図2 ヒト大脳皮質におけるシナプス数の発達変化と精神疾患患者でみられるその異常
(A)ヒトの大脳皮質視覚野のシナプス密度(●)と全シナプス数(○)の発達変化を示した(Huttenlocher, et al., 19825)より改変).
(B)ヒトの大脳皮質の樹状突起のスパイン数(シナプス数)の発達変化について,自閉スペクトラム症患者(グレー線),統合失調症患者(点線)と健常者(黒線)の3群間で比較した(Penzes, et al., 20116)より改変).自閉スペクトラム症の患者の脳では生後のシナプス密度が一貫して高く,シナプスの過剰形成と刈り込みの障害があることが予想される.一方,統合失調症の患者の脳では幼児期~思春期以降にシナプス密度が低く,シナプス形成は正常だが,その後に過剰なシナプス刈り込みが起こっていると考えられている.
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ヒト大脳皮質におけるシナプス数の発達変化と精神疾患患者でみられるその異常 2016生化学
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2016.880621/data/index.html
Journal of Japanese Biochemical Society 88(5): 621-629 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880621
総説
生後発達期の小脳におけるシナプス刈り込みのメカニズム
渡邉 貴樹,上阪 直史,狩野 方伸
東京大学大学院医学系研究科神経生理学分野
発行日:2016年10月25日
1. はじめに
生まれたばかりの動物の神経系では,盛んにシナプス形成が起こり,その密度は成熟動物の神経系よりもずっと高くなるが,一般に,出生直後に形成されたシナプスは機能的に未熟であり,動物個体としても脳機能は未熟な状態にある.
成長につれて,必要なシナプスは強められて残存し,不必要なシナプスは弱められ最終的に除去される.
この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれており,哺乳類や爬虫類などさまざまな動物種でみられ,神経系のさまざまな部位のシナプスで起こることから,生後発達期の神経系で普遍的に起こる重要な現象であり,成熟した機能的神経回路を作るための基本的過程であると考えられている1–4)(図1).
たとえばヒトの大脳皮質視覚野の場合,生後8か月齢までに盛んにシナプス形成が起こるが,その後,発達に伴ってシナプス密度は徐々に減少していき,10歳ごろまでにほぼ半減する.それ以降は,老化による細胞死が顕著になるまでの数十年の間,シナプス密度はほぼ一定に維持される5)(図2A).
シナプス刈り込みは,体性感覚系,聴覚系,視覚系,運動系など,神経系のさまざまな部位でみられるが,なかでも,小脳の登上線維–プルキンエ細胞シナプスの刈り込みはその過程や分子メカニズムが最もよく研究されており,末梢神経系の神経筋接合部とならんでシナプス刈り込みの代表的なモデル実験系として,広く認知されている.
最近では,シナプス刈り込みの異常が自閉スペクトラム症や統合失調症といった精神神経疾患との関連においても注目されている6)(図2B).
(以下は省略、本文参照https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2016.880621/data/index.html)