GLAY Story

GLAY関連の書籍を一つにまとめてみました。今まで知らなかったGLAYがみえてくる――。

 TERUの大立ち回り

2009-09-15 | アマチュア時代




 酒を飲むと人格が変わるのはTERUくんだ。まず目が座ってくる。そして、言葉が乱暴になってくる。短気な振る舞いも出てくる。そんな性格が引き起こしたこんな事件があった。

 高円寺の「赤ちょうちん」で打ち上げを済ませて店を出て、JR高円寺駅へ向かっているときのこと。打ち上げが夜の11時ごろから始まり、終わったのが朝の5時。

 ぶっ続けで6時間も対バンのメンバーなどと飲み明かしたわけだから、もうグデングデンだった。


●派手な殴り合い

 「今日もよく飲んだよね。ビール、10本くらい飲んだんじゃない?」 私がこう聞くと、JIROちゃんも「うん、それくらいは飲んだかもしれないな。でも、その間に日本酒も飲んでるから、全部合わせるともっと飲んでるよ」と言った。

 「TERUくんだってかなり飲んでるよね」 そう言って横を見ると、TERUくんがいつの間にかいない。自分たちの何メートルか前を1人でスタスタと歩いている。

 そのときだ。皮ジャンにビョウのついているライダー用のジャケットを着た男を先頭に、いかにもバンドをしているといった感じで髪を逆立てた元気がよさそうな男たちが来た。

 ビョウつきジャケットの男の肩に、TERUくんがぶつかった。

 その瞬間、TERUくんは「なんだよこのヤロウ」と言うと、その男に殴りかかっていった。お世辞にも、彼は背が高いほうではない。相手の男のほうが一回りも二回りも大きい。

 「なんだコラ。やるのかよ、面白れぇじゃねぇか!」相手もこう言うと、双方が派手な殴り合いを始めた。

 1発目にTERUくんのパンチが相手の顔面にヒットした。すると、相手の後ろで成り行きを見ていた一団も、TERUくん目がけて殴りかかってきた。根性ではTERUくんも負けていない。男の懐に飛び込み、ボディブローをかましている。

 横にいた男が、そんなTERUくんの腹に蹴りを入れる。私の隣にいたAKIRAくんもキレてしまった。

 「テッコだけにやらせているわけにはいかない」 こう言うと、乱闘の中に入っていった。骨のきしむ音が私の所まで聞こえてきた。TAKUROくんも一緒に飛びかかっていった。

 TAKUROくんはかなりしっかり者だ。私に「財布と手帳だけは預かっていてくれないかな」と、そんな最中でも冷静に自分の大切なものを私に渡してからケンカに加勢しに行った。

 HISASHIくんも加わった。しかし、そのときはすでに遅かった。TERUくんは顔をメチャクチャに殴られてしまっていた。


●顔からふき出す血

 致命的だったのは、最後に相手の男が道端にころがっていたビンを手に、TERUくんに殴りかかったことだった。ぐにゃっという不気味な音がして、ビンは粉々に砕け、道路に飛び散った。

 TERUくんの顔から血が吹き出した。車がサイレンを鳴らして近づいてくる。

 「ヤバイよこれ。救急車を呼ばなきゃ、絶対ヤバイ!」 よく見ると、目からも血が流れている。付近の住民が電話したのか、警察も来た。救急車がサイレンを鳴らして近づいてくる。

 「おまえら、どういうもんなんだ?」 ケンカ相手はこう聞いてきた。「俺たちバンドやってるんだ。GLAYっていうんだよ」 こう答えると、「俺たちもバンドやってるんだけどよ。GLAY?そんなの知らねぇな」

 酔っぱらい同士のケンカということもあり、駆けつけた警察もそれ以上仲裁に入ろうとしなかった。「大丈夫か?おまえ目から血が出てるぞ」 メンバーのみんなが心配し、TERUくんにこう声をかける。

