ロシアのワクチン国民の73%がワクチンを打ちたくない、プーチンも打たない
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ロシアのワクチン、安いけど…大統領も国民半数超もNO
朝日新聞2020年11月30日
米欧で新型コロナウイルスのワクチン開発が進むなか、世界で初めてワクチンを承認したロシアが、安全性や価格の安さをアピールして国外への売り込み攻勢をかけている。ただ、ワクチンの質に対する疑問は国内ですら払拭(ふっしょく)されておらず、思うように市場を獲得できるかは不透明だ。
ロシアは8月、ワクチンの承認で国際的に求められている最終段階の大規模な臨床試験を後回しにし、国産のワクチン「スプートニクV」を承認。すでに医師らへの接種を開始し、年内に一般国民向けの接種も始まる見通しだ。10月には「エピワクコロナ」も承認し、三つ目のワクチンも開発が進んでいる。
プーチン大統領は国際舞台でのアピールに余念が無い。今月20日には、オンライン形式で参加したアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議で「ロシアのワクチンは完全に安全で効果的だ。唯一の問題は大量生産体制の確立だが、ロシアは拡大に取り組んでいる」と強調した。翌日の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも、「我が国の研究者が開発したワクチンを、必要とする国に提供する用意がある」と世界の首脳に向けて呼びかけた。
スプートニクVの開発資金を提供したロシア直接投資基金は24日、このワクチンの感染予防効果が95%を超えるとする中間調査結果を発表。外国での販売価格は「1回あたり10ドル未満」だとし、米国のバイオ企業モデルナや製薬大手ファイザーが開発するワクチンの「半額以下だ」と強調した。同基金は、これまでにブラジルやサウジアラビア、インドなどから計12億回分以上のワクチンの注文を受けているとしている。
ロシアのワクチン販売攻勢は、ロシアと関係が悪化する欧州連合(EU)域内にも及ぶ。19日には、ハンガリーにスプートニクVの試験用のサンプルを提供。有効性が確認されればハンガリーは年明けにも大規模な調達を始め、現地生産に向けた協議も進めているという。ただ、EU域内での使用には欧州医薬品庁(EMA)の承認が必要だ。スプートニクVはEUの基準をクリアする必要があり、ハードルは高い。
同基金のドミトリエフ総裁は、「政治的事情のため、EUへのワクチン供給は簡単ではない」と主張している。EU加盟国のハンガリーへの供給を実現させ、ロシア製ワクチンの象徴的な成功例としたい狙いがありそうだ。
大統領は未接種…国民に不信感
国外への積極的な売り込みをかけるなか、国内世論はワクチンの接種に懐疑的だ。国民の多くが強制的な接種に反対しており、一般向けの接種が始まってもすんなりとは進まない可能性がある。
政権与党「統一ロシア」が10月に発表した世論調査では、回答者の73%がワクチンを打ちたくないと回答。医療関係者を対象にした8月の別の調査では、効果や安全性が不明なことから52%がスプートニクVを接種しないと答えた。新型コロナウイルス患者の対応に当たっているモスクワの医師の一人は取材に、「国産ワクチンは安全性や副作用が不明で、接種を考えるのはまだ早い」と話した。
ロシア連邦消費者庁のポポワ長官は記者会見で、「ロシア製のワクチンは非常に良い。全ての皆さんにできるだけ早い接種を勧める」と強調し、国民の不信感を拭うのに躍起だ。
閣僚らが相次いでスプートニクVを接種して安全性をアピールする一方で、プーチン氏がいまだに接種を避けていることも国民が不信感を抱く一因と指摘されている。有力紙ベドモスチは15日、「国は今後、国民にワクチンを受け入れるよう説得する必要に迫られる」と指摘。「国家のトップが模範を示すのが最適だ」とし、プーチン氏のワクチン接種を暗に求めた。
だが、大統領府のペスコフ報道官は24日、プーチン氏がワクチンを接種しない理由をロシアメディアに問われ、「大統領が(臨床試験の)ボランティアに参加するわけにはいかない。全ての手続きが終わり、本人が必要と判断したら接種する」と答えた。スプートニクVは近く一般市民向けの接種が始まる見通しだが、承認後に始まった追加の臨床試験が今も続いているためとみられる。安全性や効果を強調する一方で、自らは慎重なプーチン氏の姿勢は、国民の不信感の増大につながりかねない。