日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

初恋の人(のお父さん)と話をしました。

2006年07月14日 | 引っ越しな日々
夫の鍵紛失による余波が、じんじん続いた一日だったけど、連日書くのもどうかと思うので、ちょっとお休み。書くことのない日に、振り分けることにする(か、どうでもよくなって書かなくなるでしょう)。

ちなみに、離婚届はもらいに行かなかった(笑)
本気で思ったけど、暑くてめんどくさくなったので。

だけど、人の気持ちをなめるなよ、と思う。

「本気」の一瞬を積み重ねて、
届かなかったはずの神棚に手が届いて、
「もうおうちを守らなくて、結構です。別れますから」
と、
神さまを引き摺り下ろす日に
また一歩近づいた筈だ。

生きている間に手が届くのか、
あともうちょっとのところで、
届かずに、
どちらかが「死」を迎えるのか。
(少なくとも)私の中では、
絶えずせめぎあっている。

努力と運(縁)と環境とで、
最良の形態として、「夫婦」ではあるけれど。

  当たり前のようにいると思うな妻と金

ちくしょう。間違えて、川柳作っちまったったじゃないか。
(ある川柳のパロディっぽいが)。

     ★

夫の鍵紛失の前のお話。

新しい家の正式契約をしに、
必要書類一式を、
北浜の大阪府住宅供給公社へ持参した。

無事に審査を通過して、
「何か質問はありますか?」と聞かれたので、
「駐車場は借りることはできるのでしょうか」と質問する。

マンションの世帯数より、駐車場は少ない。

調べてもらった結果、
「ひとつだけ、空きがあることはあるんですが、ただ……」
軽自動車しか入れないスペースなんだと言う。

うちのは、軽自動車じゃなかった。がっくり。

公社から民間の駐車場をオススメするということもなく、
自分の足で探さなくちゃいけないことも、発覚。

実家に立ち寄る前に、
新しい家の周辺へ行って、
駐車場の状況を調べに行く。

     ★

以前、父から電話を貰った時、
駐車場の不安を話したら、

「すぐ裏にあったから大丈夫やで」と言っていた。

その言葉に嘘はなかった。確かに駐車場はあった。
が、問い合わせてみると、全部埋まっていると言う。

思わぬ誤算。ヤバイ。

汗をダクダクかきながら、
大きな通りを渡って、
もうふたつの駐車場の電話番号を控えて、
実家へ向かう。

少し涼んでから、電話をかける。
やっぱりひとつは、全部埋まっていた。

気を取り直して、もうひとつの電話番号。

その電話番号と、管理者の苗字は、
ある記憶と結びついた。
正確に言うと、その駐車場の場所も、
ある記憶と結びつくのだが。

     ★

その電話番号は局番からして、奈良だった。

「もしもし」

電話をかけると
おそらく初老ぐらいの男性の声が応えた。

駐車場は開いている、と言う。
値段を聞くと、「ちょっと高いかなぁ」と思った。
マンションからも少し遠いし。
即答は少し避けた。

避けたかわりに、質問をしてみた。

「つかぬことをお伺いしますが、
以前、あの駐車場のところにあった、
おうちに住まれていませんでしたでしょうか」

驚いた様子で、「はい。そうですそうです」と初老の男性は応えた。

「私、同級生の家がここだったよなぁと思いながら、
駐車場を見ていたんですよ。
で、その同級生というのは、五年生の夏休みの時期に、
転校していったんですけどね。その子と管理人さんの苗字が、
同じものだったから……」というと、

何か、目を細めたような声で、
「そうなんですか。誰だろう。私の弟かな」という。

年齢的に考えて、「そんなことはないだろう」と、
胸の中でツッコミながら、
その転校して行った子のフルネームを告げると、

「あぁ、それは、私の息子です」と初老の男性は言った。

あぁ、やっぱり。

その息子さんは、私の初恋の人なのですよ、お父さん(笑)

その息子さんから貰った、
『おはようスパンク』という漫画の三角定規入れは、
今も東大阪の実家のダンボールの奥底に、
眠っているかもしれないのですよ(笑)

「初老の男性」改め(笑)
お父さんが言うには、
駐車場の土地は、
先祖代々から受け継いできた土地だったらしく、
お父さん自身も、小さい頃から、
その土地の家でずっと暮らし続けていたらしい。
で、どういう理由なのかは聞かなかったが、
奈良へ引っ越し、だが、土地が手放せなくて、
駐車場に変えたらしい。

覚えている。その奈良の場所も。

「耳成山のほうなんですよね」と、
断定的に私は言った。

小学校3年4年と同じクラスで、
クラス替えのある5年でも同じで、
しかも同じ班になって、
幸福の絶頂の時に聞いた転校の話だった。

少女漫画によくあるパターンだったけど、
当事者からすれば、オリジナル。
読みもので訓練できる感情ではない。

あの時の、彼とのやり取りを、
客観的なカメラアングルで思い出しても、切ない。

あの時、私は彼を深く傷つけて、
終業式の教室から、立ち去った。
子供ゆえの限界だと、今でも思うけど、
何度も悔やんだ。

素直に気持ちを打ち明けても、
現実はどうにもならなかっただろうけど、
素直になりかけて、
柔らかく開きだしていた彼の胸の奥に、
何もあんな言葉を言う必要は、どこにもなかった。

中学生になって、国語で、
大和三山」を習って、
「耳成山」の名を聞いたときも、
感情は遠ざかっていたけれど、
彼が幸せに生きているように、授業中願った。

お父さんは、その耳成山の環境のよさを、
気持ち良さそうに話をした。

もしかしたら、
万葉集とかも好きなのかもしれない。

先祖代々の土地は売れないけれど、
どんどん自然がなくなっていく場所に、
息苦しさがあっての引っ越しだったのかもしれない。

真相は、聞かなかったけど、
そのお父さんの話し方の素朴さに、そういうものを感じた。

「私ね、今は違う苗字ですけど、旧姓はSって言うんですけど」
と、いうと、
「あぁ、息子から聞いたことがあるような気がします」
とかなりの奥の記憶から、
お父さんは、私の名前を汲み上げた。

家族の食卓の中で、
私の話題でも、彼は話をしたんだろうか。
なんとも言えない気持ちになった。

彼は今、三重県のある市に住んでいると言う。
ロマンを求める気持ちが、
結婚をしたのかどうかの質問を寸止めにした。
まぁ、結婚しているのだろう(笑)

息子さんについてのお話は、軽く流れて、
お父さんは私を、
「同じ小学校に通っていた地元の人」として位置づけ、
ずっと、「共通の土地の記憶を持つ人」として、
懐かしさを語り続けた。

子供に戻ったみたいに、お話ししてくれた。

     ★

お父さんは、今住んでいる奈良の家の住所を告げ、
駐車場に決めたなら、
これも何かのご縁だから、
心ばかりだけど、料金を考慮するというようなことを、
仰ってくださった。

ありがたいことある。

時の流れと、不思議な縁の交差点を通過した。

もし、そこに、駐車場を決めなかったとしても、
お父さんには、一筆はがきを送ろうと思っている。

夫に、
「鍵をなくした」という
メールを貰うまで、
こんな、
妙に静かであったかい感情の中を、
ずっと泳いでいたんだけどね(笑)

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