藻場再生に注力を
急がれる全町的取り組み
離島漁業再生支援交付金の事業が3年目を迎えた。この事業は①漁業集落単位への直接支払い②磯の回復などソフト事業に特化③5年間の事業で繰り越しが可能、というこれまでの事業とは大きく性格が異なるものだっただけに、当初は受益者である漁業者に戸惑いがあったものの、ここにきてようやくその有効性を認識し、活用策に知恵を絞るムードが生まれてきたようだ。
これまでの助成や補助は、港湾整備とか魚礁設置とかのハード事業が中心で、語弊を恐れずにいえば上からの押しつけといった趣が強かったのに対し、今回は衰退しつつある漁村の再生を、当事者の住民が自ら考えて計画し、実情に応じた施策を行えること。かつ単年度決算ではなく5年間を通して計画実行できるだけに、じっくりと腰を据えた再生プランが実行できる仕組みになっていた。
しかし、主体性が問われる制度だけに、最初は「何をやっていいか分からない」というのが正直な受け止めだったようで、手掛けた事業といえば浜の定期的な清掃だけ、といわざるを得ない状況が1年以上続いた。もちろん浜の清掃も重要な再生策の一つには違いないが、焦眉の課題は別のところにあることを漁業者自身知らなかったはずはない。
例えば漁業集落の一番の悩みは磯焼けで、浜の生産力が極度に落ち込み、ワカメやヒジキをはじめとした海草が激減して、ミナやサザエ・アワビが取れなくなり、小魚も育たなくなるから勢いこれを食べる魚が寄り付かない、という悪循環に見舞われていた。
とはいえ磯焼けは原因に諸説があり、防止あるいは回復の対策に決め手がなかったのも事実。したがって問題は分かっていても対応策が見つからず手をこまねいていたと推定される。
そんな中で、先進的な漁業集落は手探りながら様々な取り組みを行ってきている。そしてその取り組みが他の集落にも波及し、町全体として漁業再生プランの底上げが始まっている段階にあるようだ。
*
本紙昨年5月号で紹介した日島地区の藻場再生への取り組みを見てみよう。
ここでは初年度からどんな海草がどの場所に適しているかを調査すべく、カジメやアラメなど各種の海草を管内各所に試験的に植えつける実験を重ねてきた。結果は確かに育つことが確認された。しかし「植え付けてもそのまま放置すれば魚や貝にすぐ食べられてしまう。ですから食害防止に網で囲ったりする必要があり、それほどの植え付け量が確保できません。したがって手間の割には効果を実証できるまでに至っていない」(大村忠美若松漁協組合長)。
海草養殖には海底に植え付ける方法と、海中にロープを張りそこに吊るして付着させる方法とがあり、食害の面では後者が優れ、かつ胞子を飛ばして海底に着床する効果もある。しかし海中だと「船航行との兼ね合い、漁業権の問題などがあり、かなり厄介」という。
もうひとつ、30年前に比べ最近海水温が年平均1・5~2℃上昇しており、とくにこの冬の高温では、ワカメやアオサが激減した。それだけ海の異変が日常化していて、磯焼けもその影響とする説も有力だ。海水温上昇は間違いなく温暖化の影響で、元に戻る可能性は少ない。「つまり、この温度に適した海草を新たに導入していく必要があるのではないか。たとえば南の島の海域に育つ海草を持ってくるとか、真剣に検討しなければならない時期にきていると思います」。
日島の取り組みは二つのことを教えてくれる。一つは藻場の再生の可能性を証明したこと。もう一つは、問題点も発見され、広範な再生に向けて何がなされなければならないかの見極めがつけられつつあること。とくに後者は今後の再生プランに貴重なデータを提供してくれている。
*
日島では3年目の今年、県や町、メーカーの協力を得て海草バンク事業に乗り出している。海草バンクとはいわば海草のプラットホームの役割を果たすもので、コンクリートの構造体に海草を繁茂させ魚礁効果も狙うもので、新しい磯再生の武器として注目を集めている手法だ。メーカー開発品の実験も兼ねるため、直接的費用は発生しないという。
大村組合長はこの海草バンクに海中藻場を組み合わせ、一挙に海草を増やす方法が採れないかを検討中。まとまったエリアで効率的かつ重層的に藻場を再生させる可能性を持っている。
そのためには個別日島だけでなく、周辺を含めた集落の広範な共同作業が必要になる。そうした連係プレーを今後は真剣に模索するべきだろう。また有川や魚目のように、旧町全体が一つの集落として事業を展開しているが、こうした地区に相応しい事業として検討されていいのではなかろうか。
もうひとつ、若松と奈留島の境にある滝ケ原瀬戸の若松側はダイバーや漁師にとって最高のポイントとして知られているが、これは滝ケ原の山林が格好の魚付き林として機能しているからだという。山の有機質に富んだ栄養分が水と共に供給され、海草繁茂、プランクトン発生、キビナなどの小魚の繁殖、そしてこうした小魚を求めて魚たちが集まってくる。
こうした魚付き林の育成が中期的には大きな課題になってくる。となれば、全町的な取り組みが要求されよう。この町の過去から将来にわたる基幹産業は農林漁業をおいてない。残る2年の漁業再生支援事業は、ぜひこの観点から取り組んでほしいし、であればそれ以降の漁業再生の確たる手掛かりが得られるはずだ。関係者の努力に期待したい。
