タイトルに惹かれて読みに行った。例によって会員登録(無料)していないと読めないかも知れない日経のサイト内にある。
日経ベンチャー 経営者倶楽部
「美しくて、あいまいな日本」 神足 裕司
「税金で万馬券を買うが如し」
安倍政権の重要な政権構想にイノベーション25がある。日本経済にイノベーションで新しい力を与えて2025年の社会を作ろうというのだ。これほど本末転倒な話があるだろうか。識者が会議で重点投資分野を決めるらしい。今は19世紀か? 日本政府は富国強兵か重商主義政策でもとるつもりだろうか。
イノベーションとはヨゼフ・シュンペーター(1883〜1950)によって提示された概念で、「技術革新」あるいは「新結合」と訳す。それはけっこう。内燃機関の登場はそれだけではおもちゃにすぎず、鉄道や汽船が走って世界交通のイノベーションとなった。だが、それは何千何万という起業家が死屍累々の失敗を積み重ねての結果だ。
政府主導で重点投資分野をつくるのは、税金で万馬券を買うようなものだとどうしてわからないのだろう。政府が金をくれるというので電機各社が渋々参加している日の丸検索エンジンはどうだ。「グーグル」と「検索」とは、次元が違うものだということを知らないのか。
広島市から約20km東に位置する熊野町に白鳳堂という筆の会社がある。その白鳳堂は、世界の化粧筆の約60%を生産している。
(中略)
江戸後期、奈良から持ち帰った技術を基に、農閑期の仕事として筆作りを始めた。そしていつしか、熊野は筆の里と呼ばれるようになった。その歴史を背負う白鳳堂が世界一になったのは、ひとえに意地で品質を求めたからだ。
高本社長の狙いは化粧筆ではなかった。人形作りなどに使う面相筆や漆用の筆。人形や漆器は、筆がなくなれば廃れる。だから、採算を度外視しても職人技にこだわり続けた。美しい日本を求めた結果だ。そして結果的に、ご婦人方の化粧法すら変えることになった。
イノベーション25では、偉い識者の先生方が額を寄せ合い「あいまいな」会議を無数に、延々と繰り返すことだろう。それで、筆の一本でも作れるようになるのだろうか。
ごもっとも。地方自治体もベンチャー支援をやっていたりするが、官製のベンチャー支援は基本的にうまくいっていない。その本質は、ここに述べられている通りだ。
そして、19世紀の国家モデルかと皮肉っている痛烈さが痛快だ。