脳内に並べておく。
 OK、準備は出来た。
 彼女は、やっぱり泣いていた。

 すーっと、肺に酸素を取り込む。
 ほら、癌細胞君たちも酸素取りなよ。あと3ヶ月なんだから。



「泣くなぁっ!!俺の好きな女は、俺が死ぬとわかったくらいで泣き出すような奴じゃねえ。強気で勝気で、ともかくめちゃくちゃだけど優しい女だろうがっ!!」



 びくっ。
 腕の中で、音がした。



「そりゃ俺だって悲しいさ!お前が立派な看護婦になっても、傍にいることが出来ないってわかっちまったんだからな!どんだけ肺癌なんかになるまえに出会えてたらって考えたか!だけど、だからって、俺が死んで、それでお前もダメになっちまったら、俺たちが出会って、好きあって、喧嘩もして、だけど幸せで、そんな時間すらダメになっちゃうだろうが!」



 叫ぶ。誰かに聞かれたって構わない。むしろ聞け。



「……なあ、お前は優しい。優しいよ。俺はそんなお前が好きだ。だけどさ、強気なお前も好きだからさ、3ヵ月後も、乗り越えてくれよ。優しくて強気な、いい看護士になってくれよ。俺と別れても、看護士であり続けてほしいんだ。なあ、頼むよ、なあ……」



 頭の中ではちゃんと再生されていたけど、声は最後まで言えていたのだろうか。
 こっちまで、泣きそうで、必死にこらえて、告げた。
 想い、君に届け。





「……馬鹿」

 たっぷり5分ほどとって、いつの間にか俺の胸の中で、彼女はいつものように、おなじみの言葉を放った。

「私、頑張るよ。3ヶ月、傍にいて、挫けないで送って、その先も頑張るよ」
「……ああ。とりあえず、喧嘩は仲直りな、俺が悪かった。あんまり無茶しないようにする」
「うん、私も悪かったよ。だけど無茶はしないでね」

 ぽんぽんと、背中を叩いてやる。同時に空いている手で頭をなでる。
 患者が看護士を慰める、不思議な光景。
 俺が彼女を慰める、それも不思議。

 あと3ヶ月。残された時間。
 せめて、彼女が挫けないよう、頑張ろう。
 心の中で誓った。


 少し寒くなった屋上、手すりの遥か向こうの水平線に、紅い太陽が沈んでいく。
 やがて星空があらわれだす頃まで、二人の影は一つになっていた。







 一言。
 ……なんじゃ、こりゃ。
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Familienmitglieder 4-3

2005-04-23 02:59:10 | お話
 気づけば、朝。カーテンの隙間から漏れた光が顔を照らすというありきたりなパターンで目を覚ます。ベッドサイドに置かれた時計を見ると、7時少し前。いつも通りの起床時間。一瞬慌てるも、今日が日曜日であることを思い出し、慌てた心を落ち着かせる。
 こんな時でもいつも通りに起きてしまう自分に誇りを持てると同時に、悲しさも覚える。
 大体、気づけば朝って、気づかなければどうなってたというのだろう? 気づかなければ……

――お互いに、重症ね……うん――

 昨日自分で呟いた台詞が寝起きの脳内を駆け巡る。これにも気づかなければどうなってたというのだろう?

「あ、れ……なんで、あたし」

 ……涙を流した跡があるのだろう?
 記憶が確かならば、寝てしまう前に泣いてはいなかったはず。ならば、寝ている最中に泣いたとしか思えない。だけど、なんで……?

 ……夢。

 ふと、そんな単語を思い浮かべる。
 ああそうだ、あたしは何か夢を見ていたんだ。夢の中身は思い出せないけど、とてもさびしい場所で、誰かが居て、わずかに温もりがあって、でも他には誰もいなくて、あたしは何も出来なくて……
 抽象的なモノしか思い出せない。だけど、カナシミの欠片だけは胸に残っている。

「あれ……また、あたし」

 何故か、涙が流れていた。夢の中身を考えただけで、これだ。果たして幻想世界の中であたしは何を見て、聞いて、体験してきたのだろう?

