――名古屋最終日ということでスペシャルメニューを用意したぜ!最終日行くぜ!TOSHIカモン!
『SOUL LOVE』のイントロが始まると、まるで"戦闘開始"を告げるようにいっせいに客席の明かりが点いた。さあ、この客席を見てくれ!と言っているような潔いライティングだった。
スタンドには、残酷なくらいに誰もいなかった。そして、そんな光景をあざ笑うように演奏は高らかだった。
●空席の客席に挑む
空席のある会場での演奏こそ、そのバンドの真価が発揮される。
目の前の衝撃的な光景に尻込みをしてしまうのか。屈辱に打ちのめされてしまうのか。こんなところでやれるかと投げやりになってしまうのか。あるいは、早く終えて帰りたいと手を抜いてしまうのか。
彼らはそうではなかった。あえて目の前に空席を見せた。そして、一歩もひるむことなくそれを焼き付けるように挑んでいった。
客席も一緒にステップを踏んでいるような『Young oh!oh!』、そして、ドラムソロを挟んで始まった『SHUTTER SPEEDSのテーマ』。「GLAYに負けるなよ!」を連呼するTERUにJIRO加わった。
客席を煽るだけ煽ってメンバーがステージ四方に散っていく。JIROが下手に走り、TERUが上手に走る。ドラム台の上でHISASHIが踊りながら弾いて、TAKUROは端から端まで走り、それぞれのメンバーと交差してゆく。
『誘惑』のイントロで客席のほうが勝ちどきの声を上げた。満員のライブだけが熱っぽいライブでも感動的なライブではない。客席にいた誰もが自分たちが体験している環境がどういうものかを感じとらざるを得ない。
そして、それにどう立ち向かうか。ステージと客席の想いは同じだった。フィナーレは『BURST』だった。HISASHIが下手のゴンドラに走り、JIROが上手のブリッジに走る。
上手のゴンドラの上でカメラに向かって挑発を繰り返しているのはTERUだ。TAKUROは、中央の花道に突っ込んでゆく。
「ヨーイはいいか!」 TERUがそう繰り返し、"BURST"コールが炸裂する。アリーナ席から2万人の"BURST"コールが返ってくる。それは、激しい『BURST』だった。
怒りでもない、興奮でもない。見えない敵に向かって繰り出すようでありお互いが何かを確かめ合うようであり、一点のよどみもない意志の通い合った"BURST"だった。
誰がどんなふうに動いていたのかをメモができるほど柔ではない。ともかくそれぞれが入れ替わり立ち替わり走り回り飛び回る。
それでいて演奏にはみじんの揺るぎもない。"BURST"コールを繰り返していたTERUは「ラスト~!」と叫んだ後に「スタンド席も!」とありったけの声でだめ押しをした。
無人のスタンド席に一瞬、陽炎のように揺れる拳が見えた。
●史上最高のライブ
――名古屋ドーム3DAYS無事終了!また会おうぜ!
力を振り絞るようにそう叫んだTERUの声は、すでに枯れていた。そんな風にステージで彼の声が枯れるのを見るのも初めてのような気がした。ステージでは誰もが「また会おうぜ、名古屋」、「サンキュー名古屋」と叫んでいた。
2002年1月8日。名古屋ドーム。観客数2万人。TERUは、この日を「史上最高のライブ」と呼んだ。
この日、彼らがなぜ全国のイベンターを呼んでいたのかがわかる気がした。それはひとりでも多くという人数の問題ではなかっただろう。ブレイク以来初めてという条件の中で、どういうライブを展開するかを見届けてほしい。
そして、そうやってライブをともにしてきた仲間に、自分たちがどうやってここまで来たのかを改めて思い起こし、同時に、ここから一緒に歩いていこうという意思表示をしたかったのだと思った。
この日、ライブを見ていて泣いた、という人に何人も会った。僕も、そのひとりだった。
【記事引用】 「夢の絆 ~DOCUMENT STORY 2001-2002~/田家秀樹・著/角川書店」