急がれる全町的取り組み
離島漁業再生支援交付金の事業が3年目を迎えた。この事業は①漁業集落単位への直接支払い②磯の回復などソフト事業に特化③5年間の事業で繰り越しが可能、というこれまでの事業とは大きく性格が異なるものだっただけに、当初は受益者である漁業者に戸惑いがあったものの、ここにきてようやくその有効性を認識し、活用策に知恵を絞るムードが生まれてきたようだ。
これまでの助成や補助は、港湾整備とか魚礁設置とかのハード事業が中心で、語弊を恐れずにいえば上からの押しつけといった趣が強かったのに対し、今回は衰退しつつある漁村の再生を、当事者の住民が自ら考えて計画し、実情に応じた施策を行えること。かつ単年度決算ではなく5年間を通して計画実行できるだけに、じっくりと腰を据えた再生プランが実行できる仕組みになっていた。
しかし、主体性が問われる制度だけに、最初は「何をやっていいか分からない」というのが正直な受け止めだったようで、手掛けた事業といえば浜の定期的な清掃だけ、といわざるを得ない状況が1年以上続いた。もちろん浜の清掃も重要な再生策の一つには違いないが、焦眉の課題は別のところにあることを漁業者自身知らなかったはずはない。
例えば漁業集落の一番の悩みは磯焼けで、浜の生産力が極度に落ち込み、ワカメやヒジキをはじめとした海草が激減して、ミナやサザエ・アワビが取れなくなり、小魚も育たなくなるから勢いこれを食べる魚が寄り付かない、という悪循環に見舞われていた。
とはいえ磯焼けは原因に諸説があり、防止あるいは回復の対策に決め手がなかったのも事実。したがって問題は分かっていても対応策が見つからず手をこまねいていたと推定される。
そんな中で、先進的な漁業集落は手探りながら様々な取り組みを行ってきている。そしてその取り組みが他の集落にも波及し、町全体として漁業再生プランの底上げが始まっている段階にあるようだ。
*
本紙昨年5月号で紹介した日島地区の藻場再生への取り組みを見てみよう。
ここでは初年度からどんな海草がどの場所に適しているかを調査すべく、カジメやアラメなど各種の海草を管内各所に試験的に植えつける実験を重ねてきた。結果は確かに育つことが確認された。しかし「植え付けてもそのまま放置すれば魚や貝にすぐ食べられてしまう。ですから食害防止に網で囲ったりする必要があり、それほどの植え付け量が確保できません。したがって手間の割には効果を実証できるまでに至っていない」(大村忠美若松漁協組合長)。
海草養殖には海底に植え付ける方法と、海中にロープを張りそこに吊るして付着させる方法とがあり、食害の面では後者が優れ、かつ胞子を飛ばして海底に着床する効果もある。しかし海中だと「船航行との兼ね合い、漁業権の問題などがあり、かなり厄介」という。
もうひとつ、30年前に比べ最近海水温が年平均1・5~2℃上昇しており、とくにこの冬の高温では、ワカメやアオサが激減した。それだけ海の異変が日常化していて、磯焼けもその影響とする説も有力だ。海水温上昇は間違いなく温暖化の影響で、元に戻る可能性は少ない。「つまり、この温度に適した海草を新たに導入していく必要があるのではないか。たとえば南の島の海域に育つ海草を持ってくるとか、真剣に検討しなければならない時期にきていると思います」。
日島の取り組みは二つのことを教えてくれる。一つは藻場の再生の可能性を証明したこと。もう一つは、問題点も発見され、広範な再生に向けて何がなされなければならないかの見極めがつけられつつあること。とくに後者は今後の再生プランに貴重なデータを提供してくれている。
*
日島では3年目の今年、県や町、メーカーの協力を得て海草バンク事業に乗り出している。海草バンクとはいわば海草のプラットホームの役割を果たすもので、コンクリートの構造体に海草を繁茂させ魚礁効果も狙うもので、新しい磯再生の武器として注目を集めている手法だ。メーカー開発品の実験も兼ねるため、直接的費用は発生しないという。
大村組合長はこの海草バンクに海中藻場を組み合わせ、一挙に海草を増やす方法が採れないかを検討中。まとまったエリアで効率的かつ重層的に藻場を再生させる可能性を持っている。
そのためには個別日島だけでなく、周辺を含めた集落の広範な共同作業が必要になる。そうした連係プレーを今後は真剣に模索するべきだろう。また有川や魚目のように、旧町全体が一つの集落として事業を展開しているが、こうした地区に相応しい事業として検討されていいのではなかろうか。
もうひとつ、若松と奈留島の境にある滝ケ原瀬戸の若松側はダイバーや漁師にとって最高のポイントとして知られているが、これは滝ケ原の山林が格好の魚付き林として機能しているからだという。山の有機質に富んだ栄養分が水と共に供給され、海草繁茂、プランクトン発生、キビナなどの小魚の繁殖、そしてこうした小魚を求めて魚たちが集まってくる。
こうした魚付き林の育成が中期的には大きな課題になってくる。となれば、全町的な取り組みが要求されよう。この町の過去から将来にわたる基幹産業は農林漁業をおいてない。残る2年の漁業再生支援事業は、ぜひこの観点から取り組んでほしいし、であればそれ以降の漁業再生の確たる手掛かりが得られるはずだ。関係者の努力に期待したい。