「……っ!」

 掛け布団を跳ね除け、身体を派手に起こす。
 内側から急に、朋也と汐ちゃんに会わなくちゃと急かされる。
 理由はわからない。だけど、行かなければならない。あたしの中のあたしじゃない誰かが、鋭く告げていた。

「行かなきゃ、あいつの家に」

 ベッドから降りて、適当に服を見繕う。寝癖は目を潰れる程度のものだったので、手入れをしない。そんなことしている暇はない。
 おそらく、今までの人生で一番速い身支度を整えた後、部屋を飛び出し階段を駆け下りていく。

「杏、今日は日曜だから休みじゃないの?」
「違うのお母さん、ちょっと出かけてくる!」

 不思議そうにしている母親を置いて、玄関の外へと飛び出す。原付に鍵を差込み、ヘルメットを取り出してから座り、エンジンを回す。

 今日も、愛車の調子は抜群だった。
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Familienmitglieder 4-2

2005-02-12 12:16:59 | お話
 シャワーを浴びて服を着替えたら、先ほどの沈んだ空気は多少なりとも吹き飛ばせた、と思う。誤魔化しなのかもしれないけど、嘘でも前向きな方が明日に引きずらないということは既に何回も学んだ。
 ついで言うなら、こういう時はお酒が一番ということも学んだので、冷蔵庫から缶に入ったカクテルを一本拝借しておく。汐ちゃんの誕生日パーティーではアルコール類が全くなかったので、一本くらい飲んでもかまわない、と思いたい。
 立ったままプルタブを開けると、プシュッと小さく気の抜ける音がした。このまま飲むのもなんなので、ベッドに腰掛けて飲み口に口をつける。昔販売していたものを復刻させたらしいこの桃味カクテルは、割と飲みやすい味である。

「ふぅ……」

 お酒を飲むと必ず溜息が漏れるのはどうしてだろう。ひょっとしたら歳を取った証拠なのかもしれないけど、漏れるのは昔からなので気にしない。
 棚の上から秘蔵のクッキーも取り出して封を開ける。日付が変わるころに飲み食いすると太るらしいが、一週間に一回もしていないので多分大丈夫。
 クッキーを租借する音と桃味カクテルを飲み込む音とが、静寂に包まれた部屋でリズムを奏でる。

 ふと、机の上に飾ってあった写真が目に入った。

 あたしと、あいつと、汐ちゃん、さらには秋生さんに早苗さんの五人で撮った写真。春、幼稚園の運動会の時に撮影したものだ。
 そこには、何かが欠けた幸せな光景が写っていた。

「ふぅ……」

 一つ前のものとは違う意味合いの溜息を吐いて、目線を他所に泳がす。

「別に、その欠片になりたいわけじゃないんだけど、なぁ……」

 ベッドサイドの棚に缶とクッキーの箱を置いて、ベッドに身を投げ出す。
 アルコールのせいか、すぐに瞼が重くなる。あたしはそれに逆らわず、闇の世界に飛び込んだ。
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Familienmitglieder 4-1

2005-02-05 01:32:53 | お話
 家に帰ってきて、静まった廊下を足音を立てないように歩いていく。所々軋む階段を抜け、既に主が出て行ってしまった部屋の前を通過して、自分の部屋の中に滑り込む。

「ふぅ……」

 カバンをベッドサイドに放り出し、身体はベッドに投げ捨てる。ぽふっと一回だけ軽くはねたあとは、スプリングの弱くなったマットレスに身が沈むだけである。天井も一瞬近くなった後は、手を伸ばしても絶対届かない位置に逃げたままだ。

「あーあ」

 投げやりな口調の言葉が、真上に飛ぶ。言葉を追いかけて腕を虚空にさまよわせたが、何もつかめない。
 何にも? 何にも。

 掴もうとしているものは、きっと雪より小さく、脆いものだろうとは分かっている。だけど、ここまで来て、引き返す場所もない。

「お互いに、重症ね……うん」

 高校時代から、そのまま大人になったようなあたしたちは、気持ちの誤魔化し方だけを身につけて、汐ちゃんという緩衝材だけ得てしまって、戻れる場所を昔においてきてしまった。

 あいつは、渚に。
 あたしは、あいつに。

 捕らわれているようで、捕らわれていないようで、結局捕らわれている。
 それが悪いわけじゃない。わかってる。

 ぬるま湯は気持ちいい。出たくない。
 だけど。
 ぬるま湯につかり続けると、気持ちよくてもいつかはのぼせる。

「あーダメダメ、このままじゃ落ち込むだけだ」

 鬱々とした雰囲気を吹き飛ばそうと、口に出して宣言した後床に立ち上がる。次の行動の選択肢を色々考え、何が効果的かを考える。

「とりあえず、熱いシャワーを浴びよっと」

 着替えを用意して、あたしは部屋を出た。
 いいタイミングで、日付が変わったことを知らせる鐘が、一階のリビングにある時計から鳴り響いた。
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