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ひとつ重要なことは、アタッチメントは“内的ワーキングモデル”をつくるということです。“内的ワーキングモデル”とは何かというと、「自分の心の中に、“アタッチメント対象が住む”」ということ。アタッチメント対象がお母さんだったら、「お母さんが心の中に住む」というふうになっていくわけです。アタッチメント行動を観察していると、アタッチメント行動は増えていかないのです。年齢と共に減っていく。
1歳くらいでは常にお母さんに抱かれていなければダメで、2歳くらいもけっこう抱かれていることが多いけれど離れられる時間ができてきて、3歳・4歳になると、ある程度お母さんから離れていても平気になってきて、時々もどってきて「抱っこ!」という程度になってくる。5歳・6歳になると、日中はお母さんの存在がなくても大丈夫になります。これは、“アタッチメント行動が減る”ということと、“アタッチメント関係が弱まる”ということはまったく別のことなのです。逆に言えば、「アタッチメント関係が強まれば強まるほど、アタッチメント行動は減っていく。」ということ。アタッチメント関係が強まると、心の中のアタッチメント対象のイメージがしっかりついていくから、離れていられるようになるわけです。
アタッチメントは行動パターンとしては愛着対象への接近ですが、実際のプロダクツとしては「愛着対象を心の中に住まわせる」ということ。その人が心の中に住んでいるから、離れていても安心感をもつことができるということになるわけです。
逆に言えば、アタッチメントが形成されていない子は、心の中に人が住んでいないわけです。それはとってもさみしいことですよね。だから、アタッチメントがちゃんと形成されていない子は、だれ彼なしにベタベタしていなければならなくなるわけなのです。さきほどのアタッチメント障害の子どもの行動パターンをこのように説明することができるわけです。
それと、「心の中に人が住んでいる」という状況は、それ以上に重大な問題につながっていきます。一番重要な問題は何かというと、共感性。心の中に人が住んでいるからこそ、人の気持ちを考えることができるわけです。例えば、お母さんが悲しんだとか、お父さんが怒ったとか、お母さんが喜んだとか、そういう気持ちも、自分の中に持ち込むことができるので、人の心をわかる基盤ができる。人の気持ちがわかる。
あるいは、お母さんが心の中に住んでいるから、お母さんの視点でものを考えることができていくわけです。つまり自分以外の人の視点を取り込むことになる。これはつまり「他者視点の獲得」ということです。「他者視点の獲得」とは、たいへん大事なことで、他人の気持ちを考える基盤になるということです。また「他者視点の獲得」は共感性の基礎にもなっていきます。人の立場を考え、人の気持ちを味わう力、共感性にアタッチメントは関連していくことになるわけです。