最近、祖母は夜になると精神的に辛そうである。
自由に動きたいのに脚がないから動けない。
一日中ベッドで横になっているのが辛い。
歩きたい。
自分でトイレに行きたい。
自分で座りたい。
そして、
今、車椅子に乗らせて。
と言い始める。さっきまで笑ってトランプをしていたのにと思うほど毎回、突然である。そして、その時の様子は焦ったり混乱したりしているときのような感じで、冷静ではない。
祖母の気持ちを考えると、私も辛くなる。動きたいのに動けない、座りたいのに自分で座れない、そして漆黒の闇に包まれたかのような暗い夜。どれほど精神的に追い込まれるか。私は祖母ではないから本人の気持ちをすべて理解することはできない。でも、その気持ちを想像することはできる。
私が自宅にいる際、祖母の発する声を最初に聞き取るのは私だ。だから、このような時はなるべく祖母が心穏やかにいられるように手伝いたいと私は思う。そして、父または母に、
移乗するから手伝って
と声をかける。なぜなら、ベッドから車椅子に移乗するためにもう一人の手が必要だからだ。父にいえば、すんなりと手伝ってくれる。一方、祖母にとっての娘(私の母)は、割と祖母に厳しい。祖母も怖がっている(笑)
こんな時間に?
そんなわがままを言って。
(私に)言えば何でもやってくれると思っているんだよ。
など。たしかに母と私で祖母のことを話していると、同じ人物とは思えないほど人物像に差がある。祖母は母のことが怖いのであまり情に訴えかけるような話はしない。そして、母は感情移入せずたくましく、私は祖母の訴えに胸が痛み情に流されやすい。
でも、私も私で母には頑として、
おばあちゃんの気持ちを想像してみてよ。
動きたいのに動けないって相当辛いと思うよ。
おばあちゃんにとっては、気がついたら脚がなかったってことなんだよ。
と譲らない。でも、これは母が鬼なわけではない。やはり、私より母の方が祖母に対する責任感があるし、母も私を思ってのことだ。それに母と私の疲れが出るタイミングも違うから、どちらかが悪いわけではない。そして、祖母の要望をすべて聞いていると疲れてしまう。
それも事実だ。介護は素人の私たちにとって睡眠不足のなかでの体(特に腰)への負担がすさまじい。オムツ交換、尿の廃棄、清拭、着替え、食事、薬を服用させる、シーツの交換など、家にいると次から次へとやることがある。祖母の体調が悪い時はこまめにパルスオキシメーターや血圧などのバイタルチェック、看護師や医師に相談、訪問医療など自分たちの仕事の予定を変更しながら生活している。とにかく家にいるときが一番忙しい。
だから、私も【祖母のメンタル】と【母の体】を考えると、どちらが正解なのか、わからない。ただし、母の言うことも理解できるから色々と試行錯誤しているところだ。
ところで、ベッドから車椅子への移乗の手順を簡単に書く。ところどころ、ケースバイケースなのでだいたいのイメージで。なお、祖母は身長は140cm〜145cm、体重は直近で測ったもので50kgである。右脚は太ももから切断し、左足は今は棒のようになってしまい曲げるのが難しく痛がる。
1.ベッド際に車椅子を横付けする☞ストッパーをかけ車椅子が動かないようにする。
2.左足がダランとぶら下がらないように、左足を置く器具を車椅子に付ける。
3.車椅子を後ろに倒す☞90度だと移乗の際、大変なのでレバーで頭を後ろに倒す。
4.車椅子の肘掛けを後ろに下ろし、移乗の際、体に当たらないようにする。
5.祖母の布団や毛布を取り、介護ベッドを車椅子の傾きと同じ角度に倒す。
6.ベッドの柵を外す。柵に取り付けている尿の袋を持つ☞尿の逆流による感染を防ぐために袋やカテーテルは下。
7.祖母の体の下に敷いてある分厚く頑丈な大判タオルを頭から脚にかけてきちんと敷かれているか確認☞ズレている場合は直す。
8.タオルを持ち「せーの」の合図で、まずはベット際の車椅子の近くまで横にずらす。
9.次の合図で車椅子へ移乗。なお、お尻の辺りが一番重い。頭の方はグラグラするのでそちらも注意☞何があっても手を離してはならない緊張感のある瞬間だ。
10.車椅子に移乗した祖母の体の角度や位置をバスタオルを駆使しながら微調整する。
11.尿の袋を車椅子に引っかける。
12.酸素吸入の機械を固定機から携帯用酸素ボンベに移し替える☞命に関わるので確実に。
13.車椅子を押す人は、酸素ボンベや尿の管に気をつけながら移動する。
ここまで来てようやく移動できる状態になる。しかし、自宅はバリアフリーとは無縁で段差もあるし、通路も狭い。車椅子にとっては障害だらけだ。施設に行く際は、玄関にレンタルのスロープを敷いている。
正直なところ、私が一人でできない工程は7〜10の【移乗】だけだ。他は施設の方がやっているのを見て覚えたし、介護に関する動画を見てイメージトレーニングもしている。父と母は複雑な機械や車椅子の操作に慣れていないので任せられない。
私は力があるほうなので、50kgという体重にはさほど不安はない。ただし、祖母の左足が棒のようになってしまっていて痛がるので、一人で抱える自信がないのだ。移乗の際も移動の際も左脚に注意を払っている。一人での移乗を試したらできるかもしれないけれど、祖母の体に負担をかけるわけにもいかないし、私が誤って落とすなんていう失敗も許されることではない。
本当は私が一人で移乗さえできれば、祖母の世界をもう少し広げてあげられるかもしれない。独りよがりに聞こえるかもしれないけれど、祖母が夜、精神的に辛くなるのをどうやったら緩和できるか、試行錯誤の日々である。
*祖母のメンタルケアについて
精神科や心療内科を受診するのがいいのかもしれないが、90歳で耳が聞こえず筆談が必須。下肢切断のため移動は車椅子。車椅子も乗っていると、下に下に落ちてきてしまう。さらに長時間、車椅子に座っていると血圧が下がってきてしまう可能性もある。
そして、何より祖母本人が病院に行くことを望まない。医師や看護師にも相談した。今は様子を見よう、家族で見守ろうという段階。
写真:祖母の顔の比較。
☞左が2023年9月、右が2024年2月
最近顔がふっくらしてきた。いいことだ。