 メジャーデビューを目指しているバンドのボーカルだ。目から血が出ているとなれば、悪くすると失明してしまう恐れもある。

 救急車から隊員が下りてきた。「ケガ人はどこですか?後ろに乗ってください」 救急車の後ろの扉が開かれた。しかし、いつのまにかTERUくんの姿がない。

 よく見てみると、ケンカでビリビリに破けたシャツを着たTERUくんが、救急車の助手席にちょこんと座っている。

 救急隊員がTERUくんを探しているというのに、TERUくんは助手席から顔を出して「早く行こうよ!」 と叫んでいる。「後ろのベッドで安静にしてもらわないと困ります。助手席になんて乗るもんじゃないですよ」と、隊員もこれには呆れ顔だ。


●救急病院へ

 居合わせたメンバー全員が救急車に乗り、高円寺駅近くの病院に運ばれた。

 しかし、そこでは「今、担当医がいませんから」と言われた。それを聞いたTAKUROくんが怒った。「ここは救急指定病院だろ!なにが担当医がいないだよ、ふざけんな!」と、TERUくんのケガで動転してしまっている。

 そんな言葉を病院の職員に浴びせるが、どうにもならない。「うちでは今は治療できませんので。すいません。」 救急隊員は、「板橋の大学病院へ行きましょう。そっちなら大丈夫です」と言って、再び救急車を走らせた。

 病院に下ろされる。丈夫なジーンズだけは破けようがないが、TERUくんが着ていたTシャツはボロボロだ。

 看護婦さんが「ダメじゃない。酔っぱらってケンカなんかしちゃ」 ホロッとさせるような温かい声をかけると、TERUくんも観念したように「酔っぱらってごめんなさい。ごめんなさい」 そう言いながら、診察室へと消えた。

 「今度から、打ち上げの後の帰り道は絶対にみんなで一緒に歩こうな。とくにTERUはヤバイから、みんなで囲むようにして歩こうよ。そうすればこんなことにはならないで済むから」 TAKUROくんがメンバー全員に、そんなことを言った。

 入院はまぬがれたものの、顔が青タン・赤タンで膨れ上がり、とても人に見せられる顔ではなかった。

 GLAYは翌週とその翌週、当然のように、エクスプロージョンや市川CLUB GIOでのライブが予定されていた。やむを得ず、その2本は飛ばす(キャンセル)ことにした。


●お詫びのデモテープ作り

 2本のライブを飛ばしたことに対し、TERUくんは「ごめん。俺が悪いんだよな」と他のメンバーに謝っていた。

 「でも、あいつらムカつくよ。俺の肩にわざとぶつかって来たんだから」とメチャクチャ殴られたにも関わらず、まだ気丈にも「あっちが悪い」などと言っていた。

 GLAYがライブを飛ばしたのは、この事件を入れてもほとんどなかった。後日、ミーティングのためメンバー全員で集まった。ライブが中止になった善後策を話し合うためだ。

 「ファンの子には前売り券売ってるのに、その子たちに連絡も取れないし。なんとかお詫びできないかな」 私がこう言うと、TAKUROくんが「そうだよね。なんか考えなくちゃ。どうしたらいいかな」

 すると、JIROちゃんが「俺たちミュージシャンだから、音で応えなきゃいけないと思うんだよ。そうだ、俺たちの手作りのデモテープを配ってあげたらどうかな」と提案した。

 グッドアイデアだった。「いちいちスタジオにこもることもないから、みんなでそれぞれ音を録ってさ、それを重ねて作っちゃおうよ」 収録曲は即座に決まった。

 「俺がデモテープのカットデザイン描くから、それを使ってくれない?」 TERUくんが、自分で描いた絵を使うことを提案してきた。「いいよ。テッコはけっこう絵がうまいから、デザインはまかせるよ」

 TAKUROくんとAKIRAくんがミキサーを使ってそれぞれが録った音を重ね合わせて、テープを仕上げることになった。ドラムは叩かず、ギターとベースはHISASHIくんの家で録音した。

 ボーカルだけはスタジオを借りて、TERUくんが2時間で歌を吹き込んで、それをAKIRAくんが総仕上げした 「奇形の人形」のデモテープができ上がった。

 テープに収録された曲は、『HELLO! NEW YORKER』、『WALTZ~灰色のロシア~』、『魔女狩り』、『奇形の人形』の4曲だった。





【記事引用】 「GLAYインディーズ回想記/清水由貴・著(インディーズ時代のスタッフ)/コアハウス」 

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